88話 不人気のワケ
「うっしゃあ! 海漁ギルドきたぁぁあっ!」
「いいなぁ! 僕また木こりギルドだよぉ!」
「え~、交換して~! 私トルベック工務店だったのぉ!」
子供たちが賑やかに会話をしている。
「大盛況ですね」
ジネットがご満悦なのも頷ける。
お子様ランチは大成功だった。
仕事の合間に飯を食いに来るオッサンどもは以前から割といたのだが、そいつらが仕事に戻った、いわゆる『穴の時間』に子連れが多く来店するようになった。
オッサンたちが多い時間帯を避け、母子でのんびり遅めのランチを楽しんでいるらしい。
ランダムで出てくるお子様ランチの旗。
最初は不平不満が出るかと覚悟していたのだが、意外や意外、目当てじゃない旗でも子供たちは「しかたない」と割り切り、大きな混乱は見られなかった。
ただ、一つの旗を除いては……
「あぁー! この旗キラーイ!」
「うわー、かわいそー」
子供が顔をしかめ、忌まわしい物を見るような目で見つめているのは……
「……なんで、みんな嫌うんだろう…………ボク、何か悪いことしたかな?」
エステラが泣きそうになっている。
……そう、領主の紋章だけが、なぜか子供たちに不人気なのだ。
お子様ランチを販売し始めて五日が経った。初日は、「あ、そこそこ売れたなぁ」くらいの反応だったのだが、二日目から一気に反響があった。
お子様ランチを食べた子供が広場で旗を自慢したらしいのだ。
そして五日目の今日。お子様ランチはウチの看板メニュー『焼き鮭定食』と『日替わり定食』の販売数を超え、単独トップに躍り出た。
ブーム、すげぇ。
で、そんな中、気になったのが……領主の旗の不人気さ加減だ。
旗を見るガキ見るガキ、顔をしかめるのだ。
双頭の鷲に蛇の絵が怖いのかな? と、思ったのだが、どうやらそうではないらしい。
「ヤシロ……」
「なんだよ」
ここ数日、仕事も手につかないらしく、ずっと陽だまり亭に張りついているエステラ。そろそろ本気で泣き出しそうだ。
「新しい紋章のデザインをお願い出来ないだろうか?」
「バッ!? 変えるなよ、こんなことで!」
「だって! あんなに! あんなにも子供たちに嫌われている紋章なんて領主に相応しくないだろう!? 領民に愛されてこその領主なのに!」
目がマジだ……こいつ、マジでやりかねないぞ。
「ぁ……こんにちはぁ」
「あ、ミリィさん」
「じねっとさん。お花、持ってきた」
「ありがとうございます」
ここ最近は、カウンターにずっと生花が飾られている。今日はそれを取り替える日なのだ。
親子連れが増えたことで、母親の心も掴んでおこうという作戦だ。
「わぁ! お姉ちゃんの紋章かわいい!」
「ぇ……?」
ミリィが肩にかけているカバンを見つめ、店にいた幼い少女がテンションを上げている。
カバンはギルドからの支給品なのか、ギルドの紋章らしきものが刻印されていた。
「ぁ……、ギルドの紋章? かわいい?」
「うん! かわいい!」
「ぁ……ありがとう」
ミリィが、幼い少女に店の紋章を褒められ照れ笑いを浮かべている。
小さなギルドでも紋章を持っている。
納品する品物に目印として付けるためだ。
陽だまり亭の所属する飲食ギルドにも一応はある。もっとも、飲食店は個々人の個性を重要視する傾向が強く、ギルドの紋章を掲げている店は少ない。いや、ほぼない。なのであまり見かけない。
陽だまり亭にも一つ、あってもいいかもしれないな。紋章。
生花ギルドの紋章は、可愛らしい花と鳥がモチーフの、女の子受けしそうな可愛い図柄だった。
店内にいた女の子たちが、ミリィの持っている生花ギルドの紋章入りカバンに群がっている。
凄い人気だ。
「よし! あれをパクろう!」
「大問題になるわ!」
ブレーキが壊れてしまったらしいエステラは、今後どこに向かってアクセルを踏み込むか分からない。
……俺がなんとかしないと、四十二区の領主は盛大な自爆をやらかしそうだ。
そうなったら領民からの信用を失い、失墜、乗っ取られて、領主交代……そんなことになっちまったら、街門や街道の計画がパーだ! おまけに、下水の権利はエステラが持っているから他区への売り込みが出来なくなって外から金が入ってこなくなる……踏んだり蹴ったりだ。
そんなことはさせられない。
「ちょっと待ってろ。原因を調べてくる」
「ヤシロ……」
すがるような視線を向けるエステラ。
……なんか、お前が雨の日の公園に捨てられてたら拾って帰っちまいそうだよ、俺は。
んで、『ツル』って名前を付けてやるんだ。……『ペタ』の方がいいかな?
