• 学園イノベーション

  • 第一部 栗島新(くりしま あらた)の革新
  • 第四章 友人へのスルーパス
  • 第28話 最低だ

第28話 最低だ

 「おい安藤。一体何だこれは」

 「富松さん、さっき説明したじゃないですか。コンサル部ですよ」

 「それはさっき聞いた。だから、そのコンサル部が一体サッカー部に何の用だって言ってるんだ」


 テストが開けた翌週の月曜日。

 僕はサッカー部への提案会を行おうとしていた。


 場所は第三視聴覚室。

 サッカー部からは三人に集まってもらっている。


 淡々と富松さんへ説明する安藤さん。

 明らかに機嫌が悪そうな富松さん。

 相変わらず眉を下げている大木。


 三者三様の様子だ。


 「それは私からご説明差し上げます」


 如月さんに資料をスクリーンへ投影してもらい、僕は今回の提案会の趣旨を説明。


 大木からの依頼であると富松さんに正直に話すと角が立つことになるため、提案会の場では安藤さんから依頼があったことにすると、大木経由で事前に安藤さんとも握っていた。


 内容はもちろん、サッカー部のベンチ入りメンバーとスタメンの編成。


 「――安藤、また余計なことを」

 「良いじゃないですか。たまには外部の意見を聞くのも。それに、彼はサッカー経験者らしいですし、有益な情報かもしれません」

 「どーだか。おい、そこのお前。さっさと説明しろ」

 「分かりました」


 僕は準備していたプレゼン資料を元に説明を開始する。


 昨年の紺学園サッカー部の得点と失点数、そしてその大まかなパターン。

 試合中、どれだけボールを保持していたかを現す支配率。

 勝敗に紐付きそうな要素を一つのページに整理し、二ページ目に今年のチームの同じ要素をまとめた。


 その結果昨年に比べ、今年のチームの失点数が多いことが分かる。

 得点は昨年と変わらないため、守備が如何に昨年から劣っているかが一目瞭然だ。


 この情報は大木に各試合のデータをもらって全て僕がチェックしたもの。

 情報の整理、プレゼン資料の作成に練習。

 そして大木を経由しての提案会のアポイントメントなど。

 テスト勉強で寝不足な体に鞭を打ち、なんとかここまで漕ぎ着けることが出来た。


 「栗島くん……本当に大丈夫? 無理しないで、辛かったら代わるから」

 「大丈夫……ありがとう」


 僕が無茶をしていたことはコンサル部の二人も知っている。

 如月さんに至っては僕の顔色が日を追うごとにが悪くなっていると心配し、本番中の今ですら心配そうに声をかけてくる。


 実際心なしか身体も重いし、辛くないと言えば嘘になる。

 でも、全ては今日のために準備してきたこと。

 ここで頑張らなければ、何の意味もない。


 「で? これがどうしたっていうんだ」


 だが僕が満身創痍で作り上げた資料を見ても、富松さんは顔色一つ変えない。


 「ですから、昨年に比べて守備のバランスが……」

 「んなこた試合やってる俺らが十分かってるよ。去年は全国優勝したチーム、今年はまだ出来上がったばかり。そんなもん守備の連携が取れてなくても当然じゃねーか」

 「それは、そうですが……」

 「それに安藤の依頼ってことは一年を使うのに賛成なんだろ? 連携が取れてないのに、チームに慣れていない一年を守備で使って、何か良いことあるのかよ?」

 「まぁまぁ富松さん。最後まで話を聞きましょうよ」

 「安藤……てめぇ悠長に構えやがって。練習の時間だって削られてるんだぞ」


 安藤さんになだめられながら、富松さんも渋々といった様子で僕の話を聞く。


 「はい。富松さんが言うように、一年をディフェンダーに使っても逆効果であることは先週の試合でも明白です。そこで――」


 如月さんが次のスライド、新しい布陣をまとめた資料をスクリーンに映す。


 主な変更点は二つ。

 一つは安藤さんがボランチへシフトすること。

 そしてフォワードには大木を採用するということ。


 「おい! これは一体どういうことだ!」


 その資料を見た瞬間、富松さんが席を立ち、大きな声を上げた。


 「本来フォワードだった安藤さんを、ボランチに下げ、その穴を大木に埋めてもらいます」

 「そりゃ見れば分かる! だからなんで大木がフォワードなんだよ。コイツはディフェンダーだろ!?」

 「栗島……」


 大木にもこの案は事前に伝えていなかったため、彼の顔にも緊張が走っている。


 「ですが、彼は中学までフォワードでした。動きに関しては何ら問題ない、むしろディフェンダーのときより良いパフォーマンスを発揮するはずです」


 「――安藤、これはお前の差金か」


 富松さんが、今度は安藤さんへ鋭い眼差しを向ける。


 「いいえ、アドバイスをしただけですよ。富松さん」


 安藤さんは、またも淡々と答える――が、


 「お前……マジでフザケてるのか」

 「え……」


 今度はこちらに、富松さんがこれまで以上に怒気を孕んだ面持ちを見せてきた。

 あまりの怖さに、僕も背筋が凍る。

 

