145G.ドラッグファイト コンベアベルトショウダウン

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 ノーマ流域ライン、アルベンピルスク星系グループ

 第6惑星『ソライア501』、静止衛星軌道。

 騎乗競技会会場。


 競技会最終種目、模擬戦は参加各チームが半数の60戦を消化したところだった。

 優勝候補チームもある程度名前が挙がり、勝利数レースの予想と星系政府公営賭博も観客達の間で盛り上がっているところだ。

 とはいえ、なにせ参加チーム総当りの119戦。中盤を待たずとも、体力的に崩れてくるチームも増えてくる。


 しかし、その中でも体力がなさそうなお嬢様チーム、聖エヴァンジェイル学園騎乗部は、未だに高いパフォーマンスを維持し続けていた。


『「エヴォリューションステップ」力尽きたかリーダー機に撃墜判定! レーザーの挟撃に追い込まれ逃げ場がありませんでしたー!

 さて聖エヴァンジェイル学園騎乗部はまた勝利点1を加え模擬戦を折り返します!』


『エヴォリューションステップは動きに精彩を欠いていたように見えましたが、コレは仕方がない事でしょう。どのチームも疲労が蓄積している頃合いです。

 対して聖エヴァンジェイル学園は全チーム中随一の運動量を記録していますが、衰える様子は全く見られません。

 オペレーターは若い少女ばかりですが、体力的なハンデをまるで感じさせないのは驚異的ですね』


『あるいはこれが若さかー! 女性オペレーターとしても期待の星! 聖エヴァンジェイル学園騎乗部は総合15位に浮上! トップグループとの優勝争いに入りました! これは完全にダークホース! 伝統ある騎乗競技において名誉ある称号と言えます!!』


 またひとつ試合が終わり、対戦内容が記録映像からリプレイされ会場中の画面に映し出されていた。

 四肢、腕部マニュピレーターと脚部ランディングギアを飛ばしての有線遠隔操作、それを利用しての変則的な機動と攻撃、という他のチームとは一線をかくすスタイルのチーム、『エヴォリューションステップ』。

