ルキナ

「地上に出られたのはいいが、入口に逃げたパリノーは行方不明だ」


 カクさんが彼女のことを心配した。


「コンタクト・ドライブシステムが復旧したので、すぐにスケさんに問い合わせたら、パリノーは無事だったよ。とっくにスタリオンに戻ってるってさ」


 彼女はカルキノス専門の生物学者にして研究者なので、絶対に大丈夫だとは思っていた。


「よかったね、置き去りになってなくて」


 ブリュッケちゃんも一安心したようだ。


「もう地下の怪妖洞には二度と戻りたくはないが、結局パリノーの荷物は発見できなかったな」


「その代わりブリュッケちゃんの父ちゃんが残した、お宝がいっぱい手に入ったぜ」


「ありがとう、オカダさん、カクさん。ボク一人では絶対に行く事ができなかったと思う」


「いやいや、ブリュッケちゃん。感謝するのは俺の方だよ」


「オカダさん、父のショットガンを使ってやってよ。きっと死んだ父も喜ぶと思うんだ」


「おう、もちろん! ありがたく使わせてもらうよ」


 手に入れたリュック一杯の大金もシュレムに頼み、ブリュッケちゃんの口座に入金して管理してもらおう。彼女が立派な大人になるまでに必要なお金だ。みなしごの彼女には、学校に進学する余裕もあまりなかっただろうから……。

 スタリオン高機動車に戻るとポニーテール美女のパリノーが抱きついてきた。


「生きていたのね! オカダさん。ありがとう、私の荷物も偶然見つかったわ」


「えぇ~!? そうなのかい……それはよかったな」


 なんだ、荷物の事で気を揉んでいたのに、取り越し苦労だったのか。


「パリノー、ただ地底湖の白い女王ガ二の姿が拝めなくて残念だったな。君は生物学者でカルキノス研究者なんだろ? あんなスゴイ奴は、めったに見る事ができないはずだ」


「ええ……それは大チャンスを逃して悔しいわ」


 パリノーは少し困ったような表情を見せて、綺麗な顔の眉を片方上げた。

 アディーとマリオットちゃんは、僕らが中々戻ってこないのを心配して泣いてしまったそうだ。


「ブリュッケちゃん! 大丈夫だったの?」


 マリオットちゃんが心配するように、彼女の体操服は上下とも泥で真っ黒になっていた。


「参ったな……ブルマまで濡れちゃったよ」


「何ぃ! ブルマがびちょびちょに?」


 カクさん……ブルマは、もうええっちゅうに!

 怪妖洞の入口は、ケプラーシオマネキの働きガニと兵隊ガニが入り乱れ、朝の通勤電車のラッシュ状態になってしまった。


「悪い事したな、シオマネキ一家が大パニックだ」


 少しだけだがカルキノスの生態が明らかになり、正体が垣間見えた気がしたのだ。





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