第14話 下駄の男

「ターアーアーイーム、イゾンマイサーイ、イジユー」

 真壁はローリングストーンズの『Time Is On My Side』を口ずさみながらレンタルビデオ店から出てきた。


「ご機嫌だなお主、悪魔にでも取り付かれたか?」

 一瞬真壁は耳を疑った。振り返るとそこには、真壁がよく知る……いや、よくは知らない。だが、忘れることのできない男、下駄の男が立っていた。


「そんなにあわてる顔を見ると、やはりお主、やはり踏み外したようじゃのぉ」

 下駄の男は、ひょうひょうとしながらも、しかし、しっかりとした足取りで、男の方に向かって歩みだした。


「ワ、ワタシは、何も……何も悪いことはしていない」


 カラン、コロン、カラン、コロン


 下駄の男は傘を持った男の目の前まで行くと、足を止めた。

「悪いことはしていない…・・・か、ではいいことをしておるのかな?町のゴミを拾い集めるような?」


「あ、あぁ……」

 真壁は、すっかり下駄の男の放つ気迫に飲み込まれていた。


「もう、十分じゃろう。これ以上関われば、お主、元の場所に戻れなくなるぞい」


「そ、それが、どうかしたか……いや、だからなんだっていうんだ」


 下駄の男は真壁の顔をしげしげと眺めた。


「それがどうしたはともかく、だからなんだというのは嘘じゃな。お主、それほど愚かな人間ではないように見えるがのぉ」


 見透かされている。言い知れぬ敗北感。だが、憎悪や嫌悪といった負の感情を伴わない心地の良い劣等感……最初に出会ったときからそうだった、この男、只者ではない。かなわない。


「相変わらずやりにくいな」

 真壁は苦々しく思ったが、どこかうれしくもあった。それは自我が芽生え始めた青年が、自分のことを少しでも理解してくれる圧倒的に尊敬できる大人を見つけたとこのような懐かしい感触であった。


「あんた、一体……いや、すいません……あなたはいったい何者なんですか?」

 真壁は、積年の思いを打ち分けるようなまなざしで下駄の男を問い詰めた。


「まぁ、そう焦るでない。少し歩こうかのぉ、あの日の夜のように、あの雨の日の……」


 カラン、コロン、カラン、コロン


 一日の中で一番長い時間、夕方の3時を過ぎたくらいというのは、どこか間延びして、1分1分が長く感じる。下駄の男と真壁の間に流れる時間もまるで空間が歪んでしまったかのようにゆっくりと流れている。


「だいぶ顔色が悪いのぉ、何があったか……いや、何が起きているのか、話を聞かせてもらえぬかのぉ」

 真壁は意外そうな顔をした。顔色が悪い事ではなく、自分がなにをしたかではなく、何が起きているかと尋ねる下駄の男は、いったいどこまで自分のことを知っているのか?


「そ、その前に、一体どうして、いや、あなたは一体全体なんんですか?」

 真壁は少しばかり語気を強めて下駄の男に詰め寄った。下駄の男は黙って腕を組みながら下を向いて歩いている。やがて思いついたように口を開く。


「お主は陰陽道とかまじない、呪い、そんなものは信じないじゃろう?」

 真壁は即答を避けた。避けざるを得なかった。なぜなら今、真壁が直面している問題は、そういうことを認めてしまったほうが説明が楽な部類の話だからだ。だが、真壁には拘りがある。


「ふん、即答しないところを見ると、やはりそういうことが身近に起きているということじゃな」

 下駄の男はニヤニヤと笑いながら真壁を見つめている。真壁は圧倒されていた。そしてそれがどうしようもなく悔しかった。まるで大人に手の届かないところにオモチャを掲げられたような気分だった。


