106G.ハイグレードラウンド ハイグレードプレイヤーズ
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スキュータム・
どこか古めかしい内装の、木材や石材による調度が目立つ
その正面ディスプレイには、星系内部の戦況がリアルタイムで表示されていた。
中心となるのは、デリジェント星系の本星である第2惑星『ヴァーチェル』。
そこに簡易画像で
「反応が出た時はまさかと思ったが、こんな所に『マレブランス』がいるとは……。共和国、今度は一体何を開発してアレを呼んだ?」
艦長席の前で画面を睨むのは、短い焦げ茶の髪を逆立てた男だ。まだ少年と言って良い年頃に見える。
身に着けている物は、この時代の標準的な
そして、分厚い筋肉で服を押し上げているのが
『どうせまた「アンティークドール」のようなロクでもない事でしょうよ。まったく、あんな連中といつまで組むのかしら…………』
『連邦の情報を得るには、今は仕方ない……。共和国に我々の必要性を理解させるにも、今は働いて見せなければならない、と思う……』
『んじゃ、
『それより「ルーインシップ」が動いているのはー? アレ共和国も連邦も何やっても動かせなかったけど、やっぱり認証にもメタロジカルテクノロジーが使われてるんじゃ…………。だとしたら、わたし達と――――――』
『共和国が抑えているなら、いずれそれを確認する機会もあるだろう。彼らも何か仕掛けるらしい。それより今は、この状況をどうするか、だ。あの船団は、惑星の住民を救出に来たようだが』
『いくらルーインシップが使えるとはいえ、あの数のメナス集団を相手にするには力不足だと思うがねぇ。ノマドじゃその辺は分からないのかも、だがね』
『だからなんだ? 私達にはまったく関係のない事だ。ビッグブラザーに仕事を押し付けられたワケでもない。別に勤勉に働いてやる理由も無いだろう』
鉛色の長髪を後頭部でまとめた女、『シュレッド』。
長身でガッシリした体躯の老人、『ブライト』。
長い白髪で、頭部の周囲に赤い幾何学のホログラムを纏わせる少女、『スケイル』。
黒い肌に黒い長髪の中性的な美人、『イレウス』。
銀の髪に淡い褐色肌の、一番幼く見える少女、『アトゥム』。
飴色の髪に穏やかな表情の少女、『ネェル』。
折れそうなほど華奢な身体つきで、小豆色のオカッパに近い髪型の少女、『シルト』。
禿頭でマブタを伏せた、筋肉質かつ痩身の男性、『ジハド』。
整えられた黒い髪に透明感のある白い肌の美女、『デリータ』。
茶に近い赤毛のミドルヘアを内側へ巻いている、少し眠たげな顔の少女、『ウィズダム』。
紫の髪に艶のある褐色肌の女、『レングス』。
皆、
『ブレイブ』と呼ばれた男の、11人の同志。
ある重大な繋がりで結ばれた、兄弟姉妹とも言える者たちである。
全員が全員と良好な仲というワケでもなかったが。
その行動方針も三者三様。12人12色だ。
「…………どう思う、ブライト」
一通り仲間の感想が出たところで、ブレイブという精悍な少年は意見を求める。
相手は、12人の中で最も思慮深い最年長の老人だ。
全てを見通す少女がいる、あらゆる事に聞き耳を立てる少女もいる。しかし、相談事のセンスは、そのふたりには求められない。
それは、他の面子にも分かっていた。
『そうだな……共和国を好きになれないのはわたしも同じだが、助ければ一応貸しは作れるだろう。口実くらいにはなるかな?
