156G. リザレクション ゴーストライダー
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天の川銀河、ノーマ・
カジュアロウ
アクエリアス星系を目指し進んでいる260隻の臨時船団、その最後尾の宇宙船が爆発した。
船尾ブースターエンジンに直撃を受け、二等辺三角形の横に長い船体が半ばから爆散する。
一瞬の出来事だ。
全幅500メートルの安くはない宇宙船、それに満載していた300人の乗員の命が失われた。
メナス群の戦艦型5万体は、それだけで満足しない。
緑の荷電粒子弾を横殴りの雨のように放ち、全ての宇宙船を飲み込もうとしている。
宇宙船団は全速力で逃げながら、目一杯船を振り回し回避運動を取り、シールド出力を限界まで上げ攻撃を防ぐが、どちらも力及ばずだ。
後方に砲を向けられる船は全力で撃っているが、集団として火力を統制できない上に逃げながらの射撃は散発的にしかならず、9割がメナスのシールドに受け流されている。
「ちくしょうまた一隻喰われた!」
『き、救助作業は……!?』
『ケツにメナスが喰い付いているんだぞ! んな暇あるか! それにどうせアレじゃ誰も生きてねぇ!!』
どんな戦列でも崩してみせるというクソ度胸で鳴らしたエイム乗り、PFC『ブラッディトループ』のブラッド・ブレイズでさえ、冷や汗が止まらない鉄火場だった。
特別製のビーム砲は、粒子加速器が溶解する程のオーバードライブを強行した末にメナスに目を付けられ破壊されていた。
そして今、たっぷりと手をかけ愛用してきた上下双胴の装甲母船、『ブラッドブラザー』が何十という大穴を空けられ大破する。
「ぉおおお!? 俺たちの船までッ! このイカれマシンがぁあ!!」
赤いエイムに乗る巨漢が、その逆立った揉み上げの如く激怒していた。
留まるところを知らない衝動に任せ両腕に持ったレーザー砲を乱射するが、メナスの艦載機型を2機ばかり落とすに留まる。
揉み上げ巨漢、ブレイズとてひとつの
怒りと冷静な判断を分ける
「ッ……クソがぁ! ヘムス! グローブ! 全員の退船を援護しろ! 俺たちはそっち優先だ!
ブラッディトループは暫く他の船の援護はできない!!」
両肩にシールド発生ブレードを装備する深紅の重装甲機は、部下と共に母船から脱出する小型艇を護衛する。
だがその先に生存の道が見えず、怖いもの知らずで通っていたブレイズもまた、破滅の瞬間を予想せざるを得なかった。
ただ一つの希望は、
「おいお嬢さまよぉ……。『援軍』っての期待していいんだろうなぁ!?」
聖エヴァンジェイル学園の赤毛のお嬢様、村雨ユリという少女が全船団に通達した、メナス群を殲滅し得ると言う友軍の存在だけである。
◇
「もう竜骨がもたんぞー!」
「脱出だぁああ! 急げ急げ急げぇええ!!」
「バイタルパート破られたぁ! ダメコンでどうにかなるもんじゃねぇ!!」
「もうコントロールはオートに投げろ! どのみち船はもうダメだ!!」
超巨大空母のような長方形のプレート型の船体。元々は軌道上プラットホームだった改造宇宙船は、ビーム弾の直撃を無数に受け穴だらけにされていた。
背の低い筋肉質なロアド人たちが、そこかしこから火を吹く船内を突っ走っている。
国家に所属しない独立企業、ドヴェルグワークス所有の宇宙船『モリアルースト』に乗っていた50人ほどは、
「えーいクソッタレぇ! ギームのヤロウになんて言うかぁ!!」
チーム『ストレングスクラフター』のリーダー、フロックも肩がブースターになっているエイムに乗り、開かなくなった格納庫扉を強引に焼き切り真空中に飛び出す。
外は既に乱戦となっており、節くれた殻を
もう少し出て行くのが早かったら、フロックの機体が襲われていただろう。