「これは、あなたの仕業なんですか!」

 思わず大きな声を上げてしまったが、下駄の男は怯みもしなかった。

「そうじゃな、ワシの仕業じゃ。だが、選択肢はお主にあった?最初はともかく2回目からは」


 真壁は返す言葉がなかった。そして真壁は自分が犯罪者であることを始めて自覚した――自覚せざるを得なかった。



 真壁は顔すっかり青ざめ、何かに怯えるように身を振るわせ始めた。

「ワタシは……ワタシはただ……傘を……あいつらが勝手に……」

 真壁はまるで寒さに凍えるように胸の前で腕を交差させて振るえる肩を抑え込もうとした。


「罪はない。が、非は認めるか。お主らしいのぉ、ワシは嫌いじゃないぞ。だが、推奨はできんがなぁ」

 下駄の男は真壁を労わるでもなく、責めるのでもなく、諭すのでもなく、ただ淡々と真壁に語りかける。

「そもそもはワシのまいた種じゃ。条件がそろえば芽は出るし、茎も伸びて葉をつけ、やがては花が咲き、またそこから種を残すこともある。じゃから今回はワシが責任を持ってリセットをする。しかしのぉ、その後のことはワシの問題ではない。お主がこれまでどおりの生活に戻りたいと思うのならそれもかなおう。もちろん、そうでない選択肢もあるじゃろう。なんせ知ってしまったんじゃからのぉ。お主の住んでいる世界とは別の世界があるということを――『闇の世界』とでも言うべきか……」


 真壁は思わず嘔吐しそうになった。下駄の男の『闇の世界』という言葉の響きに、今まで感じたことのない嫌な悪寒――言い知れぬ嫌悪感と底知れぬ恐怖からくる体の拒否反応としての身震いをした。


「まぁ、首を突っ込んでいい事と、悪い事がある。これは間違いなく後者の領域じゃ、触れてはならないメモリーバンクじゃよ」

 下駄の男に言葉に真壁は更に驚かされる。

「メ、メモリーバンクですか、いやぁ、なるほど、こいつは、ははは、こいつは参ったな、書込み禁止領域ですか、くっくっくっくぅ、なるほど、そりゃ祟る訳か」


「まぁ、しかし、人の記憶や体験はそんなに簡単なものじゃないからのぉ、それに今お主が抱えている問題は、お主が思っている以上に深刻で、しかもあまり時間がない話なんじゃ。できれば今日中に処理しないと、ちとマズイことになりそうなんじゃよ」


 真壁は自分が少しだけ落ち着いたことを認識した。思えばあの日、あの夜、非日常の扉を開けて以来、真壁はある一定以上の緊張感とストレスに耐えながら生活をしていた。自分の周りで起きていることの非現実性と日常の中に潜む、非現実性――毎日、己のルールに従い、同じようなことを繰り返す毎日こそが、実は普通の人間の生活とはかけ離れた『非日常的な生活』とも言える。自分らしくあることが、日常的なストレスになっているという自覚は少なからず真壁にはあった。だが、この『下駄の男』と出会いは、そうした真壁の閉塞感を一気に解放するような刺激であったかもしれない。しかし、所詮、一般的な日常からはかけ離れた世界のことである。日常的なストレスが新しいストレスによって一時的に開放されたとしても、そう長くは通用しない。やがて強烈な副作用として、自分に返ってくるに違いないのだ。


 この男、この下駄の男なら、今の自分を何とかしてくれるかもしれない。自ら出口のない迷路に入り込んだのだ。今更、誰にも助けを求めるわけには行かない。だが、下駄の男ならば、そういうことを頼めるかもしれない。この男には自分の弱さを見せても構わないという安心感がある。いや、安心感と言うよりは心地いい敗北感だろう。この男には得体の知れない強さを感じる。自分とは生きている場所も時間軸もどこか違うような気がした。勝てる気がしない。


「ワタシはどうすれば……何をすればよいのでしょうか?」

 真壁はある種の緊張感のほぐれからか、張り詰めていたものが途絶えた瞬間に改めて自分の身体の不調を自覚した。精神は緊張と論理的な処理によってなんとかシステムダウンせずに保ってきたが、その作業は身体にかなりの負荷をかけていたのか、冷静になると、自分の身体がいかに異常な状態にあるかを認識させられる。吐きそうだ。今にも倒れてしまいそうで、意識を保つ事が難しくなっている。視界が狭くなってきている。


