155G.ロードランナー ワイルドハント

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 銀河に冠たる連邦が中央星系を落とされた為、全銀河の秩序が機能不全を起こし混乱状態に陥っている。

 アクエリアス星系にあるお嬢様の隔離施設、聖エヴァンジェイル学園に戻ろうと急いでいた女子生徒たちは、立ち寄ったカジュアロウ星系でメナス襲撃に出くわす事になった。

 星系艦隊がメナスを排除してくれるのを期待したのも束の間、圧倒的な攻撃性を見せる異形の兵器群の攻撃により、艦隊は一方的に蹴散らされることに。


 聖エヴァンジェイル学園騎乗部と創作部の宇宙船、ディアーラピスは臨時に編成された船団と共に、急遽星系からの離脱を決定。

 星系を壊滅させるほどのメナス群から一刻も早く距離を取る為に、決して効率も良くない緊急の短距離ワープまで使い、その宙域を後にする。


 そうしてメナス群の本隊からは逃げられたものの、追撃してくる小集団も、臨時の船団を脅かすには十分な脅威だった。


               ◇


 天の川銀河、ノーマ・流域ライン

 カジュアロウ星系グループ、アクエリアス星系グループ、恒星間空間。


 約50億キロという宇宙のスケールからすると短い距離を越え、260隻の宇宙船が空間圧縮回廊を駆け抜けて来る。

 通常航行となった後も、船尾の主ブースターエンジンを燃やし更に増速。

 星が遠い暗闇の真空中を全速力で突っ走っていた。


「ロゼ、リチャージは?」


「もうしてる! 他の船もー……あ、いや5隻、6隻トラブった! マシントラブル!!」


「シセさん、ワープに支障が出ている船は、すぐに他の船に移るように警告を。

 次のワープに間に合わないなら置いていくしかないと言ってください」


「えー!?」


「メナスは?」


「ガッチリ付いて来てるよ! こっちの進路右40度にスクワッシュドライブアウトの反応デカイのが100ちょっと! 人間みたいな手堅いことしやがってッ!

