泡沫
「断、る」
辺りに澱む空気が、一層粘性を帯びて纏わり付くように思えた。
「私が酔狂で事を執り行うとでも思ったか。貴様の自涜に付き合うほど暇ではない」
言葉を発する度、肺を潰す重圧。唾を飲む事さえ億劫な程であった。手の甲に食い込む指先が、男の感情を雄弁に語っていた。
「そうでしたか。それにしては、兄様ったら、随分と愉しそうですもの」
「木偶と話すよりかは、あるいは、価値が有るやもしれないな」
「まあ、そっけない」
手を振り払うと、男は忌々しげな笑みを浮かべ、名残惜しむかのように半歩離れた。
「そこの、出来の良い方のお人形を壊せば、拙と遊んで呉れます?」
腰に提げた短刀の柄に手を掛け、首を傾げる仕草は、その言葉の示す処とは裏腹に、まるで幼子の仕草であった。
「試して見れば良い」
「まさか、ちょっとした冗談です」
大げさに肩を竦ませ、今度こそ出て行く素振りを見せると同時に、檻の外からもう一つの足音が近づいてきた。
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