アウグスタ
「オカダ君、早くここから逃げた方がいいぞ!」
教授があわてて灰皿を転がした。目でチトマスに合図を送る。
「オカダさん、私の服を着て女装して下さい」
「へっ? 突然そんな事を言われても……」
「迷っている暇はありません! 早くこっちへ来て」
チトマスに急かされて無理やり浴衣を脱がされた。脱衣所のロッカーに畳んであった彼女の私服を渡される。ベージュのワンピースなんて勘弁してくれ……そもそもサイズが自分に合うわけがないだろ……って着れた! スミレ色のブラジャーとショーツだけはやめて!
「ふふふ、なかなか似合っていますよ」
チトマスがそう言いながらヘアピースを被せ、口紅を引く。オカダ君ならぬオカマ君の完成だ。新たな世界に目覚めてしまいそう……周りの野郎共は僕を一目見るなり……若干引いていると言うよりは、嫌悪感から悲鳴を上げているようだが。自信をなくしてしまった……どうしてくれるのよ!
二人で廊下を走り抜け、露天風呂方面から逃げ出すことにする。だが、すんでの所で白衣のアマゾネスに通せんぼされた。
「ちょっと待ちなさいってば! よく見て、オカダ君……私よ、シュレムよ! 」
教授を伴って現れたのは、看護師のシュレムに間違いなかった。しばらく会わない間に、ずいぶんと美人度が増したような感じがするのは気のせいなのか。久々の再会に何だか感無量となる。それはつまり涙が出そうになるってこと。もうシチュエーション的にお互い抱き合ってもよいのではなかろうか?
「……ぶふっ! 何その格好」
予想通りと言うか、シュレムに笑われた。ぴちぴちのワンピースを着ていたからか……いや、それだけではないだろう。すぐ本人とばれるようでは変装の意味がないような。
「良かった、シュレムだったのか。反乱分子狩りの秘密警察かと思って焦ってしまったぜ」
「女装するなら、もっとましな風にできないの?!」
我々が親しげに会話していると、チトマスがみるみると不機嫌になってきた。
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