カリプソ

 スケさんは大地に頭を垂れて溜息をついた。持病の頭痛を悪化させたのかもしれない。


「あ~あ、せっかく私がうまくまとめたのに~。植民惑星査察官の資質が問われる事態だわ」


「うーむ……彼にはもっと自覚を持ってがんばってもらわないと」


 カクさんは腕組みをして、教頭先生みたいな態度と口調で僕をたしなめた。


「あんたが悪いんでしょうがー!」


 スケさんはカクさんの尻尾に噛みついて、先に付いているコネクター部分から手持ちの英会話教材を入力した。


「The great question that has never been answered, and which I have not yet been able to answer, despite my thirty years of research into the feminine soul, is “What does a woman want?”……」


 カクさんは関西弁に加え今更ながら、英検2級レベルの英会話能力を手に入れたのだった。それに何の意味があるのかは、あえてここでは触れないでおこう。

  

 やっと道中歩きながら、シュレムと真面目な話ができそうだ。

 片道キップが条件のケプラー22bへの調査ミッション希望者は、今回僕1名しかいなかったらしい。ちなみに30年前の植民惑星査察チームは男ばかり10名ほどいたのだが、連絡手段もなく行方不明となったままだ。


「それらの行方不明者を捜すのも、今回のミッションの一つなんだ」

 

 僕に続いてスケさんが説明する。


「地球から600光年離れたケプラー22bへ到達するには月面空間固定型ワームホールゲートを通過して数週間なのですが、現代の科学では地球側から他の星域への一方通行のみ……決して地球に戻ることはできないのよ」

  

 その言葉にシュレムが驚き、改めて振り向いた。


「あなた達、もう地球には戻れないの? つまり一生ここで暮らすの? 任務のため?」


 スケさんは、まるで自嘲するような口調で答える。


「確かに余程の覚悟がないと地球を捨てて他の惑星へ行く度胸はないよね」


 シュレムは我々に対する見方が微妙に変化したようだ。もちろん良い方向にシフトしてもらわなくちゃ困るんだが……。

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