• 学園イノベーション

  • 第二部 コンサル部大ピンチ? 敵は生徒会にあり
  • 第一章 コンサル部を粛清します
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第42話 新入部員候補は同じクラスの女の子?

 「お待たせ! さ、行くよ栗島くん」


 ミーティングの翌日。

 日直の如月さんが日誌を提出し終えると、教室で待つ僕の元へと戻ってきた。だが行くと言っても、第三視聴覚室へ行くわけではない。

 なぜなら昨日のじゃんけんの勝者である如月さんが、部室へ寄らずにそのまま目的地へ行こうと提案してきたからだ。


 これから進めるのは新入部員獲得プロジェクト。

 部活への入部が必須な紺学園において、新たに帰宅部の人間を探すという選択肢は元からない。そのため有望な一年生をヘッドハンティングする、または、そのための事前調査が今日の活動内容だ。


 「ところで、誰かコンサル部に入ってくれそうな人を知っているの?」

 「ふっふっふ、実は一人心当たりがいるんだよね」


 僕の問いかけに、如月さんは胸をドンと叩いて返事をする。

 自信満々の様子だ。


 「お、そうなんだ。誰?」

 「有川ありかわさん。うちのクラスの女の子だよ」


 うちのクラスの……有川さん?

 有川さん……有川さん……?


