第39話 お腹減った事件 08

 ふぅ。

 大きく息を吐いて、再び地面にへたり込む。

 流石にまだ数秒レベルででしか立てない。

 疲れた。

 まだ私には歩くことはきつい。

 成長を期待しよう。


 食卓にミルクがない。

 それは分かった。

 だとしたら後はどこにあるのか。

 一つしかない。

 母親はどこでミルクを作る?

 お風呂?

 トイレ?

 玄関?

 そんな訳がない。

 そんなところで作っていたら逆に引くわ。

 でがどこか?

 当然の如く、一か所である。


 台所。


 台所はカウンターを挟んでいるのでここから見えないから、まだ可能性が十二分にある。

 そこで作って忘れて置きっぱなし。

 それが一番、有り得る線だ。

 ならば最初からそこに行けと思う人もいるだろう。

 考えてみてほしい。

 一番ありそうなところに行って、無かった時の絶望を。

 それだったら他の所を探して「あ、あった。ラッキー」っての方が得だろう。

 要するに気持ちの問題である。

 私は常に最悪の状態を考えておく人なのだ。

 最悪が外れたら、それよりマシな状況にしかならないのだから。


 さてさて。

 そんな風に心の持ちようを述べた所で、早速、台所に向かおうとしよう。

 日が差して暖かくなっている道をハイハイで進んで、数秒。

 辿り着いた視線の先。

 台所の手前の淵。


 そこに哺乳瓶の先が見えた。


 ちらと見えるのは白い液体。

 間違いない。

 母親は私の食事を作ったのだが、出すのを忘れてしまったのだ。


 やった!


 私は喜びに声を上げる。

 最悪なのは何もないことだった。

 だが、あった。

 食事にようやくありつける。

 ぐう ぐうう。

 お腹が一層悲鳴を上げる。

 さあ、心待ちにした食事だ。

 食べるぞ。


 ――とはいかず。


 ここも予想していたが、難関だ。

 それはそうだ。

 根本的に次の問題があるからだ。

 


 

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