3発立て続けに暗緑色のビーム弾が飛来し、また母船に直撃し爆風がエイムを揺さぶった。
「全員脱出したボートを守れぇ! 他の船まで誘導しろ!!」
『だがッ……だがどうするよフロック!? こんな状態でどこに逃げる!!?』
ロクなエネルギーシールドも持たない簡素な四角い宇宙船に取り付き、周囲を守ろうとするエイムたち。
乱暴な言動ながら今まで力強くチームを引っ張ってきたフロックにも、今回ばかりは生き残る目が見付からなかった。
◇
船首が縦の円盤になっている逆カタツムリのような船が、船尾から連鎖爆発を起こしている。
そのすぐ前方では、前半分が横長の箱型となっている宇宙船が、中央から真っ二つに折れ曲がっていた。
コーンのように無数のコンテナを纏わり付かせた貨物船は、それらを四方にバラ撒きコントロールを失いながら船団から離れていく。
至近距離で入り乱れるメナス艦載機と人類の宇宙船、それに防衛に当たるヒト型機動兵器。
赤い光線と緑の光弾が飛び交うが、損害は一方的だった。
秒毎に宇宙船はダメージを増やし、煙を噴いて動きを乱し孤立したところを狙われる。
非常灯でオレンジに染まる船内から、あるいはメナスが無数に飛び回る宇宙空間から、人々は追い詰められたネズミのように逃げ回っていた。
問題は、どこにも逃げ場などないということだろう。
「うわぁあやられた! やられたぞ!!」
「早く逃げろ! もっと飛ばせよ!!」
「わぁあああん!!!」
完全に定員オーバーした救難艇内は、阿鼻叫喚の有様だった。
狭い箱型の客室の中はギュウギュウ詰めになっており、一応区切られている操縦席の内側にまで溢れてきている。
暑苦しさ、窮屈さ、身動きは取れず、外の様子は分からないまま、爆発の衝撃波が艇内にまで響いていた。
パニックになりながらも自分ではどうにもできない、そんな恐怖を際限なく増幅させてしまう状況。
搭乗客はただ幸運を祈る以外になく、そんな大勢の命を預からなければならないパイロットも必死で生き延びる先を探していたが、
ガツンッ! と今までにない激しく重い衝撃が加わったかと思うと、コクピットの舷窓いっぱいに金属ブロックの集合のような巨人が映り込んでいた。
「うわぁああ!?」
「リバースだ! リバースリバース! 振り払え!!」
コクピットの上部装甲に爪を立てるメナスグラップラー。それだけで船体に穴が空き、空気漏洩の警報が鳴り響く。エネルギーシールドなど無いも同じだった。
パイロットふたりは救難艇の非力な推力を振り絞って逃れようとするが、強固にロックされているように船体が暴れるだけに終わる。
開けっ放しなメナスの口腔から荷電粒子の光が漏れ、見て見ぬ振りを許されない船内の者たちは、それに飲み込まれそうな錯覚を覚えていた。
「だぁああああー!!!!」
救難艇の後方からブッ飛んできたスレンダー金髪娘、クラウディアのエイムがそのメナスの顔面にビームブレイド叩き付けていたが。
頭部が欠けながらも
だが、直前にメナスは救難艇に荷電粒子弾を放っており、船体側面が大きく
一撃での全滅こそ免れたが、船内に満載した乗員の犠牲の程度は不明だ。
通信から聞こえるのは、もはや悲鳴のみ。状況を問いかけても、意味のある言葉は聞こえてこない。
自分が生き残るだけでも限界近いのに、目の前の誰かは放っておいたら確実に助からないのだ。
圧し掛かる命が重過ぎる。
だが、クラウディアには迷っている時間も立ち止まっている余裕も一切無い。
涙を吹くこともできず、死力を尽くしてできる事をするしかないのだ。
「ッ……! レスキューボートが中破してる! すぐ収容して!!」
『もう限界だよッ! 収容人数300%超えてるし!!』
