• 学園イノベーション

  • 第一部 栗島新(くりしま あらた)の革新
  • 第二章 学食の課題、解決します
  • 第10話 いざ、提案会!

第10話 いざ、提案会!

 それからは、慌ただしい日々が過ぎていった。


 テラス席の追加と学食案内人の応募という二つのミッションを達成するために、僕と如月さんは忙しなく動いていく。


 やるべきことは山積みだった。


 学食のおばさんへ事前に提案し、話を通しておくこと。

 テラス席の追加にあたり必要となる備品の洗い出しに発生する費用の見積もり。

 学食案内人についてはアンケートを作成し、応募者数を予測。

 また、そこから想定される人数でのシフトのシミュレーション。


 そして、鍵となる提案資料の準備に、プレゼンの予行演習。

 

 お昼に行列整理、放課後は清掃作業をこなしながら、それらの作業を一年の二人で分担して進めていた。


 「うー、眠い……」

 「僕も……」


 寝る間を惜しんでの作業で、僕も如月さんも疲労困憊だった。


 作業の全体計画や進捗管理は部長である末永さんに任せていたため、僕達は前を向いて突き進むだけではあったが、放課後の清掃作業に時間を奪われていたこともあり時間は圧倒的に足りなかった。


 それでも、


 「ねね、今日のお弁当はどう?」

 「うん、今日も美味しいよ」

 「えへへ、良かった」


 如月さんは今日も僕にお弁当を用意してくれていた。

 今日のメニューはアスパラのベーコン巻き、鮭の切り身にきんぴらごぼう。

 白米の上には三色そぼろが乗っかり、彩りをつけるために端っこにはリンゴで作られた兎が座っている。


 「いつもありがとう。でも、毎日作ってくるのは大変じゃない? 無理しないでも、僕は学食でも良いんだよ」

 「ん、いーの。好きでやってることだから、それに一人分も二人分も変わらないって!」


 これだけ多忙を極めながら、あの日から如月さんは僕のお弁当を欠かさない。

 今回のプレゼンは如月さんが担当する分、彼女の負荷は目に見えて重いはずなのに、今日も僕にお弁当の感想を求め、その反応に顔を紅潮させていた。


 「そういえばさ、栗島くん学食案内人のアンケート取ってたけど、どうだった?」

 「意外と好評みたいだよ。特に女子から参加希望してくれる人が多いかも。男子は……今のところいないね」

 「ふむー。もしかしてアレ? ムッツリスケベによるハーレム計画が発動しているの?」

 「そっ、そんなことないよ! 男子のほうも集まらなくて困ってるんだから!」

 「ふーん。やっぱ栗島くんのお弁当用意するの、止めようかな」


 ジト目で睨んでくる如月さん。


 「い、いや……その」

 「冗談だよー。ムッツリスケベ以外は」

 「それは本当なんだね……あ、でも男子向けに学食の割引券とか、そういうのも考慮したほうが良いかもしれないなぁとと思うんだけど、どう思う?」


 ここは分が悪いため、僕は強引に話を戻す。


 「んー、そうだね。確かにスイーツだけだと男子には魅力ないからそれも良いかも。色んなパターンを用意して後は学校側に決めてもらえば良いんじゃないかな? 牡丹さんに確認して、提案資料に埋め込んじゃおうよ」

 「そうだね、そうしてみるよ」

 「ま、いざとなったら私が毎日パフェるから大丈夫だよ!」


 毎回パフェとは限らないんじゃないかと思ったけど僕はもう突っ込まない。

 きっとパフェ以外でも喜びそうだし。


 「そうだね、その時は僕に付き合わせてよ」

 「とっ、当然! お弁当の分は働いてもらわなきゃいけないんだから……その、つ、付き合ってよね!」

 「うん、もちろん」


 僕の返事を聞いた如月さんは、さっきよりも一段と顔を赤くしながら、おかずを勢い良く口の中に放り込んだ。


 「んー! んー!」


 だが小さい口の中に入る食事の量は多いはずもなく、目一杯詰め込んだ結果、当然のようにむせる。


 「そんな一気に食べるから……」

 「でも、早く食べないとお昼終わるし! プレゼン今日だから少しでも原稿確認したいし!」

 「だからってそんな慌てなくても、あれだけ練習したんだし大丈夫だよ」

 「そうは言っても……あたしは牡丹さんみたいに喋るのは上手くないし、緊張しぃだし……あー、もう、不安になってきたじゃん」


 さっきまで赤みを帯びていた如月さんの顔は、今はもう青くなっていた。

 表情をよく変える子だ。


 「大丈夫だよ。いつものミーティングでもあれだけ喋れているんだし。それに、僕達だって付いているんだから、皆でフォローして頑張ろう。まぁ僕のフォローは心許ないかもしれないけど」