それに、あのルーインシップの船団は良くやっているが、マレブランス相手では分が悪い。最悪、ほかの船は全滅という事もありえる。
惑星から上がって来たのは、一般住民の脱出船だろう。彼らが死に値する何かをしたワケではない』
そして、この老人は若い仲間達の
他人に興味が無い黒い美人が鼻を鳴らし、飴色の髪の少女が困ったような笑みになっていた。
こうなれば、ブレイブという秘めたる熱血漢がどう動くかは、自明の理だ。
「状況を見て、可能ならマレブランスは落としたいが。抑えるだけでも、ノマドの支援にはなるだろう。
まぁ、あちらは仮にもメタロジカルテクノロジーで作られたルーインシップだ。通常のメナスなら、自分たちでどうにかするさ。艦長」
「ハッ! 船を戦闘の宙域へ向けます」
ブレイブが指示を出すと、中央の席にいた艦長が
星系外縁の小惑星帯にいた宇宙船は、大きく回頭し艦首を恒星方面へと向ける。
その船は、中空で開放型の船体、船の前方に左右二本の露天カタパルトデッキが伸び、船尾には同じように左右二本のエンジンナセルが設置されていた。
船体上部には、楕円形の
船の全長は500メートルほどと、軽巡洋艦クラス。しかし、船体色が銀色にクリーム色と、戦闘艦らしくない。
左右に鳥の羽を模したシールド発生器を備えるその船は、実用よりも象徴的な意匠を強く表に出していた。
通常の宇宙船の規格とは異なる、神秘的な船。
ある原始的な星、そこに住まう民は、
12人の、星を守護し、あるいは支配する天使たちの座乗艦なのだ、と。
『ブレイブ』
「ん? なんだウィズ。はやり共和国とノマドの動きに介入するのは不満か?」
仲間の天使との話し合いが終わり、自分の機体の様子でも見てこようとしていた少年だが、そこに再び通信が入ってくる。
相手は、先ほどまで話し合いに加わっていた、赤茶の内巻き少女だ。
『目』の天使。全てを見通す権能を持つとされている。
それが、それほど便利なモノでもなく、また
何より、本人があまり会話が得意な方でもないというのが致命的。
にもかかわらず、こうしてウィズダムの方から通信してくるというのも、珍しいことである。
『よく分からないけど、一応言っておく……。デリジェント・グループの、そこ……マレブランス以外にも、
「『何か』? ……マレブランス以外の上位個体、という事か? ジェネラル型でも送り込まれているのか」
『いや……そんな感じじゃない。わたしもはじめて見た……。マレブランスの12体に匹敵する存在レベルの、メナス』
「なに……? マレブランスと同格の、メナス上位体? そんな事が今まであったか??」
『わたしの知る限り……ない。もしかしたら……アレがメナス
「……メナスの外部補正装置。ネザーストリームのオラクルの情報にあったヤツ……。実在するという事か」
髪を逆立てた少年が、話を聞き少しばかり目を見開く。
もたらされた情報は、敵をよく知る彼らをしても、非常に特異な例だった。
現在確認されるメナス最上位個体、『マレブランス』。
それら12体と異なる命令系統に属する、同等の力を持つ特殊な固体が存在するという事は、ある特殊なネットワークから情報は得ていた。
そして、今デリジェント星系の本星宙域へ行くと、最悪の場合それらを同時に相手取る恐れがあるという事だ。
「…………油断しなければ死にはしないだろう。惑星の住民を助け、マレブランスを討つ以外にも、謎の監査官というのを確認する貴重な機会になるかもしれない。
ウィズは全て
『気を付けて。わたし達はメタロジカルエフェクトがあるから、あのマレブランスとも戦える。でも、性能は向こうがずっと上。今も、改良し続けている』
「わかっている。もう調子に乗るつもりはない。連中が強くなるなら、こちらも同じ余地があるという事だろう。アトゥムならそう言うさ」
話しながら歩いているうちに、ブレイブは天使の船の中央格納庫に辿り着く。
ブレイブたち、天使のひとりに一隻用意された宇宙船は、彼らの専用機を運び、運用する為のモノだった。
宇宙船は天使の信奉者の手により、荒れ狂った戦闘宙域を目指し最短距離を進む。
その間にブレイブも、常人には扱えない自分の機体を出撃準備させるのだった。
◇
スキュータム・
本星『ヴァーチェル』衛星『フロイング』中間域。
長大な閃光が宇宙を貫き、間もなくその直線上で無数の爆光が上がる。
密集する宇宙船団のド真ん中、メナス特殊機体の荷電粒子砲は、旗艦をはじめとした多くの宇宙船をシールドごと撃ち抜いていた。
ダメージを負った船の動きが乱れ、上下左右に迷走している。漏出する船内の気体も、その反動で宇宙船を不規則な方向に移動させていた。
「ッ――――クソ!? どれだけやられた!?」
旗艦フォルテッツァの
重力制御による緩衝に加え、艦体の中央という事で最も安全な場所だったが、それでも船団長のディランをはじめとして大勢の
「全艦でセーフガードが自動対応中! ダメージコントロール稼働中!」
「ジェネレーターの運転問題ありません! ですが予備動力のリアクターがスクラム!」
「ネザーコントロールの12%がオフライン! ですが管制の継続に問題ありません!!」
「『ワイルドフライ』がシールドダウン! 船体舷側に中破判定! 操船は継続可能です!!」
「『フラミンゴウッド』のシールド発生器に直撃! シールド再展開にエラー!!」
他の船の状況も、旗艦と似たようなモノだ。何せ船団の中心を、戦艦砲以上の攻撃で撃ち抜かれたのだ。
旗艦フォルテッツァのシールドが大部分の威力を拡散させたが、その旗艦が直撃を喰らっているので、船団全体が一時的に麻痺してしまった。
「足を止めるな! 全船は速度維持! 火力をメナス特機に集中しろ! 他の奴はヴィジランテとローグ大隊に迎撃指示! 今は宙域の突破が最優先だ! ここでアレンベルトに無理をさせる! シールド最大出力だ!!」
艦内に出る警報をサイレントアラートに切り替えさせ、船団長は押し寄せる損害報告を押し返すように指示を飛ばす。
時間との勝負だ。
何せ、後方からはメナスの大艦隊が、正面からは艦隊戦力以上の火力を持ったメナス特機が迫って来ていた。
状況は最悪で少し間違えれば全滅しかねないが、だからこそ一点突破という最善手を最速でブチ込むのである。
艦体の半分ほどもあるシールド発生ブレード、それら計8基をいっぱいに開くイージス級アレンベルト、全長5キロメートル。
同時に、先頭を走る旗艦フォルテッツァが全砲を斉射。全体に装備したレーザーアレイ740門、特殊大口径
出現したばかりの戦艦型メナスが、一瞬で消し飛ばされる。
1体だけでも星系艦隊を脅かしかねない戦艦型メナスが、今のキングダム船団の前では単なる障害物だ。
だが、そんなレーザー豪雨の中で鋭くエッジを効かせた機動を見せる、暗緑色の噴射光。
船団とメナスが
無数のレーザーが敵機を追い宇宙を薙ぎ払うが、メナス特機は群がるそれらを後一歩のところで寄せ付けない。
逆に、
破裂する拡散荷電粒子砲。
惑星を滅ぼしそうな威力と範囲のエネルギー流が降り注ぐが、これは放射状に受け流されていた。
アレンベルトのエネルギーシールド、その最大出力による防御だ。
ところが、天の川銀河中で最高性能のシールドが、メナス特機の連続砲撃で見る見る内に削られていく。
「フォースシールド、グラヴィティーシールド共に25%を切ります! シールドジェネレーター全機並列接続!」
「全ジェネレーターは出力25%以下です! あと2斉射で防御容量を超えます!!」
「ディラン船団長、本船は限界です。シールドをソフトシェルに変更、出力とジェネレーター負荷を抑えます」
『わかった各船のシールドを最大にして対応させる! アレンベルトは立て直すまでフォルテッツァかフラミンゴウッドの陰に入れ!!』
10万隻による総攻撃さえ正面から止められる超高性能シールド艦が、一時凌ぎしかできないでいた。
アレンベルトはシールド強度を下げ、反対に個々の宇宙船が自前のエネルギーシールドを展開する。
四方に伸ばしたブレードを閉じると、アレンベルトは剣のような巨大戦艦の後方へ。
砲撃を継続する宇宙船団は、同時に出せるだけのエイムを出撃させていく。
有志から成る
無数の対空砲火が撃ち上がる中、生物のような外観の敵機を迎撃に出るヒト型の戦闘兵器。
オペレーターの質も、決して高いとは言えない。高額報酬で船団防衛に参加しているものの、母船に張り付きレーザーを振り回すので精一杯だ。
対して、ローグ大隊の軍用エイム、ボムフロッグは自ら前に出てメナスを落としにいく。別にオペレーターにやる気があるワケではない。
流石にかなりマズイ状況だと、チンピラでさえ分かるからだ。
