第50話 プライベートな副会長

 どうしてこんなことになったんだろう。

 最近の僕は、いつもそう思っている。


 副会長と初めて会った日。

 定例会で副会長の説得を失敗した日。

 水球部の二人をなんとかしようとして副会長のパンツをもう一度見てしまった日。


 何だか副会長ばっかりだけど……そして、今日も。


 そろそろお祓いでもしてもらったほうが良いのではと真剣に考えたくなるが、これも端から見たらデートということになるんだろか?




 「次っ! そこの曲がり角を右折よっ!」

 「は、はいっ!」


 ならないよなぁ……。


 「そのまま真っすぐ! 隣にある映画館ならわたしの行きつけだから、匿ってくれるはずよっ!」

 真夏の日曜昼間に、ガラの悪い男から逃げいているだけなのだから。


 ◇


 「はぁっ……はぁっ……」

 「ふぅ。どうやら巻いたみたいね」


 全力疾走後に急停止をすれば、身体が急激に熱くなる。

 特に真夏の昼間とあれば、一瞬で全身から汗が噴き出てしまうほどに。


 例え冷房の効いた映画館に入ったとしてもそれは同じなんだけど、炎天下に晒されているよりは幾分かマシ……本来なら走っているはずじゃなかったのは置いといて。


 本当に、どうしてこんなことになったんだろう。


 「それにしても、なかなか体力があるじゃない。わたしは中学まで長距離をしていたから走るのには自信があったけど、付いてこられるとは思わなかったわよ」

 「そ、そりゃ……あんな目つきの悪い男の人達に追いかけられたらアドレナリンも出ますよ……」

 「ふーん……ま、助けてくれてありがと」


 隣にいるのは、金髪のツインテールが特徴的な女の子。

 着ているのは紺学園の制服ではなく、ドクロ柄が胸元に描かれたピンクのポロシャツと黒のパニエ。

 足元は白黒の縞々模様をしたニーソックスと、同じく白黒のラバーソール。


 髪型と同じで奇抜な格好と言えると思う。


 少なくとも、如月さんや末永さんがこんなパンクというのかロックというのか分からないが、過激な服装を好むとは思えないし。


 「どういたしまして。ところで、なぜ副会長はあの人達に絡まれていたんですか?」

 「知らないわよ。ちょっと唾を吐いたのを注意したら急に喧嘩を売ってくるんだもの。で、売られたら買うしかないでしょ? 買ったら勝つしかないでしょ? そういうこと」


 何がそういうことなのか分からない。

 少なくとも、この副会長の性格によって事態がよりややこしくなっているということだけは理解出来た。


 「あと、そんなに近寄らないで。出来れば半径10メートルくらいは離れてくれる? 変態が移るし、もうこれ以上パンツを見られたくないから」


 うん、この性格のせいだな。

 パンツを見たのは事実だとしても悲しい。


 それにこんな小ぢんまりとした映画館では、10メートルも離れる場所はない。

 昔ながらといったどこか趣のある外観に、ところどころ壁の汚れが目立つ内装。

 上映している映画の数も一本しかなく、これなら皆近くのデパートの中にある映画館に行きそうなものだろう。


 副会長の行きつけとのことだから、下手なことは言えないのだけど。


 「ところであなたこそ、なんであんなところにいたの?」


 副会長が言うあんなところというのは、午前中に有川さんのプールへ行った後に、お昼でも食べて帰ろうかと寄ったアーケード街でのことだ。

 たまたま細い道から入ったため、人通りの少ない場所で僕と副会長は遭遇。

 しかも如月さんや他のみんなは午後から予定があると言っていたため、お昼を誘うのは憚られてしまい、一人で入ったのも運の尽き。


 副会長がアロハシャツを着た大男三人と揉めているのを見てしまったからには助けないわけにもいかず、僕はつい彼女を庇うように前へ出た。


 出たのは良いが、その行動が大男三人の神経を逆撫でしてしまったようで、僕はいきなり襲いかかられてしまう。

 咄嗟にかわしたものの、その行動に今度は副会長が逆ギレして男達に蹴りを喰らわし、すったもんだの末で逃げまわって今に至っていた。


 「ふーん、プールね。どうせ女子達の水着見たさでしょ?」


 随分な言い草ですね……。

 本当のことというか、生徒会にはバレないように進めている水球部や漫画アライアンスのことを今ここで言うわけにもいかないから、否定も出来ないのだけど、そこまで言われると少し悲しい。