 これに、騎乗部は対応し切って勝利している。


 本体から離れての多角的な射撃、強力なワイヤーの巻き上げ機能を用いたブースターと重力制御に因らない機動。

 それらの機能を十全に活かす為の、射線を隠すのに本体を利用する、また僚機を掴んで振り子の支点にする、といった戦術。

 これらに一度は追い込まれた騎乗部であるが、粘り強い後退戦術により崩される事なく、最終的に逆転していた。


 学園の訓練ではもっとヤバイ生き物を相手にしていたのだから、お嬢様方としても大した負担でもなかったとか。


 観戦客ではない、その他参加チームも興味深くそのリプレイ映像を見つめている。

 これから対戦を迎えるチームは当然の事、既に対戦を終えたチームからしても、騎乗部チームの試合内容は興味深い物だった。

 一見してその機動マニューバは乱暴で無駄も多いが、今までの試合でその応用力と基本能力の高さは十二分に証明されている。

 ここに至り強豪であるのを疑う参加者はおらず、上位チームの見つめる目も真剣だ。


 連邦艦隊付属校のチーム、ラーキングオブシディアンのオペレーターもまた、先のように騎乗部を小馬鹿に出来ずにいた。

 リーダーのマルグレーテ・レーンは、映像を見ずにシミュレーターに没頭していた。


               ◇


 対戦を終えた騎乗部のエイム、『メイヴ』が格納庫に戻ってくる。

 全高15メートルほどのヒト型機動兵器、それが定位置の整備ステーション前に駐機されるが、中からオペレーターが出てくる様子がなかった。

 格納庫内に空気が充填され照明も通常のモノに変わると、気圧調整室エアロックで待ち構えていた整備スタッフも一斉に駆け出してくる。

 創作部、それに赤毛の控え選手兼マネージャーが整備ステーションに急いで上がると、コクピット内でグッタリしている少女たちを引っ張り出していた。


「皆さんお疲れさまでしたー! 後はお任せください!!」


「サキさんはそのまま持って行かれちゃってください。レンさんが付き添ってくださいますよね?」


「クラウディアさん……お姫様だっこがいいですか? それともおんぶがいいですか? 軍隊風に両肩に担いでもよろしいですけど」


「うー……悩むー」


 メカニック筆頭としての自覚が出て来たのか、単眼娘のアルマが各エイムのステータス情報を呼び出し、手際よく整備の段取りを組んでいる。

 精根尽き果てている茶髪イノシシ娘を、紫デザイナーがワーカーボットの押すストレッチャーに乗せ運ばせていた。


 多少汗を浮かせたツインテドリル以外も似たような有様で、片目隠れメーラーは呆然としたままシートから立ち上がれず、学園の王子様は目を伏せたまま動かず、結局華奢な部長は赤毛によって小脇に抱えられている。