「見捨てられないでしょ!? ハンガーにでも詰め込んでよ!!」
『だからそれ含めて限界だっつってんだろ!!』
ホワイトグレイに濃紺の洗練された船体、聖エヴァンジェイル学園騎乗部の船、ディアーラピスは奮闘していた。
上下4ヵ所に搭載されたレーザー砲台は、30メガワットという軍用レベルの出力で全方向を自動攻撃している。
いかんなく発揮される、戦闘艦並みに仕上げられた贅沢仕様な性能。
しかしそれも、膨大な数のメナスと溢れる要救助者たち相手では、手に余る状況だ。
救命艇の直上に付けるディアーラピスが、エイム用の下部扉を開き乗員を受け入れる体勢に。
必死に真空の中を泳ぐ人々を、騎乗部のメイヴ3機が懸命に守っている。
「シールドジェネレーターが限界だって! どうするのこれ!? オーバードライブってした方がいいの!? していいの!? ダメなの!!?」
「え!? え!? 船内環境のアラート!? 何これどうすればいいの!!?」
「環境システムはセミオートでやらせとけ! 非常用リアクター起動! とりあえずシールドに電源回せ!!」
「あ、あの他の乗客の方が『脱出した方がいいのではないか』って訴えが……!!」
「シスターは『この状況で外出るとか自殺だバカ』ってそのバカに言ってやって! ロニーステアラー!? ディアーラピスはそろそろ付き合えない!!」
「レーザーがオーバーヒートしましたよ!? 冷却中で終わるまで80秒! こんな時に!? もっと早く!!」
「ユリくん! レーザーがオーバーヒートでしばらく撃てない!!」
『わたしも出る!?』
『サキ様は船内にいてください!!』
『シールドは船団の逆側に絞ってエイムでフォロー! ロゼはエクスプローラー船団に援護を要請して!!』
高性能とはいえ、限界領域での稼働を続けているディアーラピスは各部で悲鳴を上げていた。
メナスの荷電粒子弾を受け止めるエネルギーシールドは、過負荷が続き寿命が来た蛍光灯のように瞬いている。
過熱したレーザー砲は白煙を噴き緊急冷却していた。熱を逃がす水蒸気は、火が付く温度の気体だ。
避難してきた乗員を受け入れ続け、船の生命維持システムは処理容量を超えている。一時的には問題ないが、酸素供給や生活用水の浄化、食糧生産能力が足りなくなる為、長期航海は不可能だった。
非常事態に次ぐ非常事態に、シールド管理の黒ウサ、火器管制の片長髪、船内システムとケンカする銀色ロボ子、それに苦情対応のシスターが四苦八苦している。
それらを下支えする柿色眼鏡少女も、臨時船団の主体となるエクスプローラー船団との連絡と同時並行で死ぬ思いだ。
赤毛の指示でディアーラピスはエネルギーシールドを片側のみとし、予備動力を併用しながらジェネレーター負荷を下げる。
当然防御力も大きく下げるので、待機中のイノシシ女子が飛び出そうとしたところを護衛ニンジャに止められていた。
だが、これらも根本的な問題解決とは程遠い。
周囲は絶え間なく宇宙船が爆発を繰り返しているド修羅場である。
「1,000メートル級のメナスが進路を変えます。1分後に進路が交差する模様」
「減速……いや自殺行為か。進路はこのまま、ギリギリまで他の船と速度を合わせて加速だ!」
メナスは攻撃の手を緩めない。機械的に人間を追い詰めるだけだ。
戦艦型メナスが動きを変えたのを、船のレーダーシステムと紫長身女子が感知。
宇宙船の群れに体当たりしてくる、メナスの進路だった。
副長の王子様、エルルーンは増速を判断するが、他の船がディアーラピスに付いて来られる程の速度性能を持つかは疑問である。
かと言って、船団から離れて単独で離脱するのは最後の手であり、これも合理性を求めた結果の判断ではあるが。
