• 学園イノベーション

  • 第一部 栗島新(くりしま あらた)の革新
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第31話 屋上会談 その2

 次の日の昼休み、僕は大木を呼び出した。

 場所はこの前、僕が呼びだされた屋上。


 「栗島、体調はいいの?」

 「もう大丈夫。大木にも迷惑かけたね」

 「全然、無事なら良いんだ」


 今日も変わらず、大木は良い奴だった。

 こんな奴が友達でいてくれたならどれだけ高校生活が楽しいだろう。

 クラスでぼっちの僕にとっては、夢物語でしかないけど。


 「ところで今日はどうしたの? って、この前呼び出したのはぼくだけどさ」


 前回は自分が呼び出したのを思い出し、大木が笑いながら僕に要件を聞いてくる。


 「――昨日はごめん」


 そんな柔らかいムードを一蹴して、僕は大木に頭を下げる。

 今回彼を呼び出したのは、謝罪のため。

 なぜなら僕が今回一番迷惑をかけたのは間違いなく大木だから。

 何はともあれ、僕は彼に謝らなければいけない。


 「え、そんな。頭上げてよ。別に栗島に謝られることなんてないよ」

 「そんなことない。サッカー部の件にしたって、クラスの件にしたって、僕は大木に迷惑しかかけていない」


 もう一度、僕は頭を下げる。

 昨日は僕が倒れたこともあって、幸いにも二人が取っ組み合いになる事態には発展しなかったようだ。


 だがあのまま騒ぎが広がれば、ひょっとすると大木はベンチ入りどころの話ではなくなっていたかもしれない。


 そう考えるとゾッとする。

 自分の招いた過ちが、何の罪もない大木にまで被害を及ぶことになるなんてあってはならないことだ。


 「栗島がぼくに謝るとしたら、一つだけだよ」

 「一つだけ?」

 「そう。勝手にぼくをフォワードに推薦したこと」

 「あ、あれは! そもそも中学のとき、大木はフォワードだったじゃないか。連携を磨くのに時間がかかるディフェンダーよりフォワードのほうが適応に必要な時間は短いはずだし、背もデカければ足も速い。何より、大木はフォワードのときのほうが威圧感あったよ!」

 「ありがと。でも事前に相談くらいして欲しかったな。それならぼくもフォローが出来たのに。いきなりでビックリしたよ」


 それもそうだよな……。

 依頼主との会話も怠るなんて、上手く行くはずもない。


 「ごめん、同じこと部活でも言われた。大木にも相談しないで、悪かった」

 「うん。それに関しては受け取るよ。次はちゃんと相談してくれよな」

 「次?」

 「そう、次。あれで諦めるわけじゃないんだろ?」


 末永さんといい大木といい、周りの人間はまだ諦めていない。

 けれど富松さんにはコンサルとしての正攻法は難しそうだし。

 一体どうしたものか……。


 「栗島、諦めてる?」

 「だってあれだけ怒らせてしまったら……それに、富松さんの言うことも正しいし」

 「確かに富松さんの言うことも一理あるかもしれない。でも、ぼくは栗島に任せたんだ。その栗島が、ぼくがフォワードの方がいいって言うならそれを信じる。だからもう一度、それを富松さんにぶつけてみようよ。今度は協力してさ」


