• 学園イノベーション

  • 第一部 栗島新(くりしま あらた)の革新
  • 第四章 友人へのスルーパス
  • 第32話 友人へのスルーパス(1)

第32話 友人へのスルーパス(1)

 月曜の放課後。

 僕は今、サッカー部のグラウンドに立っていた。

 ここに来るのは入部テスト以来、二度目のことだ。


 「栗島くん!」


 ジャージ姿の僕に、如月さんが声をかけてくる。


 「き、如月さん! 来てくれたんだ?」

 「当然! 超楽しみにしてたんだから!」

 「そ、そそ、そっか」


 保健室で顔を接近させて以来如月さんとまともに口をきいていなかった僕は、彼女の突然の訪問に上手く会話をすることができない。


 「今日は頑張ってね、応援してるから!」

 「あ、ありがとう」

 「うん! え、えへへ」


 加えて最近目にしていなかった如月さんの満面の笑みに、僕の胸が早鐘はやがねを打つ。


 「ちょっと栗島君、私もいるんだけど?」

 「す、すみません末永さん。末永さんも、応援に?」

 「ええ。栗島君の格好いい姿、目に焼き付けさせてもらうわ」

 「はは……善処します」

 「頑張ってね」


 まともに口を聞いていなかったのは末永さんも同じ。

 というか、あんなことがあったのに二人はどうして平然としていられるんだろう。

 女子って不思議だ。


 「ふぅ……落ち着かなきゃ」


 屋上での、富松さんとの会話から一週間が経過していた。

 僕はあの日、富松さんに納得してもらうチャンスをもう一度得ることができた。

 ただし末永さんや大木の言う通り、富松さんへはコンサル部の正攻法――プレゼンや対話での説得は難しい。


 ならば、後はお互いぶつかり合うだけ。


 もっとも拳でぶつかり合うわけにはいかない。

 サッカーの決着はサッカーでつける。


 幸いその説得は富松さんには抜群の効果があったようで、「面白いじゃねえか」とこの話に乗ってくれることとなった。


 僕の提案をのんでくれる条件は二つ。

 一つは、これから行われるミニゲームに勝つこと。

 そしてもう一つは、大木がこのゲームで二点以上取ること。

 特に二つ目は大木をフォワードにするための絶対条件と富松さんに言われていた。


 「よう、しっかり練習してきたか」


 いくら僕が経験者とはいえ相手は現役のサッカー選手。

 しかも自分が入部テストを落ちたような強豪校のメンバーに混じって試合をするのだから、いきなりでは足手まといになるだけだ。

 そのことも考慮され、この一週間は僕への準備期間として設けられた時間だった。


 「富松さん――はい、出来る限りのことはしてきました。今日はよろしくお願いします」

 「おう。まぁ今日は堅苦しいことはなしだ。せいぜい楽しませてもらうぜ、何せお前も大木も、あの安藤のお気に入りみたいだからな」

 「はい、期待に応えられるように、頑張ります」


 あれから僕は勘を取り戻すため、とにかくボールへ触れる時間を作った。

 放課後は真っ直ぐ家へ帰り、近所の公園でボールを蹴る日々。

 土日は通っていた中学校の練習に参加。

 付け焼き刃ではあるが、出来る限りの準備をしてきた。


 それと前回の反省を踏まえて、昼休みには大木との作戦会議も念入りに実施。


 ……そのせいでここしばらくは如月さんとお昼を食べることがなかったことも、彼女と上手く話せない理由の一つだろう。


 僕が如月さんのいるほうへ振り返ると、彼女も笑顔で手を振ってくれる。

 応援用のメガホンも持っていて気合十分といった様子だ。


 この一週間、僕は部活に全く顔を出さなかったし、如月さんに至ってはこれまで作ってもらっていたお昼のお弁当も急に断ったのに、如月さんも末永さんも、嫌な顔一つせず応援に駆けつけてくれていた。


 二人の期待を裏切らないように、僕も今日は精一杯戦おう。

 その決意を後押しするかのように、末永さんが僕を見て頷き、僕も頷き返す。


 「栗島、準備はいい?」


 後ろから大木が声をかけてくる。

 僕の今日の相棒だ。


 「大丈夫。今日はよろしく頼むよ」

 「うん、よろしく――そういえば、一緒のチームになるのは初めてだね。楽しみにしてるよ」

 「こっちこそ」


 大木は僕に水色のビブスを手渡してきた。

 彼が身につけているものと同じ色のビブスだ。

 ビブスを羽織りながら今日限りのチームメイトと挨拶を交わし、円陣を組む。


 「安藤さん……富松さん……」


 僕が対戦相手をじっと見つめ、集中力が高まるのを感じると同時に、試合開始のホイッスルがグラウンドに鳴り響いた。


 「っし、いくぜ!」

 

