• 学園イノベーション

  • 第二部 コンサル部大ピンチ? 敵は生徒会にあり
  • 第二章 BL愛好部と水球部を助けます
  • 第47話 部活アライアンス

第47話 部活アライアンス

 善は急げ。

 何せ時間はない。やれることはすぐさまやるべきだ。


 僕が緑原にそう伝えた次の日。

 彼はアドバイス通り、早速僕のいる教室へとやってきた。

 それも翌日の放課後を待つこともなく、昼休みに。

 

 「おう、有川」

 「緑原……君? 声をかけてくるなんて、珍しいね」


 突然の訪問者に、有川さんも首を右に傾げていた。

 それでも人見知りな彼女にとって、数少ない友人の一人である緑原の顔を久々に見たおかげか、その顔からは少しだけ笑みがこぼれる。


 「あぁ。こいつに言われてな」

 「え、栗島君が……?」


 緑原がこいつと言いながら、隣にいる僕のことを指差す。

 僕達が並んで立つのを初めて見たからだろう、今度は先程とは反対側に首を傾げる有川さん。


 ――そして僕達三人を見るクラスメイト。

 異様な光景に包まれていることもあり、1年C組の教室はいつもよりざわめいていた。


 普段は人見知りでほとんど誰とも口を聞かない有川さん。

 この教室に入るのは初めての、1年E組の緑原。

 絶賛パンツ男と悪名高い栗島…………僕。


 如月さんは学食へ行っているし、大木は今日、部活のミーティングがあるとかで席を外している。

 こうなったときに、クラスに対する求心力が限りなく低い僕と有川さんの元へ駆け寄ろうとするクラスメイトなど誰もおらず、そこかしこでヒソヒソと話す声が聞こえる。


 まぁ、大半は僕が理由だろうが。

 でもせっかく集まったのだから、少しでも話を進めていかなければ。

 

 「えっと、今日緑原に来てもらったのは、有川さんに話があったからなんだ」

 

 僕はきっかけだけを作ると、緑原に目配せ。

 緑原は僕の顔を頷くと、有川さんへと今回の趣旨を説明し始めた。




 「――――うちの、プール?」



 緑原からの提案が予想外だったようで、有川さんは首を傾げながら聞き返してくる。


 「そうだ。もし可能だったら、有川の家が経営しているプールを水球部に使わせて欲しい。必要ならプールの清掃でも、何でもする」

 「それは別に構わないけど。元々この話を断っていたのは緑原君なのに、急にどうしたの?」

 「僕が説得したんだ。水球部も廃部に追い込まれてるいから、活動場所をまずは確保しないとって」


 戸惑う有川さんへは、僕からもフォローを入れる。


 「栗島君が……でも、大木君が……」

 「えっ」


 しかし何故そこで大木の名前が出たのかは、僕にはよく分からない。

 いや、分かるのは一つだけ……。


 「ご、ごめん! なんでもないの。プールを使うのは構わないよ。私から前提案したくらいだし、お父さんにも言っておくから」


 僕は有川さんを少しだけ訝しむように目線を向けると、右手を小さく振り、顔を赤らめて返答。

 頼むから想像することではあってほしくないと、僕は心のなかで願った。


 「恩に着る。それで代わりと言ってはなんだが、有川の部員確保の手伝いをしようと思ってな。放課後、合わせたい奴がいるんだ」


 だが有川さんが今、脳内で何を考えているかなど、彼女の描いている漫画を知らない緑原は毛ほども気にしない。

 そのため僕も急いで思考を本題へと戻す。

 わざわざ昼休みに緑原がやってきたのは、このためなのだから。

 放課後に合わせたい人といきなり顔を合わさせるのは有川さんの性格上好ましくないだろうと気を利かせ、お昼休みに事前に告知するために。


 予想通り不安になる有川さん。だが、


 「う、うん……緑原君が、そう言うなら」


 なんとか首を縦に振り、僕達は放課後に再会することを約束した。



 「どうも! おいらが網谷あみやっす!」


 放課後、再び僕達の教室へ訪れた緑原が連れてきたのは角刈りの男。

 喋り口調もひょうきんで、どことなく馴れ馴れしく感じる。


 なるほど。確かにこれは有川さんの苦手なタイプかもしれない。

 彼女の顔も引きつっているし、こんなことなら如月さんに先に部室へ向かってもらわずに、待ってもらえば良かった。

 

