アエグレ

 アディーはマリオットちゃんと一緒に笑っていたが、突然、窓の外を指差して叫んだ。


「オカダさん! あそこ! あの辺りの水面から何か出ているわ」


 彼女の示す先には……岸から何十メートルか離れた水面に、金属製の板が斜めに出っ張っていた。

 スケさんが悲痛な声を上げた。


「あれは! ベンチャースター号の尾翼!」


 僕は高機動車から降りると、目を細めて水面を確認した。


「ああ、間違いないな……爆破されて湖底に沈められたか」


 カクさんも降りてきて一緒に並んだ。


「多くの人間が作業した形跡と、匂いが僅かに残っているぜ」


「これはデュアン総督の仕業に違いない」


 しばらくしてスケさんも並んだ。


「ひどい……あと予備のシャトルはエンタープライズ号とコロンビア号とエンデバー号の3機しかないわ」


「余程の事がない限り、当分母船のインディペンデンス号に戻る事はできないな」


「そうね……戻る必要は今の所ないけど」


 僕はカクさんに向かって言った。


「おい、ちょっと泳いでシャトルの破損状況を見てきてくれないかな!」


「冗談だろ! あっと言う間に化物の餌食になっちまうぜ」


 高機動車に一旦戻り、衛星軌道上からの拡大写真を確かめる。

 コクピット周辺は跡形もなく破壊され、カーゴベイの荷物は全て盗まれているようだ。リニアエアロスパイクエンジンは、研究用にごっそり持っていかれていた。


国際連合宇宙局UNOOSAの船に手を出すとは……条約違反だって言っても、ここでは誰も取り合ってくれないか。植民惑星査察団の威厳も地に落ちたな」


 僕はそう言った後、アディーに確かめた。


「警官の君は、何かしら知っていたんじゃないのか? ゲート通過の情報は逐一報告されていたりして」


 制帽を脱いだアディーは焦って帽子を握り締め、首を左右に振った。結んだ髪が尻尾のように揺れる。


「いえ、いえ、いえ! 下っ端の私には何も知らされておりませんので!」


「そうか、信じてやるよ。 今更嘆いても仕方ないし」


 

 僕は小休止のために、冷えたパック入りバナナジュースを皆に振る舞った。ほっぺを真っ赤に染めたマリオットちゃんの評価。


「う~ん、美味しい! この世にメロンを超える果物があったとは!」


 シュレムはストローから口を外すなり……。


「香りは違うけどイチジクに近い味かな!」


「なるほど!」


 アディーはシュレムの感想に納得したようだった。


 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る