  ホイッスルが鳴ると同時に、富松さんがこちらの陣内へ攻め込んできた。

 相手チームは安藤さんと富松さんをレギュラーの攻撃陣。

 守備は一、二年を中心。


 対するこちらはレギュラーメンバーを中心とした守備陣。

 攻撃は大木を始めとした一年が主体となり、そこに僕が加わった布陣だ。


 僕の提案が正しいか判断するため、安藤さんと大木はそれぞれフォワードのポジションを務め、鍵として上げたボランチは僕が担当。


 つまり、富松さんが今回の提案を受け入れるかどうかは僕と大木のパフォーマンスにかかっているということだ。


 「ほらほら、どーしたお前ら!」


 富松さんがこちらを挑発しながらドリブルで駆け上がる。

 さすがは紺学園の攻撃陣を束ねる人だ。

 レギュラーの守備陣とはいえ、止めるのには手を焼いている。

 特に富松さんと安藤さんの突破力は抜群で、僕の意見も間違いなのではないかと思えてくるほど強力だ。

 

 でも、僕もそうやすやすと負けるわけにはいかない。


 「行かせません!」

 「おう、そうこなくっちゃな。俺をがっかりさせるなよっ!」


 高速フェイントを駆使して、僕を抜きにかかる富松さん。

 でも、このフェイントはビデオで何度もチェックした。

 癖は既に見抜いている。

 僕は富松さんが抜いてくる方向を事前に予測して彼の前に立ち塞がった。


 「やるじゃねえか。しっかり準備してきたってことだな」


 富松さんは僕を見てニヤリと笑みを浮かべる。

 提案会と違って、心の底から楽しそうな顔をしている。


 「安藤!」


 抜けないと判断したのか。

 富松さんは安藤さんにボールを預け、ゴールに向かってダッシュ。


 安藤さんはボールを受け取るとディフェンダーを一人抜き去りシュートを放った。

 勢い良く放たれたボールはゴール右隅に狙いすまされている。


 ガンッ!


 惜しくもポストに当たったボールは金属音と共にゴール前方へこぼれるが、その位置を予知していたかのように富松さんが走りこみ、滑り込みながらボールを蹴りこむ。


 「させないっ!」


 富松さんの行方を追っていた僕はなんとか追いつき、ゴールを決められる寸前のところでボールをフィールドの外へ弾き出した。


 「さすがですね……」

 「ふん、次は決めてやるぜ」


 ゆっくりと自陣へ戻っていく富松さん。


 伊達にレギュラーを張っているわけではない。

 今の二つのプレーも研究済みだったから止めることが出来たが、後少し反応が遅れたらどちらもやられていた。


 「よしお前ら、ガンガンいくぞ!」


 富松さんの鼓舞に乗るように、序盤は相手チーム優勢で試合が進んでいく。

 幾度となく攻撃を仕掛けられるが、僕達はなんとか喰らいつき、必死で阻止する。


 それでも点を与えることなく中盤へ差し掛かると、こちらのチームも最初より連携がとれるようになり、試合は拮抗し始めた。


 相手は安藤さん、富松さんの二人で突破していくのに対し、こちらは一点して大木にボールを集める作戦を取った。

 富松さんの指示か、一二年中心の守備陣では上手く連携が取れていないのか。

 なんにせよ大木に対してのマークは厳しくない。

 大木の背の高さを活かした山なりのボールを蹴りこんでいくことで相手陣内へ敵を押し込み、空中戦で試合の流れを呼びこむ。


 そして、ついに――


 「大木!」


 僕が一瞬の隙をついて富松さんからボールを奪うと、そのままドリブルで駆け上がり、大木が走りこむ先へパスを送った。

 これまで上空に向けてボールを蹴っていたところを一転、地面を這うようなパスで相手チームの守備を切り裂き、虚をつかれた相手は反応することができず、大木にボールが渡る。


 「いっけぇぇぇ!」


 ボールを受け取った大木は勢い良く声を上げ、ボールを蹴りこみ。


 ザシュ!


 僕らのチームに、先制点を呼び込んだ。


 「大木!」

 「栗島、ナイスパス!」


 僕達はお互い右手の拳を突き出し、周りに囲まれながらこの瞬間を分かち合う。

 サッカーから離れてしばらく経つ僕にとって、久々に味わうゴールの喜びだった。

 なんとも言えない、心地良い感覚が僕を襲う。


 そこからゲームは動くことなく前半は終了。


 「ふん、試合はまだこれからだ」


 僕達が意気揚々とベンチに戻っていくのを、富松さんが悔しがることもなく、むしろ楽しんでいるような表情でこちらを見つめていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援した人

応援すると応援コメントも書けます

ビューワー設定

文字サイズ

背景色

フォント

一部のAndroid端末では
フォント設定が反映されません。

応援の気持ちを届けよう

カクヨムに登録すると作者に思いを届けられます。ぜひ応援してください。

アカウントをお持ちの方はログイン

フォロー機能を活用しよう

カクヨムに登録して、気になる小説の更新を逃さずチェック!

アカウントをお持ちの方はログイン

フォロー機能を活用しよう

カクヨムに登録して、お気に入り作者の活動を追いかけよう!