フィリア

「さて、と忙しくなるな」


 今のところ自分の部屋がないので、ベッド代わりのソファに敷いてある寝床を片付ける。変な形の洗濯機を回しながら、3LDKのそこそこに広い部屋を掃除しようかな。台所の洗い物を済ませて食器をしまいながら欠伸する。


「俺、今何やってんだろ……」


 粗末なTVを付けると市営放送しかやっていない。ニュースぐらいしか見るべきものがないな。そうこうしている内に洗濯物が洗い終わった。4人もいると結構な量となる。


「おお! これは!」


 洗濯用ネットの中からは色とりどりのショーツが大量に出てきた。同じくブラ専用ネットの中からは様々な大きさのブラジャーが飛び出してきた。これ、一体どうするんだろ? 上下合わせて干さなくちゃならないんだろうか。でも上下違う物を着用している事なんてザラにあるだろうし……とりあえず床に並べてみた。


「この黄色のDカップとお揃いの高そうなレースのショーツが、おそらくシュレムのだろう……」


 大きさとデザインから類推するしかないのかな。白いスポーツブラとかわいい柄のショーツはブリュッケちゃんの物に違いない。残りがマリオットちゃん着用になるはずだが、中学生の割にはブラジャーのカップが大きすぎたりショーツが小さすぎるような気がする。ショーツを裏返してサイズを確認してみるか。そう言えばアディーの物が混じっている可能性もあるな。確かそんな会話があったような。

 あー! もう訳が分からん。数も全然合わない。シュシュのように縮こまったパンツを引っ張って伸ばしてみる。

 ……ピンクやブルーや純白下着を前にして真剣に悩む僕って一体何者? これでは、まるで変態のカクさんのようではないか。カクさんといえば……奴なら匂いだけでシュレム・マリオット・ブリュッケと正確無比に仕分けしてしまうだろう。たとえ洗濯直後であったとしてもだ。正に研ぎ澄まされた職人芸。


『何だ、俺がどうかしたか?』


 そろそろカクさんから脳内通信テレコミュがくるころだと思っていたよ。別段、驚きはしないぜ。


『オカダ君、ナノテク・コンタクトレンズを取り戻したんだから、コンタクト・ドライブシステムの定期点検とマッチング、更にはインディペンデンス号の状況把握を至急に頼むぜ』


『ああ、俺がコネクト不能で留守の間、色々と肩代わりしてくれてありがとう。完璧な仕事ぶりだったよ』


『もちろんさ。スケさんもあれで通信不能だったから俺一人で大変だったよ。まあ、彼女の協力あっての事だけどね』


『さすが植民惑星査察団の一員だな。前回言いそびれたけど……お前元人間だったらしいな』


『そんな昔の事は、もうとっくに忘れちまったさ』

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