第三部 占術研究会の日常

第24話


「暇ですね~」


 普段通りの放課後、わたしは占術研究会の部室で呟きました。

 今、部屋の中いるのは会員4人(わたし、斎堂くん、矢間口さん、明黒くん)に加えて、月美さんです。


「ねえ月見さん、あなたは会員になってはくれないのですか? ここの所、毎日部室に来てますけど」

「は? なるわけないじゃん。馬鹿なの?」


 月美さんは言いました。

 相変わらずのバッサリです。


「じゃあさっさと出て行ってくれませんかね~。あいにく狭い部屋でして、会員でもお客さんでもない人に与えるスペースはないんですよ」


 わたしがイジワルっぽく言うと、彼女はスッと明黒くんのもとに寄り添い、


「明黒くん……。天衣ちゃんが酷いよぉ……」


 とろけたようにあま~い声を出しました。

 うわぁ。

 これまたずいぶんと見せつけてくれますね……。


 と、いうか月美さんてこんな人でしたっけ?

 彼氏が出来てその捻くれた性格も少しはマシになると思っていたら、なんか別ベクトルの方向に悪くなっているような気がするんですが……。


「天衣会長、ここは俺に免じて……。おい月美、そんなにくっつくな、離れろ、離れ――」


 明黒くんは明黒くんで(どこか嬉しそうに)顔を真っ赤にして困っているし、もうなんか色々とアホらしくなってきたのでわたしは投げやりに言いました。


「……居てもいいですけど、イチャイチャは禁止です」

「あれ、天衣ちゃんたら珍しく本気でイラついてる?」

「はい?」

「あ、そうかぁー。天衣ちゃんには彼氏いないもんね~? 学年第9位の美少女(笑)なのに独り身だもんね~? はは、わたしが羨ましいのかな? どうなのかなぁ~?」


 月美さんが満面の笑みで煽ってきます。

 どんだけイキイキしてるんですかあなた……。


 そんな月美さんを横目に、わたしは彼女をスルーしてカバンからゲーム機を取り出しました。


「モンハンでもしますか」

「ん? おう」

「いいよー」


 斎堂くんと矢間口さんも同じようにゲーム機を取り出し、カチャカチャとボタンをいじります。

 これが俗に言う阿吽の呼吸というやつなのでしょう、速攻で通信の手続きを済ませると、すぐさまゲームがスタートしました。


「なに行くのー?」

「イビルジョーでお願いします」

「獰猛化?」

「もちろん」

「肥やし玉忘れるなよ」

「わかってますって」

「えーと、誰か保険食べた?」

「保険いるかぁ?」

「舐めてかかると一瞬で殺されますよ」

「なら俺が……って、ちくしょう、発動しねえ」

「コックマークついてなかったんですか?」

「そんなもんイチイチ見てねえよ」

「じゃあ睡眠爆弾やろっか」

「コイツ寝たっけ?」

「どうでしたかね……月美さん知ってます?」


 わたしがチラリと彼女の方向に目を向けると、彼女は心底げんなりしたような眼でこちらを見つめて、


「……きっも」


 ボソッとひとこと漏らしました。


「それはまたずいぶんとご挨拶ですね~。月美さんはゲームやらないんですか?」

「やるわけないでしょ、そんなもの。ねえ明黒くん?」

「ん、ああ……。この手のゲームは中学生で卒業してしまったな」

「だよねー。それが普通だよねー」

「無論、価値観は千差万別あると思うがな」

「でも高校生にもなってゲームなんて、ねえ?」

「月美さん、あなたの場合は、本当はやってみたかったけれど家が貧乏で買ってもらえなかっただけ……とかではなく?」


 わたしが確信をついたイジワル質問を投げかけると、月美さんはちょっとムッとした顔になりました。

 以前の彼女ならこういう場面では「ああそーだよ、どうせわたしは底辺だからさぁ……」みたいな自虐ネタを語り出す確率が高いのですが……、


「明黒くん、天衣ちゃんがぁ……」


 月美さんは再び明黒くんに寄り添って、いかにも弱々しい感じで呟きます。

 変に見た目が良いものですからこれはこれで絵になるのですが、あーもう、駄目ですねホント。

 明黒くんも困ってますが、斎堂くんと矢間口さんも苦笑いしてますよ。

 モンハン馬鹿にされたのも微妙に腹が立ちますし、ここでわたしはある種の作戦を思いつきました。


「わかりました。そういうことならしかたありません! 討伐対象変更します! イビルジョーじゃなくて雑魚(ギアノス)10体!」

「へ?」


 斎堂くんが「急に何を言いだすんだ」みたいな眼で見てきましたが、わたしは迷わず立ち上がって自らのゲーム機を月美さんの両手に握らせます。


「あ、天衣ちゃん?」

「月美さん! 幼いころにゲーム機を買ってもらえなかった可哀想なあなたのために、わたしがモンハンの面白さを教えてあげます! さぁ狩りに行きましょうっ」