『あ゛ぁー!!!! ようやく船団に合流できたと思ったらコレかぁああ!?』
『とにかく旗艦に近づけさせるな! ノロノロしてっとケツからメナスに喰い付かれるぞ!!』
『あのヤバいヤツはどうするんだよ!?』
『あんなのエイムじゃどうにもならねーだろ! 戦艦にでも任せりゃいい!!』
悲鳴を上げながらも、メナスの小型機を撃ち落すローグ大隊第5中隊。
宇宙船の弾幕を抜けてくる敵機を迎撃するが、すぐ近くに悪夢のような火力を振るうメナス特機がいるので、生きた心地がしない。
単純な威力で言えば
まさに、災害と呼ぶのに相応しい銀河の
そんな危険宙域のギリギリ淵を走るローグのオペレーターは、神経と寿命を削り防衛戦闘を続けていたが、
たまたまライフルのレーザーが至近距離をかすめた事で、急激に進路を変え第5中隊の方に突っ込んで来るメナス特機。
『だからこっちに来るんじゃねーよチクショウがー!!?』
『OOP! R531よりエマージェンシーだクソッタレ!!』
オレンジの機影が、レーザーの間をすり抜けるように高速で接近する。当然のように
しかしその機動は直線的であり、ローグの各分隊は最大出力でブースターを吹かし散開。
後退しながらレールガンの弾幕を展開する小隊の一方、別の小隊は十字砲火や偏差射撃で側面から叩きにかかる。
そんな無数の攻撃を防御シールドで受けながら、メナス特機は両肩のロッドから拡散ビームを放出し、一帯を薙ぎ払った。
『ぅおおおおおおヤベぇえええええ――――!!?』
『こんなのムリだろぉお!!?』
『ッ! ぉおおお!? うわぁあああああ!!!』
長距離、広範囲を一網打尽とせんばかりに打ち付ける、荷電粒子流。
その僅かな隙間に滑り込んで回避しようとする第5中隊の各隊だが、荷電粒子の軌道は全く安定しておらず、見極めるのが著しく困難だった。
一瞬でエネルギーシールドを吹き飛ばされ、エイムの手足も木っ端微塵に砕け散る。
物理シールドユニットのジェネレーターが弾け、余波の荷電粒子だけで装甲表面を穴だらけにされていた。
極短時間で大損害を受けるローグ第5中隊だったが、戦艦砲並みの射程のある攻撃に、後方の船団も巻き込まれている。
正面にいたグラディウス級『コールドキーライター』の艦首には、派手な引っかき傷のような被弾痕が刻まれていた。
旗艦同様の超高性能戦艦故にその程度で済んでいたが、左右にいた宇宙船は船首を削られ、溶かされている船もある。
必然、船団の動きは今まで以上に乱れた。
大河の中の小石のような
こうなれば当然、各船の連携が難しくなり、火力も集中できない。
場が極度に混乱する中、その中心でエアポケットのような宙域に取り残された形となる、ローグ第5中隊。
無事な機体は皆無、いずれも目立つ破損を負っていたが、すぐ近くにいる
『こんちくしょうふざけやがって!? この宇宙にはこんなバケモンばっかかー!!』
『死にたくねー!!』
ボロボロの有様で、ひたすら引き撃ちするボムフロッグ。
疲労と恐怖の限界を極め、テンションも振り切れるチンピラオペレーター達は、涙やら鼻水やら様々な何かを垂れ流しながら目一杯エイムを飛ばしていたが、
『R001より511隊長機、51ファーストへ、射線を空けて後退しろ!』
その後方、船団の最後尾からブースターを限界まで燃やし最大戦速で突っ込んでくる、無骨な装甲に灰白色と青の機体。
【ヒストリカル・アーカイヴ】
・メタロジカル・テクノロジー(メタロジカル・エフェクト)
現在の科学テクノロジーにおいて、多くの分野で基幹となる技術。
未知の部分が多く、人類は解析が出来ていないまま使っているのが現実。
一連の技術群が、メタロジカルテクノロジーと呼ばれる事すら大半の人類が忘れている。
・ルーインシップ
現代に残された100億隻の超高性能戦艦を指す名称のひとつ。
遺跡船、
・アンティークドール
銀河惑星憲章など主だった国家間ルールで禁止される、生体アンドロイドやクローン製造。
それに違反して製造、生産されたヒト型生物兵器、及びプロジェクト名。
以下、情報は非公開。
・マレブランス
メナス自律兵器群、最上位個体。
以下、情報は非公開。
・12天使
以下、情報は非公開。
・ネザーストリーム
以下、情報は非公開。
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