既に加速力の限界に来ている船は、逃げることも回避も出来ずに船尾からメナスの巨体に追突されていた。
ブースターエンジンが
ヤケクソのように逃げる宇宙船がレーザーを撃つが、集束が甘く単発なのでシールドに止められて終わった。
丸く突き出た、生物の頭部のような船体。
その巨体だけでも十分に宇宙船を蹴散らせただろうが、メナス戦艦は正面に並ぶ開口部からビーム弾を連射した。
これまでの比ではない攻撃密度に
「ランコくんオート回避!」
「は!? はひ! オートコントロール! 障害物の回避設定を最大に!!」
致命的な非常事態に、副長王子がおかっぱネコ目の娘に大急ぎで指示を出した。実は赤毛からも同様の指示が出ていたが、エルルーンの方が少し早い。
ビックリしたネコのようになっていた操舵席の少女は、大汗をかきながら船に命令を送り全機能を回避運動に集中させる。
本来、ハイソサエティーズが乗る事を想定した
だが今はそれを完全に投げ捨て、安全装置を解除し船内の乗員を振り回し、船体保護を最優先した急機動を実行。
斜め後ろから雨のように降り注ぐ暗緑色の光弾、それに進路を塞ぐ宇宙船と拡散する爆風を潜るように、ホワイトグレイの宇宙船が下方向へと一気に進路を偏向する。
「うわッ!? うわぁあああああ!!」
「ぎゃぁああああ!!」
「イヤーおかあさーん!!」
振り回され、浮かび上がってしまう船内の乗員は大パニックだ。
エネルギーシールドが無いため船体表面に無数の残骸が激突し、衝撃が船体を通して内部に伝わってくるのも危機感を煽り立てた。
真っ二つになった宇宙船の中央を強引に通り抜ける際には、その端が引っかかりディアーラピスの舷側装甲を派手に引っ掻き傷付ける。
船の障害物回避システムが追い付かず、火を吹いて飛んできた宇宙船のエンジンに正面から激突。
重力制御による緩衝限界を超え、
「ッ……みんな怪我は!? キアくん!」
「あうー……死んじゃうかと思いましたねぇ。怪我したヒトは死ぬ前にどうぞー」
嵐を抜けたように、フッと遠退いていく振動。
オペレーター席にしがみ付き
薄紫髪の流血好きも、怪我人を楽しんでいる場合ではなかった。
目を白黒させる他の少女たちも、やや混乱しているが大きな負傷をした者はいない模様。
だが、例え仲間が死のうと、そこが一瞬も気を抜けない戦場であるという自覚が、お嬢さま達には決定的に足りていなかった。
『ディアーラピス! すぐ後ろに来てる! 今すぐワープ!!』
「は――――」
赤毛娘が通信で怒鳴った直後、ディアーラピスに乗る全員が跳ね上がる。
船体の後部舷側に付いていた補助推進器、長方形のエンジンナセルが小型メナスの体当たりを受け、大破しどこかへ飛んで行った。
3発4発と続けて直撃する荷電粒子弾に、船尾ブースターは完全に爆発、エネルギーシールドは今度こそ力尽き、ついに船体への直撃を許してしまう。
船内の空気循環装置が、一画ごと消滅した。
「きゃぁああん!!?」
「ぐぅッ……!? なに!? どうなった!!?」
「ってぇ~……! あ? ちょっと待て『オフライン』ってなんじゃいこのクソ忙しい時に!?」
「ふぇえええ怖いですよぉ!!」
「船体上部の外殻部にダメージ警報……。あの、これバイタルパートまで破損してます」
「うぇッ……! ふぅうう! ま、まだ死にたくないですぅう!!」
既に死に体の宇宙船であっても容赦なく荷電粒子弾は降り注ぎ、ディアーラピスは滅多打ちの状態に。
船のコントロールが次々と効かなくなり、ロゼッタがフル回転でどうにかしようともがいている。
だが、どうにもならないダメージの程度を見て、比較的動じないローランでさえ紫の肌を青
単眼女子やマシュマロ少女など気の弱い組は、恐怖のあまり泣きじゃくっていた。
「うそ……!? みんな大丈夫なの!? ディアーラピスコントロール! ロゼ! エル会長!!」
嵐の中で必死にメナス艦載機を迎え撃っていたクラウディアであるが、見るも無残な姿となる母船の姿に一瞬だけ戦場を忘れてしまう。
しかし幸か不幸か、甲虫のようなメナスが船に取り付いたのを見て、カッと頭に血を上らせ我に返った。
「ッ……! 汚い手で触るな!!」
船とメナスの方へ突っ込み、クラウディアのメイヴがアサルトライフルと腕部レーザーの同時撃ち。
エネルギーシールドを叩いた瞬間、メナスの背の装甲が開き内部からキネティック弾のような誘導弾子が大量に飛び出した。
「ッぅううううううううう!!」
群がってくるトゲのような物体から、リバースブースター全開の急速後退で逃げるクラウディア。背後からの荷重で前へ吹っ飛びそうなのを細い手脚で耐える。
両腕レーザーをパルスモードで高速連射し、メナスのキネティック弾を迎撃。赤い光線が閃いたかと思うと、蛍光色の緑の爆炎が広がっていた。
全弾撃ち落とし、他のキネティック弾無し。
すぐさまディアーラピスに張り付いたメナスを排除しようとペダルを踏み込んだが、逆に相手の方からクラウディアへと飛び付いて来ていた。
「あいッ……!? ひゃうッ!!?」
煙幕の中から突然現れた相手に、ほんの一瞬反応が遅れる。衝突警報すら間に合わないタイミングと速度だ。
この僅かな間が致命的で、咄嗟に受け止めようとした左腕マニュピレーターへ接触すると同時に、メナスが自爆。
吹っ飛ばされたメイヴが大ダメージを受け縦回転していた。
「ぬッ!? ぬふぅううううう!!」
自動安定機能に頼らず、自力で計器の情報から姿勢を制御するクラウディア。のんびり自動制御に任せておける場面ではない。
背面と脚部のブースターを断続して吹かし回転を止めると、目の前を制御を失い斜めに傾きながらディアーラピスが通り過ぎていった。
通信からは悲鳴しか聞こえず、船尾側では誘爆が続いている。
見渡せば、損傷していない船はないような有様だった。
メナスの攻撃は続いている。ディアーラピスに張り付いたのと同型のメナスに群がられ、派手に爆散している宇宙船もある。
食い荒らすように船の群れを蹴散らすメナス戦艦型は、念入りに押し潰すように荷電粒子弾の砲撃も続けている。
どう見ても、もはやどうしようもないほど終わりの光景だった。
「ぃ……いや! こんなのヤダ! せっかくみんなと……。こんな終わり方いやだ!!」
考えなどなく、クラウディアはペダルを踏み込み片腕の無いメイヴに推力を振り絞らせた。
バランスの悪い機体が横に回転するが、それを強引に捻じ伏せディアーラピスの方へと
メナス戦艦型の巨体が進路上に割り込んでくるが、加速力に任せてそれを追い越し、正面からアサルトライフルをフルオートで撃ちっ放しにした。
当然、到底エイムの火力でどうにかなる相手ではなく、逆にディアーラピスとそれを庇う位置のクラウディア機共々、無数の荷電粒子弾が降り注ぎ、
そのエイムと宇宙船の背後から、青いレーザーが一斉掃射される。
「なに――――!?」
残像を生み真空中を薙ぎ払う、幾筋もの青色光線。
人類の通常規格ではないレーザー兵器は、メナス戦艦タイプのエネルギーシールドを易々と切り裂き側面を撫で斬りにすると、時間差で大爆発を起こさせる。
ワープアウトと同時にレーザーを連射しているのは、大きく翼を広げたような宇宙船だった。
胴長の艦体で、艦首は楔のように角ばり鋭利な形状となっている。
艦体上部が甲板となっており、中央から船尾にかけて
艦尾には、四角いメインブースターエンジンのノズルがメイン4発、サブに4発。
更に、艦尾に密着する形で、ブースターを3発内蔵した四角いエンジンナセルが外向きの角度を付けて左右に2基。
