• 学園イノベーション

  • 第二部 コンサル部大ピンチ? 敵は生徒会にあり
  • 第一章 コンサル部を粛清します
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第40話 文化部交流会 ところにより副会長

 「えー、それでは、本年度の第四回目となる、文化部の定期交流会を始めます」


 現在、紺学園には五十を超える文化部が存在する。

 美術部、吹奏楽部、文芸部などの定番な部活。落語部、天文部、華道部など少人数ながらも一定のシェアのある部活。それから地下鉄研究部、コーヒー愛好部、色鉛筆研究部など、何か一点に特化した部活まであるようだ。


 勿論そのなかには、僕達コンサル部も。


 そんなありとあらゆる文化部の代表が東棟の二階、とある教室で集り、今まさに交流会がスタートしようとしていた。僕と末永さんは窓際の一番奥の席で陣取って、教壇の前で指揮を執る人(漫研部の部長さんらしい)の話に耳を傾ける。


 「まず、今回の議題ですが……今朝の体育館での話でいいですね?」


 教壇からの一言に、この場にいる大多数の人間から聞こえてくる異議なしの声。

 それを眺めて、漫研部の部長は頷きながら深呼吸をすると、


 「我々文化部は、今回の一件を断じて許しません。あの憎き副会長――山田氏の謎の暴挙に、我々は一枚岩となって戦おうじゃありませんか!」


 今回の一件に断固として対抗する意思を、大きな声で表明した。

 その声に、教室中から一斉にそうだそうだー! と賛同の意が返される。


 「あれ……あの人って生徒会長じゃないんですね」

 「ええ。あの人は副会長ね。確か生徒会長は男の人だったもの」


 教室内がザワつくなか、僕は末永さんに耳打ちして確認した。僕はてっきりあの人が生徒会長と思っていたが、違うみたいだ。


 「なんで生徒会長じゃなくて副会長が……」

 「さぁねぇ。こっちが聞きたいわ」

 「確か生徒会長は、怪我だかで入院しているのですよ。それで今日は、代わりに山田どのが壇上に立たれたみたいですよ」


 そんな理由を末永さんが分かる訳もなく二人で頭を捻っていると、前に座っている入江さんが振り向いて答えを教えてくれた。


 「入江さん、あの人のこと知っているんですか?」

 「はい。あの人はワタクシと同じクラスなので時々話すことがあるのですよ。元々きつい性格とは思っておりましたが、いやはや、まさかこんな行動を起こすとは……」


 つい一ヶ月ほど前に僕達コンサル部のクライアントだったチェス部も、当然この交流会に参加している。あの副会長と同じクラスという入江さんにも、今回の行動には謎が多いようだ。


 「ところで……壇上ではコンサル部の名前が挙がっておりましたが、何かあったのですか?」

 「そ、それは……」


 入江さんの問いかけに僕が答えを渋っていると、


 「コンサル部の方は今回の一件について身に覚えはあるのですか?」


 全く同じ質問を教壇から投げつけられた。

 教室中の視線が、僕と末永さんに向けられる。


 「え、えっと……」


 入江さんにそうしたように、僕は真実を告げるのを躊躇ってしまう。

 自分が悪いのだからとこの場に来たはいいが、いざ五十人を前にして今朝の話をしなければと思うと、緊張で胃が痛くなる。

 どう答えたものか。

 僕は頭のなかで必死で言葉を並べるが、中々紡ぎだすことが出来ない。


 「私達も今回の件は初耳だわ」


 しばらく僕が黙って考えていると、その姿を見かねた末永さんがここでも助け舟を出し、代わりに返答を述べる。

 ……また、やってしまった。

 脳内で並べられていた言葉は掻き消え、僕のなかで一層罪悪感が膨らむ。


 「確かコンサル部の活動内容は学内の課題解決でしたね? 山田氏の言う通り、その活動が生徒会に咎められることなのではないですか?」

 「そうは言っても、私達は皆さんの悩みを解消してあげているだけよ? 何か文句を言われる所以はないわ」


 「――ただし、それを無償でやっているならね」


 僕の罪悪感をよそに末永さんが漫研部の部長と話していると、そんな二人のやりとりを聞いていたのか、末永さんの言葉に続くように教室へと入ってきた女子生徒から声が上がった。


