第27話 託児所殺人事件 10

 ……まあ、ここはどうでもいいや。

 あとで分かることだし。

 それよりも、


「ところがどっこい。一番の謎があるんですよね……」


 ポンコツ刑事が悩む様子を見せると、母親が心配そうに覗き込む。


「その謎って何ですかあぁ?」


「凶器です」


 ポンコツ刑事が右手と左手を握って、自分の首の前で左右に揺らす。


「彼女を殺害せしめた紐――というか少し太めの布状のモノなのですが、この部屋に該当するものがないのです」

「あれとかはどうですかぁ?」


 私を抱いたまま器用に母親が指差した先は――ベビーベッドだった。


「そこにあるシーツとか使えば、さっき言っていた布状のモノになるんじゃないですかぁ?」

「そこは調査済みです」


 ポンコツ刑事が手帳を開く。


「あ、えっと、えーっと……」


 書いた様子が無かったから真っ白だったのだろう。

 ただのポーズの様だ。

 使えない。


「あ、そうそう。思い出しました。確かにシーツを使えばそのような痕は付けられる可能性はあるでしょう。ただ、被害者の女性は、首の骨が折れる程に絞められていました。そうなれば、シーツの方も伸びきってしまったり破れてしまったりするでしょう。ですが、そのように伸びた後があるシーツは一枚もありませんでした。むしろ綺麗なままのものが多かったです」

「ほとんどお客様が来ないですからね」


 お兄さんが爽やかに苦笑しつつ、反論を口にする。


「ということは、ここから既に去った人が犯人なのではないでしょうか? 僕はこの託児所から出ていません。調べてもらっても構いませんが、シーツとか隠していませんよ」

「ふむ……それも一理ありますね」


 一理ねーよ。

 ……いかんいかん。口がだんだん悪くなってしまっている。戻さなくては。

 真相が分かっていると、どんどん口を出したくなるな。

 少し我慢しよう。

 ここまでで凶器は出てきているし。

 というか見えているし。

 はっきり言おう。



 被害者を殺害せしめた凶器は、

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