「イヤだとは思うがな、お主の部屋に邪魔させてもらうことになる。このまままっすぐにだ。それと、もう一人、この件に関わっている者がおるんでのぉ、その者の許可なしには、いろいろとうるさくてのぉ、それにその者を頼りにしておけば、わしとは別の面で、お主の助けにもなるはずじゃ」

 もはや真壁は下駄の男の言っていることの半分も理解できていなかった。ともかく部屋まで何とか歩いていかなければならないことは理解できた。それで精一杯だ。不意に携帯の音が鳴る。下駄の男の携帯だ。


「あー、そうじゃ、今真壁と一緒におる。大丈夫じゃ、これからじゃよ。そっちはどうじゃ。うん、うん、そうか、まずまずじゃなぁ。が、しかし、安心はできんか。どちらにしても命に関わる問題じゃからのぉ。何があるかわからんが、優先すべきはこっちの方じゃ、時間がない。急いで来てくれんかのぉ、あー、場所はのぉ……」


 ブーン、ブ、ブ、ブン、ブ、ブーンッ!


 下駄の男が、今いる場所を言いかけたとき、その声は2台のバイクの爆音によってかき消された。大通りから小さな路地に少し入ったところ――街中のエアポケットのような人気のない暗い通り――機会をうかがっていたかのように背後からいきなり2台のバイクが爆音を上げて真壁と下駄の男に向かって突進してきた。それはまるでネコ型肉食獣が獲物を襲う様子そのものである。


「クゥッ、間に合わなかったようじゃな」

 下駄の男はそう独り言を言ったのか、或いは電話の先の後藤に向かって言ったのか、電話口から「どうしました!大丈夫ですか!」という怒号が聞こえたが、下駄の男はそれを無視するかのように携帯を切り、身構えた。

「フン、邪鬼が!」

 バイクはもう、目の前まで迫っていた。





 2台のバイクは並走して真壁と下駄の男に突っ込んでくる。避け切れないか。下駄の男は履いていた下駄を脱ぐとそれを右左それぞれの手に持ち身構えた。

「伏せるんじゃ!」

 下駄の男は真壁を体当たりで突き飛ばし、自らは両手に持った下駄を前方に構える。右のバイクはやり過ごせたかもう左のバイクに乗った暴漢は鉄パイプを振りかざしてきた。


 ガチン!


 下駄を構えた腕をまっすぐ伸ばしたところで鉄パイプの一撃を受け止め、そのまま右にいなすようにこれを交わす。10メートルほど先でバイクはUターンする。真壁は下駄の男に突き飛ばされたまま頭を抱えてうずくまっている。


 「大丈夫じゃ、そのままじっとしておけ。下手に動くな!」

 下駄の男は思わず下駄を手放した。

 「えーい。手がしびれるわい!」

 バイクに乗った暴漢はフルフェイスのヘルメットで顔を隠し、ナンバープレートも上に向けられて識別ができない。2台のうち一台がアクセルを拭かせながら奇声を発して突っ込んでくる。


 「かすり傷程度じゃ済まんかな、これは」

 下駄の男はこの状況にあっても全く慌てる様子がない。作務衣の上着の紐を解く。両手交差させ、わき腹のあたりに手を偲ばせ、何かを掴んだ。が、突っ込んできたバイクの暴漢にはその様子は目に入らないのか或いは老人に何も抵抗ができるはずはないと思ったか、不用意に鉄パイプを振り上げて突っ込む。


 カシャーン!


