第54話 ビジネス・ミール

 「……これは一体どういうことだ?」

 「まぁまぁ次念さん、まずはお座りください」


 漫研部の部長、次念さんを末永さんがなだめて席へ案内し、


 「栗島新、これは何のつもり?」

 「まぁまぁ、まずは座ってください、副会長」


 こちらも厳しい目つきで睨んでくる副会長、アイビーさんを僕が席に座らせる。

 他には僕と、末永さん。

 合計四人が、一つの机を囲む。


 「二人とも、本日はお越しいただきありがとうございます」

 「……で、そろそろ説明して欲しいんだけど? と言ってもどうせ文化部の件でしょうけど……」


 今日集まってもらった意味。

 そもそも、今から何を始めるのか、二人には一切知らせていない。

 故に当然、副会長だけでなく次稔さんもこちらを訝しむ視線を向けてくる。

 しかしそんなに表情が固まっていては、これから行われる話し合いの結果は目に見えている。


 だから今日僕達が行うのは――


 「その前に二人とも、お腹空いてませんか?」

 「は? いきなり何言ってるの……今は放課後よ?」 

 「そうです。放課後。ちょうどおやつ時だと思いませんか?」

 「おやつって……栗島新、ここをどこだと思ってるの?」

 「もちろん。学食です」


 ここは紺学園の学食。

 お昼に僕と如月さんが時に手伝い、時に一緒にご飯を食べる場所だ。

 テラス席の追加が必要なほどに昼は賑わうこの食堂も、放課後とあって人は僕達だけとなっている。

 他にいるのは、厨房のおばさん。

 それと、同じく厨房で構えている如月さん。


 「――お待たせしました!」


 そしてその如月さんが、大きな声を発し、厨房からこちらへ歩いてくる。

 手に持つのは、学食で使う、銀色のトレー。


 「こ、これは……!」


 如月さんが持っていたトレーの中身を見て、次稔さんが立ち上がり、


 「え、もしかして……パフェ?」


 副会長も、如月さんが持っているパフェに気づき、同じように驚く。


 「そうです。明日から提供が始まったパフェ。今日はお二人に先行して食べて頂こうと思いまして」

 「噂では学食を手伝うと試食が出来ると聞いていたのだが、女子ばかりでなかなか勇気が出なかったのだ。そうか、これが……」


 次稔さんが言う通り、パフェが近々解禁されるのは学内で噂になっていた。

 試食会に参加した女子生徒達から口コミで広まったのだろう。

 パフェ好きの次稔さんも楽しみにしていたようで、先程から興味深そうにトレーの上、パフェを覗きこむ。


 「今日はこれが食べられるのか! う、うむ。来た甲斐があった」

 「は、ははは……」


 よっぽど楽しみにしていたんだな。

 でも実は、僕も少ない男手の一人として手伝ってはいたんだけど……。

 それは言わないほうがいいか。


 「なるほど……餌で釣ろうってこと?」

 「ビジネスの話でも会食があるように、僕達も食事をしながら話すほうがお互い良いたいことが言えるんじゃないかなと、それだけですよ」


 僕が考えたのはシンプルなものだ。

 お互い意見が言いにくいなら場所を変え、場合によっては食卓を囲む。

 何も特別なことではない。社会人だって営業で、会社の忘年会で、同じような手段を取るケースなんてざらにある。


 実際、言葉に棘がある副会長も、その表情は次稔さん同様少し緩んでいる。

 これだけでも、今回の作戦を採用したのは間違いじゃないのではないだろうか。


 「やれやれ……それはそうだけど、物はいいようね」


 副会長の言う通り、物はいいようだろう。

 たまたま次稔さんが甘いモノが好きということを聞いたから、その作戦を思いついただけ。


 「……お気に召しませんでしたか?」

 「そんなことないわ、せっかくだし頂きましょう」

 「何を言う。このチャンス、逃すわけにはいかないだろう!」


 それでも、やはり次稔さんも副会長も食いついてきた。

 二人して手を合わせてスプーンで一口。


 「ん……美味しいじゃない!」

 「ええ……これは確かに美味い。こんなレベルの高いパフェがまさか学食でお目にかかれる日が来るなんて」


 お互いに顔を綻ばせて、新しい学食の目玉に舌鼓を打っている。

 一方コンサル部はというと……。


 「んー! やっぱりこの味にして正解でしたね、牡丹さん!」

 「そうね、確か栗島君が初めて学食を手伝った時のものかしら?」

 「はい! それから更に改良を加えたんですよ!」


 今日の主賓そっちのけで、パフェを楽しんでいた。

 いや、いいんだけど、うん。

 美味しいから、仕方ないよね……。


 「えっと、食べながらで結構なので聞いて頂きたいのですが」


 しかし全員で食べていたらそれこそ今日の本来の目的は果たせないので、僕がコンサル部を代表して話を進めることにした。


 「今日お話したいのは二つあります。一つは部活アライアンスの件、それからもう一つは、なぜ生徒会が文化部の整理をする必要があったか、その背景です」

 「ちょっ! 何でその話をここでするのよっ!」


 二つ目の要件を話すことを事前に伝えていなかったため、副会長は慌てるが、すかさず僕はフォローを入れる。


 「すみません副会長。しかしその話を生徒会だけで抱え込むのはやはり良くないですよ。僕達も生徒会も同じ紺学園の生徒。全員で協力しないと、本当に納得する結論は出せませんから。違いますか? それとも、僕達文化部は頼りになりませんか?」

 「そんなことは誰も言ってないでしょっ!」

 「背景? 何のことだ?」


 事情を知らない次稔さんはきょとんとした顔。


 「実は生徒会の皆さんは――」


 僕は次稔さんにも、副会長から聞いた話を噛み砕き、説明した。

 学校の予算、生徒会会長の一時的離脱、次世代への引き継ぎ。


 「なるほどな。そんな事情があったのか。副会長も言ってくれればいいものを……というか、この場合は学校だが」

 「そうですよね。そんな大きな話、そもそも生徒会だけでなんとかするってのがおかしいですよ。秘密にして生徒会に頼る学校側も、それをあたし達に伝えない生徒会もです」

 「う……で、でも、変に広めて生徒を不安にしてもしょうがないでしょっ」


 次念さん、如月さん、それに副会長。

 全員の言っていることはもっともだ。

 生徒会だけで抱えられる話じゃない。だからと言って生徒にむやみやたらと広げていい話題でもない。

 とはいえ生徒会だけに任せるよりは、僕達文化部も事情を聞いた上で話しを進めるのとでは、やはり納得感が違う。

 だからこうして、まずは少ない人数で話を共有する。その話をしやすい環境を作るための、学食とパフェを使った作戦だ。


 しかし皆、気づけば一生懸命話している。


 次稔さんだって学校側の事情がることを知れば、これまで話を聞く態度も変わってくるようで、副会長から続けられた事情や、再度僕から伝えるアライアンスの件にも耳を傾けてくれた。

 口にパフェがついているせいで真面目な雰囲気は抑え気味だけど。


 「ふむ……そのアライアンスというのを導入すれば、少しは改善されるというのか?」

 「はい、そうです。そしてその導入を漫研部主体にやって頂くことは前回お伝えした通りです。なので、アライアンス導入によって学校側の問題にも対処したのは表向きには漫研部の功績となります」

 「ふむ……コンサル部はそれで納得なのか?」

 「構いませんわ。私たちは縁の下の力持ちですから。実際、漫研部がいなければこの話は成立しませんもの。ただし、この前お願いした通り――」

 「分かった。アライアンスになった部活を無下に扱うことはしないと、約束しよう」


 文化部を表立って引っ張る次稔さんの性格。

 強烈なリーダーシップを持ちながらも、漫研部の損得を天秤にかけることも忘れない彼の行動を考えるに、『漫研部の功績』、つまり、『次稔さんのお陰で文化部の騒動は沈静化された』。

 この事実があれば確実に次稔さんは首を縦に振ると、僕達コンサル部は考えた。

 前回のように、ただ漫研部の知名度、部員獲得ではまだ足りない。

 側面によっては学校を救う。

 その一役を担ってもらうことで初めて、ようやく次稔さんを説得することに成功した。


 「副会長も、依存ないですか?」

 「その方向で進めてもらって構わないわよ。ただし、部員四名以上というのは学校側からの要望なの。仮にアライアンスを組んでも四名以下の場合は認められないから、そこはクリアするようにお願いね」

 「分かりました」

 「ふぅ、これでなんとかなりそうね」




 これでようやく、文化部の騒動は終焉を迎える――



 「栗島君、麻優、まだあるわよ」


 ように、見えた。

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