第63話 ホテル あたし

次の日から、言いつけ通り、春姫チュニは、行きは走って街に向かい、帰りはバスで難民キャンプに帰った。バスの運転手はいつも同じ、茶髪の40代だった。帽子を被った制服姿であったが、あのスナック『さくらんぼーい♡』にいた人間である事は、春姫チュニは当然分かっていたが知らないふりをしていた。


ある日、帰りにバスに乗ると、運転手はいつものお爺さんでは無く、茶髪の男だった。乗客もほとんどいない。最初のバス停で、はじめから少なかった乗客はすべて降りてしまった。


「お客様、いつもご乗車いただき、誠に有難うございます。次はー、楽しい所ーーー、だのしいどころーーーーヘヘッ」


乗客がいなくなり、バスは急速度で走り始めた。


「姉ちゃん、覚えてるかい−。オレのこと。たっぷり楽しい事しようなー」


運転手は帽子を取り、得意そうに、だらしなく笑った。


バスは、小高い山に向かって走って行った。


山の上には、廃墟のラブホテルがあった。『ホテル あたし』という、看板が錆びついている。


ホテルの前には、見覚えのある連中が、いい年して、少年のようにたむろしていた。

どれも、30代~40代に見える。


「おお、来たか来たか。でかしたぞ。お前は今日の為にバスの運転手やってたようなもんだな」


あれは、龐に割れたビンを突き刺そうとした奴だな。春姫は一瞥いちべつした。


「それにしても、姉ちゃん。綺麗だなー。さては、喜び組やってたのかい?将軍様とエッチした事あるだろー。色々とテクニック持ってるんだろー?あの豚よりは俺のほうがいい男だと思わないか?」


春姫は、黙って冷静に周りの環境を観察していた。


「あんた達、私をレイプしたいの?それとも、もっと楽しませてあげてもいいんだけど・・・・」

春姫は妖艶な表情でクスッと笑いながら言った。


「あの時は悪かったわ。一緒にいた男は滅法強くてね。強いだけが取り柄な馬鹿な男」寂しそうにうつむきながら言う。


チンピラ達は、怖がるどころか独自のペースを作り上げつつある春姫を見て、どうすればいいのか、分からないでいた。



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長宗我部の野望ー龍馬の変わりに日本を洗濯し候 財浄水音 @narita

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