 「あ、あなたは!!」

 「ハロー。文化部諸君」


 生徒会副会長、山田さんの登場だった。

 漫研部の部長が今日一番の大声を上げたのに対し、サラリとした声で挨拶を返す。その悠々とした佇まいに、教室の全方向から向けられる敵意。


 「朝会でも言ったでしょ。ワタシ達生徒会と同じ活動をしておきながら、報酬をもらうなんて言語道断よ」

 「あら、でもそれは生徒会の勝手な言い分じゃなくて? 別に私たちはボランティアでやっているわけじゃないんだもの。それに対価を払うかどうかはクライアント次第じゃないかしら?」

 「そういう姿勢が問題って言ってるのよ、末永牡丹。学業が本分である学生から対価を受け取るなんて許されるわけないでしょっ!」

 「言っておくけれど金銭はもらってないわよ?」

 「金銭でなければ良いわけがないでしょ! どこに活動したら報酬をもらう部活があるのよ。サッカー部だって全国制覇しても報酬なんて貰ってないわよっ!」


 お互い一歩も譲らない口撃を繰り広げる二人。

 先ほどまで声を荒げていた文化部の代表達も、二人の応酬を黙って見守る。

 しかし……


 (まさか、末永さんが言い負かすことができない人がいるなんて)


 周り以上に、僕はこの光景に驚いていた。

 末永さんといえば……言い方は悪いが、理路整然と相手を説き伏せることが得意な人で、これまでも彼女が説き伏せるという行為はコンサル部にとっても必勝の切り札に等しい。

 だというのに、副会長の山田さんは末永さんと五分ごぶの戦いを見せており、お互いを知っている入江さんも二人の顔を見比べながら狼狽している。


 「やれやれ、これじゃ埒が明かないわね」

 「それはこっちのセリフ。言っておくけどこれは生徒会の総意でもう決められたことなんだから。今回はその条件を伝えに来たのであって、アンタの相手をしにきたんじゃないのよ」


 拮抗したまま二人のやりとりが中断されると、副会長はそのまま教壇にやって来て仁王立ち。


 「副会長! 今回の件、一体どういうことか説明してもらおうか。なぜ我々文化部が潰されなければならないんだ!」

 「オーケー」


 副会長は漫研部の部長に睨まれているのも気にせず、そのまま教壇から僕達文化部一同を一瞥すると、


 「まず、文化部は今の半分に削らせてもらいます」


 そのまま強烈な一言をその場に解き放った。


 「対象となるのは明確な実績を上げていないこと。部員が三名以下であること。そして活動内容が合理的ではない、もしくは重複している部活よ。それでも半分に届かない場合、実績と人数を元にこちらで廃部にする部活を判断します」


 最初の一言で教室が一瞬で静まり返ると、スラスラと条件を続ける。


 「だから、全ての部活を潰すわけじゃないから、安心していいわよ」


 ――だが、最後の人を喰ったような言葉に、再び教室から怒号が飛び交いだした。

 席を立って教壇へ罵声を浴びせる人や机を勢い良く叩く人。直接副会長へ言い寄ろうとする人までいる始末。


 「ちょっと! 人がせっかく説明してあげてるのに、何騒いでるのよ!」

 「何ふざけたことを言っているんだ! 理由もなしに条件だけ伝えて、納得するわけがないだろうが!」


 僕達の言葉を代表するように漫研部の部長も反抗するが、副会長はどこ吹く風。


 「だから納得も何も、生徒会で決めたって言ったでしょ。別にアンタ達が受け入れるかどうかは必要な判断条件ではないわよ?」


 「この独裁者!」

 「ふざけるな! 何様だ!」


 四方八方から聞こえる罵声。

 どこまでも人をバカにしたかのようなセリフを述べたせいで、教室は益々ヒートアップ。


 「ああもう、うるさいわね。そんなに納得したいなら言ってあげる――アンタ達、文化部の予算が今どれだけかかっているか分かっているの?」


 その様子を見かねてか、副会長がようやく説明らしい説明を始めた。


 「一つの部活当たりに出せる部費は限られているわ。おまけに運動部は推薦や特待生で人材を集める強豪が殆ど。学校側で想定している部費の配分は、そもそも文化部のほうが少ないのよ?」

 「し、しかしっ!」

 「それに、運動部と文化部では目的が違うのよ。例外はあるかもしれないけど、運動部の学生は殆どが体育科。各部活とも対外試合で実績を残すこと、そしてプロを輩出することを目標としているの」


