• 学園イノベーション

  • 第一部 栗島新(くりしま あらた)の革新
  • 第二章 学食の課題、解決します
  • 第8話 閻魔様からのお弁当

第8話 閻魔様からのお弁当

 「栗島くん!」


 四時間目の授業のチャイムが鳴った後、聞き覚えのある声が僕を呼んだ。


 「あれ、如月さん?」

 「やっほ。お昼一緒に食べない?」

 「それは良いけど……あれ、もしかして同じクラスだったの?」

 「む、やっぱり知らなかったなー!」

 「ご、ごめん……全然気づかなかった」

 「もー。こんな可愛い子が近くにいるのに気づかないなんて!」

 「自分で言うか、自分で」

 「えへへ」


 はにかむように笑う如月さん、その笑顔はお世辞ではなく可愛かった。


 いつもは一国のお姫様のような末永さんと並んでいるからあまり気づかないが、如月さんも十分に整った容姿と言えるだろう。

 むしろクールな印象の末永さんと違って、明るく人懐っこそうな彼女のほうが同級生からは人気が高いもしれない。

 

 そのことを裏付けるように、クラス中の男子からの視線が痛い……。


 「さ、学食いこっ!」

 「あれ、そう言えば昨日弁当って言わなかった? なんで学食に?」

 「昨日お昼も学食で調査してるって言ったじゃん。満員だから、行列整理手伝って!」


 お昼休みは待ってくれないと言わんばかりに、如月さんは僕の左腕を絡めて強引に学食に連行する。


 密着アピールしてくる胸の膨らみは、僕が断らない理由を作るには十分だった。



 「つ、疲れた……」

 「栗島くん、ありがとね!」

 「ううん、如月さんもお疲れ様。もうお腹ペコペコだよ」

 「そだねぇ。あたしも……」


 学食までやってきた僕は、そのままなし崩し的に学食の行列整理を手伝わされた。

 如月さんはカウンターを持って人数を集計していたので、実際に行列を整理していたのは僕一人。

 お腹をすかせた学生達は皆、猛々しい獣のような目つきで猛然と走ってくるため、一人で捌くのはかなりの労力を要した。


 「さて、それじゃあ僕達もお昼にしようか。って、如月さんはお弁当だったかな?」

 「栗島くん、今日あたしからお昼誘ったのを忘れてるでしょ。はい、これ」


 肩にかけていたバックから取り出したのは、青いハンカチに包まれた四角い物体。

 まさか、これは……!

 

 「栗島くんの分も用意したから、一緒に食べよ?」


 やはり、お弁当!

 女子からのお弁当!!


 上目遣いで見てくる如月さんと、差し出されたお弁当。

 僕のなかで色欲と食欲が同時に溢れだし、自然と喉鼓を鳴らしてしまう。


 「学食の裏に良いスペースがあるから、そこで食べよ」

 

 如月さんは胸の高鳴りが抑えられない僕の背中を押して、学食を出て裏に回った。


 「――へぇ、こんなところがあるなんて知らなかった」


 視界に広がったのは一面の緑。

 敷き詰められた芝生は手入れが行き届いているようで、均等な長さを保っている。

 学食の裏とはいえ真上から差し込む陽光は心地良く、樹木は春風を奏でるようになびいていた。



 「良いところでしょ。皆一目散に学食に向かうから意外と知られてないんだよね」


 芝生に膝を崩しながら如月さんはお弁当を広げる。

 包んでいたのは僕とお揃いの柄をした色違いのハンカチ。

 僕も腰を落としてハンカチの結び目をほどき、弁当箱の蓋を開けた。


 「おぉ、これは!」


 こんがり揚げられた唐揚げに八本足のタコさんウィンナー。

 そして王道の卵焼き。

 プチトマトやレタスは全体を色鮮やかに染めてバランスも良い。


 「では――いただきます」

 「どぞ、召し上がれ!」


 僕は合掌して、さっそくお弁当に箸を伸ばす。


 「これは――美味い!」


 卵焼きは口に入れるとふわふわで、しっかりした味付けのなかに控えめな甘さがちょうどよく顔を出す。


 「次は唐揚げを――おぉ、これも美味い」


 冷めているにも関わらずサクサクとした食感がより食欲を掻き立てる。

 卵焼きと同じく味付けも程よく、弁当箱半分に敷き詰められたごはんとの相性も抜群だ。


 「良かったー。ひとまず食べられないってことはなさうそだね」


 僕が美味しそうにお弁当を食べる姿を隣で眺めて、如月さんも安堵の表情。


 「いやいや、めちゃくちゃ美味しいよこれ!」

 「ほんと? それなら朝から作ってきた甲斐があったよ!」

 「え、これ如月さんが作ったの?」

 「そだよ――うん、今日も良い出来♪」


 淡々と答えながら、如月さんも食べ始める。

 自分でも満足いく出来栄えのようだ。


 「如月さん料理得意だったんだね……」

 「ふふふ、今度こそあたしの凄さに見とれたね?」

 「いや、うん。その……凄いよ。これだけ美味しい料理が作れるなんて」


 今度は否定する要素もなく、力強く頷いて答える。

 そしてこっそりとお箸を持った右手でガッツポーズする如月さん。

 余程褒められたのが嬉しいらしい。


 「あたしね、小さい頃から料理が好きで、高校に入ったらお弁当は自分で作ろうって決めてたんだ。まさかこんなに早く人に食べてもらえると思ってなかったから嬉しいよ」

 「そうだったんだ。料理部とか、そっち方面の部活に入ろうとは思わなかったの?」

 「あー。それは牡丹さんに誘われてね。あの人の頼みはなかなか断れなくってさ。でも、コンサル部も楽しいからこれはこれでいいかな。学食の件もやりがいがあるし、何よりパフェも食べられるし!」

 「あはは、確かに。食べるのも作るのも好きなんだね」

 「もちろん、料理はどれだけ切ったかどれだけ炒めたか、それにどれだけ食べたかだよ!」


 それは、某マンガの話では……。


 「ところで、お昼はいつもこの場所で食べてるの?」

 「うん、なんか学食頼まないのに使うのも忍びないしね。それに日も当たって気持ちいいでしょ」

 「確かに、天気のいい日にこんなところでお昼を食べられたら随分と――」

 「ん? なんか美味しくないものでもあった?」


 僕がハッとして顔を上げるのを怪訝な表情で覗きこむ如月さん。


 「そうだ、テラス席だよ! 外に席を設けたら、座席数もなんとかなるんじゃないかな? 雨の日も対策も必要だけど、少なくとも何もしないよりはずっと良いよ!」

 「おぉ、たしかにそうかも……栗島くん、やるね」

 「よし、そうと決まればさっそく学食のおばさんのところに行こう!」


 僕が勢い良く立ち上がると同時に、如月さんが諭すように返答する。


 「栗島くん」

 「ん?」

 「お昼休みもうすぐ終わりだから、早く食べてね」

 「そうでした……」


 再び座ると、そこからは感想も言わず黙々とお弁当を消化する。


 こうして人生初のイベント、『女子からのお弁当プレゼント』は、ものの十分で終了した。


 それでも贅沢は言えない。ありがとう、如月さん。

 閻魔なんて言ってごめんなさい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

応援した人

応援すると応援コメントも書けます

ビューワー設定

文字サイズ

背景色

フォント

一部のAndroid端末では
フォント設定が反映されません。

応援の気持ちを届けよう

カクヨムに登録すると作者に思いを届けられます。ぜひ応援してください。

新規ユーザー登録無料