• 学園イノベーション

  • 第一部 栗島新(くりしま あらた)の革新
  • 第四章 友人へのスルーパス
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第26話 栗島君(くん)は黙ってて

 サッカー部の試合を観戦し終わった後。

 僕と如月さんは近くのファミレスに来ていた。


 図書館で勉強するという手もなくはない。

 ただ朝から行列を作るあの場所に昼から向かっても席を取れないであろうこと。

 それに何より二人ともお腹がすいていることもあって、お昼を食べてから勉強出来る環境を欲したことがこの場所を選んだ大きな理由だ。


 四人用のテーブルに対面で座った僕と如月さんは、メニュー表とにらめっこ。


 「うーん、どうしようかな。栗島くんは決めた?」

 「僕はこのハンバーグセットにしよっかな、如月さんは?」

 「じゃー、私も同じの!」


 如月さんもオムライスなりグラタンなり好きなのを頼めばいいのに、結局二人して同じハンバーグセットを注文することにした。

 僕達はドリンクバーから好きな飲み物を持ってきて、料理が来るまで待つ。

 ちなみに僕がコーラ、如月さんがオレンジジュース。

 

 「そういえば、結局うちの学校勝ったね。大木くんも頑張ってたし」


 ストローを咥えながら、如月さんが試合を振り返り始めた。


 「そうだね、チームの連携はイマイチ良くなかったけど、それでも勝てるあたりは地力の差が出た感じがするよ」

 「やっぱ全国制覇のチームって違うんだねぇ」

 「そうだね。ただ、あの連携だと全国だと厳しいかも……」

 「経験者の栗島くんからだと、やっぱそう見えるんだ?」


 如月さんが言う通り、試合に勝つには勝った。

 ただ、去年の紺学園の強さはあんなものじゃなかった。

 少なくとも、連携が取れずにチームがバタつくなんてことは想像すら出来ないほど、洗練されたチームに仕上がっていた記憶がある。


 世代が違えばこうも違うものなのか。いや、それよりも――


 「やっぱさっきも言ったけど、中盤の繋ぎ役がなぁ……」

 「ボランチ、だっけ?」

 「うん。あのポジションは体でいうところの体幹。真ん中が安定しないとチーム全体もふらふらしちゃうからね。去年優勝したときは、あのポジションにキャプテンの人がいたから強かったんだと思う」

 「なるほどねー。じゃあ、誰か他に適任な人を見つけて、そのポジションをお願いしないと駄目って感じ? 例えば、あの安藤さんとか」


 如月さんもさすがに安藤さんの名前は知っているらしい。

 それに、良いところを突いてくる。


 「そうだね。実は入部テストのときミニゲームで安藤さんと対戦したんだけど、フォワード以外も上手にこなしてたよ。むしろあの動き方だったり、判断力だったり、フォワードよりも向いているかもしれない」

 「へぇ、上手い人はどこやらせても上手いんだね。じゃあ、今回の提案はそれでいいんじゃない?」

 「そう上手くもいかないよ。そうしたら今度はフォワード――点を取る人がいなくなるから、次はそこを埋めることも考えないといけない」

 「ふむー。やっぱ一筋縄じゃいかないか」


 まるで映画を観てきたかのように、試合の感想を言い合う僕達。

 如月さんは少し疲れたのか、話し合いが少し途切れたところで机に突っ伏し、ストロー越しにオレンジジュースを飲む。

 

 「――大変お待たせ致しました、ハンバーグセットでございます」


 そうこうしているうちに、店員が僕らのいるテーブルに料理を運んできた。


 トレーに並んでいるハンバーグを見るや如月さんは一際瞳を輝かせる。

 店員が丁寧に料理を並び終えると、待ちきれないとばかりにナイフで肉を一口サイズにカットし、フォークで一口。


 「おいしいぃぃぃぃ!」


 相変わらず、美味しそうに料理を食べる子だった。


 「栗島くんのはどう? おいしい?」


 僕のほうをじっと見つめてくるが、そうは言っても。


 「僕も同じ料理だから、味は変わらないよ。それにまだ一口も食べてないし……」

 「でも、感想なんて人によって違うでしょ。さ、早く食べて食べて」


 如月さんにせかされ、僕もハンバーグを口に運ぶ。


 「うん。美味しい」

 「だよねー! やっぱプロの作る料理は違うよ」

 「でも、如月さんが作ってくれるお弁当も美味しいよ? もちろんこの料理もプロの料理人が作ったんだから、これはこれで美味しいけど。如月さんのはなんていうか家庭的な味がして、毎日食べるなら僕はそういう味のほうがいいな」


 今のはさすがに、クサかったか?

 僕は一呼吸おいて如月さんのほうを見ると、彼女は案の定照れていた。


 「ちょ、もう! 栗島くん、なんで今そういうこと言うの! シェフの人に聞こえちゃうよ!」

 「いや、シェフは厨房にいるから聞こえないんじゃ……」

 「そういうことじゃなくてっ! いや、そうなんだけど……うん……えへへ、ありがとう」


 にへらと破顔する如月さんだった。

 ご飯も美味しそうだし、何よりだ。

 

 僕達は空腹を満たすと、ドリンクバーから眠気覚ましのコーヒーを取り席に戻る。

 お互いに一口ずつ苦味を味わったところで、教科書とノートをテーブルに広げた。


 と言っても、僕は午後の予定を何も聞かされていなかったので、教材を広げたのはもっぱら如月さんだけど。


 彼女は最初から勉強会をする予定だったらしい。

 僕用にルーズリーフと筆記用具も用意してくれているし、こちらはたまたまだろうけど、僕が苦手な教科の参考書ばかりが並んでいた。

 数学とか、数学とか。


 ……なんで数学がテスト初日にあるんだろう。

 僕は少しだけ溜息をつく。


 でも如月さんは僕のために、わざわざ時間を割いて勉強を教えようとしてくれているんだし、ここで暗い気持ちになっていてもテストはやってくる。


 僕は心を入れ替えて勉強し始めた。

 黙々とペンを進め、参考書をめくる。


 食後特有の眠気に負けそうになってコーヒーをおかわりしたり、トイレで顔を洗ったりを繰り返しながら、気がつけば午後三時。

 僕は勉強を教えてくれることと、お弁当のお礼も兼ねてこのタイミングでパフェを注文。それによって、二時間前と同じく顔を綻ばせる如月さんを見ることが出来た。


 そうして勉強を再開し始めること一時間――


 「あら、栗島君に麻優じゃない」


 ファミレスに末永さんが現れた。


 白いワンピースにヒールのある黒い靴を履き、同じく黒色のタイツ。

 如月さん同様、学校で受ける印象通りの優雅な姿でありながら、髪につけているウサギの形をしたヘアピンは、末永さんが最近みせる可愛らしさもしっかりとアピールされている。


 「こんにちは末永さん。こんなところで会うなんて奇遇ですね」

 「たまにはファミレスで本を読みたい気分になってね。そっちこそ、こんなところで何してるの?」

 「勉強会ですよ。午前中はサッカー部の視察をして、それからお昼を食べるついでにここへ来た感じです」

 「……二人でねぇ。お姉さん聞いてないんだけど?」


 末永さんがこちらを半目で一瞥すると、その視線を一緒に浴びていた如月さんがたじろぎながら答える。


 「え、えっと……栗島君がテスト不安そうだったので、ここで勉強会しようってことになって! あと、サッカーの視察も、たまたまクラスの大木君って人から聞いたんです!」


 いや、勉強会言い出したのは如月さんだけど。


 「ふーん、テストが不安なのに午前中はサッカー観に行く余裕があるのね」


 珍しく、末永さんが怖い。


 「そ、それは……クライアントの要求にスピーディーに答えることも大事かなと思って! 大会も近いみたいですし!」

 「へぇ……それなら、私も誘ってくれたらよかったのに、つれないわね……」


 もしかして、末永さんは拗ねたら面倒くさいのか……?

 初めて見る一面だった。意外に可愛かったり、掘り起こしたら色々あるなぁ。


 「それなら私も栗島君の勉強をみてあげるわ。良いでしょ?」

 「えっ、牡丹さんもですか!?」

 「はい、末永さんに教えて頂けるなら、ありがたいです」

 「ちょ! 栗島くん!?」


 僕と末永さんが勝手に話を進めてしまい、如月さんはあたふたとしている。


 「同じ部員なんだし、そんなにびっくりしなくても……」

 「いや、そうなんだけど……うん……………………せっかくデートだったのに」

 「ん? 何か言った?」

 「言ってない」


 そっぽを向く如月さん。

 そしてやっぱり聞こえない……テストが終わったら病院へ行こう。


 「決まりね。じゃ、私もドリンク持ってくるわ」


 末永さんは注文を終えてドリンクバーから紅茶を持ってきた後、僕に肩を寄せて机の上に広がる参考書へ目を通し始めた。


 「さ、栗島君。困ったことがあったら聞いて頂戴」

 「分かりました。よろしくお願いします」


 専属教師が二人に増えたところで、僕も勉強を再開する。

 でも、対面から如月さんの視線を感じる。心なしか痛い。


 「き、如月さん? どうかした?」

 「別に」

 

 明らかにその視線は何か言いたそうにしている。

 如月さんは大木に負けず劣らず面倒見が良い。

 ひょっとして僕のサポートを末永さんに取られて悔しいのかもしれない。

 親心ってやつかな……ありがとう。


 「あら、麻優ったら拗ねちゃって可愛い」


 だが、そんな如月さんを末永さんが煽る。


 「あら、そういえば牡丹さんもさっき拗ねてませんでしたこと?」

 「何それ? 私の口調の真似のつもり?」

 「そんなことありませんですことよ?」

 「へぇ、お姉さんに向かってそういう態度取るんだ?」

 「そういう態度もどういう態度もないですぅ!」


 喧嘩をし始める二人。


 「ほら、牡丹さんがいきなり来たから栗島くんも困ってるじゃないですか!」

 「どちらかというと、麻優がそういう態度だから栗島君も狼狽えているんじゃなくて?」


 あの……。


 「そんなことないです! 二人でサッカー観てたときは楽しそうでした!」

 「あら、それを言うなら私とチェスを打っていたときも爽やかな笑顔だったわよ?」


 勉強……。


 「むっきー! それを言うなら学食でお弁当食べてるときのほうがいい顔してますぅ!」

 「それこそそんなことないわよ。栗島君が私に可愛いって言ってくれたときのほうがいい顔をしていたに決まっているわ」


 しないと……。


 「えっと……二人とも」



 「「栗島君(くん)は黙ってて!」」



 「はい……」


 二人が気持ちを落ち着かせるには、そこから悠に三十分はかかった。

 テスト……不安だ。すごく不安だ。


 勉強しよう。

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