• 学園イノベーション

  • 第一部 栗島新(くりしま あらた)の革新
  • 第三章 プロジェクト・クイーン・サクリファイス
  • 第17話 なんとしても、対抗戦を

第17話 なんとしても、対抗戦を

 「ようこそいらっしゃいました! 黒霧高校の皆様!」

 「ふーん、ここが紺学園ね」


 オーソドックスな黒の学ランに身を包んだ男子生徒四人が、紺学園の門をくぐって僕達の前に立つ。


 「アンタがチェス部の部長さん? 俺は黒霧高校チェス部の部長、出戸でとだ」


 出戸と名乗ったのは、先頭で腕を組んで校舎を見渡している黒髪長髪の生徒。

 尊大な態度が少し鼻につく。


 その後ろに屈強な体つきの角刈り男と、馬のように長い顔の男が並んで立つ。

 まるでキングの後ろに控えるルークとナイトのようだ。


 最後尾には頭を丸めた小柄な男子生徒。

 新入部員だろうか、両手に沢山の荷物を持っている。

 こちらはなんとなくポーンな見た目。


 三人とも口を噤んでいる。

 

 「はい、入江と申します。本日はお越しいただき、感謝なのですよ!」

 「けっ、よく言うぜ。去年はそっちがすっぽかしたクセして」

 「そ、その節は大変失礼をしたのですよ……当時の部長は幽霊部員だったもので、ワタクシも事情を知らず」

 「部長が幽霊部員ねぇ……アンタのとこ、ちゃんとチェス打てるの? 言っとくけど、うちは県内でもチェス強いほうなんだけど」

 「そ、それは存じております……けれど、ワタクシ共もこの日のために準備を重ねて来ましたので、どうか今日はよろしくお願いしますなのですよ」


 相手からの威圧的な態度に、いきなり及び腰の入江さんだった。


 「ちょっとこの人大丈夫なの? 戦う前から負けそうなんだけど……」


 如月さんもそれを感じ取ったようで……って当たり前か。誰が見ても分かる。


 「仕方ないだろ、元からこういう性格なんだから」


 僕の耳元で囁いてくる如月さんに、こちらも小声で返す。


 「はー。ちょっと今日はイメチェンして格好良くなったと思ったのに、あれじゃ台無しだよ」


 誰が見ても分かるのは、もう一つ。

 末永さんの指示で、いつもは眉毛までかかりそうだった前髪を上げ、トレードマークの黒縁メガネをコンタクトにした入江さんはハッキリ言ってイケメンだった。


 能ある鷹は爪を隠すとはこのこと……ってちょっと違うか。

 何にせよ、末永さんは最初からこのことを見抜いていたんだ。

 流石だな。


 「そ、そうだね……でも、試合が始まればまた違うはずだよ」


 思い返せば僕は如月さんに格好良いとか言われたことがない。

 別に焼き餅とかじゃない。

 自分が美男子ではないのは自覚しているけど、なんというか複雑な気分だ。

 悔しいわけじゃないけど、少しだけ目から汗が滴りそうになる。


 「ふん、とりあえず部室に案内してもらおうか。こっちも暇じゃないんだ」

 「ええ、ではどうぞこちらへ!」


 入江さんを先頭にして、全員で後をついて行く。

 しばらくそのまま歩き、中庭を抜ける。西棟に入ると階段を一つ登って二階の奥、音楽準備室に入った。


 「あぁ!? なんだここ、音楽室じゃねーか」


 並べられている楽器を見てあからさまに不機嫌な態度を取る出戸さん。

 まぁ、いきなり連れてこられたのがこの部屋では無理もないかもしれないが……。


 「いえ、ここは音楽準備室なのですよ」

 「んなもんどっちでも一緒だ! 本当にここがチェス部の部室だって言うのか?」

 「はい、恥ずかしながら……」

 「はぁ……せっかく休日の朝から来てやったのにこれじゃ肩すかしだぜ。おい、お前ら、もう帰るぞ」


 付き合いきれないとばかりに、出戸さんが踵を返して外へ出ようとする。

 その様子を見て、後ろにいるルークの体とナイトの顔を持つ男もニヤニヤと笑う。


 「そ、そんな! ちょっと――」

 「ちょっと待ってください!」


 僕は入江さんの言葉を上書きするような大声を上げ、その場を静止させていた。


 「なんだてめぇ?」

 「お願いです、対戦していってくれませんか」


 しまった。

 つい勢いに任せて言葉を発してしまった……。


 だが、ここまで来たら後には引けない。

 なんとかして説得しなければ。


 「入江さんは今日をずっと楽しみにしてきました。黒霧高校の皆様を失望させるわけにはいかないと、初心者の僕にも丁寧に教えてくれて――確かに、僕達は人数も少ないし、あなた達の用に強豪ではないかもしれない。それでも一生懸命準備してきました。だからどうか、よろしくお願いします!」


 僕は腰を九十度に曲げ、ありったけの気持ちを言葉に込める。

 ただそれは逆効果だったのか。

 出戸さんは一層見下した態度を取り始めた。


 「はっ、お前初心者なのかよ……」

 「はい……」

 「よく初心者がずけずけと物を言えるもんだ……そうか、初心者か。良いこと思いついたぜ」


 出戸さんは、荷物持ちの男を指差して言葉を続ける。


 「おい、安辺あべ。お前も初心者だったな? まずはお前が相手してやれよ」

 「……はい、了解です」


 「おい、喜べ初心者。たまたま荷物持ちで連れてきた奴が初心者だったからよ。まずはお前がこいつと対戦してみろよ。勝ったら、このまま対抗戦をしてやる。だが、お前が負けたら今日はこれで終わりだ」

 「そ、そんな……」

 「嫌ならやめてもいいんだぜ?」


 僕が勝てば、このまま対抗戦……しかし、負ければ。

 相手も初心者だというが、強豪校の一員であることに変わりはない。

 おまけにこちらは正規のチェス部員でもないし、ついこの前までチェスの駒を握ったこともなかったんだ。

 全くレベルが違う可能性もある。


 この戦いを、受けても良いのだろうか……。


 「栗島君」


 狼狽える僕に、それまで口を開いてなかった末永さんが僕の元にやってきた。

 僕の耳元までやってくると、口を開いて僕に必勝の戦術を伝えてくる。

 なるほど……そんな戦い方が。

 この前のクイーン・サクリファイスのような高度な戦術ではないが、上手く行けば相手を出し抜くことも出来るかもしれない。


 「――分かりました」


 どのみち僕が受けなければ、黒霧高校の人達は相手すらしてくれないだろう。

 ここはなんとしても、僕が勝つしかないんだ。


 「で、やるの、やらねーの?」

 「やります。僕が勝って、今日はなんとしても対抗戦をしてもらいます」

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