 連中が出てくる前にステルスした方が逃げられるんじゃね!?」


「この数の船を隠し切るのは難しい。メナスが出てきたら端から削った方がいいだろ。

 まず出てきた順に、次に数が増えてきたら優先度の高い個体からターゲットマークよろしく。

 イルミネーターのデータは常に全員と共有して」


 強引なワープを行いカジュアロウ星系から離れたとはいえ、メナスとの追撃戦チェイスはここからが本番である。

 聖エヴァンジェイル学園の宇宙船『ディアーラピス』の赤毛マネージャー、村雨ユリムラセユイリは間髪入れずに次の行動を指示。

 次のワープ、それに追撃して来るメナス群への対応と、臨時船団の他の船をゴリゴリにリードしていく。

 船橋ブリッジにいる他の娘たちも、大分前から赤毛がお嬢さまを捨てているのに気付いてはいるのだが、今はメナスから逃げる為にその指示に付いくことしか頭が回らなかった。


 船団のほぼ全ての船が、レーザー砲を進行方向の右舷側に向ける。

 メナスは船団の追撃にあたり、そのワープ先を把握するばかりか、進路上で待ち受けるかのような位置にワープしようとしていた。


 柿色髪のメガネっ子、ロゼッタの言う、ブースターやアクティブセンサー等の全てを切ってステルス状態でやり過ごす、というのは、それなりに実績のある作戦ではある。

 しかし、260隻全てが完璧に身を隠せると、と思うのは少々楽観的に過ぎるというのが赤毛の考え。

 それでメナスに先制攻撃されるよりは、船団側から攻撃した方が精神衛生上にも良いだろう、と判断した。

 何より逃げるのが優先だが、


「…………ロゼ、さっきトラブッた船が出たって報告受けたけど、程度の方は?」


 故に、考えた赤毛の少女は、少し派手な一手を用意しておく事とする。


               ◇


 お嬢さま方の船、ディアーラピスの赤毛マネージャーが提案した戦略を聞き、エクスプローラー船団の旗船『ロニーステアラー』の船橋ブリッジ内は一様に絶句していた。

 なんて事言うんだこの赤毛お嬢は、メナス相手じゃなかったら悪質なテロだぞ。


 ところが、


「ふむ……船一隻のコストで買える安全と考えれば、安いものだな。

 『スペースエスクーザー』はコンデンサー大破という報告だっただろう。今すぐ船員の移乗を。補償は本船団が一時請け負う」


 エクスプローラー船団の坊主ボーズ船団長、ゴーサラは村雨ユリの提案を迷わず承諾。

 自船団の中で、ワープ後に致命的なマシントラブルを起こした船に連絡を入れる。


「ハッハー! とんでもねぇ事を考えやがる! やっぱ見た目通りのお嬢様なんかじゃねーなこりゃ!!」


「ボス! メナスがスクワッシュドライブアウト! 小型のヤツが先行して来る! 数600!!」


「ディアーラピスがIFFとイルミネーターのデータリンク送ってきてんだろうが! それに乗っかってバンバン撃てぇ!!」


 PFC『ブラッディートループ』の装甲船、その船橋ブリッジにて。

 性格同様揉み上げも激しい巨漢、ブレイズが部下からメナス出現の報告を受け攻撃を指示。

 船団と同一方向からワープしてきた異形の自律兵器群は、即座に反転するや大きく円形に広がり、船団へと襲い掛かってきた。

 だが直後に、宇宙船260隻の搭載砲からレーザーが飛来。

 赤い光線が小型のメナスに繋がったかと思うと、そのエネルギーシールドと装甲を撃ち抜き、爆散させ緑の粒子と化した。


「メナス艦載機クラス撃墜中! 現在550! 530! 470! けど先頭集団は210キロまで接近! 接触まで30秒!!」


「ディアーラピスよりエイム発進! 迎撃に出ています!!」


「早いな……! だが実戦は騎乗競技とは明らかに違う。大丈夫なのか……?」


 同類を派手に消し飛ばされながらも、メナス群は恐れも戸惑いも無い様子で船団に突っ込んでくる。

 それらを迎え撃つべく、ディアーラピスからは騎乗競技会にも出場したエイムが出撃していた。

 その展開速度に舌を巻く思いのペンギン人たちと教授だったが、軍用レベルとは言えない性能に疑問のあるエイムでの戦闘には、不安を抱かざるを得ない。


 そこは、メイヴに搭乗した騎乗部のお嬢さま本人も、同意見ではあったが。


『め、めメナスと戦うことになるなんて……。あぁああたし達でやれるの……?』


 防御容量が全く足りていないのでエイムを出さざるを得ず、騎乗部もメイヴ6機をディアーラピスの至近に展開させていた。

 メナスという銀河史上最悪の敵を間近にし、コクピットの中で青くなる華奢な金髪少女、クラウディア。

 今までに実戦も対エイム戦も経験したが、今回は本物の戦争だ。

 それも、連邦軍のエイム乗りでさえ相手にならないという、圧倒的な性能を持つ無数の自律兵器群である。

 流星群の排除の時にも感じた、死の気配が宙域全体に吹き荒れている気がした。


『あなた達は船から離れず、わたし達の撃ち漏らしを叩けばよろしいですわ』


『フロントはわたくし、エリィさん、忍野さんです。忘れないでください。特にナイトメアさん、絶対に前に出ないように。

 いざ交戦となれば、わたし達の気も回らない恐れがあります。必ず撤退指示には従うこと、危険と判断すれば速やかに撤退すること。よろしいですね?』


 ビビリ倒すスレンダー部長の一方、ドリルツインテのエリザベート、赤毛のマネジャー村雨ユリ、それに護衛忍者の忍野レンは、メナス群を阻止する位置インターセプトに移動する。

 ブースターを短く吹かし前に出た3機が前衛組、他は後方支援だ。


 そのいずれの機体もが、競技会の時とは違い重装備をしていた。

 レールガンのアサルトライフル、レーザーライフル、大口径レーザー砲、改造プラズマパイルドライバ、レーザーとプラズマ砲にキネティック弾を搭載したコフィン複合兵装。

 スッキリとして大人しめな印象のエイムに、使い込んだ痕跡の見られる無骨な軍用兵器が浮いていた。


「とはいえ……どこまでやれるのやら。メイヴ、正直かなり良い機体になったと思いますけど、メナス相手に競り勝てるとまでは思いませんわよ?