誰が見ても超大推力の船だと分かる。
そんな戦闘艦の最大の特徴は、艦体との基部を兼ねるゴツく分厚いエンジンナセルに支えられた、長さの異なる3振りのシールドブレードだった。
前進翼のように艦の前方へ向いた、片刃の剣に似たシールド発生ユニット。最も長いブレードを中央に、艦首側にやや短いブレードと、艦尾側へ向いた最も短いブレード、という配置。
『遅いッ! それでも銀河最強の強襲揚陸艦か!!』
メナス艦載機を片っ端から叩き落していた赤毛の女王が怒鳴り付ける。
翼を広げた戦闘艦は、舷側や艦底から屈折するレーザーを全方位に振り回しながら唯理のメイヴに接近。
忠実な犬のように傍に控えようとする、が。
『そのまま前進加速! アサルトモードでメナスにブッ込め!!』
『マスターコマンダーの命令を確認、アルケドアティス、
ブースター最大加速、ブレードアーマー固定位置へ、グラヴィティーシールド、フォースシールド、出力最大、ジェネレーター全力運転中。
艦首衝角、センサーヘッド閉鎖、グラヴィティーバンカー、フルチャージ、激発待機中。
目標アルファとの物理接触にオートリアクション』
赤毛のメイヴがアサルトライフルを向ける方へと、翼を広げた強襲揚陸艦は最大加速。
更に、攻撃目標へ急接近しながら、その宇宙船が変形する。
艦尾側の両舷に接続されたエンジンナセルが、真っ直ぐ後方を向き艦体とブースター角度を合わせた。
同時に、エンジンナセルを基部としていた長大なシールドブレードも動き、最も長い中央のブレードが艦首へ沿うような形で固定される。ほか2振りのブレードも、中央のブレードと艦体へ密着するようなポジションへ。
畳まれた翼を装甲のように纏い、船が一回り膨れ上がっていた。
艦首の上部、突き出た額のような丸いセンサーユニットと、
変貌を終えた強襲揚陸艦は、短く、無骨で、頑強な、敵を鎧ごと突き徹す剣の如く。
フォースフレーム
どれほどの地獄にでも真っ先に殴り込む
「メナスへ攻撃を継続! 船団を攻撃するメナスから優先して排除しろ! わたしはカタパルト側から艦内に戻る!!」
『上甲板カタパルト、ゲート開放準備。スペシャルオート継続中』
爆発のド真ん中を突っ切り、粉塵を引き摺り重装甲の強襲揚陸艦が姿を表す。
メナスの反撃も激しいが、極めて高出力のエネルギーシールドと堅牢な装甲の使い分けで『アルケドアティス』は小揺るぎもしない。
旋回する強襲揚陸艦は、絶え間なく荷電粒子弾の砲撃に
悪夢のようなメナスの暴威を、全く何の前触れもなく撃滅していく正体不明の戦闘艦。
それを前に完全に思考停止していたクラウディアは、自分が何度も通信で呼びかけられているのにしばし気付けなかった。
『クラウディア部長! クラウディア! こらディー!!』
「ひゃい!? え!? ゆ、ユリさん!!?」
目の前、コクピットの全周画面いっぱいに現れるのは、村雨ユリの専用メイヴだ。
大きな損傷はないようだが、装甲表面には直接の爆風や余波に
だが損傷度合いで言えば、クラウディア機の方が深刻だった。
メナス艦載機の自爆攻撃による左腕マニュピレーターの破損に加え、その後のメナス戦艦型からの砲撃で頭部と右脚ランディングギアを失っている。機能的にも、大分満身創痍だ。
『その機体はもう使えない! 今すぐこっちの機に乗り移れ! アルケドアティスで別のエイムに乗り換えるからこっちは任せる!!』
「は? え? あ、『アルケドアティス』??」
『あの船!』
胸部同士を押し付けコクピットを開放し、相手のエイムに乗り移る華奢な金髪少女。赤毛娘に手を取られ引っ張り込まれる。
唯理のオペレーターシートの下からせり出てくるサブシートにクラウディアが着いた。