 「そんな人いたっけ?」

 「いるよ! もう……栗島くん、人の顔と名前を覚えるの苦手なんだね」

 「め、面目ない……」


 僕が知らないだけで、有川さんという人は実在するらしい。

 これまであまりクラスの人間とは関わってこなかったからな。特に女子は如月さん以外とほとんど話したことがない。


 「でも教室には女子は誰もいないけど、有川さんはどこにいるの?」


 僕は教室を見渡したが、放課後の、人もまばらな教室にいる女子は如月さんだけだった。


 「図書室じゃないかな。中間テストの勉強してたときに毎日見かけたから」

 「なるほど。それじゃ、今から図書室かな」


 僕達は自分の鞄を持つと、教室を出て図書館へ向かった。

 途中でどうでもいい雑談をしながら、二人同じ歩調で廊下を進む。


 「そういえば、こうして二人で行動するのは久々だね」

 「そっ、そうだね!」


 なんとなく話かけたのに、如月さんはどことなくぎこちない。


 「どうしたの? 調子でも悪い?」

 「う、ううん。なんでもないよ! ちょっと緊張して……」

 「珍しいね。まぁ、部活に所属済みの人をヘッドハンティングするわけだから、緊張するのも無理ないか」

 「はは……そうだね……栗島くんは相変わらずだね」

 「うん、如月さんがいてくれるしね。心強いよ」

 「そ、そうだね…………相変わらずだね」


 そんなに僕の態度が気になるのだろうか。

 顔を赤らめながら二回同じことを呟く。


 「あ、あたしのことはいいから! 今日はターゲットは有川さん。ほら、さっさといこっ!」


 如月さんに急かされながら僕達は図書室に到着すると、それまで続けていた会話を止めて静かに中へと入った。


 「……有川さんは、と……」


 小声で呟きながら、如月さんが目的の人物を探す。


 「あ、いたいた。栗島くん、あの子だよ」


 そこにいたのは、三つ編みで赤いメガネをかけた女の子。

 一人黙々と読書に勤しんでいる。


 「図書室が似合う感じの子だね」

 「言ってることは分かるかも。教室でもいつも本を読んでるよ」

 「そうなんだ、ってことは文芸部に所属しているのかな?」

 「いや、文芸部には部室があるはず。だからこの時間に一人で図書室にいるってことは、文芸部とは違う、それも小規模な部活に属しているんじゃないかな」


 見るからに文学少女といった雰囲気だが、一体どこの部活に所属しているんだろう。

 まぁ、これから聞けばいいか。


 「おーい……有川さーん」


 如月さんが小さな声でその名を呼ぶと、こちらに気づいた有川さんが振り向いた。


 「……如月さん?」

 「ちょっとお話があるんだけど、いいかな? ここじゃあんまり喋れないし、別の場所へ行こっか」


 如月さん。その雰囲気、どことなく刑事ドラマだね。



 僕達は図書室から場所を移し、ベンチがある中庭へとやってきた。

 七月上旬の今日は天気も良くて少しだけ暑い一日だが、猛暑というほどではなく、加えてベンチの隣では樹木が日陰を作っているため幾分か過ごしやすい。


 「それで……話ってどうかしたの?」

 「あ、えっとね」


 ベンチは三人が座ればギリギリのサイズ。

 そのため男子の僕が立ち、ベンチには如月さんと有川さんが座った。


 「あたし、有川さんと話がしたいと思ってたんだ! 普段どんな本読んでるのか、興味があって」


 相手と交渉する場合、いきなり本題に入ることが必ずしも良いわけではない。なぜなら相手によっては緊張し、身構えていることもあるからだ。

 そういうケースでは、日常会話から探りを入れて相手の心をときほぐし、こちらへ歩み寄りやすいように誘導する。


 これをアイスブレイクと言う。


 如月さんは有川さんがいつも一人でいることが多いことを事前にリサーチ済み。

 恐らくいきなり話しかけても心を開いてくれないだろうと想定し、まずは世間話から入ると、図書室へ着くまでの間で事前に打ち合わせをしていた。


 「あたしも本は結構読むんだ! だから、読書仲間が欲しいなって……」


 ちなみに如月さんが文庫本を広げているところを、僕はまだ見たことがない。

 逆に有川さんは今も手にA4サイズ、やや薄めの本を持っている。カバーをしているため中身までは分からないが。


 「そうなんだ……どんな本?」

 「えっとね、しょ、小説も、漫画も! 色々読むよ。ジャンルで言うとスポーツ系が好きかな。有川さんは?」


 如月さんがスポーツ系を好きだというのは本当だ。

 なぜなら文庫本は読まなくても、時々部室で漫画を読んでいるからだ。それも、男の子が読むようなスポーツ漫画を。


 ……なぜかこれで成績が良いんだよなぁ、羨ましい。


 「わ、私は……れ、恋愛ものとか……あと、漫画も」

 「うんうん。やっぱ漫画も良いよね! 漫画はどんなの読むの?」

 「えっとね……」


 如月さんは自分の持っている知識(といっても漫画がほとんど)をフル稼働して有川さんに話を合わせていくと、有川さんの辿々たどたどしさも徐々に薄らいでいく。

 さすがは如月さん。相手の懐へ飛び込んで行くのが本当に上手い。


 そうして二人の姿を眺めていると、今日、いや入学して初めて、有川さんと僕の目が合った。


 「あの……栗島君、だよね? 同じクラスの」

 「うん、話すのは初めてだね。有川さん」

 「う……うん。あの……二人ってやっぱり……その……付き合ってるの?」


 僕と如月さんが付き合っているという噂は、まだクラスでは消えていないようだ。普段会話をしない有川さんですら知っているのがその証拠だろう。


 「いや、僕達は別に付き合っているわけじゃないよ、ただの友達。ね、如月さん?」


 大木と時々昼休みにサッカーをするようになって以降、男子のクラスメイトに茶化されることはあったが、女子に聞かれるのはこれが初めて。事実付き合っているわけではないのだから如月さんへ迷惑をかけてはいけないと、僕はいつもの通り否定した。


 「そ、そうだね……」

 「如月さん?」

 「……なんでもない」


 気のせいか、如月さんが少しだけむくれているように見える。

 事実は事実でも、僕に言われるのは癪なのかも……気をつけよう。


 「じゃあ……その……栗島君は、その……もしかして……大木……君と……」

 「え、大木がどうかしたの?」

 「ううん。なんでもないの! 気にしないで」

 「う、うん。分かった」


 確かに、大木は如月さんと同じかそれ以上にクラスで会話をするし、高校に入って出来た唯一の男友達と言っていい。

 けど、なぜそこで大木の名が?

 まぁ考えても仕方ない。そろそろ氷も溶けた頃合いだし、アイスブレイクも終わりでいいだろう。


 「そうそう。ところでね、有川さん」


 僕は大木の名前が出たことは一旦忘れ、本題に入る。


 「う、うん……?」

 「有川さんって、部活はどこに入っているの?」



 「え、えっと…………」



 すると本題に入った途端、それまでのほぐした空気は一変。

 有川さんが顔を赤くして俯く。


 「え! ご、ごめん。僕、何か気に障ること言ったかな?」

 「ええと! その……有川さん、栗島くんが変なこと言ったならあたしも謝るから!」

 「……」


 僕の問いかけに何も答えず硬直したままで、如月さんのフォローにも反応を示さない。

 困った……振り出しか。

 兎に角、僕でも如月さんでも何か喋らないと。


 「……愛好部」

 「愛好部?」


 こくり。

 如月さんの問いかけに、有川さんが無言で頷いた。


 「…………L…………きゃっ」


 有川さんがモジモジしながら言葉を発していたそのとき、突然強風が吹いた。


 その拍子で地面に落ちてしまう有川さんの本。

 パラパラと、垣間見える中身。




 見えてきたのは、仲が良さそうに抱き合っている裸の男――と男。




 「み、見ないでっ!」


 直ぐさま本を隠そうとする有川さんの顔は、リンゴのように赤い。


 「あ、あの……有川さん、もしかして、有川さんの部活って……」


 僕は恐る恐る、有川さんがどこの部活に所属しているかをもう一度尋ねた。


 「BL……愛好部」

 「そっか……」


 この本の中身は、そういうことだったんだね……。


 「げ、幻滅した……?」

 「そんなことないよ! 趣味なんて人それぞれだし! ね、如月さん!?」

 「そ、そうそう! あたしも良いと思うよ、BL!」

 「ほんと!?」

 「えっ? う、うん」


 それまで俯いていた有川さんが勢いよく顔を上げ、前のめりで如月さんを覗きこめば、如月さんはその勢いにやられて少し後ずさる。

 