 下駄の男は両手に何を握っていた。両腕を左右に少し開き、縄跳びをするような構えから不意に30センチほどの棒が延びる。


「携帯式の特殊警棒か……しかもあれは!」

 もう一人の暴漢は冷静に状況を眺めている。二人の格好はTシャツにジーンズを着ていて見た目ではほとんど区別がつかないが、体格は下駄の男を襲おうとしているほうが大きく、もうひとりはやや、痩せ型だ。


 先に突っ込んだ暴漢はこれから自分の鉄パイプの餌食になるはずの年寄りが何で両手に警棒を構えて自分を待ち構えているのか?と思いながらもこれからやろうとしている事――老人の頭上に鉄パイプを叩き込み、そのあと道端にうずくまっている男を殴り殺す――ということ以外に何かしなければならない事があるとは考えもつかなかった。


 このとき大柄の暴漢がバイクから降りて下駄の男と対峙するのであれば、もう少し下駄の男を苦戦させることもできたかもしれない。だが判断を誤った。大柄の暴漢はバイクに乗ったまま、しかも右手で鉄パイプを持ている以上、おのずと攻撃範囲は限られてしまう。下駄の男はあっさりと暴漢の左側に体をかわし、構えた警棒を暴漢の懐に偲ばせる。


 バチッバチッ!


 少しはなれてこの様子を傍観していた痩せ型の男には、下駄の男がものすごい力で仲間をなぎ倒したかのように見えた。だが実際はちがう。下駄の男は両手に構えた警棒を襲ってきた大柄の男のわき腹に、軽く当てただけだった。

「ちぃっ、ス、スタンガンかよ」

 痩せ型の男はすぐに状況を理解した。無人のバイクは横倒しになり道路を滑っていく。下駄の男はもう一人の暴漢を睨みつける。とても普通の老人の迫力ではない。


「話が違うじゃねぇか、畜生!」

 男はバイクのアクセルを吹かしながら、倒れた男が起き上がるのを待った。下駄の男はゆっくりと倒れた男に近づき男を蹴飛ばした。


「夕方とはいえ、こんな日にコンクリートの上でいつまでも寝とったら焼け死ぬぞぃ」

 下駄の男は鉄パイプを拾い上げるとそれを両手で握る。


「フンッ!」

 大きな気合を入れると、鉄パイプは見事に真っ二つに折れ曲がる。


「くっ、くっ、くっ、くっ、一度これをやってみたかったんじゃい」

 その様子を地べたから見上げていた大柄の男は、悲鳴をあげて自分のバイクへと走っていった。その様子を見ると、痩せ型のバイクの男は猛スピードで下駄の男の方へバイクを走らせる。下駄の男は一瞬身構えたが、バイクは下駄の男の前を通り過ぎ、大通りへと姿を消した。その後をもう一人の男が倒れたバイクを起こして後を追いかける。逃げ出したのだ。


「まったく、最近の若いもんときたら、なっとらんなぁ、こういう時は去り際に『覚えてやがれ』とか捨て台詞を言うもんじゃ!」

 下駄の男は特殊警棒をジャージの中にしまい、下駄を履いて真壁のそばに歩み寄る。

「まぁ、つまり、こういう事が今後起きないためにも、もう一人の男と会ってもらわにゃぁならんということじゃい」

 真壁には未だに何が起きたのか、そして自分の身に何が降りかかっているのか、はかり知ることができずにいた。

「あ、あんたらいったい、何やってるんだ?これってどういうことだよ」

 下駄の男は携帯をポケットから取り出しながら応えた。

「ゲームじゃよ、ゲーム。フラグを立てたのはお主じゃよ。一度たった死亡フラグを帳消しにするのは、プログラムをちゃちゃっと書き換えるようなわけにはいかないんじゃよ。こっちの世界ではのぉ」

 そういいながら下駄の男は自分の頬を人差し指で上から下へ、ゆっくりと撫で下ろした。それはヤクザを示すサインだということを真壁が理解するまでに、後藤との合流を果たすまでかかるほど、真壁は追い詰められていた。




 呆然と暴漢が逃げ去るのを見送る真壁に、下駄の男は手を差し伸べた。

「心配はいらん、ワシはおぬしの味方じゃよ」

 差し出された手を眺めながら、真壁は何とか自力で起き上がろうと試みたが、どうにもうまくいかない。不本意ではあるが真壁は下駄の男の手を借りることにした。下駄の男の手は、冷たく、しわだらけだったが、恐ろしいほどの生命力に満ち溢れていた。真壁のそれとは比べ物にならない。