なんてことを考えつつも、俺は近くにいたガキを掴まえて話を聞く。
ガキに怖がられないように、笑顔で。
「ちょっと、話聞かせてくれねぇか?」
「ぅわぁぁああああん! ママ~ァ! 怖いオジサンに連れ去られるぅっ!」
誰が誘拐犯か!?
「……ぷっ」
向こうでエステラが笑ってやがる。
……やめるぞ、コノヤロウ。
「あのよぉ。なんで領主の旗が嫌いなんだ?」
「え~……だってぇ……」
ガキはチラリと母親を見る。
話していいかどうかの確認を取ったのだろう。……なるほど。ガキの口を割らせるにはババアを籠絡しなきゃいけねぇのか……
「あぁっ! 今日はなんて美しい奥様が多いんだろう! 思わず来月発売の新作ケーキの試食をお願いしたいくらいだ!」
「あんたたち! この素敵なお兄ちゃんの質問にしっかり答えてあげなっ!」
「あのカッコいいお兄ちゃんに協力してあげるんですよ!」
「生花ギルドなんかどうでもいいから! お兄様のお話を聞きなさいっ!」
「ぅ……どうでも、いい…………」
すまん、ミリィ。まさかここまで効果があるとは思わなかったんだ……今度花束買いに行くから、勘弁してくれな?
それにしても、こっちの世界では母親が強いんだな。ガキの機嫌を取るような真似はしない。強気な態度で、少々理不尽なほどだ。それでいて信頼関係がしっかりと構築されているあたり、母親としての責務をキチンとこなしているのだろう。
古き良き日本を思い出させるね。
肝っ玉母ちゃんが当たり前だった、昭和の香りがする。
そんな怖い母親の言いつけを守り、ガキどもが俺の周りに集まってくる。やりやすくて助かるぜ。
「ジネット」
「はい。準備してきますね」
それだけで察してくれたジネットが厨房へと引っ込む。
仕込んであったレアチーズケーキを試食用の一口サイズに切って持ってきてくれるのだろう。
試食はいつかのタイミングで行う予定だったのだ。
口コミの宣伝力はこの世界でも凄まじいものがあるからな。
じゃあ、ババアはジネットに任せるとして。
「なぁ、お前らは領主の旗が嫌いなのか?」
「…………」
こういう時、否定的なことを言うと怒られる、そうインプットされているのだろう。ガキどもは口を閉ざしている。大人をよく見ている、頭の良いガキどもだ。
なので、こちらもガキではなく大人を相手にするように接することにする。
「正直に言ってくれていい。その方が助かる」
「キラーイ!」
「わたしもー」
「ねー」
うん。本当に正直に言いやがったな。
「何か理由があるのか?」
「…………」
質問を重ねると、ガキは怒られていると錯覚を起こす。
なんとかこいつらを素直にしゃべらせる環境を作らないとな。
「じゃあ……鷲の絵が怖いっていう人~?」
俺自らが手を上げ、ガキの挙手を誘う。
だが、結果は0票。手は上がらなかった。
「じゃあ、蛇が嫌い!」
挙手を誘うが、これも無反応。
どうやら図柄が問題ではないようだ。
じゃあなんだ?
