第53話 スイーツは友達

 「えー、第三回」

 「え、第三回?」

 「栗島くんはなぜムッツリスケベなのかミーティングを開催します」


 最初の二回はいつの間に行われたんだろう……。


 「栗島君、言うべきことはハッキリ言いなさい」

 「いえ、ないです……」


 ないことはないが、そんなことをここで言ってしまえば僕はまたしても不利になるので、口を真一文字に閉じる。


 「やれやれ……言いたいことはハッキリ言わないとダメよ。ねぇ?」

 「そうだよ栗島くん。栗島くんが、別に、副会長といつの間にか仲良くなって、挙句の果てに、アイビーとか呼び捨てしちゃっても、あたし達は全然気にしないんだけど」

 「よ、呼び捨てはしてないよ!」

 「論点、そこじゃないわよね?」

 「はい……」


 さすがコンサル部。話の筋からずれたことを言うとすぐ突っ込まれてしまう。

 ちなみに、副会長と遭遇した出来事は如月さんに共有済みだ。


 「まぁ良いです。ところで、断られたんですね」


 漫研部に断られたことも、合わせて。


 「うん……やっぱり漫研部にとっては旨味がないからって」

 「はぁ、文化部同士で仲間割れしている場合じゃないんだけどね」

 「しょうがないわ、彼らは今回の件で特に痛手を負うことはないもの。いくら今まで文化部が一枚岩だったとはいえ、自分達にとって不利益なことには手を出さないでしょう」

 「うぅ……漫研部の裏切り者」


 如月さんの言うことは分かる。

 ただ次稔さん達も、これまでの漫研部の伝統を重んじながら活動をしてきたのだから、一方的に責めるのも可哀想というもの。

 学校側が予算をポン、と出してくれれば良いんだけど……。

 経営が良くないとか、理由があるのかな。

 さすがに生徒会もそこまでは知らないんだろうけど、少し気になる。


 「ところで栗島くん、副会長と仲良くなったってことは、あたし達の廃部もなかったことになったり……」

 「さすがにしなかったね。ただ、僕やコンサル部のことも少なからず理解はしてくれていたし、僕達が頑張る分には止めはしないって言ってたかな」

 「なるほどね。多少の効果はあったってことかしら」


 僕は首を縦に振って答える。

 昨日プールで皆と別れてから副会長と会ったこと。

 そして会った時に話したことを伝えながら。


 「どこもかしこも色々あるんだね」


 如月さんはため息をつきながら。


 「そうねぇ、彼女の立場なら仕方がないこともあるんでしょうね」


 末永さんも一定の理解を示す。

 やはり、きちんと話せばお互い理解出来るはずなんだ。

 漫研部のことにしても、アライアンスのことにしても

 誰のせいとか、何が悪いとかではなく。

 どこかで、食い違っているだけ。


 「何かきっかけさえあれば良いのだけど」

 「そうですね。食い違いを解消できる機会が……」


 僕と末永さんが、何か案はないものかと唸る。

 その瞬間。

 

 ぐーーーー。

 

 どこからか、空腹を訴える音が鳴った。


 「ちょっと栗島くん! 晩ごはんまでは未だ早いよ!」

 「い、今の僕じゃないんだけど……」


 僕が見つめ返すと、そっと目を逸らす如月さん。

 その行動は、もう自分が犯人ですと言っているようなものだった。


 「栗島君」

 「え、だから僕じゃ」

 「言うべきこととそうでないことは、判断しないといけないわ」

 「そ、そうですか」


 いくら本当とはいえ、女性に向かってお腹の音を指摘するのも良くないよな。

 ……勉強になりました。

 でも如月さんじゃないけど、僕も小腹がすいた。


 「お腹も空いたんで、続きはどこかでご飯食べながらにしませんか?」

 「そうだね、そうしよう!」


 僕の提案に、如月さんが威勢よく食いつく。


 「やれやれ……二人共よく食べるわね、成長期かしら?」

 「何言っているんですが牡丹さん! まだまだこれからですよ!」

 「如月さんの言うことに同意……というか、末永さんも一つしか変わらないじゃないですか。というわけで行きましょう!」

 

 ◇

 