「遅くなりました、大丈夫ですか?」

 暴漢二人がバイクで逃げ去った方向から2人の安否を気遣う声がする。息を切らして走ってきた後藤、それに鳴門刑事だ。


「ワシか、ワシなら心配いらんよ。ちと肝を冷やしたがの。あー、こっちも大丈夫だといいたいところじゃが、急がないと取り返しのつかないことになる」

 後藤は警察手帳を真壁に見せた。

「真壁直行さんですね。江戸川南警察署の後藤です」

「同じく鳴門です」

「あなたの身に危険が迫っていることについては、いろいろと事情があるようなんですが、おってそのことはお伺いするとして、まずは身の安全を確保したいのですが……」

 後藤は下駄の男に目をやり、これからどうするつもりなのかを聞こうとした。


「そうじゃな、まずはワシの用を先に済まさせてもらって、全てはそれからじゃなぁ。まずはお主の家まで行こうか。あまり気は進まんじゃろうが」

「わかりました。ご案内します」

 いつもの真壁であれば、理路整然と警察の介入を拒んでいただろう。正直それができればそうしたいと真壁は思ったが、どうにも下駄の男には抗えなかった。


 真壁が歩き出す。後藤の合図で鳴門が真壁の横につく。護衛役だ。後藤はその後ろで下駄の男と並んで歩く。

「まったく、あんた本当に何者なんですか?これは、もうお返ししたほうがいいですかね」

 後藤は胸の内ポケットから下駄の男に渡された携帯を取り出した。

「こんなこともあろうかと……ですか?しっかりあんたの位置情報が表示されてる。おかげで電話が切れても迷うことなくここまで来れましたがね。どれだけの法律を犯しているやら」


「ふん、テクノロジーというものは使って何ぼのもんじゃ。規制だの許可だの法律だのくだらんわい。そういうお主も、単独捜査やら命令無視やら、臨機応変が過ぎると聞いておるぞい」

「まったく、千里眼とか地獄耳とか持ってるんですか?それならきっと、誰が襲ってきたのか、大体検討が着いているとか?」

「ふん、お主も食えん男じゃのぉ、まったく」

「白鷺組はこっちで抑えました。タイミング的にはぎりぎり間に合ったと思ったんですが、どうやら制御が利かなかったってところですかね」

「左巻きのヘビじゃよ」

「左巻きのヘビ……左螺曼蛇(サラマンダ)!いや、そんなはずは……あれは確か11代目のときに解散してもう、5年近くになるはずです」

「どういうわけかここ半年くらいの間に、再結成されたらしい」

「つまり12代目に誰かなったと?」

「まだ表だっては動いてないようじゃが、自然に結成したというよりは、どうも誰かが後ろでお膳立てをしているらしいのぉ」

「警察でも把握していない動きを、なんであんたが」

「わしか、わしは11代目とはちと面識があってのぉ。奴の話ではもうすでに組織は50人規模まで集まっていて、頭も12代目じゃなく13代目に替わっているそうじゃ」

「つまり12代目はもうなんかでパクられているとか」

「いやぁ、それはどうかのぉ。もしかしたらもうじき合えるかもしれんぞぃ」


 後藤はいぶかしげに下駄の男を見つめたが、それ以上下駄の男はこの話をしそうになかった。後藤は直接はこの暴走族に関わりを持っていない。管轄外だ。暴力団と暴走族やチーマーとは、それほど結びつきが強くはない。場合によっては反目……というより、暴力団のシマにちょっかいを出すようなことがあればただでは済まない。それはそれで住み分けがされているのである。


『もうじき合える』とはどういうことなのか?後藤は一瞬警戒を高めたがすぐにそれをやめた。どうもそういうことではないようだ。いつもとはちがう胸騒ぎがする。下駄の男の予言めいた言葉は気になるが、ここは下駄の男に従うほかないだろう。そして下駄の男の予言は、このあと的中することになる。およそ後藤が想像もつかないような形で……

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