第三章 プロジェクト・クイーン・サクリファイス

第11話 助けてくださいクイーンよ

 学食の提案会から二週間が過ぎた。


 あれから美術部と工作部のサポートもあり、無事テラス席と雨除けテントが完成。

 最近は春の暖かい陽射しが顔を出していることもあり、評判は上々。

 テラス席から埋まっていく日もあるくらいだった。


 学食案内人も試食を求める女子生徒の手伝いが増えて概ね順調と言えるだろう。

 ただ男手が少ないこともあって、僕は変わらずせわしいお昼休みを過ごしている。


 「――あれ、末永さん。今日は学食なんですか?」


 珍しい来客だった。

 昼休みも折り返しに差し掛かる頃、いつもはパン派の末永さんが学食へ顔を出す。


 「たまにはね。テラス席空いているかしら?」

 「はい、今は一番奥の席が空いていますので、どうぞ」

 「ありがとう。実はテラス席で食べるのは初めてなのよね、楽しみだわ」

 「あ、牡丹さん! 学食なんて珍しいですね!」

 「ええ。麻優ももうすぐ終わりなら、一緒に食べましょう。今日も彼の栗島君のためにお弁当作ってきたんでしょう? 健気な子ね」

 「も、もうっ! 茶化さないでください!」

 「ふふ、また後でね」


 昼の活動を続けているのは、僕だけではなかった。

 如月さんもスイーツを求めてか、もしくは部活仲間として放っておけないのか。

 相変わらず僕のお弁当を持って一緒に参加してくれていた。


 『断固ハーレム阻止』と息巻いているので、その勘違いはどうにかして欲しいけど。


 「ね、栗島くん。そろそろ落ち着いてきたし、あたし達も牡丹さんのところに行かない?」

 「そうだね、席もだいぶ空いてきたことだし、僕達もお昼にしようか」


 僕と如月さんは、学食のおばさんに作業終了の報告を入れてテラス席に向かった。


 「牡丹さん、ただいま参りました!」

 「お疲れ様。先に頂いているわよ」


 学校の机と椅子をリフォームして作られたテラス席は、長方形の白いテーブルに同じく白い椅子が四つ。

 真紅のテントとも色合いは良好で、街中のカフェと遜色ない見栄えだ。


 「牡丹さんがそうやってテラス席に座ってると、なんか絵になりますね」

 「工作部と美術部のお陰ね。彼らにも感謝しなきゃ」


 如月さんが言っているのはお世辞なんかではない。

 本を読みながらスパゲッティを食べる末永さんの姿は、そのまま切り取ってポスターで宣伝しても良いくらい様になっていた。


 「末永さん、何読んでいるんですか?」

 「これは昔のチェスの棋譜よ。栗島君も読んでみる?」


 文庫サイズの本を持っていたので小説でも読んでいるのかと思ったが違うらしい。

 受け取っていくつかページを捲ると、昔に名を馳せたチェスの名手が指した記録が記されている。


 「1700年代のチャンピオンですか。随分昔ですね」

 「ええ。彼が残したチェスの戦略は今でも残っているの。とても偉大な人よ」

 「へぇ、そんな昔から今まで……」

 「良い物に今も昔もないわ。時代が遷移することによって研究されて廃れていく戦略もあるけれど、今でも根強く残るものもあるのよ。ビジネスと同じね」


 そこでビジネスと繋げるところが、なんとも末永さんらしい発想だった。


 「でも、正直意外でした。末永さんのことだから、それこそもっとビジネス書とか読んでいそうなイメージだったのに」

 「あら、栗島君にはそんな固い女に見えて? 私は割りとゲーム好きよ。戦略と名のつくゲームはTVゲームでもボードゲームでも何でもやるもの。特にチェスは素晴らしいわ。世界では約7億人のプレイヤーがいると言われていて、ネットを使えば対戦相手には困らないし、英語さえ出来れば良いコミュニケーションツールになるもの。日本で有名な将棋もおもしろいのだけれど、チェスの何が良いかって言うと――」


 珍しく饒舌な末永さんだった。

 まさかこんなところに彼女のツボがあるとは。


 「牡丹さん、意外とゲーマーなんだよね……」


 如月さんから貴重な情報を聞いたけれど、時すでに遅し。

 末永さんが満足行くまで語り尽くしたときには、僕と如月さんはお弁当を半分以上食べ終えていた。


 うん、今日も美味い。

 如月さんは良いお嫁さんになるな。


 「ちょっと、栗島君、私の話ちゃんと聞いていたかしら?」

 「も、もちろん!」

 「じゃあ、何の話をしていたか、教えてくれる?」

 「え、えっと……」


 まずい。今更聞いていませんでしたなんて言えないし……。

 僕が回答に困っていたそのとき、


 「末永どのー! 探したですよー!!」


 末永さんを呼ぶ一際大きい声が、学食の中から聞こえた。


 「こんなところにいたのですか!」

 「あら入江君。そんなに慌ててどうしたの」


 末永さんが入江君と呼ぶその人は、僕よりやや高い背丈。

 体つきは痩せ型で、眉毛までかかりそうな前髪の下に黒縁の眼鏡をかけている。


 「折り入ってお話があるですよ!」


 息を切らせながらテラス席まで全力で走ってくると、そのまま膝をついた状態で滑り込んでくる。

 末永さんのちょうど50センチ手前で止まると、今度は頭を芝生にこすりつけた。


 所謂、スライディング土下座。


 「今度の週末、ワタクシに力を貸してください!」

 「週末ねぇ……今のところ空いているけど、また対局かしら?」

 「いえ、今度は他校との対抗戦なのです! 向こうは三人、こっちは一人しかいないので、このままだとわが校のメンツが丸つぶれなのですよ!」

 「あらあら、それは困ったわね」

 「そーーーなのですよ! ですから、ぜひお力添えを――」


 入江さんが一呼吸おき、更に力強く頭を地面に擦り付けながらもう一度懇願。


 「――お願いですよ! 我がクイーンよ!」

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