第73話 山田太郎殺人事件 26

    ◆





 食堂に引きこもってからどれくらい経ったのだろうか。いや、正確には理解できるのだが、物凄く体感時間が長く感じられたのでそういう表現をしたのだ。

 私達は静寂の中にいた。

 最初の内はとめどない会話をしていたのだが、段々会話のネタが無くなって行き、また空腹の影響もあって、段々と口数が少なってきていた。

 そんな中。


「……もう耐えられない!」


 泣き声のような、悲痛な叫び声が食堂中に響いた。

 その声を上げた人物に、皆は驚きの表情を向ける。

 何故ならばその人物は食堂に来てからずっと一言も発せず、怯えたようにずっと顔を伏せて動かなかったのだ。


 ロクジョウ。


 館の施錠をする際にも全く反応が無かったので、仕方なく老警部とヤクモの二人が向かったくらいの状態だったので誰も声を掛けなかったのだが、ようやく口を開いたと思ったら、そんな言葉が出てきた。

 そして彼は老警部に向かって、


「刑事さん! もう限界です! 私は……私はもう……」


 この島に来てから一番口数が少なかったので特徴が捉えられなかった彼が、涙を瞳に溜めて震えた声を放つ。


「刑事さん……私は……私は死にたくないのです……」

「落ち着いてください。皆さんそう思っていますよ」

「違う……違うんです……」

「どうしたんですか? 何が違うんですか?」

「私は……私は……」


 ロクジョウはグッと言葉を絞り出す。


「私は犯人に恨まれていると思います……」


「え? ……どういうことですか?」


 老警部が声を低くする。


「私は……あの『現実館事件』を知っています。あの事件の当事者だったのです。いや……もう隠しません」


 ロクジョウは大きく深呼吸すると、意を決した様に告白する。


「私は……あの事件の後の火事の中で、

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