• 学園イノベーション

  • 第二部 コンサル部大ピンチ? 敵は生徒会にあり
  • 第二章 BL愛好部と水球部を助けます
  • 第45話 ブレインストーミングでBL部の危機を救え

第二章 BL愛好部と水球部を助けます

第45話 ブレインストーミングでBL部の危機を救え

 「――と、言うことなんだけど」


 放課後の空調を切られて蒸し暑さを覚える教室のなか、僕と如月さん、それに同じクラスの有川さんは三人で集まっていた。それぞれの椅子を持ち寄って、有川さんの机を囲んで座る。


 「本当に、良いのかな……コンサル部も大変だよね」


 末永さんへの決意表明から翌日、僕は早速動き出すことにした。

 何せ文化部、そして水球部に残された時間は少ない。夏休みまでに全ての仕分け作業が終わることを考慮すると、もう三週間しかないのだ。

 僕達も全ての部活を救うことは不可能だろう。だからと言って自分達のことだけを考えていてもコンサル部が生き残るのは難しい。副会長は一旦末永さんに任せ、僕は出来るだけこの期間で困っている部活を救うことに決めた。


 その最初の対象者、今回のクライアントである有川さんは僕の提案を受けて戸惑っている。

 有川さんはコンサル部が気にかけてくれると言っても、精々如月さんが友人に声をかけてくれるくらいだと考えていたようで、まさか本格的にサポートを申し出でくれるなんて思ってもいなかった様子。


 「でも、コンサル部って報酬必要なんだよね……?」

 「それは大丈夫、今回は貰わないよ」


 今回の部活粛清騒動の件について、クライアントから報酬は頂かない。僕はそのことを事前に末永さんと約束させてもらっていた。

 僕が副会長の怒りを買ったせいで火に油を注いでしまったこともそうだが、何より今は困っている部活同士が一致団結することが最優先。無事副会長からの粛清を回避することが出来たら今後の活動で挽回することと、得た報酬のうち僕の取り分を二人に贈呈することでなんとか納得してもらった。


 「如月さんも……良いのかな?」

 「もちろん! 同じクラスなんだし、気にせず頼ってね!」

 「分かった。じゃあ、お言葉に甘えちゃうね」


 有川さんも如月さんに笑顔で頷かれて安堵した面持ち。前回の中庭での話が効いているようで、あれから有川さんは随分如月さんに心を開いている。


 「早速だけど如月さん、あれから友達に声をかけたりしてくれたかな?」


 三人の意思確認が終わったところで、僕は早速本題へ。まずは近場の人間に心当たりがあるかどうかを確認する。


 「うーん、一応同じ中学の子に何人か聞いてはみたけど、反応はイマイチだね」

 「ま……そうすぐは見つからないか」


 如月さんの持ち前の明るさでいきなり課題解決!

 なんて甘い目論見は流石に難しいようで、僕は如月さんに続いて有川さんのほうへ顔を向けると、有川さんも同じように首を横に振った。


 「如月さんの周りにいないのはしょうがないよ、活動内容が内容だし。それにこういうのは誰に声をかけられるでもなく、やりたい人は勝手にやるものだから」

 「そっか」


 僕も声をかけてみたいところではあるが、副会長の件で周りの女子からは白い目で見られることがほとんど。二人に手伝いを断られるその前に断念せざるを得ない嫌われっぷりだった。


 「そういえば、有川さんは平気なんだね。僕と副会長の噂……やっぱ耳に入っているよね」

 「私、クラスであんまり話すことないから……それこそ如月さんくらいじゃないかな。如月さんは栗島君の良いところは言っても、悪いことは言わ――」

 「わーわーわー!」


 有川さんが最後まで喋り切る前に、その口を如月さんが塞ぐ。


 「大丈夫だよ栗島くん! 有川さんにはあたしから説明してるから。だから安心して頑張ろう!」

 「う、うん……ありがとう」


 安心して頑張るって良く分からない言葉だけど、如月さんが僕のために気を使ってくれていることだけは分かった。


 「……と、ごめん。僕が脱線させちゃったね。振り出しに戻ったわけだけど、何かいい案はないかな? 漫画を描く部活なら、それこそポスターを貼ったりするとか、他に何か良いアピールの仕方があれば良いんだけど」


 僕は自ら脱線させた話を強引に戻しながら、二人を巻き込んで勧誘するための案を捻りだしていく。末永さんの見様見真似と、それに少しだけ慣れないビジネス書に目を通して覚えたテクニックを使って、務めるのは今日のファシリテーター。一旦結論は出さずに、使えそうな案を出すだけ出してみて、そこから現実的な候補へと絞り込んでいく。


 ブレインストーミングという技法だ。


 「んー、そうだねぇ。ポスターの隣に小さい冊子置いとくとか? 本屋でも立ち読み用冊子とかあるよね。そういえば、有川さんはアナログとデジタルどっちでも絵を描けるのかな?」

 「ん? どういうこと?」

 「ほら、もしデジタルでも描けるなら投稿サイトなんかに自分の絵を公開して、そのURLを教えれば誰か見てくれるんじゃないかな?」

 「へぇ、そんなのあるんだ。如月さん詳しいね」

 「や、別に割りと有名だと思うけど……栗島くんってあまりネットとか見ないの?」

 「う、うん……サッカー動画見るくらいしか使わなかったから」


 僕もこのご時世、絵を描くのが筆やペンだけじゃないことくらいは知っていたが、アマチュアの人間が投稿するサイトの存在なんかは知らなかった。

 なんだかんだ言って如月さんは博識だ。こういう基本的なところで見せつけられる知識量の差に、悔しい気持ちを持ちながらも尊敬せずにはいられない。


 「こういう趣味がないとお世話になることがないからね。如月さんはほら、腐女子だから知ってるところもあると思う。あ、あと私はアナログとデジタル、どちらでも描けるよ」

 「あ、あはは……うん。そっか、両方描けるんだ。さすが有川さんだね」


 有川さんに腐女子認定されている如月さんは、乾いた笑いを浮かべる。投稿サイトを知っていることで拍車が掛かり、実はBLに興味があるのは嘘でしたなんて言える空気は、今どこにもない。


 ……もしかしたら、本当に興味があるのかも?


 「栗島くん……?」

 「え、えっと他は何かあるかな? な、何でもいいよ! 絵以外でも!」


 少し考え込んでいた間のせいで如月さんに勘ぐられてしまった。

 まずいまずい。

 僕は少し慌て、早口になりながら話を戻す。


 「えっと、栗島君、何でも良いのかな?」

 「うん、有川さんも、何でも良いから意見お願い」

 「じゃあ、例えば……」


 運良く有川さんが喋り始めたため、如月さんはそれ以上僕を訝しい目線で見ることもなく、話し合いは進んでいく。

 ブレインストーミングの基本はどんな粗野な案でも歓迎すること。

 質より量を求めてひたすらにアイデアを出し、そのアイデアを発展させていくことが大事だ。

 僕達は宣伝ポスターに、見本絵の作成、Webページへの投稿だけでなく、ビラ配りや紙芝居までありとあらゆる案を言葉にしていく。

 だが、どれだけ絞り出しても……。


 「やっぱり……BLを題材にすると、なかなか人が集まらないよね。ごめんね、二人とも」

 「そ、そんなことないよ! 確かに、公共性に欠けるところはあるけど……」


 有川さんから出た否定的な言葉に、如月さんも嘆息しながら同意。


 そうなのだ。


 どれだけ健全な案を出そうとも、題材がBLである以上、生徒が目を通す場で堂々とアピールをすることは躊躇われるというこが、今回の難易度を大幅に向上させている要因に他ならない。