 「ううん、そんなことない。今日だって栗島くんのお陰でお昼ごはん早く食べることが出来たんだから、自信持って! って、あたしが励ましてどうするのさ」

 「ありがとう、その言葉、そっくり返すよ。如月さんならきっと上手くいくさ。お昼はリラックスして、放課後もう一回練習しよう」

 「う、うん……ありがとう」


 

 そうして放課後、プレゼン本番がやってきた。

 

 「皆様、本日はご多忙のなかお集まり頂き、ありがとうございます」

 「ハッハッハ。末永君、今日も期待しているよ」

 「校長先生、お褒めに預かり光栄です。本日もどうぞよろしくお願い致します」


 場所は学食。

 参加者以外は誰もいないこの空間で、厨房付近のテーブルを六人で囲む。


 提案を受ける学校側の参加者である校長先生と教頭先生、それに学食のおばさんの三人が奥に座り、僕達コンサル部は同じ人数で手前に並んで席に着いた。


 「それでは本日の議題、現在の学食における課題とその対応策について、ご説明並びにご提案差し上げます。如月さん、お願いね」

 「は、はい!」


 末永さんの言葉に返事をして、如月さんが立ち上がった。


 だがお昼に言っていた不安がまだ取り除けていないのか、俯く姿からはいつもの覇気はなく、唇はかすかに震えている。

 毎日の内輪で行うミーティングではない、校長や教頭といった威厳のある人と膝を突き合わせるという非日常的な光景が、彼女にプレッシャーを与えているんだろう。


 ――それでも。


 「如月さん」


 僕は自らの瞳に強い意志を込めて頷いた。


 如月さんなら大丈夫だ。

 僕はこの二週間、誰よりも頑張ってきた如月さんをずっと見てきたのだから。


 「栗島くん……」


 それでも取り除けない緊張に、もう一人の味方も。


 「麻優ちゃん、そんなに緊張しなくても大丈夫よ。あなたが頑張ってきたの、私は知ってるんだから」

 「おばちゃん……!」


 如月さんの返事に、優しく微笑み返す学食のおばさん。

 彼女もこの二週間の間、頑張る如月さんの姿を見てきた一人。

 いや、むしろその直向さを一番知っているのはこの人かもしれない。


 その笑顔に呼応するように如月さんも頷く。


 「では、お手元の資料をご覧ください――」


 如月さんは、予め印刷しておいた資料を元に説明を始めた。

 今回の提案に用いるプレゼンテーション資料は、コンサル部の三人で力を合わせて作ったものだ。

 潜在していたいくつかのリスクのうち、実際に顕現した課題を一ページ目にまとめ、後続のページでそれぞれの詳細と対応策を説明している。


 課題は二つ。


 一つ目は、座席数の不足。

 こちらは新入生の受け入れを増やした学校側も思うところがあるらしい。

 資料に記載されてある利用者数の推移、座席数や生徒の数などの指標を見て、頷きながら耳を傾けている。


 如月さんも手応えがあるようで、身振り手振りを加えて言葉を続ける。

 最初の緊張はとうにほぐれており、いつもの彼女の姿に戻っていた。


 「――ほう、テラス席かね」

 「はい、学食の裏にあるスペースに席を追加することで、天候の良い日は座席数の確保が見込めます。学食の中からも扉が繋がっているため、動線にも問題ありません」

 「雨の日はどうするんじゃ?」

 「体育祭のときに使用していたテントが余っていると聞いておりますので、そちらを改良する予定です」

 「教頭先生、体育祭用のテントはいくつか余っているのかね?」

 「ええ、一つ余っているものがあるので、そちらを使う分には問題ないでしょう」

 「ふむ……」


 校長先生は如月さんの話に時折質問を挟んでいく。

 教頭先生に確認しながら、口の前に手を持ってきて深く考えこむ。


 「それでも、雨の強い日には利用を制限します。ただ、このまま座席数の足りない状態に不満を持った生徒が、学食を利用しなくなることへの抑止効果は期待できますし、テーブルに椅子も備品が余っていると聞きますのでコストも最小限に抑えられます」

 「なるほど……確かに、このまま何も手を打たないよりは良いかもしれませんな」

 