 見たくないわけじゃないけど、悲しい。


 「半分は冗談よ。どうせ水球部の彼らのサポートでしょう――――あ、もちろん半分は本当よ。頼むから離れてくれる?」


 半分は本当なんですか……。


 「って、なんで副会長が知っているんですか?」

 「学内のことだもの。知らないはずがないでしょ? あなた達コンサル部が裏でコソコソ動いているのは知っているわ。当然、アナタのことも調べさせてもらったわよ、栗島新」


 本当に調べられていたようだ、僕の下の名前まで覚えられているなんて……。

 僕、消されようとしていないよね? 不安だ、すごく不安だ。


 「大丈夫よアナタを退学に追い込もなんて思っていないわ、今のところ」

 「い、今のところですか……」


 ということはこの後何かしたらありえるのかな。

 ……ありえそうだ。この行動力であれば。


 「ええ。勿論わたしのパンツを見たことは重罪。でもそれとあなたの実績は別よ。一年にしてはよく頑張っていると思うわ。報酬を受け取ることにも拘っていないみたいだし、コンサル部に入ってさえいなければ賞賛するところよ」

 「は、はぁ……」

 「サッカー部に入れずとも腐らず、勉強で赤点を取ってもめげずによく頑張っているわ。だからこそあんな部活でいてはいけないのよ」

 「あんな部活というのは、コンサル部のことですか?」

 「そう。だってあの末永牡丹の部活よ?」


 そういえば副会長は、しきり末永さんのことを気にしていた。

 今思うと初めて会ったときも名前を出していたくらいだし、因縁めいたものがあるのではないかと想像するのは容易だ。


 「末永さんと、過去に何かあったんですか?」


 僕はダメ元で副会長に話を聞いてみるが、


 「…………内緒」


 やっぱり教えてくれなかった。

 まだまだ好感度不足というところか。

 不足どころかここまで副会長と話したのも初めてだしな。


 副会長が僕のことを調べあげたのと同じく、僕達コンサル部も副会長のことを調査していた。


 調査を担当していた末永さんによると……。

 

 学業は優秀で、定期テストでは毎回二位の実力を誇る。

 とりわけ帰国子女のため英語は抜群。

 中学までは長距離選手として活躍していたようで、運動神経もトップクラス。

 性格は曲がったことが許せず、ダメはものはダメと言わなければ気が済まない。


 体躯は違えど、報告してくれた末永さんと少し似ているのかもと思った。


 それに、今回の一連の件。


 色んな情報を収集していった結果、副会長が一方的に悪役になるのもおかしいのではないかというのも、僕の中に芽生え始めていた。


 冗長な文化部構成、無駄に増える予算。

 これがコンサル部に依頼されたものだとしたら、僕達も副会長と同じ行動を取っていた可能性すらある。


 だからかもしれない。

 僕が彼女に対して嫌悪感を抱いていないのは。


 ……もっとも、副会長は僕に嫌悪感を抱いているものと思っていたけど。

 それだって今の会話から根本的に僕を避けられているというわけではないようだ。

 副会長は副会長で、ちょっとずつ僕らのことを理解してくれているのかもしれない。


 生徒会と、小規模な部活。

 報酬を貰わずに全生徒へと尽くす彼女達に、報酬をもらって特定の生徒をサポートする僕達。


 やり方は違う、器も違う。

 それでも紺学園という箱のために奔走しているのは、どちらも同じなのだから。


 「おー、アイちゃん! 今日も来たのかい?」


 僕達の息が整い始めた頃、物陰から現れた白髪のおじいさんが声をかけてきた。

 慣れた様子で副会長に手を振り、副会長もまたそれに応じて小さく手を振り返す。


 「ハロー、支配人。今日は特に見に来る予定はなかったんだけど……」


 どうやら映画館の人間のようだ。

 二人の会話はかなり親しげで、そこからも副会長がこの映画館を贔屓にしていることが分かる。


 それに……アイ?

 初めて聞くけど、副会長の名前なのかな。


 「副会長、アイって名前なんですか?」

 「耳が良いわね……。そうよ、わたしの名前はアイビー。山田アイビーよ」

 「アイビー?」

 「そ。ママがアメリカ人なの。ハーフってやつ」


 なるほど。

 どうりで髪と瞳の色が目立つわけだ。


 副会長改め山田アイビーさんは、支配人と少し会話を始めると、やがて館内上部にある看板を眺めて僕に問いかけてきた。


 「それよりも、一応助けてもらってお礼をしないといけないわね。アナタ、映画に興味ある?」

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