イサラ

 陣地にいたパンクロッカー風な湖賊、マドックスが興奮気味な口調で僕に言った。


「ヒヒヒ、俺の本業は湖賊で強盗なんだが、何だかどうしてもブエルムと戦ってみたくなったぜぇ。自分でもどうかしてると思う。何でだろう? でも一生に一度だけでいいから、S級奴隷と呼ばれるマジもんとガチでやってみたい衝動が、何とも自分で抑えきれねぇ!」


 蛇顔を更に爬虫類風に歪めるマドックスは、最初イカれている奴だと思った。だが、ブエルムが放つ笑ってしまうほどの人間離れした力を見せつけられると、その気持ちが理解できなくもないと思ってきた。うまく言えないが、強い重力があり周辺の物を否応なしに引き寄せる感じだ。


 相方とも言えるA級になり損ねたB級奴隷ベレンスがたしなめる。


「だめよ! 馬鹿なの? あんた瞬殺されるよ!」


 ビルショウスキーはマドックスをしげしげと見た後に言った。


「いいさ。行かせてやりなよ。男として最高の舞台じゃないか」


「ヒヒヒ! ちょっと行ってくるぜ! ベレンス~」


 決して玉砕する訳でもない。その証拠に悲壮感もなくむしろ嬉しそうだ。


「俺の自慢のナイフ捌きで殺ってやるぜぇ! ブエルム様~!」


 マドックスは、あえて戦闘ナイフで戦いを挑んだ。ラインメタルMG3の全弾を、あっという間に撃ち尽くしたブエルムは、無我夢中のスピードで突進してくる長身の男に全力で応戦した。


「待ってたぜ! 貴様のような骨のある男をよ!」


 ブエルムは、自分からナイフの間合いに入った。


「しゃあああ! 死ねやS級!」


 機関銃の焼けた銃身バレルをチェーンを巻いた素手で右側から抜き取ったブエルムは、マドックスの長い腕から繰り出すナイフの刃先、全てを銃身によって弾き返した。続けてマドックスの首筋から横面にかけて熱い銃身を焼き印のように押しつけた。


「あちいィィィイイ!」


 マドックスは一瞬ひるんだ。ブエルムは空手の師匠マスターから習得したらしい強烈なハイキックを居合い斬りのように浴びせた。マドックスが視界から消えたように見えたが、それほどまで蹴っ飛ばされたのだ。


「うわぁあ! マドックス!」


 敗者に冷酷なブエルムは、唾を吐きかける。

 ベレンスの悲痛な叫び声は、更にトーンを増した。それもそのはず、唐突にゲート方面のバリケードを越えて超巨大な影が我々の前に姿を現わしたからだ。

 

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