 「いつもご利用ありがとうございます! 三名様ですね!」


 僕たちは学校を離れ、近くのファミレスへ足を運んでいた。

 選んだのは、僕と如月さんがサッカー部の観戦の後に訪れた場所。

 そして、僕が末永さんと追試の勉強をした場所だ。


 ……僕達、本当ファミレス好きだよね。

 店員さんの言い方も、完全に僕達のこと覚えてるみたいだし。


 微妙な気まずさを覚えながら、僕達は四人掛けのテーブルに通された。

 放課後の時間帯ということもあって、ファミレスはそれなりに賑わっている。


 さすがに全生徒が部活に所属する紺学園の制服は見当たらなかったが、店内は帰宅部と思わしき高校生のグループや、少し年上の大学生といった風貌の人達が会話に花を咲かせており、週末よりも少し騒がしい。

 とはいえここに来るまでに目にしたファーストフード店は更に混んでいたため、結局このファミレスに落ち着いた。


 「あたしこのストロベリーパフェにします!」

 「じゃあ、私はこっちのあんみつセットにしようかしら。麻優、半分こしましょうよ」

 「勿論です!」


 子供の頃からの知り合いという彼女達は、仲良く隣に座り、メニュー表を見ながら顔を綻ばせている。

 如月さんはお腹がなった割にスイーツなんだなとか、末永さんは実は和菓子のほうが好きなのかなとか、どうでもいい事を考えながら、僕も対面に座ってメニューを眺める。


 「じゃ、僕はピザにしようかな」

 「えぇ……栗島くん、そんなの食べて晩ごはん大丈夫?」

 「このくらい平気だよ」

 「さすが男の子は違うわね」

 「というか、もう運動部じゃないんだからね? この時間に食べてもカロリー増える一方だからね?」


 うーん……自分じゃ気づかなかったけど、もしかして少し太ったんだろうか。

 でもそれって、運動部を辞めたこともあるかもしれないけど、スイーツを食べる機会が増えたこともあるよなぁ……。

 と言っても、ピザよりはマシか。


 「でもお腹すいたから、やっぱりピザにするよ」

 「そだね。結局は好きなの食べるのが一番! 栗島くんのおごりだし!」

 「はは……やっぱり僕のおごりなのね」


 今日の流れからすると、仕方ないけど。



 それから注文が来るまで、僕達はしばし歓談。

 部活中には話さないようなプライベートな会話で盛り上がる。

 思えば三人で外に出かけたのは久々。

 あまり思い出したくはないが、剣橋さんの時以来だろうか。


 如月さんがそれまでに溜めていたらしい話のネタを持ちだして喋り、末永さんが時折自分の話を混ぜる。

 僕は二人に相槌を打ちながら聞いていた。

 少しだけ二人といる時間が長いせいもあって、アイビーさんの時よりも僕は自然体でいられることが出来る。


 「ひゃーーー! きたきたーーー!」


 そうこうしていると、お待ちかねのスイーツと、ピザが到着し、如月さんが叫ぶ。


 「おいしいーーー! やっぱりここのパフェは凄く美味しい!」

 「そうね。でもこっちのあんみつセットも中々の味よ」


 目を輝かせながらパフェに食いつく如月さんに、あんみつセットを食べながら満足そうな末永さん。

 財布の中身は寂しくなるが、この顔が見られたのなら、まぁ良しとしよう。

 と、そんなことを考えていると。


 「――あれ、栗島?」


 少し見知った顔、紺学園のサッカー部と顔を合わせた。

 声を掛けてきたのは大木。


 「なんだお前ら、部活はもういいのか?」


 輪の中には、この前お世話になった富松さんも。


 「え、ええ。今日はファミレスでミーティングしようと思って……って、サッカー部も今日は終わりなんですか?」

 「昨日試合だったからな、レギュラー陣は軽めの調整で終わりだ」


 そっか、サッカー部はインターハイ予選の真っ只中だったな。


 「昨日も順調に勝ったみたいですね。おめでとうございます」

 「はん、当然だ。本当はもっと楽に勝てるはずだったんだんがな。大木が大事なところで外しやがって、危うく三点差に詰め寄られるところだったじゃねーか」


 確か昨日は準々決勝だったっけ。

 それでも三点差に詰め寄られる……つまりは四点差。

 相変わらず強いなぁ。


 「ご、ごめんなさい……」

 「おめーは相変わらずピッチの外では湿気た面してんな。ちょっと外したくらいで気にしてんじゃねーよ」

 「富松さん、さっきと言っていることが……」

 「発破かけてんだよ発破」


 そう言って、僕達のすぐ後ろ、六人掛けのテーブルが繋がっている場所に陣取るサッカー部員達。