 かと言って、普通の漫画を描いたところで漫研部と何が違うのか? という話になり、漫画を描くことに興味を持ってくれても大御所の漫研部に流れて行くのは自然な流れだ。


 「ご、ごめんね……私が素直に漫研部に行けば良いんだよね……」

 「ううん、自分の思いがあって部活を立ち上げたんだから、無理して入ることないよ!」

 「そうだよ、そのために僕達がいるんだから、気にしないで」


 決め手にかける話し合いに徐々に有川さんの顔が沈んでいくのを、僕と如月さんでなんとか踏みとどまらせる。


 「とは言っても、このまま人が集まらなければどのみち廃部か……なんとかしないと」


 やっぱり漫研部に入ってもいいんじゃないか? と喉まで出かかっていた言葉を押し殺し、僕は次の案を考えていく。


 「……他にも有川さんみたいな人、いないのかな?」

 「如月さんみたいな?」

 「あ、あはは……えっと」


 僕の『有川さんみたいな人』という言葉に本人が反応するが、その回答に如月さんは苦笑い。


 「そ、そういう意味じゃなくて。大きな部活に入らずに、自分の好きなことを突き詰める部活をしている人のことさ。ほら、地下鉄研究部ってあったでしょ?」

 「あの、副会長に皆の前で詰められいてた人のこと?」

 「有川さんは定例会に出ていたんだったね。そうそう。その人達みたいな」


 ごめんね、如月さん。

 僕は心のなかで苦笑する彼女に謝罪する。如月さんのBL好き認定をフォロー出来ないことと、定例会に唯一如月さんが出ていないことの、二つの意味で。


 「地下鉄研究部も鉄道愛好部がありながら、敢えてそこには入らずに自分たちの部を立ち上げたんでしょ? それって、今の有川さんと境遇が似ているよね」


 有川さんが無言で頷くのを見て、僕はそのまま説明を続行。


 「例えば漫画を描く目的で、漫研部に入らずに小規模な部活に所属している、または自ら作っている人を探すってのはどうかな? ジャンルは違うかもしれないけど、有川さん以外にもいるかもしれないし」

 「そっか……うん、そうかも」

 「そこでお願いなんだけど、有川さんと如月さんの知り合いのなかで、BLに興味があるかどうかを絞らずにターゲットになりそうな人を探してみて欲しいんだ。残念ながら僕は、この前の件でなかなか他のクラスの人に話しかけるのも難しそうだし、同じ中学の友達もいないから力になれないけど……」


 三人で答えが導き出せないなら、他の人を巻き込んで行くしかない。

 この件に関しては僕が行動して成果を上げづらいのもあるし、色んな人から話を聞いて、有益な情報を集めるのが得策のはずだ。


 「ねね、栗島くん。水球部の人達も言ったら協力してくれるんじゃない? 明日はそっちに行くんだし、ついでに聞いてみようよ。漫画好きを探すなら、男子も当たるほうがいいかも」

 「あ、そっか。さすが如月さん」


 如月さんも僕の提案に賛成しながら、もう一つの案を出す。


 「栗島君、緑原君のところへ行ったんだ」

 「有川さん、緑原のこと知ってるの?」

 「うん、中学で三年間、同じクラスだったから」

 「へぇ、そうだったんだ――あ、だから水球部の話がこの前出たんだね」


 僕の問いかけに、有川さんは首を縦に振って肯定。


 「でも緑原君、協力してくれるかな……水球部は水球部で、大変そうだけど」

 「ま、そこは僕達が上手く言ってみるよ。だから有川さんは自分の繋がりから聞いてみてくれるかな?」

 「う、うん……あんまり友達いないから、役に立たなかったらごめんね」

 「大丈夫。一人でもいたら儲けものくらいで、気軽に行こう」


 ま、僕だったら声をかけても、一人も反応してくれない可能性があるしね……。


 直接的な成果は出なかったものの、今後の行動方針は決定。

 僕達コンサル部は、明日緑原達に聞いてみるということになった。


 「あ、あのね栗島君……緑原の君に、よろしく言っておいてね」

 「うん、了解。でも、同じ中学なら自分で言えばいいのに……」

 「え、でも……恥ずかしいから」


 僕がキョトンとした顔をしていると、如月さんの右肘が僕の肩をつつく。


 「もう、栗島くん。相変わらず鈍いなぁ……ちょっとは勘づいてあげなよ」

 「あ……そっか! ごめん」


 僕が有川さんの気持ちに気づいたのを見て、本人も紅潮して照れ隠し。

 そっか、そういうことだったんだ。


 でも、相変わらず鈍いって……。


 僕はそんなに鈍くないぞ、如月さん!

 と目線で訴えた先の如月さんは、盛大に溜息をついていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

応援した人

応援すると応援コメントも書けます

ビューワー設定

文字サイズ

背景色

フォント

一部のAndroid端末では
フォント設定が反映されません。

応援の気持ちを届けよう

カクヨムに登録すると作者に思いを届けられます。ぜひ応援してください。

新規ユーザー登録無料