 「有川、こいつが例のやつだ」

 「う、うん……は、初めまして」

 「お初にお目にかかります! 網谷っす!」

 「おい、さっき名は名乗っただろ」


 緑原と網谷は同じクラス。つまり僕達と同級生だ。


 「初めまして。僕はコンサル部の栗島です」

 「おぉ! あなたは噂のパンツさん! いやぁ、あの副会長のパンツにあんなことやこんなことをしちゃうなんて、尊敬するっす!」


 そして僕の名を聞いた途端、網谷が僕に一歩近寄ってきて目を輝かせる。

 そうだった、網谷は文化部の人間だ。

 僕とコンサル部の名前なんか出したら、すぐバレてしまうのか。


 「い、いや僕は何も……」

 「うへへ、そんなに謙遜しなくてもいいんっすよ。で、副会長のパンツの触り心地はどうでしたか? 何ならお尻も触りました? えぇ!? もっとっすか! あ、すいません鼻血が……」


 勝手に興奮して、勝手に鼻から血を流す網谷。

 触り心地は最高でした、なんて言ったら僕の高校生活は終わりを告げるため、苦笑いをするしか今の僕にできることは本題に話を移すくらいしかありません……。


 「ご、ごめん。今日は別の用事で来たんだ。網谷と、有川さんの漫画の件で」

 「そ、そうっすね! なるほど、漫画を描いている人って有川さんのことっすか」

 「う、うん……」


 副会長の話をされると弱い僕は強引に話を戻した。

 幸い、漫画というお互いの共通項のおかげで徐々に弾んでいく二人の会話。

 そのことに安堵しながら、僕も今回の提案を続ける。

 緑原には有川さんの漫画の内容をなるべく知らせないようにした方がいいだろうし、直接的な話だけに留めるようにしないとと考え、


 「二人には、部活のアライアンスを結んでもらおうと思っているんだ」


 僕はなるべく端的に、結論から話すことにした。

 副会長の件を遠ざけるために考えた結果が、まさか末永さんに指摘されたことと重なるとは思いもよらなかったけど。


 「「アライアンス?」」


 しかし結論から話すのは良いが、いきなり出した横文字に、対象者の網谷と有川さんは同じくキョトンとした顔をしている。


 「あ、そんな難しい話じゃなくて。要は部活を見た目上、一緒の活動にしてしまおうってこと」


 まず優先すべきなのは人数の確保。

 部活は言わば、学校という大きな箱のなかにある小さな器だ。

 どれだけ崇高な理由で作成された部活でも、人数が確保されなければそれはただの容器でしかない。

 それぞれのやりたいこと、得意なことに合わせて器は用意されてある。もしくは大きな器にある隙間に新たな器を作ることも出来る。

 ただしそれでは中身がない。部員という中身が器へ入ることで、初めて他人を惹きつける要素となりうるのだ。


 ではなぜ惹きつける必要があるのか? それは予算だろう。


 副会長は文化部定例会が開催されたあの日、運動部と文化部の予算配分について言及していた。

 確かに最近の文化部は増え過ぎな傾向にあるのかもしれない。

 新たな器が用意されては消え、用意されては消え――恐らく、これまで消えた器は新陳代謝に耐え切れるものではなかったということ。


 だから毎回作られては消えていき、中身が伴わない。

 つまり、継続的な新入部員が見込めない。


 その影響で学校という大きな箱に毎年どれだけの器が準備される、もしくは作られるのかを予測すことが難しくなってしまい、結果、予算の見積もりが難しくなった学校側はいよいよ部活を整理することに着手した。


 これが僕の推測だ。


 難しく考えたが、結局は部活が生き残るには継続的に中身が伴う器にする必要がある。そのためにはどうするか?


