第48話 末永さんのルーツ

 「栗島君。例の資料、入手したわよ」

 「ありがとうございます。末永さん」


 三十度を超える暑い一日の放課後。

 部室に集まったコンサル部で開催するのは臨時のミーティング。


 網谷と有川さんの同意により、漫画同盟は二名となった。

 これでもし水球部の二人を一時的に入部させることが出来れば、部員四名は達成出来ることになる。

 だがそれは本当の解決にはならない。

 緑原と菜園の二人は元々水球部だ。来年以降は勿論、部活が認められればすぐにでも離脱する可能性を考慮して、更なる同盟を結んでいかなければ彼らの本当の課題を解決したことにはならないことは、僕達も理解している。


 本当の意味での、更なる部員獲得が必要なのである。



 ――しかし、本当に僕は頭が悪い。

 こんな単純な方法も思いつかなかったんだから。


 「これで少しは部員獲得も進むかしら?」

 「はい、ありがとうございます」


 僕が末永さんから貰ったのは、文化部の部活リスト。

 これまでは有川さん経由であわよくば引き抜きをと考えていたが、そんな時間のかかる手順を踏む必要はなかったのだ。


 「実は緑原君の顔を立てるために、あえてお互いを紹介させていたんじゃないかな思ったんだけれど、そうじゃなかったのね」

 「すみません……そうだったら良かったんですが、全く考えていませんでした」

 「良いのよ、まだまだお互い成長の余地があるということね」

 「ありがとうございます……って、末永さんに成長しなければならないことなんて、あるんですか?」

 「当然。ふふ、おだて過ぎよ」


 末永さんは僕のおでこを右手で突きながら微笑む。

 この前の同盟の件だって、文化部リストの件だって、末永さんから助言してもらったものだ。

 学業だって優秀……というか、前回のテストでは学年一位だったと聞くし、容姿端麗プロポーション抜群。何か他にやるべきことがあるのか聞きたくなるのは当然で、僕には末永さんが謙遜している理由は本当に分からない。


 「私のことはいいの。そのリストで、候補はありそうかしら?」

 「あ、はい。早速見てみます」


 それでも末永さんなりに自分で思うところがあるのかもしれないな。

 サッカーのトッププレイヤーだって、試合の度に課題が浮かんでくるって言ってるし、優秀な人間というのは得てしてそうなのだろう。

 末永さんが少しだけ恥ずかしそうにしてはぐらかしてくるので、僕もそれ以上は余計な詮索はせず、もらったプリントに目を通す。


 「えっと、まず有川さんと網谷の部活は……と」


 僕が指で一覧をなぞりながら、手始めに二人の部活を探していると、


 「――あ、あったね。BL愛好部に、に、にじげん具現化部?」


 僕の肩を持って、如月さんが後ろから声をかけてきた。

 一枚のプリントを一緒に見ているためこのような格好になっているのだが、そんなことをすれば、当然後ろから圧迫してくる柔らかい何か。

 名言するのが怖いので僕には何かとしか言えないが、一つだけ分かるのは今日の気温で後ろから密着されたら、僕の体温は急上昇してしまうということだ。

 窓を全開にしたくらいでは気休めにもならない。


 「そ、それは、網谷の部活だね。な、何か、直接的な名前を出すのはさすがに止めておいたらしいよ、うん」


 僕は全身を強張らせながら、後ろにいる如月さんを見ずに答える。


 「今更だけど、よくそんな部活を作ろうと思ったね。正直これはアウトだよ……副会長が整理しようとするのも、なんとなく分からなくもないかも……」

 「ま、そうだね……そういう意味では、有川さんはなかなかに肝が座っているね」

 「そのまんまだからね……」


 強張ったまま、僕と如月さんが肩を寄せてプリントとにらめっこをしていると、


 「――ねぇ。二人とも近くないかしら?」


 椅子に座り、黙ってこちらを見つめていた末永さんが口をひくひくとさせながらこの体勢に突っ込む。


 「え……そ、そうですか? そんなことないよね? 栗島くん」

 「え、えっと……」

 「そんなことあるわよ。ほら、もう一枚印刷してあるから、麻優はこっちを見なさい」

 「うう、はい……」


 僕が返答に困っていると、準備の良い末永さんは同じ資料をもう一部用意していたようで、それを如月さんに手渡す。

 僕も気温以上の暑さを感じていたため、正直助かったような、残念なような……ってこんなことを考えるからムッツリとか言われるんだ。集中しなきゃ。


 「栗島くん、これなんてどうかな? スポーツ男子研究部。有川さんみたいなその、ああいうのが好きな人か、真っ直ぐ体育会系の男子が好きな女の子って可能性も……」


 さっきのくっついた体勢を止め、自分の席に座ってプリントを眺めていた如月さんが新しい部活の名を口にする。

 いきなり目星をつけるなんて、如月さんもなかなか勘が良い。


 「そっか、年末にそういう特番があるくらいだしね。後はスポーツ漫画を研究している男子の部活ってケースもあるかもしれない」


 言われてみれば文化部なのに何故かスポーツと部活名に謳っているくらいだし、何か尖った空気を感じる。

 そう、有川さんの部活と似たような空気を。


 「うん。こんな感じでチェックしていこう! 栗島くん!」


 こうして、僕と如月さんは怪しいと思ったものを順番にチェックしようとしていた――だが、


 「こらこら、それだと視野が狭いわよ」


 それを、またも末永さんが中断。


 「有川さんの部活はそれで良いかもしれないけれど、他にもそういうケースがあるかもしれないでしょう? まずは全体的にカテゴリを紐付けていって、そこからグルーピングしていきましょう」