「領主が嫌いって人~?」
と、これも違うらしく、誰も手を上げなかった。
ちらりと視線を向けると、エステラがホッと胸を撫で下ろしていた。
「じゃあ、一体何が悪いんだろぅなぁ? 誰か、分かる人いるかなぁ?」
子供向け番組のお兄さんよろしく、俺は腕を組んで大袈裟な動きで問いかける。
そんな俺を見て、ガキどもの顔に微かに笑みが浮かんでいた。
よしよし。こういうのはこっちの世界でも有効なんだな。
なんなら、あとで数え歌でも教えてやるよ。……あ、翻訳されるんだからメロディーに載らないか? そういうの、どうなるんだろ? ま、今はいいか。
「あのね……」
俺が首をひねっていると、いかにも「わたし、お姉さんなんだよ」みたいな雰囲気を纏ったおしゃまな女の子が口に手を当てて俺に近付いてきた。内緒話の合図だ。
俺はそっとその女の子に耳を貸す。
「……その紋章のついたお手紙が来ると、パパがいっつも嫌そうな顔するの」
「お父さんが?」
「うん……だからね、そのお手紙ってね、きっと…………悪い人からの手紙なんだよ」
周りを見渡すと、内緒話の声がダダ漏れだったようで、ガキどもがみんな「うんうん」と頷いていた。
……なんてこった。
その手紙ってのは、おそらく徴収の知らせだ。
毎月の税金を、売り上げや収穫高に合わせて徴収する、そのための資料に違いない。
そりゃ、嫌な顔するよな。後払いだもんな、税金って。いかにも「持って行かれる」って感じだ。
そうでなくても、領主からの手紙なんて、届くだけでドキッとしてしまうものだ。
日本で言うなら、税務署や警察から手紙が来るようなもんだ。
「何か仕出かしちまったか?」と一瞬ひやっとする、あんな感じなのだろう。
そういう親の表情を、このガキどもはしっかり見ていたってわけか……
こりゃ、誤解を解くのは難しそうだ……
「ちょっといいですか、みなさん」
密談になっていない密談を繰り返すガキどもの前に、ジネットがしゃがみ、目線を合わせてゆっくり語りかける。
おしゃべりしていたガキどもがピタリと黙り、全員ジネットへと意識を向ける。どいつもこいつも笑みを浮かべている。
……俺があんな苦労して懐かせたガキどもを、微笑みひとつで手懐けやがった。
やっぱあれか、おっぱいは最強なのか?
「領主様は悪い方ではありませんよ。それどころか、みなさんが毎日楽しく暮らしていけるのは、領主様がたくさんたくさん頑張ってくださっているからなんですよ」
「……ジネットちゃん……」
向こうでエステラが感涙している。……が、ジネットはお前を庇っているわけじゃないからな? ジネットはエステラが領主の娘だって知らないわけで。単純に、そう思っているだけだ。
「なぁ、ガキども。ポップコーンは好きか?」
「「「すきー!」」」
「じゃあ、ケーキは?」
「だいすきー!」
「ちょうすきー!」
「めがっさすきー!」
「お子様ランチは?」
「「「すきぃぃぃぃぃぃーーー!」」」
ガキどもが魂を削ってるのかっていうくらいのフルパワーで叫ぶ。
ちょっと、店が軋んだ……
「それ全部、領主がいなかったら食べられなかったんだぞ」
「……え?」
「うそ……」
「そうなの?」
「あぁ。『屋台出していいよ~』って言ったのも領主だし、ケーキに使う砂糖を使えるようにしたのも領主だ。そして、このお子様ランチの販売も、領主の許可を取ってある」
もっとも、領主『だけ』の力で実現したわけではないけどな。そこはお口チャックだ。
……って、心の中までガキに合わせる必要ねぇか。
「下水を作ったのも領主だし、大雨の時に飲み水を用意したのも、薬を用意したのも、みんな領主なんだぞ」
「……へぇ」