 シンプルに考えれば、小分けの器をまとめて、大きくしてしまえばいいのだ。

 そのための、アライアンス。


 見かけ上は漫画を描く部活という大きな枠を作り、その中に小分けで網谷の部活、有川さんの部活が個別で存在する形を創りだす。

 勿論、集合体になることで仲間も出来るメリットもあるし、わざわざ一人のためには用意してくれなかった部室も獲得することが出来る可能性もある。


 この二人は、漫画を描くという共通項がありながら、同じく共通項を持つ漫研部に入らなかった二人だ。

 これも想像でしかないが、二人なりに、何かしら理由があるのだろう。

 だが漫研部を説得した上で、漫研部にはないウリを作ることが出来れば、新たな部活として学校と副会長に認めさせることが出来るかもしれない。


 僕達コンサル部はそう結論づけた。


 実際ここまで考えたのは末永さんの力が大きいけど……自分は自分で副会長の調査を進めながらここまで推察するなんて、やはりあの人は凄い。


 「なるほどっ! 良いんじゃないっすか。自分の描く漫画に干渉されなければ、枠が増えることにはおいらは気にしないっす」

 「うん、私も。自分が描きたいものが描ければそれで十分かな」


 ありがたいことに、僕の説明を受けて二人は乗り気だ。

 恐らく他にもこういう部活はあるはず。

 大手の部活に入らずに自分のやりたいことを突き詰めたいと考える、ごくごく少数の部活が。

 それらを数珠つなぎのように合わせていけば、部員数の問題はなんとかなるはずだ。


 後は、漫研部か……。


 「ところで、よかったら聞きたいのだけど、二人が漫研部に入らなかった理由は何かあるのかな?」


 僕はここに来て、ようやく核心に触れることを決意した。

 そもそも二人は漫研部に入ればこんな苦労をする必要がなかったのだ。

 元々は副会長の粛清なんて予想はしていなかったから分からなくもないが、それでもわざわざ自分一人のために似たような部活を作るというのも僕には腑に落ちない。

 一人は寂しい。その寂しさを堪えるほどの理由があるのだろう。


 「実は…………漫研部はルールが厳しいんすよ」

 「ルール?」

 「そうっす。あそこは月に一回、部活が出したお題に沿って漫画を描かなければいけないというルールがあるっす。それはジャンルもそうで。おいらみたいにこれだけ描きたいっ! ってのがある人間には結構窮屈なんっす」

 「あ、それは私も……」

 「そうっすよね? だいたい、漫画なんて自分が描きたいことを描くもので、他人に強制されるなんてごめんっす。だから自分で作っちゃえば良いかって……まさかこんなことになるとは思わなかったっすけどね」


 網谷の言葉に、有川さんもしきりに頷く。


 「私も似たようなものかな……描いているところを見られるのも恥ずかしいし、あと、描いたものを披露するのも……ちょっと」


 まぁ、有川さんの漫画はね……。

 でも、そういうルールがあるのか。

 サッカー部みたいな運動部には、同じ競技で違う部活っていうのは考えもしなかったけど、漫画って一口に言っても種類があるから、一括りにされたくないってことなんだな。

 それに僕達は一年生。自分の意見を強く言うことも出来ないだろうし……。


 「二人ともありがとう。後は、他にも同じような人がいるかもしれないから、良かったら二人も他に仲間がいないか探してみて。一年生だけでもいいから」

 「うっす」

 「うん。分かった」


 ひとまず、スタートラインには立った。

 後は彼らと、漫研部の隔たりを僕達コンサル部がなんとかするだけだ。


 「話はまとまったな。それじゃオレは部活に戻る」

 「うん、ありがとう。緑原」

 「別に栗島のためじゃないぞ」

 「ははは、そうだった」


 話が落ち着いたのを見計らって、緑原は踵を返して教室の扉を開ける。

 これから武道場の裏へ向かうのだろう。相変わらず真っ直ぐな男だ。


 「緑原君。プールの件は、また後で連絡するね」

 「ああ。すまんが、よろしく頼む」


 有川さんに呼び止められて振り返り、律儀にも頭を下げると、駆け足て教室を飛び出していった。


 「ふふ……緑原君も、負けずに頑張ってるんだね」


 そんな緑原の背中を見つめ、有川さんは小さく息を吐きなながら微笑む。

 同じ中学って良いなぁ。

 僕には昔から仲の良い友達はこの学校にいないし、ましてや女友達なんて高校に入るまで出来なかったから、少しだけ緑原が羨ましい。


 「ところで、有川さんの描きたい漫画ってなんっすか?」


 緑原が出て行ったのを見て、有川さんに問いかける網谷。

 話の最中で漫画の内容を言いたくないのを感じ取ったのか、意外に空気が読めるようだ。


 「それは……」


 有川さんは、照れながらも網谷の耳に顔を近づけて小声で伝える。

 そんな小さい声で言わなくても、周り誰もいないのに……。


 「はーはー! なるほど、そりゃ漫研部は厳しいや!」

 「……そういう網谷は何を?」


 納得顔の網谷に、今度は僕が聞き返すと、サムズアップして笑顔で宣言。


 「おいらは、エロ漫画っす!」

 「ああ、そう……」


 良かったね。お仲間が出来て……。

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