 それと……このプラズマランス、使い物になりますの? 鉱石破砕用の重機ですわよね??」


『前に連邦の戦艦ブチ抜くのに使ったから、多分……。何度か改良もしてあるし』


 やや不安そうなドリルツインテが装備するのは、先端からプラズマを破裂させ小惑星を内側から爆破する重機械の改造品だ。

 全長20メートル程と、エイムより5メートル近く長い。

 掘削用シャフトの周りを、汎用のレーザーライフルの砲身カバーで覆った赤毛お手製装備である。

 戦闘艦30隻の装甲を貫いた実績があるとはいえ、そのお手製感にいまいち信頼が置けないエリザベートだった。

 ローズネイルが恋しい。


「やれやれ、万全の状態でも命がけになる相手に、プライベートワークスのエイムに個人クラフトの武装で臨むなんて……。

 でもまぁ、仕方ありませんわね」


 エリザベート・ブラックスターにとって学園など、一時的に身を隠す潜伏場所に過ぎなかった。

 そこで馴れ合いが過ぎ、自分の命より他のたちを守る為に戦ってしまうとは。

 このことに忌避感を覚えないあたり、色々手遅れなのだろうとドリルは思う。


『3機連携で殺傷能力の高い個体から落とす。わたし、エリィ、レンの順、コピー?』


「分担して全て手負いにして後ろの娘に流した方がいいのではなくて?」


『トルーパー程度なら単独でも落としてもらわないと……。この先不安だ』


「あら」


 同じくらいに学園の娘を心配しているであろう赤毛のお姉さん肌は、この状況でもスパルタ教育を続けるようで、エリザベートは少し驚いた。

 教育方針が母と似ているが、どこか母とは決定的に違っている気がする。


 短い打ち合わせ通り、アサルトライフル装備の赤毛機、プラズマランスを持ったエリィ機、レーザーライフルを2挺抱えた忍野レン機がブースターを吹かし高機動で飛び出していった。

