アデオナ 

 松明を地面に落として火を消しそうになってしまう。

 僕とブリュッケちゃんのライトに照らされて浮かび上がった化け物は、色素が抜けた純白の女王ガニだった。普通のケプラーシオマネキに比べて倍以上の大きさがあり、両腕のハサミも小さい。腹部のふんどし部分に数万単位のビー玉のような半透明の卵塊を抱えており、動くたびに卵を水底にボロボロとこぼれ落としていた。まるで大当たりした時のパチンコ台みたいである。(見たことないが)


「大変だ! ママだ! ママを起こしちゃったよ!」


 僕が大声で叫ぶと


「女王様とお呼び!」


 とカクさんが意味不明の言葉を発した。


 ブルーの水面にユラユラと揺れる女王ガニは神々しくて、とてもじゃないが銃を向ける気にはなれない。白い姿に溢れ出す卵は、まるで豊穣の神の遣いを思わせるのだ。

 おまけに天井から壁から、手の平サイズの赤ちゃんガニが、これまた数万単位で我々の方に押し寄せてきた。


「おい、もうダメだ。早く地上に脱出しようぜ! 貪り食われてしまいそうだ」


 僕の言葉にブリュッケちゃんは冷静に言った。


「どうやって?」


「松明の炎を見て、空気が流れて抜けて行く方向に進んで行こう。ダンジョンの地図に沿ってな」


 カクさんも言う。


「まずオイラに付いてきな!」


 働きガニや兵隊ガニに出くわさないように、慎重に細い通路を壁に手を付きながら進んで行く。

 小さいケプラーシオマネキが追いかけてきたが、蹴っ飛ばすと一斉に逃げて行った。

 大きくて太い通路は、せわしなく兵隊ガニが行ったり来たりしていたが、意外にも忙しすぎるのか我々には無関心の状態だった。多分女王様の機嫌を損ねないように必死になっているのだろう。


「戦わなくて済みそうだけど、地上まで後どのくらいかかるの?」


 ブリュッケちゃんが心配そうに訊いてきた。


「地図によると、そうだな2、30分ってとこか……こんなことなら大きくて重い銃なんか持ってくるんじゃなかったな」


「オイラみたいに丸腰で十分だったねぇ」


「でもゲットしたお宝は、意地でも持って帰るもんね」


 ちょっとした岩場で小休止することにした。

 僕はブリュッケちゃんの銃も持ったから、合計3丁も背負っている。武蔵坊弁慶みたいだな、と言ったが誰にも通じなかった。


「あまり欲張るとよくないよ。そんな昔話なかったっけ?」


 ブリュッケちゃんが子供らしいことを言う。


「もう大人になったから忘れちゃったよ。弁慶ガニってのが地球にいる事は知っているがな」


 こうして合計1時間ほどかけて、僕らはダンジョンから脱出できた。

 東屋の地下室に出口があったのか……。地上の光が眩しくて、しばらく目が開けられない。周りを見ると見覚えのある小川のほとりだった。パリノーと初めて出会った場所だったな。

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