 暴走したのは僕なのに、それでも大木は僕を信じてくれていた。

 そのことに、なんだか胸が熱くなった。


 「大木……ごめんな」

 「気にしすぎ。栗島、長男?」

 「なっ、違うよ! 一人っ子。大木じゃあるまいし」

 「冗談。やり返したかっただけ」


 大木は笑いながら空を見上げる。

 その姿を正面に見据え、僕はもう一回頭を下げた。


 「ありがとう大木。このプロジェクトを任された僕が、逃げるわけにはいかないよな。だからどうすれば富松さんが納得してくれるか、一緒に考えてくれないか」


 独りよがりじゃなく、皆で協力して――

 そのことだけは忘れまいと、僕は心のなかで強く誓う。

 そして、それは何もコンサル部の二人に限った話じゃない。

 僕は大木に、クラスメイトの彼に頼る視線をぶつける。


 「もちろん!」


 やっぱり、大木は良い奴だ。


 「とは言うものの、なかなか思いつかないよなぁ……」


 だが力強く言い切った後、大木はすぐさま眉を下げる。

 こういうところはクラスでもよく見る彼の姿だった。


 「うーん。確かに……」


 僕も相槌を打ち、青空の下で二人して頭をひねる。


 「なんかさ、弱点とかないのかな。パフェに弱いとか」


 頭のなかでとある女の子を思い出し、僕は案を提案してみるが、


 「パフェ? 甘いものには目がないとかそんな女子みたいな発想、富松さんには絶対ないと思うよ……」


 返ってきた答えは予想通りだった。

 まぁどう見ても男っぽい人だしな。


 「じゃあ、逆に男っぽい感じで行くってのいうはどう?」


 今度は大木が僕に提案。


 「男っぽい?」

 「うん、男なら拳で語り合え! って感じの」

 「いや、殴るのはちょっと……」


 すると大木は何かを思い出したかのように顔を上げて続ける。


 「そういえばさ、昔マンガであったよね? サッカー部の先輩を納得させるのに、試合で決着つけさせてくれっていう、挑戦状を出す話」

 「あったかも」


 僕もその手のマンガは読んだことある――というか、割りと定番だ。

 ただしそれはあくまでマンガの話。

 現実で実践しようと思ったことは一度もない。


 「でしょ? 変に会話で説得するより、富松さんには効果的な気がするな」

 「まぁ富松さんならその方が納得しそうではあるけど……」


 僕が悩む間にも、大木は話すのを止めない。

 

 「ぼく、栗島にフォワードって言われたとき凄く嬉しかったんだ。いくらぼくがフォワード一筋って言ってもそんな人はゴロゴロいるし、高校でもフォワードで試合に出るなんて夢のまた夢だって諦めてた。でも栗島にああ言われて、もう一回頑張ってみようかなって……その、言い方悪いけど、ぼくは入部テストに受かった人間だし、周りの期待を背負う覚悟も必要なんだって、改めて思ったんだ」

 「大木……」

 

 大木は大木なりに、色々と悩んでいたんだな。

 富松さんを説き伏せることはできなかったけど、あの提案会も無駄じゃなかったんだって、今は思える。


 「あり――」

 「だから栗島、ぼくと一緒に富松さんを倒そう!」


 唐突な提案だった。


 「え、ちょっとまって。僕も? 僕はサッカー部員じゃないけど……」

 「別にちょっとくらい大丈夫だって! 部員も多いし、きっとばれないよ!」


 意外とノリノリな大木に説得される形になり、僕はどうしたものかと考えていた。

 なんだかんだ言って僕はサッカー部を落ちた人間。

 そんなことをして許されるんだろうか。


 「とは言ってもサッカー部じゃない僕と試合してくれなんて、富松さんが許すかどうか――」


 そうやって先週と同じく天を仰いでいると、後ろからいきなり声をかけられた。


 「俺がどうしたって?」

 「ひゃい!」


 僕は声のするほうへ恐る恐る振り返る。

 何か前もあった気がする、こういうの。


 「……と、富松さん?」


 前回声をかけてきた安藤さんではなく、富松さんがそこに立っていた。

 どうでもいいけど、サッカー部の先輩方は僕の背後を取るのが本当に上手い。


 「おう、お前は一昨日の奴か」

 「は、はい。その……先日は大変申し訳ありませんでした」

 「別に気にしちゃいねーよ」


 そう言って富松さんは屋上のフェンスにもたれる。


 「つーかお前ら、飯食ったのか?」

 「あ、僕はまだ……」


 僕の回答に続けて大木も首を縦に振る。


 「男二人で飯も食わずに何やってんだ? さっさと食えよ」

 「は、はい……」


 どうやら本当に気にしていないようだ。

 こういうのを、竹を割ったような性格と言うのだろう。


 「んで、何の話してたんだ?」


 富松さんの言葉を聞いた大木が、僕に目配せをしてきた。


 「栗島、言おうよ」

 「何だ、俺に用か?」


 コンサル部にも、そして大木にも迷惑をかけた。

 それでも周りが諦めていないなら、僕がここで降りる訳にはいかない。

 チャンスがあるなら――今度こそ。


 「富松さんに、お願いがあります」

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