 メナスとは既に交戦距離。

 突っ込んでいく意志をそのまま形にしたような、メナスの突撃兵トルーパータイプの群れが両腕から緑のビームを乱射する。


「さてと……まずは錆び落しッ!」


 ペダルをベタ踏みする赤毛の少女は、渦を巻くような鋭利な機動で正面からその中へ飛び込んでいった。


               ◇


 メナスとは何か、どこで製造され何を目的としているのか、誰も知らない。

 ただ現実として、それはたった1機の艦載機型でも小さな艦隊くらいなら壊滅させかねない圧倒的な脅威として認識される。

 銀河先進ビッグスリーオブ三大国ギャラクシーに所属する軍のエイム乗りでさえ、交戦を避ける存在。


 その集団が、落下するようにして真上から強襲するエイムによって、立て続けに撃墜されていた。


 集弾され十分な攻撃力を持たされたレールガンの弾体が、エネルギーシールドを撃ち抜きメナス本体を直撃。緑の爆炎を発生させる。

 未来を見るような精度の射撃からは、メナスの高機動を以ってさえ逃げ切れない。


 弾倉を入れ替えるエイムは、勢いそのままに別のメナス個体を踏み潰すかのように上から激突。

 相手を踏み台にして飛び上がる瞬間、ビームブレイドを展開し致命傷を与えていた。


『なんだあのエイム!? デタラメに早いぞ!? 無人機!!?』

『電子妨害環境だ! それに無人機でメナスに勝てるなら人類はこんな事になってない!!』

『あれ競技会で見たエイムだぞ! あんなモノでメナスを落せるのか!?』


 超高加速度Hi-Gと激しい攻撃性で、メナスを次々と喰い殺していくライトグレーのエイム。

 小型のメナスでさえ、砲口の数にモノを言わせ滅多打ちにしてどうにか撃退できたら幸運、というのが常識の宇宙船乗り達は、その光景に限界まで目を見開いていた。


 聖エヴァンジェイル学園所属のエイム3機は、先頭の機体が噛み付き、次の機体が槍で貫き、最後尾の機体がレーザーでトドメを刺している。

 メナスは自ら突っ込んでくる性質を持つが、その全てが返り討ちに遭っていた。


『オラ言ったろうがぁ! あのお嬢どもは本物のエイム乗りだって! 正面からガチンコかよスゲェ!!』


『どんなお嬢さま!? 自分からメナスに突撃するとか完全に頭おかしいよ!!』


『ボスぅ! 「ボルカノ」の充填加速率80%超えたぁ!!』


 同じく防衛の為に発進していた赤い外装のエイム集団。ブラッディトループは、一機のエイムを中心に防衛戦を展開中だった。

 分厚い装甲に短い手足の機体。手にする火器は、左右の2挺の短砲身の物や、大口径かつ長砲身といった極端な物。

 その中でも、最も巨大な兵器は、エイム3機分より更に大きかった。


 ともすれば宇宙船のように見える砲身と、真下にぶら下がるように接続されている、制御用エイム。

 それは、ブラッディトループの奥の手、本来は戦闘艦が装備している艦載兵器を強引にエイム用に改造した、剥き出しのネイキッド荷電粒子ビーム砲であった。


 十分に荷電され加速のついた真っ白なエネルギー流が、メナス子機を大量に飲み込んでいく。

 臨時船団に取り付こうとするメナス群は、大半が手前で迎撃されるか、宇宙船に多少の損害を与えたところで撃墜されていた。


 最初は緊張と恐怖でガチガチになっていたクラウディアも、死に物狂いでメナスの高機動に対抗してトルーパータイプを落としている。


「こ、これが、メナス……!? 早い……怖い……! でも――――!!」


 暗緑色のビーム弾を連射し、レーザーをシールドに受けながら脇目も振らず向かってくる異形の兵器。

 一瞬だけメナスの右手に回り込もうとして見せるクラウディアだったが、そこで右肩部のマニューバブースターを最大に。

 フェイントをかけ、密度の甘い弾幕の真っ只中へと飛び込み、それを突破しメナスの左側面を取った。

 接近距離ショートレンジ、脇腹を見せる敵機に攻撃を集中。

 それだけでは撃墜に至らず、急旋回するメナスは改めてクラウディア機の方へ突っ込もうとするが、そこを片目隠れ少女の援護射撃が撃ち抜いた。


「フローさんありがと! ナイトメアさんは――――!?」


『ひっさーつ! どーん!!』


 敵を一機排除しても、気を抜いている暇は無い。

 仲間に礼を言いながら別の仲間を気にすると、その天才的外ハネ娘はビームブレイドでメナスを斬り捨てているところだった。

 単機でメナスの高機動を上回ってみせる、相変わらずの天才振り。

 だが背後からメナスが攻撃態勢に入っていたので、クラウディアとフローズンで援護射撃した。


『うわーごめーん!!』


「気を抜かないで常に船を背にして! あとわたしとフローさんがフォローできないところに行かないでよ!!」


 汗だくになりながら仲間に注意する華奢な金髪部長だったが、そこでレーダーシステムが新たな脅威目標を警告。

 再びペダルを踏みブースターを燃やし、戦闘機動コンバットマニューバの為の運動エネルギーを稼ぐ。

 何をするべきかは、鍛えた身体と過去の経験が教えてくれた。


 無我夢中で気付かないが、メナス撃墜数4というスコアは、既に超一流のエイム乗りだった。


               ◇


 260隻の臨時船団は、小型メナスに纏わり付かれながらも、少ない被害でこれを跳ね除け続けている。

 しかし、現在攻撃中のメナスは、戦艦型のメナスに先行してきた艦載機のような個体に過ぎなかった。

 目一杯速度を上げている船団の進行方向、そこにカジュアロウ星系から複数の線が繋がり、それらが一点に集束し異形の宇宙船の形を取る。

 100隻近いメナス戦艦型の集団だった。


「ゴーサラ船団長!」


『スペースエスクーザー過速前進。各船は到着まで援護を』