「なんか、すごい」
「そう! 凄いんだよ、領主は!」
俺の後押しで、ガキどもが己の価値観を疑い始めている。
領主は悪いものじゃない…………かも、しれない。
この『かも』が重要なんだ。
これまで聞く耳を持っていなかったガキどもの心の隙間に、付け入るスペースを作っておく。
あとは、そこを攻めてやればガキくらいコロンと騙くらかせる。
「でも……ねぇ?」
「うん……父ちゃん、『また税金上げやがって、あのクソ領主!』って言ってたし」
「へぇ。君、名前はなんていうんだい?」
「ジネット。今すぐこの怖いお姉さんを場外へ退場させてくれるか?」
「はい、かしこまりました。さぁ、エステラさん。ここはこらえて」
「でも! あいつが! あいつがぁ!」
「エステラさん! 今はヤシロさんにお任せしましょう!」
エステラがジネットに引き摺られて店内の最奥へ連行されていく。……外に放り出してやってもよかったのに。
「まだ、ちょ~っと信じられないかな?」
「……うん」
「わたしも……」
「ちょっと……」
「そうか。そうだよな。すぐには難しいよな」
俺はお前たちの味方だぞとアピールするため、大いに同意を示しておく。
実はすでにガキたちは俺に一つ騙されている。
ガキどもは領主がいい人だと『信じられない』と思っていた。
だが、俺が「ちょっと信じられないかな?」と言った時点で、『ちょっと信じられない』と、自分の意見を塗り替えられたのだ。そして、それを自ら肯定した。
これで、領主への不信感を『ちょっと』だけに抑えられたのだ。自分で肯定したのだから、ガキどもがそれを疑うはずはない。まして、味方である俺までもが「そうだよな」と言っているのだ。
領主は『ちょっと』信じられない。それが今のガキどもの共通認識だ。
あとは、足場のぐらついたこいつらの価値観を徹底的に覆してやれば意見が百八十度変わるだろう。
「じゃあ、明日。もう一回お子様ランチを食べに来てくれないか? 領主がお前らガキども…………君たち子供の味方だっていう証拠を見せてやるから」
「あした?」
「もう一回?」
「そうだ」
大きく頷いて、俺は口に手を当てて、ガキどもに集まるように手で合図した。
内緒話の合図だ。こういうのを、ガキどもは好む。
案の定、全員がわくわくとした顔で俺に群がってくる。
全員がしっかりとこちらに集中していることを確認して、俺はこっそりとガキどもに言ってやる。
「今、お母さんにおねだりすると、明日もお子様ランチが食べられるぞ」
「「「「――っ!?」」」」
それはいいことを聞いた! と、ばかりに、ガキどもは弾かれたように母親のもとへと駆けていく。
「ままぁ! あのね、いいお兄さんがね、明日も来いってー!」
「領主様がねー!」
「証拠がねー!」
おねだりの理由はいくらでもある。
難攻不落の母親たちも、この場所、この状況、このタイミングで言われれば了承せざるを得ないだろう。
なにせ、『無料でケーキの試食をさせてもらっている店の中で』『己の不徳の致すところにより領主に反感を抱いていると発覚した我が子が』『その不信感を払拭するために力を貸してくれる善良な、しかも先ほど自分たちで優しいだ、いいお兄さんだと言っていた人間に』『明日も来いと命令された』のだ。
ついでに言えば、『他の奥様の目もあるし、あまりセコいことは言えない』って環境も追加出来るな。
この状況で「ダメです」と言える母親は、そうそういない。
「もう……しょうがないわねぇ」
「それじゃあ、また明日ね」
母親が陥落し、ガキどもが「やったぁ!」と歓喜の声を上げる。
これだけでも、領主の株がちょっと上がったんじゃねぇか?
