オルナメンタ
「ヴュ、@・ザー、ゑゅり……ごれでどうだ……発音も全て完璧だろう。なじみの言語のはずだ」
何を言っているのか意味不明だったが、瞬時に合わせてきた。イントネーションまで母国語のごとく違和感なしだ。そのうちに良く分からない物は、はっきりと蟹のような形を成してきたのだ。
「まさか、
「……正確には違う。私は君達の視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚、あらゆる感覚器にも感知されない。それどころか人間が造り出した、どんな高感度センサーにも引っかからない。仕方なく君達が認識できそうな姿を採っているにすぎない。この声にしてもそうだ」
「あなたは、何者なんだ?」
「それは自分自身にも分からないが、私は波動だ。至極簡単に言うと“波”だ。空間的な密と疎の連続とでも言っておこうか」
「? ? ?」
「私は宇宙の誕生と共に有るが、悠久の沈黙を経て、ある時から自分の存在を記録し認知してくれる者の登場を願った。そこで永久不滅の存在のきっかけを創ったのだ。それが生命という極めて特殊な物質の形態だ」
「何と、そうだったのか? 半信半疑だが」
「生物の究極の目的は姿形を変え、複製を作り出しながらも永久に存在し続ける事なのだ。つまり変化してもいいし、親から子に記憶がコピーされなくてもいいから、この世から完全になくならない事が最大の使命と言える。永遠に代替えする多様な生命体は、私という存在の記録、ひいては証明にもなり得るからだ」
「何だか難しくなってきたな」
「次の段階は私を認知してもらう事。これには40億年ぐらい待った。ようやく、おぼろげながらも私の存在を認知し、形作り、口にする者が現れた。君ら人間だよ。それでも予想を上回る早さだった」
「…………」
「だが忘れないで欲しい。この広大で無限の宇宙には、人間よりも私を深遠に高次元で認知している存在があるという事を」
「カルキノスとは違うのか?」
「彼らとはまた違う。人間とカルキノスは兄弟のようなものだ。スタートは、ほぼ同じ時期だったのに進化を促す条件が揃ったのだろう。認知はわずかに君らの方が早かった」
「奴らも認知に至っていると?!」
「それは、これから君達が確かめてみる事だな」
カルキノスの姿をした不可思議な者は雲散霧消を始めたのだ。
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