アミキティア
ブエルムは野生動物のように、カルキノスを濁った声で呪い殺すかのごとく吠えた。
「ぐおぉおおぉ……!」
重機のショベルカーを思わせるハサミ腕は、その力を増しブエルムの脇腹と内臓を万力のように締め付けてゆく。だが咆哮を上げながら両腕の筋力を限界にまで引き上げたブエルムは、ついに奇跡を起こした。左右の手の平から血を流しながらも掴んだハサミを上下にこじ開けたのだ。
何かが折れる鈍い音がしたかと思うと、ツメの先端部を半分以上折り取った! 放水によって、ずぶ濡れになったブエルムは、ツメの欠片を手裏剣のように僕めがけて投げつけてくる。
「残った腕も、へし折って、もぎ取った後に食ってやる!」
実にブエルムらしい台詞だ。彼なら実行するだろう。片腕のジャックが持つ、ハサミの長い毛を掴みかかるように再び組み合った。
事態は風雲急を告げ、チャンスを伺うカクさんが僕に知らせる。
「オカダ君、放水はもういいぞ。次はゴールドマン教授に合図だ」
教授はゲート上に存在する監視所にいた。コンクリート製の扉を開く操作盤もそこにある。頭上に高く放水して円を描き、合図を送った。
連絡を今か、今かと待ち続けていた教授は、赤い電源レバーをON側に倒すと、ゲートに設置されたコンクリート門を開閉させるスイッチに手をかけた。
「カクさん、俺たちのチームワークを見せてやろう」
重い門を開閉させるための太い電力供給ケーブルは今、銅線がむき出しになった状態で水に浸かっている。
ブエルムもカルキノスと真剣勝負のただ中なので、僕らの怪しい動きにはあまり注意が払われていない。ブエルム、全方向に敵を作った貴様の負けだ。
僕は切断された、もう一方のケーブルの端を持ち、ブエルムが足首まで浸かる水溜まりへと投げ入れた。見るとS級の怪物は全身からドス黒い殺気を放っている。
「次はお前だ、くたばれ地球人!」
次はだと……同時に僕と戦おうと考えるとはさすがだ。お互いに潰し合ってくれるのが、一番よい展開なのに。一方最強ケプラーモクズガニであるはずの片腕のジャックは、手強いブエルムを食うのを諦めたのか、僕に向かって接近してくる。まずい、早くスイッチを入れてくれ。ゴールドマン教授!
「オカダ査察官、待ってろよ……今だ!」
教授はゲート開閉スイッチを拳で叩いてオンにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます