• 学園イノベーション

  • 第二部 コンサル部大ピンチ? 敵は生徒会にあり
  • 第一章 コンサル部を粛清します
  • 第43話 栗島新の新たなあだ名

第43話 栗島新の新たなあだ名

 有川さんの勧誘失敗から一夜明け。

 僕の今日のバディは如月さんから末永さんへチェンジしていた。

 

 今日進めるのは、副会長説得計画。

 と言っても、いきなり副会長の元へ突撃するわけではない。来るべきタイミングへ向けて、情報を収集する日。

 つまり昨日有川さんから聞いた情報を活かして、水球部を調査するのがミッションだ。


 「水球部、今年出来た部活みたいね」

 「はい。それなのに、いきなり副会長に目をつけられているみたいで」


 僕と末永さんは廊下を歩き、中庭へと出る。

 有川さんの言っていたことが真実なのか。

 だとしたら、何故副会長は運動部にまで目を向けているのか。僕達の目で確かめなければ。


 「ま、私達で考えていても仕方ないものね。まずはその水球部に話を聞いてみましょう」


 水球部。

 ということは、目的地はプール。

 もうすぐ夏だな。あの副会長も……。


 「では行きましょうか。プールは確か、体育館の奥ですよね?」


 僕はうっかり副会長の水着姿を想像しそうになるのをぐっと堪えて末永さんの前を歩き、プールへ移動を始める。


 「……栗島君。今何かイヤらしいこと考えていなかった?」

 「へ? そ、そんなことないですよっ」

 「そう。てっきり私や麻優の水着姿でも想像したのかと思ったわ」

 「は、はは……そんなわけないじゃないですか」


 想像してしまったのは副会長です、なんて言ったら僕はコンサル部をクビにされるんだろな。

 うん、黙ってよう。


 「残念ながら、向かう先はプールじゃないわよ」

 「そうなんですか?」


 僕はここでも堪える。

 あからさまにガックリ来てしまったのをばれないように。


 「プールは水泳部の部員で満員御礼だから、違う場所で活動しているらしいの」

 「なるほど。うちは水泳部も強いから……というか末永さん、いつの間に調べたんですか?」

 「昨日栗島君からその情報を聞いて、水泳部の知り合いに話を聞いたのよ」


 さすが部長、仕事が速い。


 「それじゃ、行くわよ」


 僕から末永さんへ先導者が代わり、体育館を通り越し、プールを横切って剣道部と柔道部が汗を流す武道場のほうへと歩いて行く。

 更に武道場の奥から裏側へ回ると、外壁に囲われて雑草も手入れされていない、誰も人が寄り付かなさそうな場所へ到着した。


 「ここよ」

 「え……でもここ、水ないですよ?」

 「プールが使えないんだから仕方ないじゃない。その証拠にほら、そこに二人、人がいるでしょう」


 末永さんが指差す先では、二人の男子生徒が地面に掌をつけ、腕立て伏せをしている。回数を数えながら腕を伸縮していたかと思うと、五十になったところで起き上がってこちらを振り向いた。


 「オレ達に何か用か」


 最初に声をかけてきたのは、肩までかかるほどの長髪の男子生徒。顔立ちは端正で、身長も大木くらいある。

 俗に言う、イケメンだ。


 「あ、あの……ボクたち、やっぱりここを追い出されちゃうんでしょうか……」


 次にこちらを振り向いたのは、ボブカットの髪型の男子。こちらは下った眉が大木を髣髴とさせるが、身長は僕と同じくらい。どこか中性的な印象。

 二人とも首を傾げながら、訝しむ視線で僕達と目を合わせる。


 「私はコンサル部の末永。あなた達は水球部ね?」

 「ああ、オレが緑原みどりはらで、こっちが」

 「菜園さいえんです。ボクと緑原クンも、どっちも一年です」

 「あ、同級生なんだ。僕も同じく、コンサル部の栗島です」


 同級生ということでシンパシーを感じてくれたのか、二人の視線が和らぐ。お互いどこのクラスかを言い合いながら多少の雑談を挟むことで、武道場の裏の空気も幾分か緩和させることが出来た。


 「ところで、あなた達水球部の部員は二人。その上プールの使用許可が降りていない。合ってる?」

 「ああ、合ってるよ。水球部は今、オレ達二人しかいない」

 「その件について、生徒会からは何か言われている?」


 生徒会。

 空気が和らいだのを見計らって末永さんが出したその言葉に、突然二人が顔をしかめる。


 「……実はボクたち、副会長に警告を受けているんです」

 「警告? ってことはひょっとして」

 「夏休みまでに活動場所を見つけて、部員をあと五人以上集めないと廃部にすると言われているんだ……あの副会長から」


 菜園の警告という言葉に対して僕が聞き返すと、今度は緑原が回答した。

 それも、廃部という二文字で。


 「やっぱり……聞いていた通りか」

 「ボクたちのこと、誰かに聞いたんですか?」

 「昨日少し。文化部だけじゃなくて、運動部にも廃部対象の部活が存在するって」

 「そうか、あんたらコンサル部って言ったな。ということは……」

 「ええ。私達もあなた達と同じ状況ね」


 有川さんの言う通り、対象は文化部だけじゃないらしい。

 なぜ、彼らにも同じことを……。


 「兎に角。同じ壁を超えるべき者同士、ここは一緒に考えましょう。私達も副会長を説得しなければならないの」

 「それはオレ達にも願ったり叶ったりだが、良いのか?」

 「良いも何も、私達コンサル部はそういうことをする部活だもの。報酬は応相談だけれどね。良かったらこれから、私達の部室に行かないかしら?」


 緑原と菜園はお互いの顔を見比べると、アイコタクトで意思を固めたらしく、揃って頷いた。

 その回答に笑顔で末永さんが頷き、踵を返して校舎の方へと歩けば、後ろに緑原と菜園、そして最後尾に僕が続く。

 水泳部が使っているプールを越え、体育館も通り越し、四人で東棟へ足を踏み入れる――が、



 「末永……牡丹!」



 そこへ現れたのは天敵、副会長。

 僕達の顔を見るや否や眉を釣り上げ、険しい表情を作る。


 「副会長! ボクたち水球部の廃部の条件、もう一度考えなおして頂けませんか」

 「あなたは水球部……なぜ末永牡丹と?」


 副会長の顔を見て菜園が直ぐさま末永さんの前に出ると、ここは黙っていられないと直談判。


 「副会長! 三年までには必ず大会に出てみせますのでどうか、お願いします!」

 「何言ってるの、答えはノー。夏までに条件をクリアしないと廃部は確定よ」


 だが、副会長から返ってくる言葉は予想通りのものだった。


 「なぜですか! ボクたちは二人で、水球部の新たな歴史を作ろうと!」

 「では聞くけど、水球は何人でやるスポーツ?」

 「……七人です」

 「推薦、特待生で固められた運動部で部活を移籍する人なんているわけがないのに、あと五人もどうやって集めるつもり?」

 「来年以降の新入生を五人勧誘して、ボクたち含めて七人になれば!」

 「つまり、それまで我が校はあなた達に何の利益にもならない予算を投資しろって言っている?」

 「そんなことはない! オレ達が三年のときに、絶対全国大会に出てみせる。そうしたら学校への利益もあるはずだ」


 菜園だけに任せていられないと、緑原も大きな声で副会長へ訴えかける。


 「なぜ利益があると言えるの? 水球なんてマイナーなスポーツで、どれくらい利益が出るものなの? 計算して提示してくれる?」


 だが、どれだけ声が大きかろうと、副会長はビクともしない。

 毅然とした態度で反論を述べる。


 「け、計算って……ボクたちはただ、水球を頑張ろうと……」

 「頑張る、努力。それは最低限の言葉よ」

 「なっ! 副会長、オレ達が努力しても無駄だって言うのか!」

 「努力を否定しているわけじゃないのよ。でも――努力って誰にでも出来るでしょ? その当然の行為をした上で、学校側があなた達に、水球に、投資しても良いと考えるだけのものがあるの? まずは私を納得させることが出来なければ話にならないわよ?」


 緑原は唇を噛み締め、菜園は項垂れ、そしてお互いが言い返すことも出来ずに、握った拳を震わせている。


 「ちなみにサッカー部や野球部にはあるわよ。国立、甲子園に行くことでメディアへの露出も増える。プロが輩出されればまた有名になり、好循環が生まれる。そうすることで入学者数も増加し、寄付金もより多く集まるようになる。水球にそういう要素はある?」



 「――その辺にしたらどうかしら?」



 沈黙を破ったのは、この人に唯一口論が出来るであろう末永さんだった。


 「さっきから聞いていれば、学校側にメリットがあるかどうかしか考えていないけれど、それがそんなに大事かしら?」

 「大事に決まっているわ。教育はビジネスなのよ」

 「学園にとってはそうかもしれないわ。けれど、別にあなたにとってメリットがあるわけじゃないでしょう? ハッキリ言って、あなたに言われる筋合いはないわ」


 末永さんは直立した状態で髪をかきあげ、副会長から視線を逸らすことなく問い詰める。お互いの身長からだと、末永さんが副会長を見下ろす格好。


 「は? わたしは生徒会なの。各行事の遂行、部費の予算配分の確定、生徒の取り締まり、ある程度の権限は持ち合わせているに決まってるでしょ」

 「ある程度は、ね。けれど、彼らの夢を奪う権利までないはずよ――では聞くけど、彼らがオリンピックに出場出来るほど有名になれる逸材だとすればどうするのかしら? ここであなたが潰したことで、学校はせっかく生み出せたはずの利益を棒に振ることになるんじゃなくて?」


