第十六章 模造者たちのレクイエム
第91話 大気圏上で
地球を背景に捉えながら歩駆達の最後の戦いが始まる。
先に攻撃を仕掛けるのは《七曜丸》だった。
敵衛星の〈アイギス〉に向けて照準を合わせると、船首が左右に展開して砲身が飛び出した。その様子はガードナー側からも確認している。
「敵艦から高エネルギー反応! そのまま高速でこちらに接近してきます!」
「予想済み。バリアーの展開急ぎなさい!」
衛星の周囲に光の層が重なりあった壁が形成される。だが、それも一部分だけで全てをカバーするには時間が掛かりすぎた。
〈アイギス〉が悠長とバリアを張っている内に《七曜丸》の主砲が狙いを定めている。
「充填完了しました。いつでも行けます!」
「“アマテラス”てぇぇぇぇーっ!!」
激しく輝きを放つ虹色の砲撃が目標物に向かい直進する。〈アイギス〉の手薄い防壁など一発で突破するかに思えた。
「ゴーアルターのフォトンバリアはァァァァーッ!!」
無謀にも向かってくる極大光に飛び込むのは《ゴーアルター》である。黒に染まる巨腕を前に突き出して受け止めた。
それだけではない、鈍く発光する掌が“アマテラス”の巨大なエネルギーの奔流(ほんりゅう)を吸い付くしてしまう。背後の衛星はもちろん、《ゴーアルター》も全くの無傷だった。
「敵衛星……健在。exSVゴーアルターもです!」
「全機出撃!」
冴刃艦長に言われずとも《Gアーク》は既にカタパルトに位置取りしている。発射の合図などされなくても《ゴーアルター》が出てきた瞬間に飛び出すつもりだった。
「Gアーク真道歩駆、行きます!」
眼前にいる敵を睨み、両肩や腰部など様々な武装と各種スラスターを装着した決戦仕様の《Gアーク》が艦を勢いよく飛び立つ。
「フフフ、来いよ歩駆……俺はここに居るぞ」
上から目線で物を言うアルクは、ラスボス気分で《ゴーアルター》を一旦下げた。
「exSV後退していきます」
「衛星アイギスよりSV(サーヴァント)及びID(イミテーションデウス)が多数出現を確認!」
《ゴーアルター》とは入れ替わりで基地の中からガードナーの機体、《ガーデッド》やIDの《プラテリット》が投入される。それに負けじと《七曜丸》からもSVを発進した。
数では圧倒的に不利だったが歩駆達は何とか奮闘している。
「十機目だ! ほら次、やられたい奴からかかってこい!」
「Gアーク、ダイナムドライブの出力安定。気合い入ってますね真道先輩」
アイルが褒める。加速度的に上がっていく数値、しかもブレる事なく安定していた。
単純に宇宙仕様へ換装したからではない。歩駆のやる気が機体とシンクロしてポテンシャル以上の能力を発揮のだ、とアイルの中の〈ダイナムドライブ〉を通して伝わる。
その一方で、
「おい、そのピンクいのッ! 足手まといだ、やる気がないなら下がれッ!」
先端が赤熱して伸縮する両腕の〈ブーステッド・パイルランス〉が《ガーデッド》のボディを貫き通す。
ツルギの《黒剣》が棒立ちの《ハレルヤ》を狙っていた敵機を撃墜したのが、何も戦闘行動を起こさないセイルに怒り心頭である。
「……え? あっでも、あのロボットに乗ってるのは……ぅ」
「ちょっと楯野さん! セイルには考えがあるんです! 大声出して娘を虐めないでくださるかしら!?」
「娘? 戦場で何を言っているんだ?」
セイルを庇い、逆にツルギに怒鳴り返すアイル。ツルギは舌打ちをして敵の固まっている場所へ機体を飛ばしていった。
「アルク、アレ見て!」
