第30章 最後に笑う者
エンディミオン
第三十章 最後に笑う者
総督府周辺に置き去りにされた重症の戦闘員を、シュレムは的確に応急処置し始めた。やっと騒ぎが鎮静化し、病院から駆けつけた女医が活躍できるような状況になった。もうこうなるとテントを張ったり、病院に負傷者を担ぎ込む作業も男女分け隔てなく、お互いに協力して進められた。
特にキラーTファージにやられた人々は酷い。瀕死の状態の者がほとんどだ。ナノマシンをドリル針で注入された部位が、ことごとく腫張・溶解しており、放置しておけば確実に死に至るだろう。
男女のつばぜり合いに比べて、キラーTファージによる重傷の者は確実に多い。こんな兵器を平気で使用するとは……総督は名ばかりの統治者で、権力維持のためには人命も顧みないのか。
「……あんたにやられたんだよ」
シュレムが投げた爆縮手榴弾で怪我をした若い足軽の男に毒づかれた。
「黙ってないと治療してあげないわよ」
目下、シュレムは救援に来た仲間の看護師と連携し大忙しだ。なぜだか、どういう訳か、革命勢力の急先鋒に立つ女として一般に顔が知れ渡っていた。シュレムにとっては迷惑極まりない。今しがた処置中の宝塚歌劇団風の女性近衛兵にまで吐き捨てるように罵られた。
「地球人に唆されて、男女平等に奴隷解放だと? 耳触りのいい綺麗事だけじゃ済まされない現実もあるんだぞ!」
「シュレム看護師は、本当に立派な人間よ! あなたこそ目を覚ましなさい!」
スケさんはシュレムをサポートしながら必死で擁護する。
「ありがとう、スケさん……」
シュレムの背後から殺意を帯びた影が静かに忍び寄ってくる。だが彼女は処置に気を取られており、迫りくる危機には全く気が付いていない。
「この……裏切者め……」
ポンチョを頭から被ってはいるが、気品溢れる声の主はザイデル部隊長その人であった。身の安全のため階級章を外し、一般兵に擬装している。激しい戦いがあったのか満身創痍の状態であったが、隠し持っていた長いサーベルをシュレムに向かって振りかざす。
「シュレム! 危ない! 後ろ!」
刹那にスケさんは叫び声を上げる……が。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます