• 学園イノベーション

  • 第一部 栗島新(くりしま あらた)の革新
  • 第四章 友人へのスルーパス
  • 第27話 僕が任されたプロジェクト

第27話 僕が任されたプロジェクト

  キーンコーンカーンコーン。


 「終わった……」


 僕の高校初めてのテストが、文字通り終わった。


 終わりというのは、全ての科目をやり遂げた意味もあれば、やっぱり数学の出来が良くないという意味も込めてだ。


 あの後ファミレスで数学の勉強を進めた僕達。

 質問しても二人とも我先に答えようと必死になって結局教えてくれなかったり。

 如月さんはパフェを追加注文してやけ食いしたり。

 効果の程は芳しくなかった。


 日曜日は家で篭って勉強したが数学だけをやるわけにもいかず他の教科も着手。

 結果、正直数学だけは自信がない。


 「……部活行こう」


 終わったことをこれ以上考えて落ち込んでも入学したときの二の舞い。

 なんとか気持ちを切り替えて部活に向かう。


 向かうのは第三視聴覚室ではなく、サッカー部のグラウンド。


 中盤の選手を、例えば安藤さんに抜擢した場合、彼の代役は誰が良いのか。

 適任を探すために、僕は今日もサッカー部のいるところへ足を運ぶ。


 「お、やってるやってる……」


 テスト直後だというのに、かなりの人数が集まっていた。


 サッカー部には推薦や特待生としてこの学校に入った人もいる。

 そのため一般入試で入った学生とは違い、テストにさほど躍起になって取り掛からなくてもいいのかもしれない。

 楽なもんだなと思うことも正直あるが、選ばれることもなかった僕からしてみれば、隣の芝生だった。

 彼らは彼らで大変なのかもしれないし、嫉妬してもしょうがない。


 「よし、まずは安藤さんを探そう」


 僕はまず、中盤の選手として当たりをつけた安藤さんを確認することにした。

 あれだけの実力の持ち主だ。

 きっと特待生で、もうグラウンドにも顔を出しているだろう。


 「安藤さんは……と」


 僕は端正な顔立ちで、ショートカットの髪型をした後ろ姿を探す。


 「あれ……いない」


 見渡しても、それらしき姿を確認することはできない。


 「うーん……安藤さん、どこいったんだろ。トイレかな……」

 「呼んだか?」

 「ひゃい!」


 突然後ろから声をかけられ、僕はつい奇声を発してしまった。

 一体誰が声をかけてきたんだろうと、恐る恐る振り返ると……。


 「安藤さん!」


 探している人物がそこにいた。

 どうりでいくら探してもいないわけだ。


 「おう、お前は入団テストのときの奴か。こんなところで油を売ってないで、さっさと練習に行かないか」 

 「え?」

 「ほら、いくぞ」


 安藤さんは僕の腕を強引に引っ張って部室のあるほうへ向かう。


 「え、ちょっと待ってください。安藤さん」

 「なんだ、入部テストを受けたってことはお前も一般入試の人間だろう? 推薦組はもう練習しているんだ。時間はいくらあっても足りないぞ」


 この人僕がサッカー部だと勘違いしているんじゃないだろうか。


 「いや……あの、実は」

 「どうした、体調でも悪いのか? なら先に保健室に行くか」


 次は部室ではなく、保健室に向かって歩き出す安藤さん。

 よく分からないが、強引な人だということは分かった。

 それよりも、誤解とかなきゃ!


