• 学園イノベーション

  • 第二部 コンサル部大ピンチ? 敵は生徒会にあり
  • 第二章 BL愛好部と水球部を助けます
  • 第46話 ギブ・アンド・テイク

第46話 ギブ・アンド・テイク

 「初めまして。如月麻優です」

 「こちらこそ初めまして。ボクが菜園で」

 「緑原だ。よろしく」


 三者三様の挨拶を交わし、僕達は第三視聴覚室のミーティングスペースに着席。

 普段は末永さんが座る奥の椅子に緑原と菜園が座り、僕と如月さんは変わらず入り口側の椅子へ腰を降ろした。


 「で、今回の件だけど」


 既に水球部の二人には、部員獲得と活動場所確保のサポートを末永さんと僕で提案済みのため話はスムーズに進む。

 ちなみに直接話を持ちかけた末永さんは、今日は欠席。

 一人副会長の情報収集活動をするため外出をしていた。


 「水球部の課題は、部員獲得と活動場所だよね?」

 「あぁ、だがいきなり部員を増やすのは難しい気がするな。文化部は文化部で人の取り合いしているんだろ? その状況で運動部に勧誘するのは至難の技だ。それに、無理矢理誘ってもついてこなきゃ意味がない。俺達は真剣に全国を目指そうとしてるんだ」


 如月さんの質問に力強く語るのは緑原。


 「そうは言っても、副会長が部員を増やさないと廃部にするって言ってるから……部を存続させるには、どっちみち部員が必要だよ」


 対して菜園は、弱々しく喋りながら、部員の必要性を訴える。


 「それについては、僕に考えがあります」


 二つの課題に頭を悩ませる二人に、僕は先日コンサル部で話した内容を伝えることにした。

 それは、部員獲得よりも――


 「活動場所を優先する……ですか? でも、それだと部員が」

 「もし仮に水球部が七人集められたとしても、活動場所がないのでは継続は難しいと思うんだ。それに、凄く言いづらいけど……その、水球部なのにプールも使えないのでは、なかなか部員集めも厳しいだろうし」

 「う……確かに」


 痛いところを疲れたと、菜園が俯きながら答える。

 もし自分が勧誘された側だったらどう思うか?

 想像してみると、部員数が少ないことは自分が試合に出られるというメリットを感じるが、練習場所がないというのはとことんメリットがない。

 恐らく、僕ならその時点で入部を断ってしまうだろう。

 そう考えたときに、自然と結論は出た。

 部員獲得よりも活動場所を優先することを。


 「逆に活動場所さえ決まればアピールすることが出来る。学校のプールが水泳部に専有されてしまっている以上、外の施設を使わければいけないけどね」

 「まぁ、ないものねだりをしてもしょうがないしな」


 不安げな菜園に僕が説得を試みると、隣に座る緑原が頷きながら答える。この件に関しては僕と同意見らしい。

 仮に二人でも場所さえあれば活動出来ると信じているんだろう。


 「でも、緑原クンに、栗島クンも、部員はどうするの?」

 「部員は……最悪、集められないかもしれない」

 「それだと、副会長の言う通り廃部に!」

 「落ち着け菜園」


 どちらかと言うと血気盛んなのは緑原で、なだめるのが菜園の役割かと思いきや、逆なようだ。

 さっきからも喋っているのも、主に僕と菜園の二人だ。


 「そうは言っても、廃部になったら……」

 「オレ達も副会長に言っただろう。三年までに人を集めると、どのみち一年だけで七人揃えるというのが難しいことくらいお前にも分かるだろ」


 今年出来た部活が、部員を七人集める。

 強豪揃いの運動部において、これは途方もなく難しいことなのだ。

 チェス部が十人近く集められたのも、文化部のなかでどこに入ろうかと悩んでいる人間を惹きつけることが出来たから。


 推薦、特待生で固められることが多い運動部のなかに、一般入試で割ってはいろうとする人間は、驚くほど少ない。ましてや、新しい部活を作ろうなどというのも。

 僕はあれから自分なりに調べていたのだが、紺学園でここ十年のうちに創設された文化部は三十を超えるそうだ。創設した生徒がいなくなれば廃部ということを繰り返し、今の五十一という部活数に辿り着いている。


 反面、新しく創設された運動部は水球部ただ一つだけ。


 運動部で結果を残すために入学した者と、勉学を勤しむために紺学園を選んだ者というのは、実はこれほどまでに隔たりがあるというのを、僕もつい最近知った。


 「廃部になった部活をもう一度作ったらいけないというルールはないから、活動場所さえ決まれば二人はそこで活動を継続。来年、または再来年に水球部を作りなおすという手段も取れると思うんだ」

 「なるほど……でも、それだとどこか、他の部活に入らないといけないんじゃ」

 「それは……どこかの文化部に入るしかなくなるね」


 部活の強制入部というのは、なかなかに束縛が強いルールだと思う。

 とはいえこればっかりは学校の校則だから仕方がない。言い換えれば、校則を守りながら如何に盲点を突くか考えなければ、きっと今回のケースで水球部の依頼を解決することは難しい。


