• 学園イノベーション

  • 第一部 栗島新(くりしま あらた)の革新
  • 第二章 学食の課題、解決します
  • 第7話 イシューツリーで考える学食の課題

第7話 イシューツリーで考える学食の課題

 第三視聴覚室に戻った僕達は、プロジェクターが設置されている机にもう一つ机を縦に繋げ、ミーティング用の簡易スペースを作成して腰掛けた。


 扉から入って奥側に末永さん、手前側に如月さんと僕が座る。


 「ふふ、三人だとこうしたほうが雰囲気出るわね。この部屋は私達しか使わないし、しばらくこのままにしておきましょうか」

 「え、ここ僕達しか使わないんですか?」

 「ええ、そうよ。公な視聴覚室は一つしかないもの。この教室は空き部屋だったから、私が部室として使えるように手を加えたの」

 「そうだったんですか。ちなみに何故第三と名付けたんですか?」

 「その方が人気ありそうじゃない。チェーン店とかでもよくあるでしょう」


 本当に居酒屋的な理由だった。

 末永さんのセンスを少し疑ってしまう。


 「さて、と。それじゃミーティングを始めるわね。今日のファシリテーターは私が担当するわ」

 「ファシリテーター?」


 突然飛び出してきた横文字に、僕は何のことか分からずに戸惑う。


 「会議の進行役のことよ」

 「おぉ、なんか本格的ですね」

 「牡丹さん、帰国子女だから英語得意なんだよ。あと、両親ともコンサルタントだから、お家でもいつも横文字使うの」

 「へぇ、サラブレッドって奴ですね」

 「そんな良いものじゃないわ。でも、そのお陰で変に知識がついちゃってるから、分からない言葉を使っていたら聞いてね。それと麻優、その良い方だとコンサルタントが横文字使いたがる人みたいじゃない。帰国子女だけで十分でしょ」

 「はーい」


 下をペロッと出して間延びした返事をする如月さん。

 とても一週間前に知り合った先輩への態度とは思えなかった。


 「ひょっとして、二人は昔から仲が良いんですか? 」

 「うん、家が隣同士だからね。あたしのお姉ちゃんみたいな存在だよ」

 「なるほど、部活にも慣れているみたいだったから不思議だったけど、どうりで」

 「そういうこと♪」

 「はいはい、無駄口叩いていないで始めるわよ」


 末永さんの一言で一年生の二人も口を噤み、ミーティングが始まった。


 ところで議題は何だろう。

 パフェの試食結果について、とかかな。ガールズトークみたいだ。


 「それじゃまずは今日の学食の状況だけど、麻優、お願いね」

 「はーい。まずは昼ですが、残念ながら今日も待ちが発生していました。学食に訪れた人数は500人、ピーク時の人数は350人ってとこです」


 え、如月さん……?


 「ふむ、原因は分かるかしら?」

 「二つですかね。一つは厨房の戦力が半分であること。そしてもう一つは座席数。そもそものキャパシティが300なんで、現在の学生を受け入れるにはやや手狭みたいで。前者は一時的な問題だから人を雇うか時間が解決してくれそうですが、後者は恒久対応が必要ですねぇ」


 「今年から受け入れ生徒数を増やしたものね。潜在していたリスクとはいえ、そこまで緊急度は高くなかった分後手に回ってしまっているわ」

 「そうなんですよー。上級生は不満みたいですし、新入生も学食に来る割合が徐々に減ってるんです」


 「それは由々しき事態ね。私みたいなパン派の人間にとっては、こちらに人が流れてくる分、間接的に影響があるわ」

 「まぁあたしはお弁当をゆっくり食べられないって課題がありますけど……」


 「ご苦労様、放課後の清掃はどうかしら?」

 「むー、無視した! 放課後は相変わらず汚れていましたー。学食のおばちゃんも一人だと手一杯みたいで。あ、その分今日は栗島くんがサポートしてくれたので、いつもより四十分前倒しで完了しました!」


