第74話 山田太郎殺人事件 27
息を呑む音が聞こえる程の静寂の中。
ロクジョウの告白は続く。
「私は『現実館事件』には、パーティの招待客の一人として呼ばれて、事件に巻き込まれていました。現実館の持ち主の父上と懇意にしていたためです。
そして事件が発生し、火に包まれた時、私はたまたまその館で金品が集まる所の近くに位置していました。
その金品が管理してある金庫。
誰が開けたのか判りませんが、それが開いていました。
だから魔が差したのですが……
私は金品を持ち出しました。
いや、全部は持ちだしていません。そこは言い訳に過ぎませんが、全部ではなく、ほんのちょっぴり、という気持ちだったためです。今となっては何の意味もないですが……
ですが、その際にとある女性にその行為が見つかりました。
その女性は使用人だったのですが、彼女は私に問い掛けてきました。
何をしているんですか。
逃げてください。
――その直後でした。
彼女の頭上が崩れ、彼女は落ちてきた瓦礫の下敷きになりました。
だけど、まだ意識はありました。
しかし私は……私は……
これ幸いとばかりに、彼女を見捨てて、逃げました。
彼女が死ねば自分の罪がばれない。
そんなバカなことを思って……
そうして人目を憚って逃げていた所――
私は遭遇してしまいました。
黒焦げになった人間を、ロープで吊るしている最中の人物に。
それが――ゴミでした」
ゴミ。
彼はやはり四つの事件の内の犯人だったのか。
ロープが燃えずに黒焦げの死体だけがあった事件の。
「ゴミは元々自分に恨みがあった人間を燃やしていました。近くに鉈のような刃物もあったので、もしかすると死因はその刃物によるものだったのかもしれません。
この火事に便乗して、その人物が自殺している様に見せかけようとしていたのでしょう。自分に疑いが掛からないように。本当はロープが燃えて、首吊をした後に落下した、というような状況を作りたかったのかもしれません。結果として燃えずに、異様な状況になったようですが。真意は語ってくれませんでしたが、そういうことだと思います。あの火事が発生して間もないとはいえ、黒焦げの死体が鎮火することなどあるはずなどないのですから。もしかすると、事件の犯人が火を放たなくても放っていたのかもしれません。今となっては分かりませんが。
その異様な様子に私は腰が抜けてしまいました。
そして、見つかってしまいました。
彼は私を最初は殺そうとしたのでしょう。
だけど、私が座り込んだ瞬間にポケットから出た金品を見て、瞬時に悟ったのでしょう。
彼はこう脅してきました。
『俺達は共犯者だ。協力しろ』
そこから私は、言われるがままに行動しました。
私がしたことも話しました。
先の女性のことも。
全て話した後、彼はこう言ったのです。
『下敷きになっている女性の首を斬り落としてどこかに捨てろ』
どういう意図があったのか分かりません。もしかすると他にも異様な状況を作って、自分と関係ないようにしたのかもしれません。火事の中で愉快犯が無差別に犯罪した様に見せかけたかったのかもしれないです。
愉快犯よりたちが悪いですが。
だけど私は拒みました。
流石に生きている人間の首を切断するという行為をしたくなかったのです。
だが彼は鉈を突きつけて『付いてこい』と私を脅して先の現場に戻させました。
その際に、金庫があった現場から二人の影が、私達が来た方とは違う扉から逃げ出していくのを見ました。
顔は分かりませんでしたが……」
それが恐らく、イチノセとシバだろう。
「だけど私達は逃げた人影を追うことはしませんでした。
下敷きになった女性は、ぐったりとしていました。
もうその時点で亡くなっていたのかもしれません。
それは分かりません。
だけど、そんな彼女に向かって……
ゴミは鉈を何回も振り降ろして、首を切断したのです。
……その光景は思い出したくないです。
『これでお前も共犯だ』
血で塗れた上着を火元に脱ぎ捨てて、代わりに持った首を見せつけながら、ゴミは私に言いました。
もう私は逃げられませんでした。
共犯者になるしかありませんでした。
切り取った首は、逃げる途中でどこか適当な所に投げました。
瓦礫に埋もれてしまって、砕けてしまったのかもしれません。
……これが、私が犯した罪です」
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