テルシディナ

 ひょっとしてシュレムは近々再教育施設に収容される事を察知して、僕や妹達と一緒に生活する最後の時間を楽しもうとしているのか。ならば男子禁制の女子寮に僕を入れても、追い出される事が決まっているようなものだから別に構わない訳か。それにしても……らしくない。


 ベランダから部屋に戻ると僕を呼ぶ声が聞こえる。どうも浴室の方からだ。


「お~い! オカダさ~ん! いるの~? ちょっと来てよ」


 この声はブリュッケちゃんなのか? いや、シュレム様に買われた哀れなB級奴隷の身分である僕は、ブリュッケちゃんなんて気安く呼んではいけないのだった。そうだな、この場合ブリュッケ様なのか。


「何のご用でしょう? ブリュッケ様」


 浴室に続く洗面所のドアの向こうから困惑した返事が戻ってきた。


「え? 急にどうしたの? ボクはいつも通りブリュッケちゃんと呼ばれるのがいいけど」


「そんな、滅相もございません。ブリュッケ様」


 目の前のドアが突然開いた。少女はまだ裸のままだ。かろうじてピンクの小さなタオルで前を隠しているが、思春期に特徴的な膨らみかけの胸や、つるんとした下腹部が窺い知れる。

 宝石のような瞳でニコニコしているが、こっちの方が恥ずかしくなってきた。年齢の割に普段から落ち着き払っており、大人びているなと思っていたが訂正しよう。心はまだまだ純真無垢な子供だったのだ。


「まあいいや、ブリュッケ様でいいよ。着替えを一式忘れてきちゃったんだ。悪いけどパンツとシャツだけでも取ってきてくれる?」


 短い三つ編みを解いた濡れ髪から滴がいくつも床に滴り落ちている。


「分かりました! ちょっと待ってて下さいな」


「チョイスはオカダさんの好きなのでいいよ」


 逃げるようにブリュッケ部屋まで走って引き出しを開けたが……僕の好きなの? これはセンスを問われているのか? この縞パン? 黒でフリル付き? シンプルな白? ぐあぁ!

 浴室の方からカワイイくしゃみが聞こえてきた。いかん、乙女をいつまでも裸のままにしておくのは失礼だろ。とりあえず小さなハート模様が多数プリントされたパンツを掴んでブリュッケ様の所に参上した。


「ありがとう。さっすがオカダさん。ボクのお気に入りの一枚だよ」


 そう言って下着を受け取った彼女は背を向けた。骨盤がまだ発達しておらず、細い体に見合った小さなお尻をしておられたのだ。

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