エウクラテ

「……あなたが、あなたがオカダさんですか! 噂通りの素敵な方だ」

 

 チトマスが興奮して目をうるうるとさせながら僕の手を取る。そして自分の胸のあたりで握手したまま放そうとしない。それどころか今にも抱きついてきそうな勢いだ。


「ははは……そんなに見つめないでくれよ、参ったな……これほど熱烈に歓迎されるとは思ってもみなかったよ」


「今や君はケプラー22bでトップクラスの有名人だ。奴隷身分に甘んじている男達の希望の星と言っていい。もう自覚して欲しい、いかに君自身がこの惑星の未来において鍵となり得る人物なのかを」

 

 教授の言葉に心が揺さぶられた。望むと望まないにも関わらず、地球人というだけで祭り上げられてしまうのか。いや、何を考えているんだ……植民惑星査察官は世直しをするために、ここまで来たんじゃないのか。


「そんな……もはや俺は丸裸にされた無力なB級奴隷に過ぎないというのに」


「そんなことはありませんよ!」

 

 チトマスはとうとう僕の肩を抱きしめてきた。おいおい、細い体なのに妙に力が強いな。なぜか僕は男からモテモテだ。A級奴隷のマコトとヒロミや湖賊の漁師の男とか、例を挙げるとキリがない。


「とりあえず温泉に来たのだから彼を休ませてやってくれ。B級奴隷の休憩時間は限られているしな……おい、チトマス! オカダ査察官を奥の湯船にまで案内してやってくれ」


「はい、ゴールドマン教授! 喜んで」

 

 受付で手続きを済ませた後、脱衣所のロッカーを開けるバンド状の鍵をもらった。

 鍵か……鍵となる人物ね……。着替えとタオルをもらうと、人ごみを掻き分けるように僕らは板張りの廊下を進んでいった。踏みしめるたびに床板が軋んで耳障りな音を立てる。

 脱衣所では小太りのオッサン一人とすれ違ったが、何と背中には大きく汚い字で『デブ』というタトゥーが入っていた。変わった趣味の男がいるものだ、と妙にカルチャーショックを受けたのだ。




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