 「あ、なるほど……」

 「例えばスポース男子研究部も、漫画の可能性もあれば、単純にイラストの可能性もあるわよね? それも絵という一つの大きな枠組みに収まるし、実は全く違って、単純にスポーツをする人間を研究しているだけかもしれない」

 「つまり関連しそうな属性を付与していって、まずは文化部全体を整理していく、というわけですね、牡丹さん」

 「そういうこと。そうすれば、他にもアライアンスを提案して救える部活があるかもしれないわ。するかどうかは別として、情報整理はしておかないとね。栗島君、パソコンを使っていいから、表整理してくれる?」

 「分かりました」


 僕は末永さんに言われるがまま、パソコンを立ち上げる。

 第三視聴覚室の蛍光灯を消し、スクリーン上にパソコンの画面を映しながら、僕達は文化部一つ一つをチェックしていく。

 もしかしたら、あの副会長も同じようなことをしたのかもしれない。

 目的は違えと、文化部の全てを精査している活動自体は同じなのだから。


 変な親近感を勝手に覚えながら、僕は部活名の隣に二人が挙げていった情報を追加しながら表で整理していく。


 ゲーム、絵、音楽など大きい枠組みを大分類として用意し、その詳細ジャンルとして例えばゲームの場合はテレビゲームにボードゲーム。

 絵の場合は漫画、絵画など。

 あまり細かすぎてもアライアンスの提案としては難しくなるので、共通項をまとめやすい粒度を意識して枠を作り、該当しそうな部活名の各項目に丸をつけていった。


 例えばチェス部だとボードゲーム。BL愛好部だと漫画だ。


 明確に分かっている部活はこれで事足りるが、スポーツ男子研究部なんかは何をやっているかは定かではないため、考えうる項目全てにチェックをつけていきながら整理。

 最終的に出来上がった表を元に各部に確認を行い、まずはBL愛好部とアライアンスを結べそうな部活に提案を行うという手順を踏んでいく。


 「――これで終了ね。纏まりそうかしら?」

 「そうですね。この中で今回のアライアンスを提案出来そうなのは……七つ。意外と多いですね」


 五十を超える文化部をもれなく確認していたため一時間程かかったが、どうやら全て終わったらしい。

 表資料が出来上がったことに、僕もちょっとした感慨を覚える。


 「そうね。まぁ今の整理だと全ての部活が該当するかは分からないけれど、さすがに一つや二つは当てはまるでしょう。中にはピンポイントに漫画と名のつく部活もあったし、収穫よ」


 末永さんもこの調査結果にはやや手応えがあるのか、柔らかな笑みを浮かべる。


 「それにしても末永さん、良くこんな纏め方思いつきましたね」

 「ふふ、慣れというものかしら」

 「慣れ……ですか」

 「牡丹さんの家は色々厳しいから、お小遣いの値上げとか、色々相談するときは全て情報を整理して戦わないと勝てないらしくて、身に付いたんだって」


 昔から仲が良いという如月さん。末永家の事情も詳しいらしい。

 確か親もコンサル会社に勤めていると言っていたから、家での会話とかも大変なんだろうな……。


 「末永さんも大変ですね」

 「物は考えようよ――兎に角、集まった情報で声を掛けていきましょう。二、三年が部長の部活は私が回るから、麻優は一年生が部長の部活をお願い」

 「はーい」


 さっきから僕が賞賛ばかりするせいか、照れてばかりの末永さんだったが家のことは全く気にしていないらしい。

 平然と次の作業を考え、如月さんに指示を出す。


 「あの……僕は」

 「栗島君はお留守番ね。今回の噂もそこそこ広まってしまっているもの。あまり表に出すぎないほうが良いわ。その代わり漫研部にアライアンスを認めさせるための資料を作っておいて」

 「うん、今回は女の子の部長が多いみたいだから、後はあたしが交渉するよ!」


 今回提案へ行く部活名の隣、部長名の欄に記されているはほとんど女子の名前。

 それに交渉はきっと如月さんのほうが上手だからしょうがないのだけど。早く噂はなくなってほしいものだ。

 人の噂も七十五日か……。


 「了解です。資料、バッチリ作っておきます……」



 ――そして確認と交渉を重ねた結果。

 七つあった候補のうち四つが類似の漫画部活だったことが判明。

 その全てが一年生部長だったこともあり、漫画アライアンスは六名まで増員することが出来た。

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