 「えっと!」

 「どうした、メンタルの問題か? 大方、大木に先を越されて悔しいんだろう。だが、お前ら一年はまだ始まったばかりだ。これからいくらでもチャンスが――」



 「僕は……その、サッカー部じゃないんです!」


 

 「何だって?」


 ようやく、安藤さんの足が止まった。


 「だから、僕はサッカー部の人間じゃないんです。あの日、入部テストに落ちてしまって……その、サッカー部に入ることは、出来ませんでした」

 「そ、そうだったのか……すまん」


 今度はいきなり狼狽して頭を下げ始める安藤さん。


 「いえ、謝らないでください……というか、サッカー部じゃないって気づかなかったんですか?」

 「俺は人の顔と名前を覚えるのは苦手だからな。サッカー部は人も多いし、全員覚えるのは無理だ」


 ず、随分爽やかな笑顔で言い切るな……。


 「あれ、でも僕のことは……」

 「お前はあのミニゲームのとき鬱陶しかったからな。顔を覚えていたんだ」

 「え……鬱陶しいって……」

 「ああ、かなりな」

 「そ、そうですか……すみません」


 そっか、いきなり手握ったりしたからな……。

 こんなプロ間違いなしの人からしたら、失礼に値してもしょうがない。


 「何落ち込んでいるんだ。褒めているんだぞ?」

 「え?」


 僕、褒められてる……?


 「あのポジションで鬱陶しいなんて最高の褒め言葉じゃないか」


 そうか、確かに、そうかも……。


 「あ……ありがとうございます」

 「あれだけ動けるんならてっきり合格したのかと思っていたが、他のテストが悪かったのかもな。一般入試組の仲間が増えると思ったのに、残念だ」


 あの安藤さんに褒められるなんて……。

 やばい、ちょっと泣きそうだ。


 「って、安藤さんも一般入試なんですか?」

 「おう、こう見えて意外と頭が良いんだぞ。まぁ今回の数学は赤点かもしれないがな」

 「は、はぁ……僕も数学は苦手で……」

 

 でも、今人の顔と名前を覚えるの苦手って言ったような……。

 聞かなかったことにしよう。

 

 「お、そうか! お前も仲間か。ふむ、尚更サッカー部にいないのが惜しいな」


 なんというか、ミニゲームで初めて話したときとかなりギャップがある人だった。


 「ところで、サッカー部じゃないなら何しに来たんだ?」

 「あ、えっと……実は」


 話がやっと本題に移れそうになったので、僕は大木からコンサル部として依頼を受けていることと、その内容を伝えた。


 大木が僕にいきなり伝えたくらいだ。

 サッカー部の人間にはこの件が伝わっていない可能性のほうが高い。

 ただ、安藤さんは少数派ながら一年積極活用派の人間と聞いているし、この裏表のなさそうな性格なら、無下に追い返されることもないだろう。


 「なるほどな。そういうことがあったのか」


 予想通り、安藤さんは身を乗り出して僕の話に耳を傾けてくれる。


 「はい、それで中盤の選手と、その選手が担当していたポジションの代役の人を探そうかと思って」

 「ふむ。アテはあるのか?」

 「中盤は……直接言うのも忍びないですが、安藤さんがいいかなと思っています」

 「俺か? 俺はフォワードしかやったことないぞ?」

 「でも、ミニゲームのときは最後にゲームをコントロールしてましたよね? 実際僕は全然止められませんでしたし……それと先週の試合も見ましたけど、安藤さんが一番適任な気がします」

 「そうか。じゃあ俺の代わりはどうするんだ?」

 「それはまだ決めかねていました。安藤さんの得点力がなくなるわけですから、並大抵の選手じゃ難しいでしょうし……ただ、失礼な話ですが、あれだけ中盤、特に守備が安定していないとなると、安藤さんに後ろに回ってもらうしかないのかなと」

 「ふむ……よく観ているんだな」

 「え、いやこの前は観客席からだったんで」

 「それでもだ。事実、今年の紺学園のディフェンスはイマイチ物足りない。俺が大木を押しているのは、そのためでもあるんだ」

 「え、そうだったんですか?」

 「ああ、あいつは体もでかいし、それでいて足も速い。ボールさばきは課題があるが、これからいくらでも伸びるだろう。まぁ、ちょっとディフェンダーにしては気が弱い気もするが」