 「そこで、提案があるんだけど……」

 「えぇ!?」


 これまで静観していた如月さんが、途端に大きな声で驚く。


 「なるほど、有川の部活か」


 僕が提案したのは、有川さんの部活を隠れ蓑にすること。

 これなら有川さんも部員を増やすことが出来るし、水球部の彼らはその間に活動場所を探しながらトレーニングを行えばいい。


 「なるほどって緑原くん、有川さんが何の部活をしているか知ってるの?」


 如月さんは引き続き慌てながら緑原に質問する。


 「漫画を描いているのだろう? 詳しくは知らないが……」

 「そ、そっか。漫画、ね…………あのね栗島くん。さすがにそれはないと思うな……有川さんの活動に、二人を巻き込むのはちょっと」


 如月さんは有川さんの部活、つまりBL愛好部の活動内容を知っているため、この提案には乗り気ではない。

 まぁ、僕も入れと言われたら実際悩むんだけど、背に腹は代えられないし。

 そう思って僕が如月さんに言い返そうとするが、


 「おい、有川を馬鹿にするな」


 照れた顔をしたまま、緑原が如月をいきなり糾弾する。

 へ? と、なぜ責められているのは分からない顔をしているのは如月さん。


 「いや、でも……有川さんの活動ってさ」

 「有川がどんな漫画を描いているかは知らない。でも中学の頃から一生懸命何かを描いていたのは知っている。それにアイツは昔、俺に言ってくれたんだ。いずれオレを題材に漫画を描いてくれるってな」

 「そ、そうなんだ……それは、うん。いいことだね。あはは……」

 「? 何を笑っているんだ。人が頑張っていることを笑うなど」

 「いや! 良いと思うよ。うん!」


 緑原は有川さんの活用内容を詳しくは知らない。

 ただ漫画を描いているということだけは知っていて、その有川さんが、緑原を描くと言っている。それまで静かだった緑原が、声を大にして庇うほど有川さんに期待しているのだ。


 「まぁまぁ如月さん。二人は幽霊部員として籍を置いてもらうだけだし、活動内容は詳しく知らなくて良いんじゃないかな。部活名はほら、適当に変えればいいし」

 「うぅ……でも、ちょっと……二人と思うと、うう」


 如月さんが悶々とする気持ちは分かるが、緑原と有川は同じ中学、しかも三年間同じクラス。

 人見知りな有川さんがこの手の依頼を見ず知らずの女子に依頼するのはなかなか難しいだろう。それならば、いっそのこと知り合いの男子に頼むほうがいくらかやりやすいはずだ。

 少し安易すぎるかもしれないが、これが僕の提案。


 「気持ちは有り難いが、その提案は受け入れられない」


 ただし、それに緑原と菜園が乗るとは限らない――


 「ほら、そうだよねっ。栗島くんも考え直そう――ってえぇ! あれだけ言っておいて、緑原くん、反対なの?」

 「緑原、理由を教えてくれないか?」


 如月さんがびっくりするのも無理はない。

 ここまでトントン拍子で話が進んでいたのに、急に首を横に振るのだから。僕も理由を聞かずにはいられない。


 「……有川に頼るのは、男として許せないからだ」


 途端、緑原の顔が赤くなる。

 BL愛好部の活動内容を知ったわけでもないのに。


 「えっと、緑原くんってもしかして、有――」

 「う、うるさい! とにかく、有川の手は借りん! それに、借りるくらいなら活動場所の件でもうとっくにお願いしている!」

 「へ? どういうこと?」


 いきなり活動場所の話が出てきたため、僕が聞き返すと、それに答えたのは菜園。


 「その、有川さんは、実家がプールを経営しているんだよ。それで、水球部の活動場所を借りられるんじゃないかってボクが提案したんだけど、緑原クンに断られちゃって」


 緑原の代わりに口を開く菜園。


 「だから、有川の手は借りないと言っているだろう。それくらいなら、自分でプールを探したほうが百倍マシた」


 え……有川さんが、プール?


 「え、ちょっと待って。有川さんって、家がプール経営してるの?」

 如月さんも思わず席を立って二人に聞き返す。

 「そうだ」

 「なのに、使わせてくれるかお願いしたこともないの?」

 「そ、そうです……」

 「いやいやいや! 使えるものは使おうよ! 手段を問えるほど悠長なことも言ってられないよ!?」


 質問を肯定する二人を見て、如月さんも驚きながら声を上げる。

 そりゃそうだよな。これだけ身近に活動場所の解決手段があるのだから使わない手はないはず。有川さんも緑原のことを気にかけるくらいには仲が良いはずなのに……一体何故なんだ?

 分からない……。


 「ボクも状況が状況だし、有川さんに力を借りようと言ったんですが……緑原クンが」

 「ダメだと言ったらダメだ」


 頑なに首を縦に振らず、固辞する緑原。

 分かるのは、緑原が有川さんの手は借りたくないということだけ。

 ん? 手を借りたくないだけ?


 「緑原、有川さんに無償で力を借りるのが嫌ってこと?」

 「ああ。あいつはあいつで夢を追いかけている。オレ達はオレ達で出来ることをするべきだ」

 「じゃあ、お互いがお互いのためになるならいいってこと?」

 「どういうことだ?」


 緑原は、僕が何を言いたいか分からない様子。

 そんな緑原を気にせず、僕は今しがた思いついたプランを二人へ提案するこにした。


 「要は、お互いが力を貸せば良いんだよ――ギブ・アンド・テイクってことさ」

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