 それらの中心目がけ、円筒形の宇宙船が乗員の安全を無視した80G784m/s2という超加速度でぶつかっていく。

 臨時船団を攻撃しようとしていた異形の艦隊は、一転して体当たりしてくる宇宙船の迎撃に移っていた。

 小型メナスが取り付こうとするが、これを臨時船団がレーザーによる総攻撃で妨害。

 時速66万キロという相対速度で、全長750メートルの大質量弾がメナス群のド真ん中で大爆発を起こした。


 パニックに陥ったかのように、メナスの集団が四方八方デタラメに動き、互いに衝突までしている。

 無人にした宇宙船を体当たりさせ、ワープ直後のメナスに混乱を起こす。赤毛の策略であった。


「うわー! すごーい! スゲー!!」


『ロゼ! 全船に全力でメナスを叩くように連絡! ここで少しでも削る! 加速も緩めさせるな!!』


「お、おお!!」


 凄まじい規模の大クラッシュと連鎖爆発に、怯えた黒ウサギ少女のアビーが自分の長耳を押さえている。

 メナス艦載機を撃ち抜きながら、赤毛娘は柿色髪の少女に総攻撃と最大船速を維持するように指示。

 護衛に出ているエイムと共に、260隻の宇宙船が赤い光線を乱射しながら、メナス艦隊の横を全速力で駆け抜けていた。

 統制を欠いたメナス艦載機がバラバラに向かってくるが、直掩に出ているエイム乗りが全て撃墜する。


『よっしゃイケるぅ!!』

『見たか! おい今の見たか!? 撃墜だ! メナス撃墜!!』

『船において行かれるなよ! 離れるな!!』


 完全にハマった戦術、手練てだれのエイム乗り達による援護もあり、死者など無くメナスを抑え切る臨時船団。

 メナス艦隊は足が止まっており、この隙に距離を開ければ、次のワープまで逃げられる。



 ほとんどの人間がそう思っていたその時、各船のセンサーが新たな空間異常を捉えていた。



「またスクワッシュドライブの反応!? ちょっと待てなんでまたメナスが来るんだよ!!」


 

 最悪の解析結果に、ロゼッタがコンソールを叩いて悲鳴を上げる。

 同じディアーラピスの船橋ブリッジにいる女子たち、そして船団にいる全ての者が、同じ思いだろう。

 260隻程度の小船団に、メナスが第2波まで送り込んでくる可能性は低い。誰もがそう考えていた。


「チッ……悪い方に振れたか。所詮は運だな」


 赤毛の擬態お嬢様、村瀬唯理むらせゆいりも、そう思いたかったひとりだ。

 そして、自分の運命を運任せにせず備えておくのが、戦略というモノである。

 不本意な結果となったので、溜息も出るというものだが。


「アティ、アルケドアティス緊急起動、今すぐこっちに寄こせ!」


『マスターコマンダーの命令を確認。「アルケドアティス」、レッドブースト。

 メインフレーム起動、ジェネレーター1番2番出力90%。ガイドロケーター設定、マスターコマンダーの現在位置確認、最短ルート検出、オートクルーズコントロールへデータリンク。

 メインブースター、サブブースター、イグニッション、問題ありません。施設カーゴ、ゲートコントロールにアクセスします。ゲート開放中。

 GCS起動、重力制御開始、アルケドアティス前進、0.5Gで加速中。

 スクワッシュドライブコンデンサ、ジェネレーターにコンタクト、チャージ開始。スクワッシュドライブ、スタンバイ』


「ロゼ、アティを呼んだ! 全船に時間稼ぎしろと伝えろ!!」


『おまッ……!? アレ・・今学園の中だろ! それにアレ出すとおまえ、バレる・・・ぞ! いいのか!!?』


 唯理は切り札を切った。本来ならば、5年は伏せておくはずだった札だ。

 だがここで臨時とはいえ船団を見捨てる選択肢は無い。唯理の今後に関わる。


 その辺の事情は、ロゼッタも知っていた。唯理の身分偽装にも一役かっている。

 しかしそれも、唯理が学園コロニーに隠した船アルケドアティスを引っ張り出せば、全てご破算となるだろう。

 

「優先順位の問題だ、是非も無い! 到着したら管制任せる! 多分わたしは忙しくなるし!!」


『おまえいつもそれだな!!』


 それでも、赤毛の少女は常に自分のプロトコルに沿った判断をする。

 だから、キングダム船団からも去った。

 それはこれからも変わらないし、何度でも同様の判断をするだろう。


 臨時船団の左舷側、約10万キロメートルにメナス艦隊の後続が出現する。

 深海生物の殻にも見える生々しい船体からは、小型の艦載機型も撒き散らされる胞子のように出撃していた。

 次々とワープアウトして来るメナス群、その数5万。

 加速力、火力、そして数で圧倒する相手に、臨時船団は生きるか死ぬかのデスレースに挑むことになる。


 同様のレースは、全銀河で発生しつつあった。

 しかし同時に、ここで最強のメインプレイヤーが復帰しようとしていた。





【ヒストリカル・アーカイヴ】


・アクティブ/パッシブ センサー

 宇宙船やヒト型機動兵器に限らない情報収集器機全般における属性を示す用語。

 光学カメラや音響マイクなど、外部からの信号を受信するタイプのセンサーは受動的パッシブなセンサーと分類される。

 電波や赤外線、超音波といったエネルギーを自分から発信し、観測対象への接触とその反応で情報を得るタイプのセンサーは、能動的アクティブセンサーと分類される。

 アクティブ系のセンサーは敵にエネルギーの発信元を探知されるリスクを持つが、パッシブ系単独より多くの情報を得ることができる。

 攻撃態勢に入ったエイムの目の部分が光るのは、敵機の情報をリアルタイムで詳細に得る為。単なる演出ではない。




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