 教頭先生も、如月さんの適切な回答を聞いて納得の表情。


 「ええ、それでも増やせる座席数には限りがありますから、来年以降も生徒の受け入れを増やすのでしたら、改築をしたほうが良いかもしれませんわ」


 最後にと、末永さんも恒久的な対策としては不十分である旨を念入りに伝える。


 「いやはや、痛いところを突かれた。末永君の言う通り本来であれば改築しなければならないのだがね。計画上来年以降になるだろうから、この案は渡りに船じゃな」

 「では!」

 「うむ、如月君と言ったかね、この案で行ってみよう」

 「ありがとうございます!」


 校長先生の承認の言葉に如月さんが深々と頭を下げ、満面の笑みを浮かべた。


 「校長先生、ありがとうございます。では如月さん、もう一つの課題もお願いね」

 「はい、もう一つですが――」


 続けて如月さんはもう一つの課題である回転率の向上について、学食の案内人追加を提案した。


 こちらについても給仕担当の方が復帰するまでの暫定的な対策ということもあって、すんなりと受け入れてくれることとなる。


 学食の仕事を手伝うという行為自体も、生徒の経験になると概ね好意的。

 デザートの試食会程度なら校長先生のポケットマネーで賄ってくれることに。


 ただし男子用の対策として資料に追記した学食の割引優待などの案は却下され、校長先生達がいる前で末永さんに「ハーレム完成ね」と炊きつけられる始末。

 

 結局、僕の追加した案以外は、当初の計画通り承認を得ることに成功した。

 

 「それでは、他に質問がなければ本日は以上とさせて頂きたいのですが、何かございますか」

 「私からも良いかしら」

 

 如月さんが説明を始めてから一度も口を出すことがなかった学食のおばさんが、最後に口を開いた。


 「皆さん、今回は学食のために、頑張ってくれてありがとうございました。特に麻優ちゃん、あなたには本当に助けられたわ。ありがとうね。良かったらこれからも時々遊びに来てちょうだい。また試食させてあげるから」

 「おばちゃん……ありがとうございます!」

 「あ、それとテラス席だけれど、あなた達二人の逢瀬の場所を奪われちゃう形になってごめんなさいね。麻優ちゃんが栗島君に毎日お弁当を作っているのも私は知ってるから、気にせずこれからもテラス席を利用してね」

 「お、おばちゃ……!」

 「ほう、青春ですな。いやー、私も若いころが懐かしい! アッハッハ!」


 校長先生も、学食のおばさんの言葉に乗って高笑い。

 如月さんもそれまでの堂に入った態度が一変。

 穴があったら入りたいといった様子で赤くなった顔を覆う。


 「あらあら、あんまりウチの部員をイジメないでくださいね」

 「ははは、すまんすまん!」



 ――そして、提案会が終わった後、


 「麻優、お疲れ様。よく頑張ったわ」


 学食から第三視聴覚室に戻ってきて余所行きではないつもの呼び方に戻しながら、末永さんは今日の立役者の労をねぎらう。


 「ありがとうございます! いやー、上手くいってよかったですね」

 「そうね、あなた達が頑張って準備したお陰よ」

 「えへへ、栗島くんも、ありがとね!」

 「いやいや、僕は何もしていないよ、むしろこれから議事録を整理しなきゃ」


 学食のおばさんに茶々を入れられる以外に出番が無かった僕は、この会の議事録を任されていた。

 必死でメモを取っていたものの、いくらか纏めきれなかたところもあり、今日の帰りが遅くなることを一人覚悟。


 「あら、そんなの明日で良いわよ。私がボイスレコーダーで録音してるから、それを聞きながら書けばいいわ」

 「準備良いですね……でも、本当に今日中じゃなくて良いんですか?」

 「栗島君、明日出来ることは明日やればいいのよ、これ、コンサル部の格言ね」

 「そんなの、今知りましたよ……」


 明日やろうは馬鹿野郎の真逆をいく言葉だった。

 コンサル部も奥が深い。


 「じゃ、今日はこれで終わりですよね? お疲れ様会ってことで、スイーツ食べに行きましょう。スイーツ!」

 「え、いや確かに今日提案会あったから食べてないけどさ……」

 「栗島くん、何を言っているんだい。先週あたしが牡丹さんの分を食べ損ねたのを忘れたとは言わせないよ!」

 「あ、あれまだ覚えてたんだ……」

 「当然! 食べ物の恨みは食べ物で返す。というわけで栗島くんの奢りね♪」

 「あら、それは良いわね。ということは私も食べ損ねたわけだし、栗島君の歓迎会も兼ねて三人で行きましょう」

 「自分の歓迎会なのに、財布自分ですか……」


 あぁ、でも如月さんにはお弁当作ってもらっている分、ここで断るのは人間的に許されないよな……。


 「細かいことは良いじゃない。ささ、早くいこう!」

 「ちょ、ちょっと!」


 ま、それに今日のMVPなんだし、僕も腹をくくるか。


 如月さんが腕を組んで引っ張って歩き、末永さんがその様子を見ながら僕達の後をゆっくりとした歩調でついてくる。


 「ふふ、二人とも、これからも期待しているわよ」

 「はい、任せてください! ね、栗島くん!」

 「うん、僕も負けないようにしなきゃ」


 まぁ、せっかく始めた部活だ。

 この三人で、頑張っていこう。




 その時僕は気づいた。

 僕の心のなかには、サッカー部を不合格になり、クラスで溶け込めずに落ち込んでいた自分は、もう存在しないことに。

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