第16話 私誘拐事件 15

 ベビーカーを捨てるか聞け。


 単純にして不明瞭なメッセージ。

 これを訊ねたらどうなるのか?

 それはやってみなければ分からない。

 だが私の予想通りなら、導けるはずだ。

 この事件の真実を。

 そして、真犯人の逮捕につなげられる道筋を。


「ねえねえ、お母さん」


 ――私が全ての言葉を告げた直後だった。

 彼は母親にこう尋ねた。



?」



 訊いた。

 確かに訊いた。

 私の意図した通り訊いた。

 これで確定だ。


 兄は私の言葉を理解している。


 五歳児なのに。

 いや、むしろ五歳児だから余計な思い込みがなく、二種類の泣き声の組み合わせを本能的に悟れたのかもしれない。

 そうとしか考えられない。


 ……いずれにしろ。

 兄が私の言葉を理解しているのは確かだ。

 そこが分かっただけでも、相当な進歩だ。


「捨てるぅ? そうねぇ……変な人に触られたし、この子も嫌な思いしているだろうから、勿体ないけど捨てちゃうと思うよぉ」

「そうなんだー。へー」


「……そういうことか」


 老警部が気が付いた。

 この質問の真意を。

 私の伝えたかった意図を。


「奥さん」


 老警部は母親に声を掛ける。



「申し訳ありませんが、協力してほしいことがあります」

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