• 学園イノベーション

  • 第一部 栗島新(くりしま あらた)の革新
  • 第三章 プロジェクト・クイーン・サクリファイス
  • 第18話 死のマスで掴む先鋒戦

第18話 死のマスで掴む先鋒戦

 「よろしくお願いします」

 「……よろしく」


 僕達はチェス盤の前に座ると、互いに挨拶を交わす。

 相手の安辺さんは、どこか不安そうな表情を浮かべて。


 「白はお前にくれてやるよ、いいよな? 安辺」

 「……はい」


 出戸さんによる横暴な決定で、僕の先手が決まった。


 「ありがとうございます。では、いきます」


 僕は一手目、キングの手前にあるポーンを動かす。

 対して安辺さんは向かって右端のポーンを動かした。


 (末永さんの読み通りだ――これなら)


 僕は続けてキングの右隣りにいるビショップを中盤に配置。

 安辺さんがポーンをコツコツと進めている間に僕はナイトを前線に押し出した。

 恐らく、相手はこちらの意図に気づいていないだろう。

 その証拠に、僕が送り出したビショップとナイトは全く警戒されていない。


 (よし、今だ!)


 次の一手、僕はナイトをキングの喉元に送り込んだ。

 普通なら、キングにタダ取りされてしまう悪手――だが。


 「あっ……」


 安辺さんが事態に気づいた時には、既に僕の術中に嵌っていた。

 正確には、末永さんの術中に。


 ナイトの斜線上は、二手目で送り出したビショップがバックアップしている。

 これではキングはナイトを取るわけにはいかない。


 加えて、この位置はクイーンとルークを同時に攻撃している。

 この時点で安辺さんは、その二つのうちどちらかを諦めなければならない。


 通常ならばここはクイーンを動かして死守しようとするところ。

 だが冷静さを失ったのか。

 安辺さんは顔を真っ青にし、あろうことかキングを斜め前に移動させてしまった。


 「おいっ!」


 出戸さんの怒号が聞こえてきたが、安辺さんはもう駒を動かしてしまった後。

 ガラ空きになったクイーンへ僕のナイトが剣を突き刺し、序盤で最強の駒を盤の外へ追いやった。


 「勝負あったわね」


 末永さんがそう言うように、今の一手で戦いの大勢は決した。

 クイーンを失うというのは、それだけで勝負の行方を大きく左右する。

 ましてやそれが序盤に起こってしまったのでは尚更。

 そこから挽回するのは余程の実力差がないと難しい。


 お互いに初心者同士の戦いでは、その差を埋めるのは厳しく、


 「……負けました」


 戦意を失った安辺さんが黒のキングを自ら倒し、そこで勝敗は決した。


 「ありがとうございました!」


 戦いの後に握手を交わす二人。だが――


 「おい安辺! なんだ今の戦いは。黒霧高校の部員ともあろうものがあんなにアッサリと負けやがって」

 「す、すいません……」

 「それに貴様、本当に初心者か? 嘘ついてるんなら承知しねえぞ」


 自分の後輩を罵倒した後、僕のほうを憤怒の表情で睨んでくる。

 その言葉に末永さんが勝ち誇った表情をしながら答えた。


 「彼は本当に初心者よ。それも、チェスを始めてからまだ五日しか経っていないわ」

 「は? ならなんで死のマスなんか知ってるんだよ」

 「私が教えたからよ。黒霧高校の方々はそんなことも教えることが出来なくて?」

 「くっ……」


 死のマス、つまりキングの喉元。

 それは対戦が始まる直前に末永さんが僕に伝授してくれた言葉だ。

 チェスのオープニングでは死のマスに攻撃されるのを警戒しなければならない。

 そしてそのことを知らない初心者が相手の場合、一撃必殺の戦術となる。


 末永さんの言葉通りの結果だった。

 

 「栗島君、良くやったわ」

 「ありがとうございます。末永さんのお陰です」

 「ううん、実践したのはあなたなんだから、自信をもって」

 「はい」

 「その通りなのですよ栗島どの! これで我々の勝利はぐっと近づきました。これでもしワタクシが敗れても、末永さんが最後に勝ってくれれば我が校の勝利は固いのですよ!」


 紺学園全員で僕の勝利を分かち合う。

 やったぞ、これで続きが戦える……!


 「出戸さん、これで約束通り、対抗戦を続けさせてくれますね」

 「……ああ、分かったよ。おい、剣橋けんばし。次はお前が行け」


 物凄い剣幕で次の相手を指名する出戸さん。

 次に前に出てきたのは、馬のような顔をした男。


 「安辺の奴め。こんな弱小校に負けるなんて我が黒霧の恥晒しめ……でもまぁしょうがない、このボクがかたきをとってあげるよ」

 「じゃ、次は私ね」

 

 剣橋さんが薄ら笑いを浮かべながら一歩前に出たのに合わせて、末永さんも僕達の一歩前に立った。


 「え、末永どの? 我々の中で一番強いのはあなたなのですから、ここはワタクシが出るべきですよ!」

 「入江君は部長だもの。トリを務めるのはあなたが相応しいわ」

 「むむむ……そうか! ここで末永どのが勝てば、我々の勝利が決まる。故に自ら出陣なさるのですね! それならそうと早く言ってくださればいいのに!」


 万が一にも末永さんが負けると思っていない入江さん。

 紺学園の勝利を確信し、安堵の表情を浮かべている。


 「……ま、行ってくるわね」


 そう言って、末永さんがチェス盤の前に座る。

 我が校のクイーン末永さんと、黒霧高校のナイト剣橋さんの戦いの火蓋が切って落とされた。

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