 「お前さ、さっきから人の部活に口出しして、何様なんだよ」

 「ですから……安藤さんが」

 「安藤がどうとかじゃねぇよ。結局俺らに文句を言ってるのはお前自身じゃねーか。サッカー経験者ってことは、どうせお前も入部テストを落ちたんだろ?」

 「……はい」

 「ほらな。結局、イチャもんつけたいだけだろ?」

 「違います! 僕は……!」

 「何がどう違うんだ。部外者のお前が俺らの問題に口を挟んで、しかもその格好つけた説明をはいそうですかって、アッサリ受け入れるとでも思ったのかよ」

 「それは……」

 「安藤に大木、てめぇらもだ。こんな奴の話なんか鵜呑みにしてる暇があったら練習しないか。特に大木、お前はまだ一年なんだ。やることは山積みだろうが」


 「……すみません」


 「はぁ……バカバカしい。帰るぞ」


 項垂れる大木を見て、富松さんは嘆息しながら席を立ち上がり、扉に向かう。


 「ま、待ってください……!」


 僕はなんとか席に戻ってもらおうと声をかけるが、富松さんも振り返って目と言葉でこちらを牽制。


 「お前の意見は却下だ。俺たちはフィールド上で戦っているんだ、そんな紙切れ一枚用意されたところで、何の説得力もない」

 「ですが……この資料もサッカー部のデータを全て集めて作っています。それに――」

 「だから何だ。そんなものはコーチが全て用意してくれる。別にお前に頼まなくても手に入る情報だ。出所は俺らなんだからな。違うか?」

 「……いえ、その通りです」


 富松さんから僕に向けられる言葉は悉く的を射ており、返す言葉が見つからない。


 「安藤、大木、行くぞ」


 結局富松さんを引き止めることは出来なかった。

 僕は教室から出て行ってしまった彼の背中を見つめたまま立ち尽くし、


 「栗島……ごめん」


 大木も僕に声をかけると、富松さんの背中を追うように教室の外へ。

 提案会は、失敗に終わった――


 「すまんな。力になれなくて」


 そんな中、安藤さんは一人残り、肩を落とす僕に労いをかけてくる。


 「いえ、こちらこそ……部の雰囲気が悪いと聞いていたところを更に悪化させてしまい、大変申し訳ありませんでした」


 「そんなに気にするな。あれで後輩思いのいい先輩なんだ。大木のことにしたって、別に嫌っているわけじゃない」


 「はい……」


 安藤さんはそう言うが、富松さんの機嫌を完全に損ねてしまったのは事実だ。


 富松さんの言うことは正しい。


 僕が不眠不休で集めたといっても、それは彼にとってスタッフから手に入れることが可能な情報で、別に有益でもなんでもない。

 資料にしても、説明にしても、まだやれることが沢山あったかもしれない。


 ……全てが、甘かった。


 「末永も、悪かったな」

 「全くよ……と言いたいところだけど、今回はこちらも準備不足だったわ。手間を取らせて悪かったわね」

 「末永さん……すいませんでした」

 「しょうがないわ。面倒くさいクライアントはたくさんいるもの。ね、安藤君?」

 「む、それは俺のことを言っているのか?」

 「それはそうよ。今回のテストだってヤマを教えろなんて、日頃から勉強してないからそうなるのよ」

 「すまんすまん。部活で忙しくてな!」


 僕が落ち込む横で、二人は提案会がなかったことのようにして談笑を始める。


 「あの……二人も、クラスメイトとかですか?」

 「ええ、安藤君とは一年からずっと一緒よ。だからチェス部の入江君も知っているわ」


 なるほど……どうりで仲が良い。


 「なんだ、入江がどうかしたのか?」

 「この前チェス部の依頼を受けてね。そっちは上手くいったのよ」

 「ほう、そういえば末永がチェス部の動画に出ていたな。あれは面白かったぞ。絶対嘘泣きだよな、あれ」

 「……その話は忘れてちょうだい」

 「はっはっは! ま、末永もお前も気にするな!」

 「その脳天気さが羨ましいわ……でも、安藤君の言う通りね。栗島君も気にしたら駄目よ」

 「はい……」


 安藤さんと末永さんが僕を元気づけようとしてくれているのは分かっている。

 如月さんが悲しみに暮れる視線も、十二分に伝わっている。


 けれど、それを受け止めるだけの心の余裕は今の僕にはなかった。


 これまで成功しかしてこなかったコンサル部で、僕は初めて失敗を、そしてこれまでの成果に傷をつけてしまった。

 

 最低だ。

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