 まだ動く気力があるのは、外ハネの天才少女くらいのものだ。


 他のチームよりハードなトレーニングをこなしている分スタミナはあるが、それでも騎乗部のお嬢さま共も、流石に体力を使い切っていたりする。

 実際並の成人男性より体力は上なのだが、それを最後まで出し切る事を覚えたというのが、トレーニングの本当の成果であった。

 一方、格上チームに対抗していく上で、常時フルスロットルでペース配分とか考えていられないのだが。


「明日までに体力を回復させないといけません。食事を用意したので、食べたらもう休んでくださいね」


 と、赤毛のに言われダイニングに来てみると、そのテーブルに並んでいるのは、バリエーション豊かな一口サイズの酢飯と具材ネタの数々。

 寿司である。

 スッキリとした口当たりで食べ易く、炭水化物主体でエネルギー摂取に向いた優秀なファーストフードだ。

 時代に合わせて、手掴み部分を透明なでん粉シートでコーティングしてある。


 また物珍しいデリカレーションを作ってきたな、と思う騎乗部、創作部の面々であるが、今まで赤毛が作ったレーションで不味かったこともなく。

 また、あれこれ言う体力も無かったので、すぐに口に運んでいた。


「あ、おいし……。下のはライスですよね。上の赤い透き通っている丸いのは……?」


「生物の素材にオショーユで一体感を出しますのね。オリジナルも一度食べてみたいですわ」


「スイーツとは違う優しい甘さが良いね。それに、なんだか味に深みがあって一度じゃ全てを味わえそうもない」


 イクラ、エビ、厚焼き玉子、と、いずれも好評。

 とはいえ全て合成の食材なので、赤毛の板前としても少々申し訳なくなってくる。キングダム船団の方では養殖進んでいるだろうか。


 お疲れ乙女達であるが、空腹の方も誤魔化し様がないので、皆よく食べていた。

 美味しい食事は体力回復だけではない、気力を回復させる効果も付く。

 グッタリしていたオペレーター達にも、声に張りや余裕が出てきた。


「わたし、もっと騎乗競技って……なんというか優雅なのを想像していたんですけど」


「編隊飛行まではそうでしたねー」


「今はもう完全に体力勝負……。ブルードオブシケイダの方たちなんて、ちょっと可哀想になってました」


「勝負なんだから、情けを見せてはダメよ。殺らなきゃ殺られるのみ」


 黒ウサギ、片髪ロング娘、ロボ女子の中のヒトが、ここまでの競技会を振り返り遠い目になっている。

 今のところ致命的なマシントラブルは起こっていないが、エイムが戻って来る度にチェックは必要なので、テクニカルスタッフもそれなりに大忙しだ。

 オペレーター陣、整備陣、疲れているのは誰でも同じだろう。


 当然ながら事情はどこも変わらないので、力尽きた他のチームなどは対戦の折にも、既に死に体だったりする。

 『ブルードオブシケイダ』、少し前の対戦チームは、明らかに元気がなく猛獣お嬢様チームに一瞬で喰われていた。

 イカ、タイ、タコ、を黙々と口に放り込む茶髪イノシシ娘は、座った目で勝負の無常をつぶやいていたが。


「ラーキングオブシディアンは?」


 ここで、不意に生じた会話の間隙に滑り込む部長。

 競技会参加チームのトップグループ、その中の優勝候補とされる『ラーキングオブシディアン』の名前に、寿司摘まんでいた一同は再び沈黙する。

 残り60戦の内のひとつに過ぎないとはいえ、意識せざるを得ない強敵だ。


「あそこはまだ余力を残している感じですね。下位のチーム相手には力をセーブして対戦しているようですが、それでも危なげなく勝ち星を上げるのは流石です。

 軍付属校でのトレーニングで、基礎能力も高いのでしょう。その辺りのセルフマネジメントは、やはり経験でしょうか。

 このペースですと、残り試合を全勝しての優勝も視野に入れていると思われます」


 お吸い物を各員の前に配膳しながら解説を入れる、赤毛の割烹着スタイル。下はピッチリ環境EVRスーツ。

 例によってミーティング同時進行で、テーブル上のホログラム画面には、黒いエイムの模擬戦の様子が表示されている。

 ラーキングオブシディアンが落としたのは、上位チームとの3試合のみ。

 30ポイントを取り逃がした事になるが、それでも後半戦で容易に優勝を狙える得点圏内であった。


「ラーキングオブシディアンに勝つには……優勝する気じゃないとダメって事かしら」


「いいじゃん! ――――ないです? 優勝。せっかくだから優勝したいよー」


『目標は……10位入賞とかじゃありませんでした?』


 片目隠れメーラーが首をかしげているように、騎乗部の当初の目標は、競技会における10位入賞である。

 その辺は部長のクラウディアも分かってはいたが、負けたくない相手がそれ以上の順位にいるのなら、そこで満足するワケにもいかない。

 行けるところまでどこまでも行きたい、とか冒険心に満ちたロングディスタンスな外ハネの天才は、同志が現れご満悦だった。


「優勝ね…………。実際どうなのかな? 15位までは上がったけど、それより上の順位には上がり辛くなっているように思えるね」


「上位チームが負けていないので、ポイント差が動かなくなってきているのですね。順位が固まって来たのでしょう。

 目標の10位内には入れると思われますが、それ以上となると我々も格上のチームに勝利していかなければなりません。

 仮にラーキングオブシディアンがここから全勝するとなると、わたし達は順位が上の残り10チーム中5チームと、下位チームの全てに勝利するのが最低ラインとなります。不可能ではないと思いますが」


 湯飲みを傾ける王子様(♀)に、優勝までの必要条件をザックリ説明する赤毛のおかん。

 他のチームの得点状況によって最終的な優勝条件も変わってくるのだが。

 確かなのは、騎乗部にも自力優勝の可能性があるという事だ。


 とはいえ、上位チームの手強さは今までの模擬戦で身に染みているので、それを5割勝利が必須と言われると皆難しいお顔になる。


「皆さんここまで十分頑張りましたし、そろそろわたしかレンさんが交代で出てもよろしいかと思いますが?」


 赤毛の少女、村雨ユリとブルメタ髪のニンジャ、忍野レンは控え要員である。

 しかし、どちらもエイムオペレーションの腕は素人のレベルではない。

 特に赤毛の方は、選手として参戦すれば単機でも全チームを蹴散らして見せるだろう。

 優勝するだけ・・なら簡単だ。


「ぬぇー? それはなんか違わなくない? ですー??」


 外ハネの天才娘によるなんら具体性の無い疑問が、全員の本音を代表していたが。


「というか……その娘を編成に加えたりしたら、あなた達やること無くなりますわよ」


「そこまで出しゃばったりしませんよ。勢子せことして対戦相手を追い込むくらいのサポートに留めます」


「ユリさんの勢子とか……試合どころじゃなくなるわね」


 勝利を至上目標とするならば、赤毛のモンスターでもなんでも戦力に加えればよい。

 だがそれは騎乗部の勝利と言えるのか。

 そんな葛藤に迷う一同へ、我関せずなツインテドリルが冷静な見解を述べる。

 いずれにせよ、それは観賞魚の水槽にサメを放り込むようなものであろうという、騎乗部と創作部の皆も茶髪イノシシと同意見であった。


               ◇

 