 副会長は漫研部の部長が言い返そうとするのも遮って続ける。


 「反面、アンタ達文化部は普通科で進学を最優先とした勉学が第一。勿論学校の理念として文武両道を掲げてはいるけど、比重は運動部とは明らかに違うわ。だと言うのに、数だけ多くて今は文化部への必要な予算のほうが多い。これでは学校の経営にも負担が大きいのよ――例えば、地下鉄研究部」

 「は、はいっ」


 突然話を振られた地下鉄研究部の代表が、姿勢を正して返事をするが辿々しく、


 「そもそも地下鉄の研究に明確な実績なんてないでしょう? おまけに部員は二人だけ。アンタ達の部活の存在意義は何なの?」

 「わ、我々、ち、地下鉄研究部は、地域に根ざした地下鉄をこよなく愛して――」


 勢いのそのままに矛先を向けられ、上手く言い返すことが出来ない。


 「それ、別に鉄道愛好部でも良いんじゃないの? なんでわざわざ地下鉄に特化する必要があるのよ」

 「そ、それは!」

 「別に研究をするなとは言わないわよ。ただ鉄道愛好部と分けている理由が不明確なのよ。だから合同にする。別に不自然じゃないでしょ?」

 「ぐぐ……」


 その結果、副会長に良いように言い包められてしまい、地下鉄研究部の部長も最終的に口を閉ざすしか出来なくなっていた。


 無理もない。末永さんと言い合える人なんだから、他の人を言い負かすことなんて造作もないことだ。

 それに、客観的に聞いていると副会長の言うことも一理ある。実際、鉄道愛好部があるなら、そちらと合併されることによるデメリットはそこまでないはずだろう。


 「こういう例は他にも挙げられるわ。まずはそういった部活から排除していきます。以上、質問は?」


 圧倒的にまくし立てると、最後に静まり返ったのを見て頷く副会長。


 「なければ、ワタシからは以上よ。夏休み前には履行するから、よろしくね」


 そして満足そうに混乱だけを残して去ろうとしていた。

 ――だが、


 「ちょ、ちょっと待って下さい!」


 それを、僕がすんでのところで押し留める。


 「何、まだ何かある……ってアンタは!」


 このままコンサル部どころか文化部全体のピンチを黙って見過ごすわけにはいかない。僕が起こしたミスのせいで、皆を巻き込むなんてことは嫌だ!


 そう考えた僕は、足を止めてこちらを睨む副会長へ無謀にも説得を試みる。


 「その、副会長! 今朝僕が巻き込んだことについては謝ります! ですからどうか、今回の件は考えなおしてくれませんか!」


 しかし、末永さんのように上手く相手を説得するなんて技を持ち合わせていない僕には、ひたすら頭を下げ、自分の非を謝るしか出来ることがない。


 「僕だけならいくらでも罰を受けますから! ですから、コンサル部は……それと、他の文化部の皆さんにはどうか、寛大な処置を!」


 それでも、僕は自分に出来ることを必死で、繰り返し行う。


 「副会長、お願いします!」


 最後にもうひと押しと、僕は頭を下げる。

 海よりも深く反省し、机に頭をこびりつけながら。

 そしてそんな僕の姿を見て、これまでの平静な顔が一転、顔を紅潮させる副会長。


 「……さ、最低! 何ワタシの嫌な記憶を掘り起こしてくれてるのよ! 」


 あからさまに様子が変わった副会長を見て、周りも僕達の間に何かあったのだと察したらしい。沈黙が破られ、教室からは再び話し声が聞こえるように。


 「で、ですが! 今朝僕がしてしまったことは!」

 「う、ううううるさい! いいから黙ってて!」

 「何度でも謝ります! 副会長、大変申し訳ありませんでした!」


 僕が何度も頭を下げても、感銘など何一つ受けずに、またしても目に涙を溜めながら、


 「ア、ア、ア……アンタなんて大っ嫌い! この、このパンツ男ぉーーー!」


 今朝と同様に一目散に逃げる副会長であった。

 隣からは聞こえるのは。末永さんの深い溜息。


 「パンツ……?」

 「パンツ男……?」


 そして教室では、副会長が最後に叫んだパンツの三文字がしばらく飛び交っていた。

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