 「それは朗報ね。さっそく新入部員の効果が現れているわ」


 「――――――」


 「栗島君? 褒めたのだから感想くらい言ってくれると嬉しいのだけれど」

 「あ、すみません……ありがとうございます」


 突然の真剣モードに、僕は唖然としてしまった。

 末永さんはまだしも、口調こそそう大差ないが普段は活発な印象のある如月さんがこんなにしっかりと話すなんて。

 しかも要点がきちんと整理されている。


 「むふふー。栗島くん、あたしの凄さに見とれていたね」

 「いや、それはない」


 凄いのは認めるけど。


 「麻優、残念だったわね」

 「しょぼーん」


 肩を落とす如月さんに、僕はふとした疑問をぶつけた。


 「あれ、お弁当食べられないって……如月さん、お昼は学食じゃないの?」

 「ううん? あたしお昼はお弁当だよ」

 「そうだったんだ。学食のおばさんと仲良さそうだったからてっきり常連なのかと」

 「ちっちっち、出来る女子は違うのですよ」

 「そ、そっか……それで、学食に訪れた人を数えるのはどうやってるの?」

 「ん、普通にカウンター持ってだよ」

 「それだと、お昼食べられなくない?」

 「うん、だからゆっくり食べられないのさ」

 「な、なるほど。お昼に放課後に、かなり大変なんだね……」

 「まーねー」


 はぁ、と溜息を落としながら如月さんが続ける。


 「あと、デザートの味の方はご確認頂いた通りです。ただ今は昼の課題を解決しないと、デザート以前の問題ですね」


 「了解、報告ありがとう。しばらくは試食も続きそうね」

 「はい! あぁ、食べ放題パフェ放題……!」

 「く、食いしん坊だな……」


 さっきの溜息に少し心配したこの感情を返せ。


 「ふむ……今日は500の、350の……」


 僕達のやりとりをよそに、末永さんは眼前にあるパソコンに何やら入力。


 「末永さん、それは議事録ですか?」

 「ええ、そうよ。それと毎日の人数推移と試食したデザートの感想のまとめね」


 論より証拠と、末永さんはパソコンにプロジェクターを接続。

 ホワイトボードに資料を映し出した。

 使っているのは表計算ソフトらしく、毎日の学食利用人数を入力した結果が折れ線グラフで表示されている。

 その隣には、試食したデザートの感想と評価が写真つきで記録されていた。


 「今日の写真なんて、いつのまに……」

 「えへへ」


 隣でピースする真の閻魔・如月。


 「さて、今日の状況はこんなところね。それじゃそろそろ本題に移りましょう。栗島君は元々の依頼を知らないだろうから、最初に説明しておくわね」


 末永さんはプロジェクターをつけたまま、映していた資料を差し替える。

 次に映しだされたのは、今回の学食の課題を提起した資料。


 『学食の利便性低下』と書かれたタイトルを頂上に、左から右に木の枝のように流れていく図にいくつかの四角いマス。

 その中に如月さんが今述べたような座席数や、怪我による学食のおばさんのパートナーの休職といった項目が記載されている。


 「実は今、学食に利便性の悪さを指摘する声が学生からチラホラ挙がっているのだけれど、その原因整理と対策の提示を学食のマスターから依頼されたのが事の発端なの」

 「その原因を説明した資料がこれってわけですか?」

 「ええ。上がキャパシティの視点、下が回転率の視点ね」


 資料上部はキャパシティ――例年以上の新入生の受け入れに伴う利用者数の増加や座席数の不足といった点、下部に給仕担当員の不足や一注文辺りの調理時間など、生徒に食事を提供する際に問題となりそうな点が記されていた。


 「これらのリスクが実際に課題として浮き彫りになっているかを調査するのと、当面の学食のサポートの二面から、麻優には先週から学食に顔を出してもらっているの。それと、今日から栗島君もね」

 「なるほど、ただ掃除しているわけではなかったんですね」

 「ええ、でもそれも立派な貢献よ。それに給仕の方を新に雇うのもコストがかかるし、怪我されている方が復帰した後も契約がややこしくなるでしょう」


 確かに、その通りだ。

 そんな背景まで知らなかった僕は、末永さんの方を見て何度も頷く。


 「絶対デザートですよ、デザート! それがあれば皆不満も減りますよ!」

 「麻優……確かにそれはそうでしょうけど。マスターだって大変なのよ。デザートの要望は当初からあったことだから試食させてくれているけど、今でもギリギリなんだからね」


 肝心の麻優のほうは、デザートしか頭になかった。

 やっぱりさっきの溜息に心配した感情を返して欲しい。


 それと末永さんも学食のおばさんのことをマスターって……。

 バーじゃないんですから。

 やり手に見えて意外と天然だな。


 「それで、如月さんのお陰で課題は分かったんですよね」

 「ええ、やはりこの資料に書かれてあることのいくつかが当てはまっているわ。さっき麻優が言ったことの復唱になるけれど、利用者とマスターの負担増加が最優先の課題ね」

 「座れる場所がないと、下手したら学生はお昼を食べ損ねちゃいますもんね」

 「ええ、そこで明日の放課後はどこかに座席数を増やせないかも調査してきて欲しいわ。来年以降も新入生が増えるなら、やはり増築しないとどうしようもないもの。その結果を元に、学校側に提案をしましょう」

 「えー、パフェは食べちゃ駄目なんですか!?」

 「パフェの後で良いわよ……それと明日は用事があるから、私の分はいらないってマスターに伝えておいて」

 「はい! あたしが二人分、試食してきますね!」


 如月さんは満面の笑みだった。

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