「え? えええッ!? なんでそうなるんだよっ。こんなの興味ないって言ってるじゃん!」

「何事もチャレンジなんです!」


 そんなこんなで、月美さんのモンハン初体験がはじまりました。



     ◆◇◆



 ――2時間後。


「なにこれ、面白いじゃん……」


 地面に倒れた怪鳥の頭を馬鹿でかいハンマーでめった打ちにしながら、月美さんが呟きました。


「でしょう?」

「うん。弱い者いじめしてストレス解消できるって最高だよね」

「え……」


 その独自解釈には少し引きましたが、まぁ楽しみ方は人それぞれです。


「明日以降もやるならソフト買ってきてくださいよ?」

「ええー? わたしにそんなお金あると思うの?」

「そこは頑張ってくださいとしか言えませんが……」


 わたしが適当に濁すと、斎堂くんがボソッと口を開きました。


「本体のゲーム機なら余ってるから、貸してやってもいいけどな。画面にちょっとヒビ入ってるが」

「えーっと、つまりわたしはソフトだけ買ってくればいいってこと?」

「ああ」

「ふーん……、なんで?」

「え? なんでってどういうことだ?」

「なんでわたしにそんな事してくれるの?」

「え、いや、なんでって……。成り行き上? とか、そういうことじゃね?」

「へえ……」


 言って、月美さんは斎堂くんの眼を見つめました。

 彼女の異能は“ネガティブ・キャッチャー”。顔を見た人間のマイナスの感情のみが見えてしまうという能力です。

 この異能のせいでずいぶんと性格が歪んでしまったらしい月美さんですが、今、彼女は斎堂くんを見てなにを感じとったのでしょうか?

 あるいは、なにも読み取れなかったのでしょうか?


 その真意はわかりかねますが、ともかく彼女は「ん」と頷き、部室を出て行ってしまいました。

 うーん、どうなんでしょうねこれは。

 どっちに転んだんでしょう。


 ま、明日になればわかりそうですが。



     ◆◇◆



「はーい! 買ってきたよ~! “もんはん”!」


 そして翌日。

 どうなることかと思っていた放課後でしたが、月美さんは実に元気よく部室に飛び込んできてくれました。

 当初から思っていましたが、本当にテンションの上がり下がりが激しい人です。


「中古ショップをいくつも回ってたらさー、たまたますごく安いお店を見つけちゃってね」

「それは幸運でしたね。じゃ、今日こそイビルジョーを……」

「えー、アイツ強いから嫌だ。またあのキモい鳥をイジメにいこうよ、ね」


 言いながら、月美さんはパッケージにかかった透明なビニールをベリベリと剥がしていきます。

 その瞬間、ゲームに疎い明黒くん以外の全員が「あ……」と声を漏らしました。


「え? どうかした?」

「……非常に言いづらいんですがね月美さん、それ、バージョンが違いますよ」

「はぁ? だってちゃんと“もんはん”て書いてあるじゃん」


 わかっていない様子の月美さんに、斎堂くんが補足しました。


「お前が買ってきたソフトは一世代前のモノなんだよなぁ。ああ、だから安く買えたのか……。そこのところもちゃんと教えておくべきだったぜ……」

「ええー! ようするにこれじゃ駄目ってこと?」

「ひとりプレイならできるけど、あたし達との通信は無理だね……」


 矢間口さんの言葉を受けて、月美さんは「はぁ……」とため息をつきました。

 なんというか、やり場のない怒りを必死に抑えこんでいるような印象です。


「あー、わたしってさ、ゲームもまともに買ってこれないんだね……」


 そしてなんか自虐モードに入ったっぽいので、わたしはなんとか慰めの言葉を探しました。すると、黙っていた明黒くんがゆっくりと口を開きます。


「月美、これは運命というやつなのかもしれないな」

「へ……?」

「たった今、俺はこのゲームに興味が湧いてきたぞ。よくわからんが、きみと同じバージョンのソフトを買ってくれば……少なくとも月美、きみとは通信ができるということなのだろう。なら俺は、それで十分だ」

「め、明黒くん……!」


 柄にもなく瞳をうるうると滲ませて、月美さんは明黒くんを見据えました。


 あーあ、結局イチャラブするんですねこの2人は。

 もうホント、いい加減にしてくださいよね~。


 リアルに肥やし玉をぶつけたい衝動に駆られながら、わたしはゲーム機のスイッチを入れました。

 そんなこんなで、今日の放課後ものんびりと過ぎ去っていきます。



 ああ、占い希望のお客さんはいつになったら来てくれるんですかねー。


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