 騎乗競技種目、勝ち点の喰い合いサバイバル、模擬戦3日目。

 全チーム80戦ほどに差し掛かり、優勝候補とその他のチームも明確に分けられてくる。

 その裏では、チームによる盤外戦術や勝ち星の取引などもこっそり行われているのだが、聖エヴァンジェイル学園騎乗部には色々な意味で無縁な話であった。

 どうせそんな交渉術もコネクションもないので、真っ向勝負一択だ。


『聖エヴァンジェイル学園チーム目を見張る速度での引き撃ち! ストレンスグスクラフターも必死で追うー!!』


『聖エヴァンジェイル学園チームの連携が全く読めず、クラフター側も突っ込めずにいるようですね。

 ですが参加チーム随一にして反則と言われるほどのエイムのスペックを誇るストレングスクラフター。オペレーターであるロアド人のタフネスもあって少女たちをグイグイ追い詰めています』


『字面だけ見ると犯罪のようですあーッと一機撃墜判定ー! しかしおーっとクラフター側も落とされる両者一歩も引かなーい!!!!』


 頭部に大型センサーを備える角の取れた装甲の機体エイム、『メイヴ』が絶え間ない回避運動をしつつ後退。

 両腕レーザーを正面に集中させる。

 これを、旋風つむじに巻くような機動マニューバを見せながら、両肩を大型推進機にした機体が追撃していた。

 鋼色にオレンジのカラーリング、優勝候補チームのひとつ、『ストレングスクラフター』のエイムだ。

 搭乗しているオペレーターが高重力適応人種、ロアド人であるのも、強さの理由とされている。

 その機動力、攻撃精度共に騎乗部に勝るとも劣らず、対戦と実況も白熱していた。


 だが、


『アンもうしてやられましたわ! このわたくしが引っ掛けられるなんて!!』

『すまないダウンだ……。フリーになったところを突かれたな』

『んあーうまく狙えないー!!』

『ナイトメアさん狙われてます!』


 ドリルツインテのエリザベートが時間差の集中攻撃で落とされると、アッと言う間に騎乗部が防戦一方となる。

 騎乗部側もストレングスクラフター機を落とすが、直後にエルルーン王子様が落とされる事となった。

 外ハネの天才が単身で反転し突っ込むが、集中する赤い光線を回避するのに忙しく攻撃に転じられない。

 どうにか喰らい付き一機落としたかと思うと、同時に片目隠れメーラー、フローズンへの援護が薄くなったところを狙われてしまった。


(これ落として落とされてってしてたら最終的に……! それが狙いか!!)


 部長が気付くも時既に遅く、ここ一番の大加速を見せ後方に回り込んだイノシシ少女が、待ち構えていたかのような3機による射撃で撃墜判定。

 無防備に背を向けていた一機を撃墜したものの、2対1に持ち込まれたクラウディアも、間も無く押し切られてしまった。


               ◇


 格納庫に戻ると、華奢な金髪部長はヘルメットの後頭部をドスドスとシートに打ち付けていた。


 対戦チームの戦略は、先手を取って優位に立ったらその状態を堅持するという、実に見事なモノであったと言える。潰し合いになっても、最後に自チームの一機が残ればよい、というワケだ。

 そんな術中にハマり、自分は何も出来なかった。

 最後の一機にされて、成す術無く落とされたのである。

 実力的に難しかったとはクラディア自身思うが、逆転できなかったのが部長としても申し訳ない。

 例によって連携の差でもあるのだが。


 うーうー唸りながらスレンダー娘がコクピットから這い出すと、騎乗部のエイムの向こうに、別のチームのエイムが並んでいるのが見えた。

 つい先ほどまで対戦していた、肩が大きく前後に伸びた形状のエイム、ストレングスクラフターの機体だ。

 駐機場所の変更があったらしく、今し方対戦を終えた両チームが揃って整備中という状況である。


「マニュピレーターの角度でブースター偏向か? 相変わらず大胆な小細工が好きだな、フロック」


「そりゃオメーあれよ、ここってところでブースターを燃焼する方向を変えれば相手は面食らうしブースター負荷も分散できるってカラクリよ。

 それよりオメーんとこの『コリジョンマス』はどうなってんだよ。相変わらず激突上等のイカれたカスタムかぁ?」


 大肩エイムから出てきた低身長ムキムキなロアドのおじさんが、逆に見上げるほど高身長のこれまたガチムチな男と談笑していた。

 整備スタッフっぽくないな、と思いながら何となく見ていた華奢な金髪であるが、フとそのゴリマッチョが自分の方を向いてギョッとする。


「ったく大人気ねぇ……。そもそも天下の『ドヴェルグワークス』が素人の大会に出るってのはどうなんだぁ?