「ユリさんが言ってた『援軍』ってもしかしてあの船なの!? 連邦軍!!?」
「いや国連平和維持軍! あの中にわたしのエイムがある……!!」
事態に全く付いていけずに目を白黒させているクラウディアだが、村瀬唯理は強襲揚陸艦との合流を優先する。
荷電粒子弾とレーザーの乱れ飛ぶ中へブースター全開で殴り込み、擦れ違いざまにメナス艦載機を撃墜していくと、衝突する勢いで甲板上に着艦。
甲板の先にあったカタパルトの扉に滑り込むと、最奥のエレベーターからエイムごと格納庫へ下りた。
20機はエイムを格納できる広さがあったが、その格納庫に駐機されているエイムは、一機のみだった。
赤毛の少女は重力制御によるホバリングで機体を滑らせると、その一機の目の前で制止する。
「なに? この……エイム。これが、ユリさんの??」
再び開放されたコクピットハッチから、クラウディアは呆然とそれを見上げるほかなかった。
盛り上がり、鍛え上げた筋肉のように大きく隆起した装甲。
肩部や脚部、胸部に配置された大量のブースターノズル。
明らか高出力を発揮する為と分かる関節部
スマートでありながら無骨極まる全体のフォルム。
そして、幾重にも伸ばされた頭部センサーアレイや、眼部光学センサーが形作る狂貌。
この短期間で何百体というエイムを見て来たクラウディアであるが、細かいスペックなど知らずとも、その機体が桁違いの存在であるのは確信できた。
そんな怪物が、胸の装甲を引き上げコクピットを開き、赤毛のオペレーターを迎え入れる。
「ディーはこの船の甲板上からメナスの迎撃を頼む。騎乗部の皆はディアーラピスの直掩を継続!
ロゼ、すぐにメナスを片付けるからもう少しそっちは頑張らせろ!」
「『ディー』って……。わ、分かったけど……メナスを片付けるって?」
『こっちはもう船を捨てるしかねーぞ! セーフガードも死んでる! 攻撃は止んだけどエアも漏れてるからそんなもたないからな!!』
慣れた様子で灰白色に青のカラーリングの
ディアーラピスの方は、オペレーターが言うにはまだギリギリで生存しているという。
「さて……? ちょっと久しぶりだけど頼むぞエイミー……それに、征くぞイルリヒト!!」
フェデラルアームズ社製、スーパープロミネンスMk.53改。
そのフルカスタム機『イルリヒト』は、エレベーターでカタパルトの発進位置へ。
灰白色に青のエイムは、脚部ランディングギアを艦床の射出機に固定。
正面ゲートが開くと、そこはアルケドアティスの甲板と、光が乱れ飛ぶ最前線の光景だ。
それを見て一瞬、帰って来た事を実感する
だがそんな感傷に長々とは浸らず、船のシステムにカタパルトの射出を要請すると、機体を押し出す初速に乗り最大加速で最激戦地へ突入していった。
【ヒストリカル・アーカイヴ】
・竜骨
船舶の基礎構造体において船首から船尾を貫く最も重要な部材。または船全体を支える最重要項目を意味する概念。
・プロミネンス(スーパープロミネンスMk.53)
連邦圏の軍事兵器開発会社、フェデラルアームズが製造した汎用ヒト型兵器の傑作シリーズ。連邦軍での制式採用実績も持つ。
際立った特徴が無い半面、駆動系出力、ブースター出力、ジェネレーター出力、装備の互換性、操縦性、アビオニクスシステムと、これらのバランスが良く現場のオペレーターからの評価も高い。
SプロミネンスMk53改『イルリヒト』は、戦闘後に大破した機体をキングダム船団が技術力を結集し改修。
基本性能を踏襲し、限界領域での格闘戦を念頭に置いた各種強化が施されている。
目下人類における最高水準の戦闘性能を持つエイム。
イルリヒトとは鬼火の意味。
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