指を指しながらマモルが声を上げる。クリスタルの様な見た目の《プラテリット》が突如、透明な体を変化させた。何機かが集合したり一機が分裂したり様々な形へ変貌する。
その姿は歩駆達は見覚えがあった。それは今まで倒してきた模造獣の姿である。
《尾張十式》
《クレーン》
《ナナフシ》
《スピーカー》
《クロスエンド》
《タドミール》
《シュラウダ》
「いわゆる再生怪人って奴かよ? けど!」
機体が違うとは言え、一度は倒した敵である。恐れなど微塵も無かった。
歩駆の《Gアーク》とマモルの《戦人・改》は果敢に攻めていく。《ナナフシ》の巨体による一撃もスルリと回避、《スピーカー》軍団の音波による波状攻撃も見極めが簡単、確実に弱点のコアを突いた。
「次、上下左右前後から来てます真道先輩、そのまま引き付けて下さいね」
「ちぃッ……こなくそォォォー!!」
速度の早い《クロスエンド》と《シュラウダ》の集団で追われる。機体の残骸やデブリを避けながら、《Gアーク》はひたすら逃げ回った。気の抜けない歩駆の後ろで、アイルは自機と敵機の軌道を計算して攻撃のタイミングをうかがう。
「黒鐘、ロックはッ?!」
急停止する《Gアーク》の全方位に《クロスエンド》と《シュラウダ》が迫る。
「全て捉えました。コークスグレネード&マイクログラビティミサイル、一斉発射!」
マルチロックオンされた敵機に向けて《Gアーク》の全身からミサイルとグレネードの嵐をお見舞いする。着弾した先頭の機体が爆発を起こし、背後の機体へ誘爆。それが連鎖的に起こって、花火の如く巻き込み広がっていた。
「スゴい、アルク。スゴい、Gアーク……」
中心の《Gアーク》は多少煤ける程度で無傷、周囲の模造獣は全て蒸発した。
「けどまだ数が多い。基地からどんだけ湧いて出てくるのさ?!」
あれだけの数を葬ったと言うのに〈アイギス〉からは続々と出現している。これではキリがなかった。
「……新手です、気を付けて下さい!」
後ろから近付く殺気に反応して《Gアーク》は即座に背中の剣を抜いて対応する。意外、それは巨腕によるチョップだった。人型の背後に大きな手が生えた奇妙なマシンである。
「上手く止めたな。腕前は鈍っていないか」
「四つ腕のSV……いやIDか。それで、どういうつもりなんだよ……ハイジさんッ!」
パイロットはハイジ・アーデルハイド。
歩駆にとってはSVの操縦に詳しい兄貴分だ、と勝手に思っている。月での戦い以降、行方知れずだった。
「これが……俺の望んだ事だからだ」
巨腕のID、《ヨーセフ》の逆手から繰り出されるパンチが《Gアーク》にヒット。大きく体勢を崩され、吹き飛ばされながらも両肩の大型ブースターで減速して持ちこたえる。
「一緒に戦ってたはずだろ?! 意味がわからん、わかるように説明してくれよ!」
叫ぶ歩駆。一呼吸置いてハイジは語りだした。
「…………死んだ恋人が生き返ったら、お前ならどうする? 俺が昔この手で殺した人が蘇ったんだ、それで俺の罪を許してくれた! こんなに嬉しい事は無いだろうが」
「そいつイミテイターだろ?! 本物の恋人なんかじゃない!」
「俺が認めるッ!! 俺がユリーシアだと思えば、それがユリーシアなんだよ!」
《ヨーセフ》は通常の腕からライフルを持ち出し乱射する。浮遊する岩や残骸を盾に《Gアーク》はやり過ごす。
「それで言いなりなのかよ。イミテイターに都合よく使われてるだけじゃないか?!」
「黙れぇぇッ!!」
隠れていた巨石が《ヨーセフ》の巨腕で砕かれる。そのまま突っ込んでライフルで《Gアーク》を狙うが横からマモルの《戦人・改》の高速タックルに阻まれた。
「うっ……アルク、大丈夫?」
何とか二機を引き離したが、《ヨーセフ》が装甲の強度が高すぎて《戦人・改》の肩部装甲はひしゃげてしまった。
「知ってるぞ、マモル・タテノ……お前もイミテイターだったってな? 今まで俺達を騙して裏で手引きしてたわけだ」
「ち、違う! そんな事は」
「敵味方を行ったり来たりでコウモリみたいな奴。良いよなぁ、好きな奴が二人も居るってのはさ。どっちが死んでも片方が残ればいいんだからさ」
ハイジが煽る。
「……マモル……お前は」
「いや、そんなつもりは……違うよ…………ボクはただ」
「止まるなマモル! 思う壺だぞ!」
動揺するマモルに《ヨーセフ》が近付く。歩駆は助けに行こうとするが、再び敵機に阻まれ《Gアーク》は動くことが出来ない。
「そういう、どっち付かずの奴が一番嫌いなんだよーッ!」
ハイジの《ヨーセフ》の巨腕が伸びて《戦人・改》に迫り来る。
「マモルッ!!」
叫ぶ歩駆の《Gアーク》は邪魔する機体を振り払うが間に合わない。万事休すかと思われた、その時だった。
十本の光線が四方八方から《ヨーセフ》に目掛けて発射された。よく見ると小型の砲塔が不規則な動きをしながら飛んでいる。
「ふぅ……間に合ったかしら?」
レーダーに二つの反応が歩駆達に接近した。その一つ、女性の様な流線型の姿をしたSVに先程の砲塔が機体の各箇所に装着されて、まるでドレスのスカートの様になっている。
歩駆のよく知る月影瑠璃の《戦崇》の改良版だ。
「瑠璃さんか?! …………ってそっちは?!」
もう一機、灰色のIDは月で戦い、倒したはずのシュウ・D・リュークが操る《エスクード》である。
「驚いたかい? 今は味方だよ真道。それでどうだい瑠璃、《戦崇プリンセス》の使い心地は?」
「無駄口を叩いてる暇は無いわ」
瑠璃はシュウを一喝して機体を《ヨーセフ》に向き合わせる。
「ハイジ……意味がわからないわ。そんな軟弱な人だったかしら貴方」
「月影瑠璃……」
「もっと熱い男だと思ったのに幻滅したわ、ハイジ・アーデルハイド」
「そ、彼女は熱い人間が好きなのだよ……自分の様な」
黙って瑠璃はシュウからの通信を遮断した。
「歩駆君達は先に行きなさい。私達が彼の目を覚まさせる」
「二対一ってのはフェアじゃないけど」
「そうか、じゃ行くぞ。マモルもついてこい!」
お言葉に甘えて《Gアーク》と《戦人・改》は先を急ぐ。残された三機の睨み合いが始まった。
「どうするのハイジ。戦う気? 今ならまだ戻れるわ」
「…………ちっ。だが、このIDはSVなんかと訳が違う。exSVと同じなんだ。俺が乗りたかったexSVと」
「じゃあ尚更、フェアじゃなくても良いよなぁ?!」
にじり寄る《戦崇》と《エスクード》に《ヨーセフ》は身構える。
「ならフェアに行きましょうね」
何もない上方から弾丸の雨が降り注ぐ。瑠璃達はとっさに回避した。
「久しぶりね瑠璃ちゃん」
「ユリーシアさん……何ですか?」
「スクール以来ね。噂は兼ね兼ね聞いているわ」
歪む空間から球体型のマシン、《アルミューレ》の姿が現れる。
「どうしてなんですか? 何でイミテイターなんかに!?」
「それは私は彼の夢そのものだから」
「夢……ハイジの?」
「そう。そしてそれは覚める事はない、もう現実に叶っているの」
ユリーシアの《アルミューレ》は丸い体から手足を伸ばして戦闘体勢を取った。
「だから、ハイジの邪魔をすると言うのならば……消えて!」
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