 マシンスペックと無駄に頑丈なガタイで恥ずかしい勝ち方しやがって」


「なんか文句あんのかコラァ! そもそも俺らは本社と関係ねぇ有人兵器技術開発研究会だからセーフだ!!」


「っとに情けねぇ……。それに比べりゃあっちのはマニューバにガッツがある。たいしたもんだぜ」


 黒と赤の環境EVRスーツの上からも分かる、筋肉の塊。しかも、身長も2メートル以上あるのではないかという巨躯。

 揉み上げまで逆立っている黒く短い剛毛に、彫りの深い石像のようにイカつい容貌。

 そんな人生で出会った事のないタイプのオスが、クラウディアお嬢様の方へ歩いて来る。

 華奢な少女のとの体格差は小人と巨人であり、部長も思わずぽかんと口を開け見上げるのみだった。


「見てたぜぇ。あのコンバットマニューバは完全に実戦を見据えてのもんだなぁ。ターゲットレーザーで突っつきゃいいアマチュアコンペに出るようなもんじゃねーだろ。

 気に入ったぜ。お前ら、コンペの結果はどうでもいいから終わったらウチに来いよ。

 『ブラッディトループ』に欲しいのは、腹の据わったエイム乗りだけだからな」


 あまりの迫力とそれに似合わぬ気安さに、目をまん丸にして硬直するチキン部長。クマに睨まれたヒヨコである。

 その反応に何を思ったか、フッと笑う剛毛モミアゲはきびすを返し、ストレングスクラフターの方へ戻って行った。


「は……? え……??」


「『ブラッディトループ』のブラッド・ブレイズ。戦線貫きラインブレイカー……。こんなインサイド側でお目にかかるとは思いませんでしたわ」


「『ブレイカーヘッド』のブラッディトループ、ですか。専属契約は結ばずスポットの依頼のみ受ける、自称アルチザンPFO。

 確か、ハイソサエティーズ系のテラフォームコンストラクションの警備に雇われていたと聞きましたが…………」


「――――わぁ!? いたのふたりとも! 」


 たった今起こった出来事を消化できずにいたクラウディアだが、突然左右で会話が始まりビックリ飛び上がる。

 左は、若干睨むようにして秀麗な顔を歪めているドリルツインテ。

 右は、のほほんとした普段の表情を少し鋭く引き締めている赤毛のルームメイトだ。


 何やら、今しがたのモミアゲ巨漢を知っている風な、エリザベートと村雨ユリ。

 だが、整備がはじまると周辺が騒がしくなり、移動しているうちにその辺を聞きそびれてしまうクラウディアである。


               ◇


 80戦目、ストレングスクラフターとの対戦を落とした聖エヴァンジェイル学園騎乗部は、総合優勝が難しくなってきた。

 部長の意向によりラーキングオブシディアンへの勝利という新たな目標が設定されていたが、それには優勝を狙わなければならないという状況。

 よって、10ポイントを得られる上位チームとの試合に勝っていく必要があったが、その貴重な試合を落とすという。


 上位チームであるラーキングオブシディアンとの直接対決が、最終的な勝敗を決める重要な一戦となってきていた。


 



【ヒストリカル・アーカイヴ】


・勢子

 狩りの際に獲物を狩り手の前に追い込む役。ハイソサエティーズが狩りをたしなむ上でそのような伝統も知識として残っているが、現在では比喩的な概念に近い。


・アルチザン

 職人の意。特に組織に属さずフリーランスの専門職がこのように自称する。

 当然ながら、技術と技量に優れるという自信が無ければこのアピールは使用できない。


・テラフォームコンストラクション

 惑星改良を請け負う企業や組織。惑星の有人化や入植は国家の政策に直結する為、基本的に大企業となり政治的な繋がりも強くなる。


・オショーユ(お醤油)

 香ばしく旨味の強い調味料。天然の素材の場合は主に大豆を潰し発酵させて製造する。

 非常に芳醇な味わいを料理に添付する反面、あらゆる味を侵食しかねない諸刃の剣でもある。




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