 やはり安藤さんは、大木を気に入っているのか。


 「大木は中学のときフォワードだったんですが、もっと堂々としていました。ディフェンダーだと、彼の地の性格が出るのかもしれません」

 「何、アイツはも元々フォワードだったのか。何故高校になってディフェンダーを」


 それはひょっとすると、安藤さんがいたからかもしれない。

 同じポジションじゃなかなか試合も出られないだろうし。

 そしてそれを安藤さん本人に言うわけにもいかないし、困ったものだ。


 「そういうことなら、アイツをフォワードにすればいいんじゃないのか?」

 「大木をですか?」


 「そうだ。アイツなら俺の代わりを務められるだろう。まだまだ荒削りだが、富松さんがフォローしてくれれば大丈夫だ」

 「富松さんって、あの安藤さんと揉めていた……?」

 「おう、なんだ。それも知っているのか」

 「ええ、たまたま見ていたので……」


 そうか、富松さんと大木がいれば攻撃もなんとかなる。

 守備は安藤さんがバランスを整えれば……。

 これは、いけるかもしれない!


 「安藤さん、ありがとうございました!」


 僕は安藤さんに一礼し、踵を返して部室へ向かった。


 「おう、頑張れよ!」



 安藤さんの期待を後ろから受け、僕は第三視聴覚室へ戻った。


 「ただいま戻りました!」

 「おかえりなさい、栗島君。サッカー部の視察はもういいの?」


 教室のなかでは末永さんが一人、いつもの位置に座って文庫本を読んでいた。

 またチェスの棋譜でも見ているのかもしれない。

 

 「はい、名案が浮かびました。これから早速資料作成に取り掛かります!」

 「そう、じゃあ私も何か手伝うわ。麻優も今学食に行っているけれど、終わったら合流出来るはずよ」

 「いえ、大丈夫です!」


 末永さんがせっかくの申し出をしてくれているが、僕はあえて断る。


 「あら、そう?」

 「はい、このプロジェクトは僕が任された案件。自分の力で、絶対成功させてみせます!」

 「……そう。それじゃ、お任せしようかしら」

 「はい、頑張ります!」


 僕が末永さんに決意表明をしていると、如月さんも学食から戻ってきた。


 「ただいまー!」

 「おかえり、如月さん」

 「栗島くんも戻ってたんだ。これから資料作りかな? 何か手伝うことある?」

 

 如月さんも僕に、手伝いを申し出てくれる。

 やはりコンサル部の二人は優しい。でも、それに甘えちゃいけない。


 「ううん。さっき末永さんにも言ったんだけど、このプロジェクトは僕が任されたんだし、最後までやり切ってみるよ」

 「でも、一人だと大変だよ? プレゼンの練習もしないといけないし。データを集めるのだって……それにテスト期間の間、ずっと勉強でほとんど寝てないんでしょう? あんまり根を詰め過ぎると体壊しちゃうよ」

 「大丈夫、これでも体力には自身あるんだから」

 「栗島くん……」


 これは初めて僕が任されたプロジェクト。

 手伝いをもらうのが悪いというわけではないだろうけど、これまで二人には助けられてばかりなんだから、たまには僕も貢献しないと!

 

 そう決断した僕は、提案会の日まで不眠不休で準備に勤しんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援した人

応援すると応援コメントも書けます

ビューワー設定

文字サイズ

背景色

フォント

一部のAndroid端末では
フォント設定が反映されません。

応援の気持ちを届けよう

カクヨムに登録すると作者に思いを届けられます。ぜひ応援してください。

アカウントをお持ちの方はログイン

フォロー機能を活用しよう

カクヨムに登録して、気になる小説の更新を逃さずチェック!

アカウントをお持ちの方はログイン

フォロー機能を活用しよう

カクヨムに登録して、お気に入り作者の活動を追いかけよう!