 副会長が発言した内容が末永さんに怒りの火をつけるものだったのか、少しだけ言葉に怒気が含まれているようにも感じる。

 

 「そんな確率の低いことに予算なんて出せるわけないでしょ」

 「確率からしたらサッカーや野球に比べて高いはずよ。何故ならその二つの競技において、毎年全国優勝するチームもまた存在しないもの。けれど、その二つに比べて競技人口の少ない水球ならそれが出来るかもしれない。未開拓の市場だからこそ、投資する価値があるのじゃないのかしら」

 「く……仮にそうだとしても、部活の場所がないでしょっ! うちのプールは水泳部が使っているので精一杯、水球部に割り当てられる場所はないわ」

 「それは……そうかもしれないけれど」


 口撃の勢いが増していく二人。

 末永さんが副会長の論点に指摘をすれば、副会長も末永さんの言い分の弱点を突く。


 「百歩譲って、部員が七人になるのは二年待つとしても、活動場所がないのでは全国なんて夢のまた夢。まずは活動場所を見つけてからでないと話に――」


 それでも、押しているのは副会長。

 水球部に活動場所がないのはれっきとした事実。その点に勝算がない以上、末永さんも言い返すことができない。


 「じゃあ、部活を可能な場所が見つかればいいんですね」


 だからこそ、僕がすかさずフォローを入れる。

 今度こそ、末永さんの役に立つために。


 「そうね。水球が出来る場所が確保できれば、部員はもう一年待ってあげなくもないけど…………ってアンタはっ!」


 そして僕を見つけた途端に顔をしかめる副会長。


 「一体どこに隠れていたのっ!?」

 「い、いや、ずっとそこにいましたけど……」

 

 もしかして僕、存在感薄い?

 この前も最後まで見つからなかった気が……。


 「それよりも、水球部が使用可能なプールが見つかれば、廃部にはならないんですね?」


 僕は少し気落ちしながらも踏みとどまり、交渉を続けようとした――が、


 「また性懲りもなく……わたしの前に現れて……」

 「ふ、副会長?」


 よっぽど嫌われているのか、副会長はまたしても肩を震わせ、


 「アンタなんか、大っ嫌いって言ってるでしょ!」


 後ろに振り向き、またしても逃げ出す。


 「待ってください!」


 だが僕はなんとか話を聞いてもらおうと、慌てて副会長の腕を掴んだ。


 「離して!」


 腕を掴まれた副会長は、僕を振り払おうとジタバタと動く。


 「嫌です! 話を聞いてくれるまでは、離しません!」

 「こ、この……しつこいわよ……!」

 「しつこくても、ここは譲れません!」

 「いい加減に……してよねっ! この変態変態変態、変態―!」

 「ちょっ、止めてください!」


 痺れを切らした副会長は、大声で僕のことを変態と叫んだ。

 それも、四回も。


 「分かったから! 水球部は活動場所が見つかれば廃部は撤回するから離して! こんのっ変態パンツ男!」


 副会長が騒ぐことで、周りに人集りが出来始めていた。

 僕は変態、パンツ男と罵られ、加えて周囲から疑いの目線を向けられる。

 特に、女子生徒から。


 「あっ!」


 その視線の威力に負け、副会長の腕を持っていた力が弱まってしまい、僕はとうとう副会長を離してしまった。

 それを見るや、副会長は大急ぎで僕から離れる。


 ――が。



 「きゃっ!」

 ドテッ。



 副会長は勢い余って、お腹から廊下に転倒した。

 そして…………。


 副会長のスカートがはだけ、僕の眼前に再び現れた黒いパンツ。

 今日は白い水玉模様だった。



 「ご、ごめんなさい……」

 「あ……あ……」


 顔を真っ赤にしながら、副会長は直ぐさま立ち上がると、


 「人のパンツばっかり見るんじゃないわよ、この大馬鹿ものーーーーーーー!」


 そのまま勢い良く退散していった。


 パンツ男……?

 今の、副会長じゃね? あの男、公衆の面前でパンツ見せたの……?

 

 ああ……これはもう……。

 そして次の日、僕は当然ながら、新しいあだ名を授かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

応援した人

応援すると応援コメントも書けます

ビューワー設定

文字サイズ

背景色

フォント

一部のAndroid端末では
フォント設定が反映されません。

応援の気持ちを届けよう

カクヨムに登録すると作者に思いを届けられます。ぜひ応援してください。

新規ユーザー登録無料