ブルーシア

 透き通ったキラーTファージは人間を感知すると、六本足を巧みに動かし高速移動する。そして一気にジャンプし、力士のようなB級奴隷の頭部に……本当に目にも止まらぬ早さで取り付いた。六本足で頭を抱え込み、そのボディ下部に装備するドリル針を頭部に突き刺す。蛇腹ボディを収縮させながら、すばやく内部タンクのナノマシンを男に注入する。

 男が悲鳴を上げて地に伏すと、キラーTファージはようやく頭から離れ、次の獲物をゴソゴソと探し始めた。

 勇敢なアマゾネスが至近距離からショットガンの散弾をキラーTファージに連射で浴びせる、なおも浴びせる! するとキラーTファージ頭部の正二十面体構造が飴細工のように粉々に砕け、徐々に活発な動きが低下してきた。びくびくしながら足を縮めて茎のようなボディを垂直に地面につけ、スローモーションで倒れる。


「一体……何なんだ、これは?」


 闘争本能が燃え上がり、頭に血が上った人々は、まるで冷や水を浴びせられたかのように、一気に血の気が引き、次に何が起こるのか固唾を飲んで見守った。


「うわあ!」

 

 先程キラーTファージに取り付かれた力士のような肥満男が、ゆらりと立ち上がった。

 まだ生きていたのか……だが、何か様子がおかしい。

 頭が醜く腫れ上がって別人のようになっている。自分の腫れ物に手を触れると、苦痛の呻き声を上げるのだ。男の頭部は音を立て、いや実際には静かに萎縮すると、徐々に風船が縮んでいくように元の大きさを取り戻した。

 男女共、陰惨な光景に釘付けになって息を飲む。そこで人々は見たのだ。

 崩壊する頭部の漿液と共に、多数の小型キラーTファージが飛び出してくる光景を。朱色に染まった小さなキラーTファージは、親と比べて数倍以上のスピードで走り回り、次々と周囲にいた男女に襲いかかっていった。

 足を伝って上半身までザザザ、と登ってくる。ある者は足、別の者は背中からキラーTファージにドリル針を突き立てられ、ナノマシンを注入されていく。パニック状態になったB級奴隷、それにザイデルD-15部隊の残党は、統制が取れなくなり瓦解し始めた。


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