 如月さんの顔が『しまった』と言っているが、ここは話を繋ぐためだ。

 僕は何も見ていないことにした。


 「良かった……話が合う人、私も欲しかったの。まさか如月さんも腐女子だったなんて、思いもしなかった」

 「え、ふ、腐女っ」

 「うん、腐女子。ところで如月さんはどんなカプが好き? 私はね――」


 さっきまで静かだったのが一転、早口でまくし立てる有川さんに、それをただ黙って聞くしかない如月さん。

 耳を傾けていると、いかにボーイズラブが良いものかというものを、有川さんは全力で宣伝している。

 これじゃ、どっちが勧誘へ来たのやら。


 「あ、あの! BL愛好部は、有川さん以外には何人部員がいるの?」

 「えっと……今のところ、私一人……」

 

 防戦一方の如月さんが、なんとか立て直そうと話を本筋に戻した。

 そこから二人の会話を黙って聞いていたところ、こういうことらしい。


 BL愛好部は現在部員が有川さん一人。そのため副会長が定義する部員数に達しておらず、廃部対象となっていること。

 おまけに活動内容が漫研部とほぼ同じで、ジャンルだけがBL――男同士の恋愛に特化しているため、これもNGであること。

 ではなぜ漫研部に入らなかったのか? 残念ながらその質問にだけは答えてくれなかった。恐らく、自分の描きたい、読みたい漫画が周りに受け入れられないと思ったのかもしれないが……。


 そういう事情もあり、有川さんは今後部活動をどうするべきか悩んでいたらしい。勿論、可能なら部活を存続させたいという気持ちで。


 しかしこれでは、僕達も勧誘どころじゃないな……。


 当然のことだが、皆自分で選んで部活へ入っているのだから、すんなり勧誘できるはずもないのだ。


 「ごめんなさい……如月さんも、部員を探してるんだよね?」

 「ううん、有川さんとお話出来て嬉しいよ! それにうちは後一人だけだし、なんとでもなるから。あ、もし良かったら、有川さんと趣味が合いそうな人にも声をかけてみるね」

 「ほんと? 良いの?」

 「当然! コンサル部は課題を解決するのがお仕事だから、気にしないで」

 「うん。ありがとう、如月さん」


 結局押し負けた如月さん。

 勧誘に失敗するだけでなく、有川さんのフォローも約束する形となってしまった。

 でもこれはこれで、如月さんらしいな。それに僕達はコンサル部だしね。


 「うん、良かったら僕も聞いてみるよ」

 「え……栗島君が……?」

 「く、栗島くん、それは止めておいたほうが良いよ」

 「うん……申し出は有り難いけど、男子はこの会話に入らないほうが良いと思う……」


 僕もコンサル部として、それにクラスメイトとして役に立とうと声をかけただけなのに、全力で拒否されてしまった。

 ボーイズラブというものは男子禁制らしい。奥が深い。


 「それじゃあ、私戻るね」


 そうして有川さんは図書室へ戻ろうとベンチを立ち上がった。

 

 「あ、そうだ……コンサル部なら、もしかすると解決出来るのかな」


 しかしすぐに、何かを思い出したかのように振り向く。


 「ん? 何か困っている人がいるの? あたしたちで良ければ話を聞くけど」

 「えっと、副会長さんね……水球部にも目をつけているらしいの。今年出来た部活なんだけど、まだ二人しかいないから……廃部対象にするって」

 「え! でも、粛清は僕達文化部だけなんじゃ」

 「うん……ひょっとしたら、何か副会長に考えがあるのかもしれないの。だからその辺も含めて、コンサル部が調べてくれると、私達文化部も嬉しいな」

 「なるほど……情報ありがとう有川さん。僕達も副会長の動向を調べてみようと思ってたところだったから、丁度良かったよ」

 「そっか、役に立って良かった――それじゃ、また明日ね」


 如月さん効果なのか。廃部に追い詰められているというのに、有川さんの後ろ姿は小躍りしているように見えた。


 「――勧誘には失敗したけど、有益な情報は聞けたね?」

 「うん。まさか副会長が運動部にも手を伸ばしてたなんて……とりあえず、末永さんに報告しよっか」

 「あ、言っとくけどあたしは腐女子じゃないからね。ちゃんとノーマル! 牡丹さんに言ったらダメだよ!」

 「わ、分かってるよ……」


 如月さんに口止めをされながら、僕達は第三視聴覚室へと戻ることにした。



 そういえば……。

 僕は不吉なことを思い出した。


 僕と大木って……。


 うん。

 聞かなかったことにしよう。

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