 一気に騒がしくなるファミレス。


 「やれやれ……これじゃ、ミーティングどころじゃないわね」

 「しょうがないです。ここのパフェ美味しいですから」


 そのことをあまり気にしていないコンサル部の女性陣。

 部室から離れた時点でもう諦めているんだろうな。


 「で、でも漫研部のことをなんとかしなきゃ……」


 なんだか次稔さんに断られたのが随分昔に感じる……。

 まだ三時間も経ってないのに。


 「そうは言っても栗島くん、焦っても良い案は何も出ないよ。まずは甘い物を食べて糖分補給しなきゃ!」

 「そうよ栗島君。あなたはピザだけれど……」

 「そうだぞ栗島、何かよく分からんけどお前が悪い」

 「と、富松さんまで……」


 体ごと振り向いた富松さんが、僕達の会話に入ってくる。


 「どうせまた一人で空回りしてるんじゃねーの?」

 「今回はそんなことない……はずです! こうやって三人で集まってますし」

 「そーかよ。んで、何を悩んでんだ?」

 「それは……」


 言うべきか迷ったが、末永さんが頷いたのを見て、僕も富松さんにこれまでの経緯を話す。

 荒っぽい性格に見えて、富松さんは面倒見が良い。

 なんだかんだ一年の大木や、他の部員とファミレスに来るあたりもそうだろう。

 僕の話にしても、文化部のことなんて富松さんにしてみれば対岸の火事にも関わらず、親身に聞いてくれている。


 「あー、次念なー。あいつ結構頑固なとこあるからな」


 そこで分かったのは、次念さんと富松さんは同じ中学出身であるということ。

 サッカー部の推薦で入った富松さんは体育科。二人は高校で同じクラスになったことはないらしいが、昔から仲も良かったらしい。


 「はい。今回の件も次念さんが悪いというわけではないのですが、どうにかあの人にも協力頂きたくて……」

 「そうだなぁ。でもまぁ、あいつも安藤と一緒で結構単純なところもあるけどな――っと、噂をすれば」


 丁度いいタイミングで来たのは、サッカー部のエース、安藤さん。


 「遅くなりました。ってなんだ、栗島や末永もいたのか」


 手を上げて僕達に挨拶をすると、富松さんの隣に腰掛ける。


 「大変お待たせ致しました。ストロベリーパフェでございます」


 そしてまたもタイミング良く、ファミレスの店員がパフェを……パフェ?


 「富松さん、パフェ食べるんですか?」

 「食べねーよ。食べるのはこいつ、安藤」


 富松さんは首だけ振って、安藤さんを指す。


 「たっておいひいしゃないれすか」


 指された安藤さんは、真っ先にスプーンを掴んで一口。


 「食べるか喋るかどっちかにしろよ……。つーか最後に来た癖になんで最初に食べてんだよ、他の奴らの待てよ」

 「もぐもぐ……ごくん。すみません、せっかく富松さんが注文してくれていたので、つい」


 なるほど……安藤さんは単純、というか、真っ直ぐな人だったからな。

 負けず嫌いだし、言いたいことはハッキリ言うし……食べたいものは、真っ先に食べるし。


 しかし安藤さんがスイーツ男子だったなんて。

 本当、安藤さんはサッカー以外も魅せてくる……というか個性的だ。


 「分かんねぇ……こいつも次念も、なんで男のくせに甘いモノが好きなんだ」



 次念さんも、甘いものを?



 「富松さん、それは偏見です。男子でも甘いモノは食べます」

 「お、おう……別に好きにすりゃいいけどよ」

 「と、富松さん! 次念さんもスイーツ男子なんですか!?」


 僕は席を立ち、もう一度振り向いた富松さんに問いかける。


 「なんだよお前もか?」

 「いえ、僕は違います、でもさっき、次念さんもって……」

 「おう、安藤も次念も甘いモノに目がないからな。栗島も好きだったら共通の話題になったんだろうが、残念だったな」


 共通の……話題。


 「そうだぞ栗島、甘いモノは正義だ。とりあえず出されて嫌いな奴はいない。サッカーと一緒で、皆仲良くなること間違いなし」

 「うんうん!」


 安藤さんの言葉に、如月さんは力強く頷き、


 「本当か……まぁ、一緒に飯を食べるってのは大事かもな。寮生はやっぱ仲も良いしよ」


 富松さんは甘いものを否定しつつも、食事の重要性を訴える。

 そうか、これなら。


 「富松さん、ありがとうございます!」

 「お、おう。なんか分からんけど頑張れよ」

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