「ではみなさん。一度席に着いてください」
パンパンと手を叩き、ジネットがガキどもに呼びかける。
爆乳パワーによるものか、ガキどもはジネットの言うことには素直に従う。
「これまで領主様がわたしたちのためにしてくださったことは、なんとなく分かりましたか?」
「「「はーい!」」」
「この数ヶ月で、みなさんの生活が格段に楽になったのは、領主様の努力の結晶と言えます」
念押しで、ジネットが説得を始めた。
母親たちも、うんうんと話を聞いている。こういう話をする場所もないだろうし、ちょうどいい機会かもしれないな。
やはり、領民の支持があってこそ、領主はその力を遺憾なく発揮出来るというものだ。
「ジネットちゃん…………優しいなぁ」
両目をうるうるさせて、エステラがジネットを見つめている。
どれ、俺も座ってジネット先生のご講釈でも拝聴しようかねぇ…………と、油断した時だった。
「ですが、それらを最初に企画し、誰よりも熱心に働きかけた素晴らしい人がいます!」
……凄く、嫌な流れになってきた。
「物価の安定も、砂糖の流通も、下水の知識も、ポップコーンやケーキ、そしてこのお子様ランチ……いいえ、この店で取り扱っているメニューのほとんどを考案してくださった、素晴らしい方がいらっしゃるんです!」
……あれ、俺、風邪かなぁ…………悪寒が止まらないや。
「その方は、謙虚で思慮深く、慎みを持たれたお方なので、あまり人前に出るようなことはされません。ですが! わたしたちは、その方の存在を、功績を、優しさを、決して忘れてはいけないのです!」
「おねえちゃん! その人、どんな人なのー?」
……あぁ、やめてくれ名も知らぬ幼女よ! 今そんなことをジネットに聞いたりしたら……
「だーれ?」
「どこにいるのー」
「あいたーい!」
黙れガキども!
見ろ! テメェらが煽るから、ジネットの頬が若干紅潮してきてんじゃねぇか! テンション上げさせてんじゃねぇよ!
「「「おしえてー!」」」
「分かりました!」
分かるなぁ!
「その方は…………あの人ですっ!」
そうして、ジネットが指を差した先にいたのは…………エステラだった。
「えっ!? ボ、ボク!?」
「あ、あれ!? ヤシロさんは!?」
俺は……間一髪テーブルの下に潜り込んで難を逃れた。
「うおー! この人かぁ!」
「にいちゃんすげー!」
「かっこいいー!」
「いや、あの、ちょっと待ってくれないか君たち。これは誤解で……まずボクは男じゃなくてね……!」
「あ、あの、みなさん! 違います! 人違いです! その方じゃありません!」
「にーちゃん! ケーキありがとー!」
「おにいちゃん、すきー!」
「わたし、およめさんになってあげるー!」
「いや、あの、待って! だからボクはっ!?」
「……エステラ」
ガキどもに反論しようとするエステラの背後に躍り出て、俺はすかさず耳打ちをする。
「子供に人気のある領主って、素敵だな」
「え…………そ、そうかな?」
エステラがにへらっと相好を崩す。
「あ、ヤシロさん! 一体どこに……!?」
「あ、すまん、ジネット。俺ちょっとベッコんとこ行ってくるわ。至急やらせなきゃいけないことが出来たから」
「え? ぅえ!? いや、でもまだヤシロさんの素晴らしさをみなさんにお伝えしている途中で……!」
「んじゃ! あとはよろしくな! あ、マグダとロレッタには店に戻るよう伝えておくから!」
「あっ! ヤシロさんっ!?」
俺は急ぎ足で陽だまり亭を後にする。
冗談じゃない。
あんな場所で大々的に英雄に仕立て上げられて堪るか。
俺は詐欺師なんだぞ?
この世界で詐欺を行うための情報収集をする傍ら、この世界で暮らす地盤固めをしているところなんだ。
有名人になっちまったら、詐欺なんか出来なくなるだろうが。
この街を変えたのは領主。それでいいんだよ。歴史なんてのはな、その時代のトップが代表して名前を残せばそれでいいんだ。
大阪城を建てた大工の棟梁の名前まで覚えさせられてちゃ、受験生は全員受験ノイローゼにかかっちまうぜ。
己の身に降りかかりかけた厄災をするりとかわし、俺は陽だまり亭から遠ざかっていく。
騒ぎが落ち着くまでは帰るのよそうっと……
大通りでマグダとロレッタに話をしてから、先日情報漏洩をしたことが発覚したベッコに制裁を加えに行くとするか。
明日の準備も、しなきゃいけないしな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます