• 学園イノベーション

  • 第一部 栗島新(くりしま あらた)の革新
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第25話 サッカー通の如月さん

 「へー、ここが総合運動場か。結構広いんだね」


 僕と如月さんは、紺学園の最寄り駅から電車で十駅離れた場所にある総合運動場へ足を運んでいた。


 総合と名が付くだけあって、運動場は広大な面積。

 施設の中にあるのは野球やサッカー、テニスなど、各種競技に適したグラウンド。

 それに整備された並木道やアスレチック広場も家族連れに人気で、土曜午前中の総合運動場はスポーツで汗を流す学生や、家族連れでそれなりに賑わっている。

 

 「栗島くんはここでサッカーしたことあるの?」 

 「ううん。こんな立派な施設を使えるほど、僕がいた中学は強くなかったからね。でも、観戦で何度か来たことはあるよ」

 「そういえば、万年一回戦敗退だったね!」


 私服姿の如月さんが、こちらを見てニヤニヤと笑う。

 薄手の黄色いパーカーにデニム地のホットパンツ。

 靴はネオンピンクなスニーカー。

 普段のイメージ通り、如月さんは私服姿でも活発な女の子といった印象。


 「なんか、そうハッキリ言われると辛いものがあるな……あれ、僕、そのこと如月さんに話したことあったっけ?」

 「う……いいじゃん! 細かいことは気にしないの! ところで栗島くんの服装、なかなか格好いいね」

 「え……本当?」


 本当に? 僕が? 格好……いい?

 生まれてこの方一度も言われたことがない言葉に、気が動転してしまう。


 ちなみに僕の服装は白い七分袖のシャツに黒のベスト。

 下はジーンズと至って普通の服装だ。

 ひょっとして、からかってないよね……?


 「ほんとほんと! 自信持ちなって」

 「そ、そっか……ありがとう」


 今の僕の顔は随分と酷いんだろうな……。

 自分でもニヤけているのが分かる。

 

 さすがにこんな顔をして如月さんと並木道を歩いてたら今後の付き合い方を考えられそうなので、僕はなんとか平静を取り戻したかのように振る舞う。

 顔をヒクつかせながら二人で並木道をしばらく歩くと、目的の場所に到着した。

 

 「お、やってるやってる! あれ、うちのサッカー部だよね?」

 「そうだね、あの青いユニフォームがうちの学校かな」


 芝生のピッチ上では、22人の選手が青と白のユニフォームに分かれて躍動。

 ちなみに、青が紺学園だ。


 「なんか、いい勝負って感じだね」


 スコアを見ると紺学園が一点差をつけてリード。

 対戦相手も県内では名の通った学校で、さすがの紺学園も苦戦している様子。


 僕達は人がまばらな観客席に腰を落とし、試合を観戦し始めた。

 

 「よしっ、そこだ! いけー!」


 座って間もなく、如月さんが大きな声を出して声援を送り始める。


 「あー、惜しいぃぃぃ! ポストかーー!」


 紺学園の選手がシュートを外すと悔しがり。


 「審判! 今のハンドだって!」


 対戦相手の手にボールが当たれば、審判を煽り。


 「ラインもっとコンパクトに保って! ほら、クリアしたらライン上げなきゃ!」


 紺高校が少し押し込まれたら檄を飛ばし。


 「ちょ、今のうちのファウル!? 何すか……何なんすかこれ!」


 ちょっと押されただけで相手が倒れたらテレビ解説顔負けの居酒屋実況を始めた。


 「ご、ごめん……ついはしゃいじゃって」


 周りの視線が集まっているのに気づいたのか、如月さんは肩をすぼめる。


 「いやいや、気にしなくて良いよ……というか如月さん、ひょっとしてサッカー詳しいの? ハンドとか、ラインがとか。なんか言ってること的確だったね」


 「そ、そう? 実は結構観るんだよね……えへへ」


 顔を赤くしながら、視線をグラウンドから僕に移してきた。


 「へぇ。どこのリーグの試合観るの? 日本? 欧州ヨーロッパ?」

 「……学生の試合かな。中学のときの、地区大会とか」

 「地区大会? 中学生の?」

 「うん。実は中学のとき、ファンだった選手がいてさ。その人の試合がある度に観に行ってたの」

 「へぇ、そうだったんだ。同じ地区の中学生ってことだよね? 同い年? 先輩?」

 「あたしと同い年の人だよ。その人を初めて見たのはうちの中学へ練習試合に来たときかな。試合自体はうちの学校が勝ったんだけど、その人だけは最後まで諦めずに必死にボールを追いかけて……なんか、その姿に凄く惹かれちゃって。それから、彼の公式戦がある度に観に行くようにしてたんだ! まぁ、こんな立派なグラウンドじゃなくて、河川敷の、土のグラウンドとかだったけど」

 「ははは、中学だとそんなもんだよ。じゃあ、高校生になってもその人の試合は観戦に行くの?」

 「ううん、彼は高校生になってサッカーやめちゃったみたいで……すごく上手かったし、格好良かったんだけど……残念だなぁ」

 「そっか。僕も高校でサッカー辞めた口だし、その人にも色々事情があったのかもしれないね」

 「うん…………はぁ」


 如月さんはとても残念そうに、俯いて溜息をつく。

 そりゃ、それだけ追いかけていたファンの選手が辞めたんだから、残念だよな。


 「でも同学年の人にそこまで応援してもらえるなんて、その人も選手冥利に尽きるよね。うちの学校は弱かったから、そんなこと、全然縁がなかったよ」


 「はぁ…………………………鈍感」


 「ん? 何か言った?」

 「なんでもない」


 さっきよりも深い溜息を放った如月さんの言葉は、案の定聞き取れなかった。

 最近、僕の耳悪くなったのかな。

 本格的に心配になってきたぞ。

 

 「よし! 今日はコンサル部の活動のために来たんだから、しっかり観察しなきゃ!」


 気持ちを切り替えた如月さんが、顔を上げてグラウンドに視線を戻した。


 「えっと……依頼はベンチ入りメンバーの再考だっけ?」

 「うん。それとスタメンもね。一年をメンバーに入れるべきかどうか、結果はどっちになってもいいから、まずは全員が納得できるような説明をして欲しいって」


 如月さんが依頼内容の確認をしてくるので、僕は大木から頼まれた内容を答える。


 大木はメンバー再考の結果、ベンチ入り出来なくなっても構わないと言っていた。

 チームの勝利を再優先に考えて、僕が出した結論なら納得が行くと。

 出会って一ヶ月と少ししか経っていないこの僕を信頼して。


 だから僕も、大木の信頼に応えなければならない。

 それが、例えどんな結果になろうとも。


 「よし、僕も観るぞ」


 僕も如月さんと同じく、グラウンドへ視線を向ける。

 今日はただの練習試合ということもあって、大木も試合に出場していた。

 安藤さんはいつも通りフォワードとして最前線に陣取り、安藤さんと言い争っていたウルフカットの富松さんは安藤さんのすぐ後方、中盤のゲームメイクを司るポジションを務めていた。


 「大木は……ディフェンダー?」


 大木がいた位置は、ゴールキーパーのすぐ手前だった。

 あのポジションは相手フォワードの攻撃を防ぐのが役割。

 中学時代は安藤さんと同じくフォワードだった記憶があるため、後ろでどっしりと構えているのは僕にとって違和感しかなかった。

 

 大木は一年生ながらも、後ろから精一杯声を張り上げている。

 それでも味方との連携が上手く行かず、他の選手にペコペコと頭を下げているのはなんともいつもの彼らしい。

 

 ――だが。


 「大木らしくない」


 少なくともサッカー選手としての彼を知っている僕の目には、そう映った。


 「え? なんかペコペコしてるのがいかにも大木君っぽくない?」

 「そりゃクラスでの大木はね。でも、試合中のアイツはそんな性格じゃないよ。堂々と、臆することなく相手に向かっていくイメージの方が強いかも」

 「へぇ……そうだったんだ。何か意外」


 クラスでの大木の性格が出ているせいだろうか。

 紺学園は時折相手校に攻めこまれ、その度にゴールを脅かされていた。

 大木も自分のせいだと思い込み、重点的に攻められてはまた周りに頭を下げる。


 苦戦しているのは守備陣だけでない。

 前線では安藤さんが二人にマークされているせいで孤立。

 間を保つはずの富松さんもパスを出す先がなく視線を巡らせているだけ。


 なんというか、ちぐはぐだった。


 「なんか、まとまりがないっていうか……結構バラバラだね」


 如月さんもそれは感じたらしい。

 僕の気持ちを代弁するように言葉を放つ。


 「そうだね。中盤で守備陣と攻撃陣を繋いで、チームを整える人がいない気がする」

 「そーかも。ちょうど栗島くんがやってたポジションの人がいないよね」

 「うん。リズムを変えたり、守備と攻撃両方にちゃんと走れて……って僕、それも如月さんに言ったっけ?」


 「え……い……言った……よ?」


 如月さんは狼狽えながら答えるが、どうも僕にはサッカー部時代の、ましてや自分のポジションなんて言った記憶がないけど……。


 「ほ、ほら。あれだけ毎日お昼食べてたんだから、知らない間にその話してても不思議じゃないでしょ!?」

 「うーん。まぁ、そっか。如月さんがそういうならそうなのかも」

 「そうだよ! もー、栗島くんったら、忘れちゃってひどいなー」

 「ご、ごめん……」


 でも、僕には本当に記憶がない。

 こんな頭で、次のテストは大丈夫なんだろうか……。すごく不安だ。


 「今日だって、本当は勉強しなくちゃいけないのに……」

 「ん? 勉強?」


 あ、しまった。

 つい心の声が。


 「ほら、週明けにはテストだから……」

 「なんとかなるよ。この一週間みっちり勉強したんだし!」

 「そ、そうだよね。サッカー部はテスト期間も部活があるんだから、もっと大変なんだし。贅沢は言わずに僕も頑張らなきゃ」

 「そうだよ! それに、試合終わった後は勉強会するんだから! 今日はたっぷり鍛えてあげるね♪」


 時刻は、もう正午に近づこうとしていた。

 太陽の光が真上から降り注ぎ、如月さんの笑顔はいつもより眩しく、そしていつも通り閻魔様だった。


 「お、お手柔らかに……」

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